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62/105

62-担当


「それじゃ、フクヤさん。俺は傭兵事務所に行きますので」


「それでは、私も」


「え?フクヤさん、服屋の方は大丈夫なんですか?俺についてきても面白くないですよ」


「大丈夫です。私の勤務形態は少々特殊ですから。そして、面白いかどうかを決めるのは私です」



 服屋の店員は仮の姿でその正体は暗殺者だからな。ということは服屋もグルなのか。傭兵通りの闇を知った気がする。命が危ないかもしれない。



「そ、そうですか」



 これは、フクヤさんを薬屋さんに引き渡した方がいいな。先に薬屋に行こう。


 薬屋に向けて歩き出す。すると、背中のリュックサックと腰のバッグの間辺りからチクッとした痛みが走った。



「痛!フクヤさん?」


「傭兵事務所は、すぐそこですよ。こちらは傭兵事務所に行くには少々遠回りになるのでは…」



 くっそ。行動を読まれたのか?痛みが大きくなってきたような。



「わかりました。ちゃんと行きますから。こんなところで苦無を使わないでください」


「理解をしていただけたのなら。私もあまり服を傷つけたくはありませんので」



 そっちか。


 傭兵事務所の方に進路を変更する。痛みが止んだ。フクヤさんは俺のすぐ後ろをついてきているようだ。


 傭兵事務所に到着。後ろを見ると閉じているのか開いているのか判断のつかない目がこちらに向いていた。何を考えているのか全くわからない。



「それじゃ、入ります」


「どうぞ、あなたの好きにしてください」



 対物ライフルがぶつからないように注意して建物に入り、いつもの場所に置いた。


 何か久しぶりに来た感じがする。お昼時だからなのか人は少ない。


 情報掲示板を覗こうと足を向けるといつものお姉さんが進路に割り込んできた。



「おはようございます。シグレさん」


「おはようございます」


「おはようございます。アサヒナさん」


「シグレさん、随分ご無沙汰だった上にまた違う女性ですか。しかも…」



 どうやら、いつものお姉さんとフクヤさんは知り合いのようだ。



「ナギ、これはどういうこと?」


「どういうことも何も、こういうことです」


(だから、どういうことよ?)


「メイ。最近、この方と一緒にグループを組むことが何度かありまして懇意にしてもらっています。今日も同じグループで行動しています。先ほども昼食をご馳走になりました」



 微妙に嘘は言っていないようだが、誤解をされそうな表現が多分に含まれているな。しかも、わざとっぽいし。二人は仲がいいのか?



「シ、シグレさん。あちらの個室で、お、お話があります。それと傭兵カードを出してください」



 いつものお姉さんの目が笑っているようで笑っていなかった。頬が引きつっているように見えなくもない。


 言われた通り傭兵カードを渡して案内されるまま個室に移動した。



 案内された個室は面接をするようなところで机と椅子、それにしっとりとした雰囲気の花が生けられた花瓶が置いてあるだけだった。この花のおかげで非常に落ち着く部屋になっている。



