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61-武器屋で昼食を


 アユミさんの朝食はとても美味しかった。


 とれたての魚だったらしいが、こんな状況で漁をしているのだろうか?それとも、市場で買ってきたばかりだから、そう言っているのか。


 ま、俺にとってはどちらでも問題ない。マテリアル産でもリアルより美味しいのだ。


 ただ、ホントに漁をしているなら、その方法が気になる。海辺で釣りならできそうだが、船で沖に出てとなるとどうだろう?


 この霧の中、太陽や月、星すらその位置を確認できない。100メートルくらいで陸が見えなくなる。


 GPSなしでは陸に戻って来れないのでは?方位磁石だけで何とかできるのか?何とかできそうな気はするが、かなり難易度は高そうだ。座礁祭りになったりして。


 もしかして、GPSに代わる何かがブラックボックスとして存在しているのかも。そうだ、そうだ、きっとそうに違いない。


 しかし、そんなのがあるなら陸で使えばいいのでは?イケメン地図が忙しい理由がなくなるな。あれ?



 今は薬屋を出て家に戻る途中だ。いつもの公園辺りなのだが人の気配が察知できている。おかしい、ここは寂れているから普段なら頭はクリアなはずなのにモヤモヤする。


 それとも、たまたま通りがかった人がいたのか。あり得るな。


 しかし… 足早にチームハウスへ戻り自分の部屋に入る。


 そして情報端末を取り出しステータスを表示した。最近はご無沙汰だったステータスさんだ。


 というのも能力の変化は体感しづらいのでスキルに変化がないと確認する気がおきなかったのだ。これが別のゲームだとステータスに変化があった場合にはメッセージやアナウンスがあったりするのだが、このゲームのステータスさんは無口だから。


 そして、その気になるステータスは―



 能力:筋力51 体力13 耐久34 敏捷8 器用11 知力1 精神6

 スキル:拳銃3 対物小銃2 思念操作1 気配察知2 操縦1 心眼1 急所攻撃1



 どれどれ、【筋力】は50を超えたのか。そうか、そうか。対物ライフル様様だな。【耐久】もいい感じ、だと思う。他はあまり変化がないようだ。【知力】の1が悲しすぎる。


 で、スキルは【拳銃】は3のまま【対物小銃】も2のままだ。


 まぁ、心当たりはあるというか心当たりしかない。最近は前衛に恵まれていたので銃を撃つ回数が激減していた。グループに恵まれると自分のステータスが恵まれないというジレンマ。


 ちょっと意識して銃を撃つようにしないとダメだな。ニッチなところを突いたはずが何も生かせないまま埋もれるぞ。


 切り替え、切り替え。


 お目当ての【気配察知2】だ。先生のレベルが上がっている。よし、よし。最近、先生の察知はくぐり抜けられてばかりだったので、これで名誉挽回したいのかもしれない。


 説明を表示してみる。



”25メートル以内の生物の存在を知ることができる”



 おぉ、25メートルかぁ。モヤモヤした理由はこれだろうけど、レベルが上がって増えたのが5メートルだけ。てっきり20メートルくらい増えるのかと思ったのに。


 初期値が高くて緩やかに数値が上昇していくタイプだな。このタイプはプレイヤーにはレベル1で十分とか言われちゃうヤツだ。


 そして、銃のスキルと違って常に使用しているので成長も常にしているはずだ。それで、やっと2だ。


 ひょっとするとこれもグループに恵まれていたから気が緩んで無意識の内に使っていないということが起きたのかもしれない。


 都市ではモヤモヤがあまり気にならないように脳が頑張ってくれているが、それが悪い方向に転んじゃったかなぁ…


 こちらも意識して頭の中のモヤモヤに向き合う必要があるようだ。


 よし、そうと決まれば行動に移そう。朝食のときは外していたリュックサックを背中につけて対物ライフルを担ぐ。


 自分の部屋を出て誰もいない居間を通り玄関へ。靴を履くときの対物ライフルはそこだ。靴を履き対物ライフルを持って扉を開け外へ出る。扉を閉めてあまり意味がなさそうな鍵をかければ準備完了だ。