「シグレさん、そちらの席に座って待っていてください。ナギは、好きなところに座って。あなたには用がないから」



 そう言うと部屋から出て行くいつものお姉さん。


 案内された席に座る。すると、フクヤさんは俺の隣に椅子を近づけてから座った。かなり近い。



「フクヤさんは、アサヒナさんと仲が良いんですか?」


「そうですね。付き合いは長いです。薬屋さんの次くらいには。あなたは、メイも奥方に加える気なんですか?少々贅沢が過ぎませんか?」


「え?そんなつもりは微塵もありません。というか俺に奥さんはいませんよ。何を言っているんですか?」


「あなたは、私以外にも随分と敵をつくっているようですが大丈夫ですか?命がいくつもあると人間は大胆になるんですね。アース人なら早々に人生終了です」



 サラッと辛辣なことを言ってくる。


 俺の周りの女性は爆弾ばかりだと言うのに傍からは、そう見えないところが問題だった。俺だけが損をしているような。



「だいたい、俺はフクヤさんを敵に回したつもりはないんですけど。どうしてフクヤさんは俺の敵なんですか?」


「聞きたいですか?」


「そりゃあ、もう。今からでも敵を辞めてもらえるかもしれませんから」


「それは―」



 すると、部屋の扉が開いていつものお姉さんが入ってきた。お茶を用意してくれたようだ。



「なっ!ナギ。あなた、どうしてそんなにシグレさんにくっついているの?」


「メイが好きなところにと言ったんでしょう。だから、好きなところに座っています」


「椅子を動かしていいとは言ってません」


「椅子を動かしてはいけないとも言われてませんが」



 二人が延々とおかしなことで揉めていた。それをお茶を飲みながら静観する。


 いつものお姉さんのいつもはつくりものが含まれていることがよくわかった。



「アサヒナさん、お茶のおかわりをもらえますか?」


「アサヒナって誰ですか?この事務所で働いているんですか?」


(フクヤさん。アサヒナさんって面倒な女性なんですか?)


(フクヤって誰ですか?)



 面倒くせぇ。


 そこに部屋の扉をノックする音が響いた。いつものお姉さんが立ち上がり扉のところに向かう。そして、扉を少し開けて何かを受け取っていた。


 机のところに戻ってくると俺の湯呑にお茶を注いで、いつものお姉さんは椅子に腰をかけた。



「シグレさん。おめでとうございます。傭兵ランクがEになりました。これが新しい傭兵カードです」



 おおお、忘れてた。そんなシステムがあったことを。


 真新しい傭兵カードを受け取る。それにはEというアルファベットが誇らしげに描かれていた。Eのくせに。



「ありがとうございます。これで、受けられる依頼が増えたんですね。で、このカードは個室じゃないと渡せないものなんですか?」


「いえ、普通は窓口で渡しています」



 え?



「じゃ、俺はなぜにこんなところへ」


「それは、自分の胸に手を当てて考えてみてください。心当たりしかないでしょ?」



 自分の胸に手を当てて考えてみる…


 ……


 …



「あのぅ、対物ライフルが心配なんですが、盗られたりしてないですよね?」


「シグレさん、もういいです。考えなくて。もう少し傭兵事務所に足を向けて欲しいんです。依頼は無理に受けなくてもいいんですよ。情報掲示板を見るだけでも。情報も増えてきていますし」



 これは、俺の傭兵活動が疑われていて指導が入っているのか?最近はいろいろイベントが重なって来れなかっただけで傭兵活動を疎かにしていたわけでは。



「情報なら私が教えますので、こんなところに来る必要はありません。なんなら、傭兵を辞めてみては?」


「どうやら、ナギ。真の敵はあなたのようね。まさかとは思うけどヒロコさんまでシグレさんのことを…」


「そうですよ。この方は薬屋さんの盾ですから」



 いつものお姉さんが頭を抱えだした。薬屋さんも知り合いらしい。



(私の見る目が間違っていなかったことが証明されたけど、ヒロコさんまで出てくるとは。まずい。これは姉さんが出てくるのも時間の問題かも)



「シグレさん、ヒロコさんの盾なんてしてたんですか?傭兵ランクFだったのに。アナザーは命知らずなんですね」


「いや、俺が望んで盾をやっているわけでは。成り行きというかビスケットというか」


「メイ、この方は諦めなさい。あなたの目は多少は良くなったようですが、この方は苦労しますよ」


「ナギ、あなたに言われて”はい、諦めます”なんて言うわけないでしょ。何年、私を見てきたの?」


「じゅう―」


「言わなくていいの」


「二人は何のことを言っているんですか?」


「シグレさんはわからなくていいんです。ナギ、この前二人で飲んだときに何も言ってなかったけど…」



 すると、いつものお姉さんが自分の耳を指差してジェスチャーを始め服のポケットをごそごそしだす。それを見たフクヤさんがポンチョの下からイヤホンを取り出して耳につけ情報端末を弄り始めた。


 いつものお姉さんは俺が正面にいるにもかかわらず口を手で隠し小声で喋る。


 本人の前で堂々と内緒話とは。ここのお茶も美味しい。アースには美味しいお茶しかないのか?



(シグレさんの情報、何か掴んでいるんでしょ。私とナギの仲なんだから、教えてくれるよね?)


(私はシグレさんの家にも出入り自由ですから、当然知っていますけど)


(なっ)


『ガタン』



 急にいつものお姉さんが立ち上がり椅子が勢いよく後ろに倒れた。



「シグレさん、今乙女ネットワークからの情報によりあなたがこのアースに家を持っていることがわかりました。当然、私も招待してくれるんでしょうね?」


「家と言っても借家な上チームハウスですよ。マユミさんとアオイちゃんも一緒です。知ってますよね?この二人」


「な!んということを。それに、し、知ってます。その二人を」


(一つ屋根の下で男一人に女が二人。そこに自由に出入りする女がここに。まずい。みんなうまくやってるぅ)


「あなた、薬屋さんとアユミさんも招待しましたよね」



 勝手に鍵を開けて入って来たんです。快く招待したみたいに言わないでください。


 とは言えない。机の下で苦無が太腿にチクッとしている気がする。


 いつものお姉さんの顔色が急降下している。



「私が最初に見つけたのに、どうしてこんなことに。シグレさん。さっきの傭兵カード、もう一度出してください」


「か、構いませんけど」



 言われた通り傷一つない新品の傭兵カードを渡す。


 いつものお姉さんは傭兵カードの裏に何やら書き始めた。みるみる顔色が晴れていく。



「これで、よしっと。はい、シグレさん。お返しします」


「ど、どうも」



 受け取った傭兵カードを眺める。表は変化なし。裏は―



”担当は朝日南芽依が務めます。この方は私に回すように、もし勝手に応対したら―”



 これ以上は怖くて読めなかった。せっかくの新品カードの裏面がホラーな展開になっていた。こ、こんなこと勝手にしていいのだろうか?