 あ、お茶。まぁ、いい。公園に行こう。公園に行き久しぶりな気もする日課をこなす。噴水の石像がこちらを覗いている気もするが気のせいだろう。


 裏通りから傭兵通りに出て露店を眺めながら武器屋に向かう。時間は既に12時を過ぎていた。



 ホットドッグの露店を発見。



「おじさん、ホットドッグ一つ。マスタード多めで」



 300YENを渡してできたてのホットドッグを受け取る。これが今日の昼食だが、まだ食べない。


 武器屋に着いた。が、このままでは中に入れない。武器屋の扉は自動ドアではないのだ。


 対物ライフルを壁に立てかけ店に入る。



「ちわー」


「いらっしゃいませ」



 トシコちゃんの声だ。



「トシコちゃん。ホットドッグ、ここに置かせてね」


「どうぞ、そこはお客様のくつろぎスペースですから。ご自由に」



 トシコちゃんの言葉にツッコミがない。マスターは留守のようだ。しめしめ。


 そして、お昼時だからか店内に客はなく俺とトシコちゃん二人の空間になっていた。


 ホットドッグを弾込めスペースのカウンターに置き対物ライフルを取りに行く。少し目を離して心配だったが対物ライフルは健在だった。まぁ、こんな扱いづらいものを真昼間から盗ったりする人間もいないだろう。


 対物ライフルを持って武器屋に入りいつもの場所に置く。


 そして、リュックサックから水筒を取り出し水を飲みながらホットドッグを食べる。椅子が欲しい。



「シグレさん、それ水ですか?お茶でも持ってきましょうか?コーヒーもありますよ」


「なら、コーヒーをお願いします」


「はい、今用意しますね」



 流石トシコちゃんだ。ひよこのエプロンが似合うだけのことはある。


 一口ホットドッグを齧る。マスタードたっぷりのソーセージのなんと美味なこと。ヘルマンさんにグッジョブを贈りたい。


 ソーセージが半分なくなったところでコーヒーがやってきた。淹れたてのようだ。



「どうぞ」


「ありがとうございます。いくらですか?」


「お父さんはいませんからタダでいいです。内緒ですよ」


「トシコちゃん、できるねぇ」


「いやぁ、それほどでも」



 トシコちゃんがいれてくれたコーヒーを飲む。これも美味しい。ホットドッグとの相性も抜群だ。



「おい、シグレ。おまえ、何してるんだ。ここは喫茶店じゃないぞ」


「もぐもぐ。もう、武器も買える喫茶店でいいんじゃないですか?メニューに軽食や飲み物の他に武器が並んでいたら面白いでしょ?きっと、その方が儲かりますよ」


「いいですね、それ。シグレさん、天才では」


「いやぁ、それほどでも」


「天才が真昼間に武器屋でホットドッグなんか食わないだろ。いい加減にしろ」


「マスター、そんなこと言うんですか。ああ、マスター、そういえばアレどうなりました?随分と自慢をしているみたいですけど。まさかとは思いますが設計図を持ち込んだ人の名前を他人に教えたりとか、してませんよね?」



 マスターの挙動が不審になってきた。汗もかいていないのに、何かを拭っている。



「ト、トシコ。シグレに何か食い物出してやれ。ホットドッグだけじゃ足りんだろ」


「お父さん、優しい。シグレさん、何が食べたいですか?」


「ホットドッグ食べちゃったから、何か軽いもので」


「それじゃ、お茶漬けなんてどうです?」


「それで」


「わかりました。用意しますね。少し待っててください」



 トシコちゃんが店の奥に入っていった。かわいいのぅ。



「シグレ、手、出すなよ」


「だから、しないって言ったでしょ」


「おまえ、最近、薬屋のアレや服屋のアレと親しいらしいじゃないか。命知らずだな。女なら見境ないのか?アナザーは」



 アレ扱いなのか。わからんでもないな。傭兵通りの要注意人物なのかもしれない。


 しかし、マスターは耳が早い。傭兵事務所前で車から降りたのが、まずかったかな。まずかったんだろうなぁ。



「人聞きが悪いですね。成り行きです。こっちは犠牲者なんですよ。特に服屋―」


「おい、ここで服屋の陰口はよせ。俺か俺の家族が不幸になる」



 こわっ。



「そ、そうですね。わかる気がします。それなら、ドットサイトを自慢していることを聞かせてもらいましょうか。そんなことしたら目立つでしょ?争いになったらどうするんですか?」