「アサヒナさん」


「申し訳ございません。あいにくアサヒナは席を外しております」


「いつものお姉さん」



 いきなり、いつものお姉さんが俺の手首を掴んできた。箸を持たない方の手だ。そして、手首がどんどん締まっていく。



「あなた、メイもあなたがいうところの近接戦闘種族に類する女です。選択を間違わないように」



 マジ、です、か。



「メイさん」


「何でしょう。シグレさん」



 手首を掴む力は弱まったが解放してはくれないようだ。



「こ、このカードの裏が非常に物騒なことになってますが。こんなことして上司に怒られたりとかは」


「大丈夫ですよ。シグレさんが心配することではありません」


「じゃ、このメイさんが担当っていうのは?そういうシステム、ありませんよね?」


「さっきまではありませんでした。新システムになります。担当者以外が担当すると酷い目に遭うという事務所側のお約束です。シグレさんには何の影響もありません」



 ホントかなぁ。影響ないって、影響しかないような。



「いつものお姉さんが担当のお姉さんになるんですか。それって」



 今度は反対の手首を掴まれた。こっちは箸を持つ方だ。困る。しかし、手首がどんどん締まっていく。



「あなたは、アホでしょう。学習しないんですか?」


「よく言われます。メイさん、手、手を」


「シグレさん、今度お姉さん呼びされたら私は力の加減ができなくなると思います。でも、安心してください。手がダメになっても私があなたの手になりますから」


「は、はい。肝に銘じます」



 解放された両手の手首には、はっきりと手の跡が残っていた。ホラーだった。どれくらいで消えるのか少し心配になる。



「それで、シグレさん。私はいつ家に招待されるんでしょう。ナギもほら、何とか言って」


「メイ、いつでも来ていいんですよ。奥方も優しい方ですし」


「お、く、が、たぁ。シグレさん、どういうことですか?説明を求めます」



 いつものお姉さんの表情が凄い。こんな人だとは思わなかった。憧れの受付のお姉さんのキャラが崩壊していく。



「それはフクヤさんが勝手にそう呼んでいるだけです。さっきも言った通りマユミさんとアオイちゃんはただのチームメイトです」


「ナギ、あなたさっきからわざと誤解されるように言ってるみたいね。自分はフクヤとしか呼んでもらえてないくせに」



 フクヤさんの方を見る。目が少し開いた気がしたが、いつもの細目だった。



「えーと、個室の用事はもう終わったということでいいんですね?」


「招待」


「どうやって招待すればいいんですか?メイさんの連絡先知りませんよ」


「プッ」


「ちなみにフクヤさんの連絡先も知りませんけどね」


「クスッ」



 二人が競うように情報端末を操作しだした。



「「送りました」」



 情報端末を取り出して送信されたアドレスの登録を承認する。アドレスリストを表示すると二人の名前が追加されているのがわかった。



「私の方が早かったようですね」


「ナギ、力使ったでしょ?ずるいのはいつも通りね」


「二人とも他人のアドレスリストを勝手に覗かないでください」


「シグレさんは、もう少し交友関係を広げた方がいいかもしれません」


「少ないですね。プッ」



 失礼だなぁ。



「メイさんは俺のアドレス持ってませんよね?今送信しますから」


「もちろん、持っていません。ありがとうございます」


「これで用事は終わりましたね。俺は情報掲示板が見たかっただけなんです」


「シグレさん、何が知りたいんですか?個室だしゆっくりしていいんですよ」


(メイ、一人の傭兵に時間を使い過ぎなのではありませんか)


(フクヤさん、いいんですよ。担当ですから)


「アントのことで。薬屋さんにも説明してもらったんですが、アナザー用に告知とか出ていたりするのかなと思って」


(ヒロコさん、行動が早いですね。三十路が近いからかも、しかし)


「アナザー用に告知は出しています。たぶん、知らないと思いますから。ただ、ヒロコさんから聞いているなら大丈夫だと思います。強いて言うならアントの魔石は最低でも2万YENからの買い取りになっていることくらいですね」



 2万YENだとぉ、一つが。ゴブリンなんて1000YENだというのに。



「そ、そんなに。薬屋さんの話だと1対1だと強くないと聞きましたが。薬屋さんにとっては弱いってだけで本当は強いんですか?」


「頭部に当てることができればハンドガンでも1発だと聞いてます。私なら一撃で余裕ですけど」



 おかしな情報が混ざっていたがハンドガンでも1発なのか。



「専用の依頼とかは?」


「アント退治の依頼というのはありません。見つけたら最優先で倒して欲しいことだけをお伝えしています」


「アントが見つかると都市周辺には傭兵や兵士以外に普段戦闘を生業としない人が出てきます。都市を護るのはそこに住む人全員の使命ですから。あなたも都市に家を持ったんです。自分をアナザーだと思わずに使命を果たしてください」


「わかってます。都市を護る気は最初からちゃんとあります」


「それで、シグレさん。今日はナギとアント退治ですか?なんなら、私も同行しましょうか?担当ならそれも可能です」



 担当ってスゲー。グループメンバーもやるんだ。



「メイ、今日は遠慮してください」


(シグレさんを独り占めなのかな?ナギ)


(今日以外でメイが本気なら誘います。しかし、今日は… お願い)


(ナギ。ひょっとしてシグレさんにアレを期待しているの?シグレさんにできるの?)


(それが、可能性があるのです)


(もし成功したらライバルが増える気がするんだけど)


(成功したらライバルどころではありませんよ)


(なっ)



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