「自慢なんかしてねぇ。ただ、量産できるとみんな幸せになるだろ?だから、麒麟の連中を呼んで見せたんだ。俺も深く考えずにここで見せたもんだから客に見られちまって。それで」



 確かに、量産してみんなが手に入れることができれば争いにはならないな。多少高額でも買えるなら問題ないだろう。



「そこまでは、理解できました。なぜ、設計図を持ち込んだ人の名前がバレてるんですか?マスター」


「いや、それは知らねぇ。麒麟の連中にドットサイトは貸したが、その時も設計図の話は出していない」



 うん?おかしいぞ。



「おまえこそ、誰から設計図の話を聞いたんだ?」


「服屋の―」


「わ、わかった。みなまで言うな。それは、アレが独自に調べたんだろ。アレは―」



 すると、武器屋に新たな客が来たようだ。マスターがそちらに目をやったまま固まっていた。


 振り返ってみる。



「あなた、何の話をしているのでしょうか?」



 フクヤさんだった。こんなところに何の用が。弾の補充なんて必要ないはずだし。


 閉じているのか開いているのか判断のつかない目が俺の方に向けられている。よな?



「えーと、宝箱の設計図の話ですよ。フクヤさんがマスターから設計図を持ち込んだ人の名前を聞いたのかと思って」


「そうですか。それで、店主は何と?」


「マスターは設計図の話はしてないと言ってました」


「お、俺は本当のことしか言ってねぇ。言ってねぇんだが、俺が言ったことにした方が良かったのか?それなら、今からでも」


「いえ、大丈夫です。あなた、私は武器屋の店主から聞いたとは言っていませんが。情報の出所が知りたいのですか?」



 瞳が見えないのに圧が凄いな。



「気にはなりますけど、マスターじゃないならそれでいいです。フクヤさんしか知らないなら、ある意味安心だし」


「私しか知らないというわけでもありません。一人いませんか?調子の良さそうな人間が」


「あっ、シモン君か」


「しかし、その少年の情報は探索したときのグループメンバーです。チップを見つけたとも言っていませんでした。ただ、非常に機嫌が良さそうでしたよ」


「それなら… って、フクヤさん。俺に鎌をかけたんですね」


「状況証拠は揃っていましたから鎌をかけるほどのことでもありませんでしたが、その方が面白いので」



 面白いって。あのときはまだしらを切り通せたのかぁ。なぜか悔しい。



「シグレ、シモンって誰だ。俺をこんな怖い目に遭わせやがって」


「シモン君はシモン君ですけど。知りませんか?傭兵ですが一見すると女の子のような男の子で特別な銃剣を付けたGW254を持ってましたが」


「いや、知らねぇなぁ。GW254を売った客にそんなのはいなかったような。別の武器屋だろうな」


「べ、別の武器屋なんてあるんですか?驚きです」


「そりゃあ、あるだろ。傭兵通りはここだけだがな。へへへ、この場所は俺の先見の明のなせる業ってヤツよ」



 別の場所に武器屋があるのかぁ。ちょっと興味あるな。



「シグレさん。お茶漬け、できました」


「ト、トシコ、今は来るな。あっち行ってろ」


「いいじゃない、お父さん。シグレさん、ここに置きますね。あれ、また、お客さんですか?いらっしゃいませ」



 おおお、梅干しとお茶だけかと思ったら手間のかかったヤツだった。焼き魚をほぐしたようなのと緑の何か。それにお茶と見せかけて、これはダシ?


 でも、フクヤさんのお茶漬けがない。これはまずいかもしれない。



「フクヤさん、お茶漬け食べますか?食べるなら、これ、どうぞ」


「それは、あなたのでしょう。ですが、あなたがくれるというならいただきます」


「あ、じゃ、もう一つ用意しますね。一つつくったので二つ目はすぐですよ」


「それじゃお願いね、トシコちゃん。フクヤさん、これは俺が食べるので、できたてはフクヤさんが食べてください。俺からのご馳走です」


「あなた、何を言っているのですか?あなたのご馳走ではなくてトシコさんでしょ?」



 やっぱり、ダメか。


 そして、本当にすぐ二つ目のお茶漬けが出てきた。ナイスだ、トシコちゃん。


 武器屋の弾込めスペースで用意してもらった椅子に座りフクヤさんとお茶漬けを食べる。異様な光景だった。



「「ごちそうさまでした」」


「美味しかったよ。トシコちゃん」


「美味しかったです。トシコさん」


「お粗末さまでした。お茶、どうぞ」



 お茶漬けの締めにお茶。しみる。



「それで、フクヤさんは武器屋に何の用なんですか?」


「別に用はありません。あなたを見かけたので入っただけです」



 あ、そうですか。それにしては入ってくるのが遅い。というかタイミングが良すぎだった。



「なんだ、びっくりさせやがって原因はおまえじゃねぇか。それで、おまえは武器屋に来て食ってばかりだが何しに来たんだ?」


「あ、そうでした。危うくお昼だけ食べて帰るところでした。えーと、アレの弾を5発ください」



 ハンドガンの弾は、まぁ、いいだろう。6発だけ買うのもアレだし、買い溜めする気にもなれない。



「おぅ、わかった。持ってくる」


「トシコちゃん、この人はフクヤさん。服屋で店員をしているから知ってるかもね」


「フクタニです。よろしくお願いします。あなた、あの店は傭兵向きの服ばかりですから若い子は寄り付きません」



 そうだったのかぁ。って、そうだった。



「私はカンダ トシコです。よろしくお願いします。傭兵通りの服屋に入ったことはありませんが何度か見かけたことはありました」


(トシコちゃんも殺さないでくださいよ。アース人だから大丈夫だとは思いますけど)


(あなた、殺しますよ。人は選んでいると言ったはずです。何度も言わせないでください)


「シグレさん、どうかしましたか?」


「いえ、何でもないよ。フクヤさんをよろしくね」


「わかってます」


「あなた、私は子供ではありません。そんな保護者みたいなことは―」


「おい、持ってきたぞ。5000YENだ」


「口座払いでお願いします」



 情報端末を取り出して口座から支払った。



「よし、確認したぞ。ま、まぁ、ゆっくりしてってくれ。失礼のないようにな」


(フクヤさんってなぜ恐れられているんですか?公認の暗殺者なんですか?)


(そんなわけあるはずがないでしょう。あなた、アホでしょう)


(よく言われます)



 対物ライフルの弾を腰のバッグにしまう。



「それじゃ、マスター、トシコちゃん。また来ます」


「お、おぅ」


「はい、またお越しください。フクタニさんも気軽にコーヒーでも飲みに来てください」


(こら、トシコ調子にのるな)


「ええ、そうさせてもらいます」


「そういえば、シグレ。アントが出たらしいじゃねぇか。退治頼むぞ。黒くて触覚が長いでかい蟻だ。忘れんなよ」


「忘れたいです。あっ」



 ひらめいた。アオイちゃんやイケメン地図なら船で沖に出ても問題ないじゃないか。GPSみたいなもんだし。



「イケメン地図は、漁師だったのかぁ」


「イケメン地図ってキタサトさんのことですか?兵士ですよ。それにイケメンだとは思いませんが」


「あ、はい」



 イケメンは通じるっと。


 対物ライフルを持って武器屋をあとにした。13時を回っている。なぜかフクヤさんもついてきていた。



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