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6-傭兵


 こんな時には牛丼だ。


 牛丼屋もこの通りにあることは把握済みだ。さっそく行ってみる。


 狭く細長い店内はカウンター席のみだ。先客が何人かいた。傭兵をしているのだろう近い壁には銃が立てかけられている。新鮮な光景だ。


 出てきたお茶を飲みながらメニューを見ると―


 牛丼しかなかった。並盛が300YENで大盛が400YENだった。


 悩む必要すらない。


 懐が寂しいので並盛にする。


 美味しかった。残りのお茶を飲み干す。


 空腹になると能力が下がるとかありそうで怖い。そうでなくても空腹は辛いのだ。


 食費も考えないといけいないとは、もうサバイバルゲームだな。


 よし、お腹も膨れた。これでやっと最初の目標だった傭兵事務所に行ける。場所も道路の向こう側だ。


 この道路、走っている車は多くない。見かけるのは大小の運搬用の車やバイクがほとんどだった。


 いくつか見た露店も堂々と道からはみ出している。




 傭兵事務所の前まで来た。レンガ造り3階建ての立派なビルだ。


 ”傭兵事務所”と書かれた看板が微妙な違和感を醸し出している。


 両開きの扉を開けて中に入ると様々な窓口に人が並んでいる光景が目に入る。


 目当ての傭兵登録ができる窓口は複数あり一番人が少ないところに並んだ。


 暇だ。うーん、暇だ。こんな暇な時間こそ情報端末だ。しかし暇をつぶせそうなアプリはない。当然ウェブブラウザなんてない。


 と思ったら。ありました。アイコン名は”ガン賢”。


 中央に配置された賢者君を周囲から迫るモンスターから守るゲームらしい。


 プレイヤーができることは迫るモンスターをタップして賢者君の攻撃指示とモンスターのいないところをタップして賢者君の転移指示だ。


 生存した時間と倒したモンスターの数によってスコアが決まりランキングに残るようだ。さっそくやってみた。


 操作自体はとても簡単なのだがモンスターの攻撃に波のようなものがあり、攻撃が激しくなってくると攻撃指示のタップが転移のタップに化けてしまい賢者君がモンスターに特攻するのだ。



「おまえ、なんで、そこに―」


「えーと、私の仕事ですから。用事がないのなら次の方に譲っていただきたいのですが」



 しまった。ゲームに夢中で自分の順番に気づかなかった。


 綺麗なお姉さんがちょっと怒っていらっしゃる。



「すみませんでした。傭兵登録をお願いします」


「情報端末で個人情報を表示してこちらに見せください。操作はわかりますか?」


「はい、大丈夫です」



 ガン賢のゲームオーバー画面が俺を煽っているが気にせず個人登録アプリを起動して個人情報を表示する。



「どうぞ」


「はい、少しお借りします」



 お姉さんは黒いノートパソコンのようなものに情報を入力しているようだ。


 はい、はい、ノートパソコンが存在する世界なんですね。1940年君は何処に行っちゃったの?モンスターに特攻でもしたのかなぁ。



「情報端末をお返しします。口座情報の表示をお願いします」


「わかりました」



 口座管理アプリから口座情報を表示する。



「どうぞ」


「また、少しお借りします」



 お姉さんがまたノートパソコンに入力し始めた。



「情報端末をお返しします。傭兵カードができるまで時間がかかりますので少し説明をさせていただきます」



 ざっと要約すると―


・傭兵事務所は都市防衛隊の一部署である。


・傭兵ランクにはF、E、D、C、B、A、Sがある。


・傭兵ランクの昇格は依頼の達成や防衛隊への貢献、人柄等を考慮した上で行われる。


・その逆に降格もありうる。犯罪など以ての外である。防衛隊ともめないように。


・依頼の不履行には罰金や罰則が課せられる場合がある。


・依頼は事務所内に掲示されているものとされていないものがある。


・モンスターが残す魔石やマテリアルの買い取りも行っている。


・都市の外で回収した兵器の残骸等は防衛隊で買い取りを行っている。


 こんな内容をお姉さんは機械のように説明してくれた。毎回この説明をしているとはお疲れ様としか言いようがない。



「質問いいですか?」


「はい、どうぞ」


「モンスターが残す魔石やマテリアルというのはどんな物なんでしょうか?」


「ちょっと待ってください。お持ちしますから」



 お姉さんが席を離れ奥から小さな宝石の原石のような石と一辺10センチメートルの黒い立方体を持って来る。


 魔石というのはファンタジーなゲームだとだいたい登場するアレだろう。しかしマテリアルというのは初耳だった。



「こちらの宝石の原石のような石が魔石です。この他にもいろんな色や大きさの魔石があります。こちらの黒い立方体がマテリアルです。箱と呼称することもあります。正式名称は”中間素材”というらしいのですが私はそちらの方面に詳しくありません」


「それはどのくらいするのでしょうか?」


「買い取り値段ということでしょうか?この魔石ですと2〜3千YEN。マテリアルは4〜5万YENですね」


「ありがとうございます」



 よし集める物の把握終了。何がお金になるか知っていないと持ち帰る物の選別ができない。インベントリがないので何でもかんでも持ち帰るというわけにはいかないのだ。


 あっ、リュックサック買うのを忘れた。また、懐が…



「シグレ様、傭兵カードができました。こちらになります。情報端末と一緒に入れることのできるケースもありますけど購入されますか?」



 傭兵カードを受け取る。名前とランクが記入されているだけのシンプルなデザインのカードだ。名前の最後にはやっぱりアスタリスクがついていた。


 ケースもあわせて販売してくるとは商売がうまい。カードをなくすと再発行にお金がかかるとかあるんだろう。悔しいが仕方ない。



「はい、買います。いくらですか?」


「1000YENとなっております」



 1000YENを渡す。お姉さんはニッコリと笑いながらソレを受け取った。


 情報端末と傭兵カードをケースに入れる。



「射撃訓練依頼がありますがどうしますか?これは依頼の形をとっていますが1マガジン分銃弾を無料で用意するので銃を撃ってみてください。という新人さんへのサービスとなっております。そして一度しか受けることはできません」


「受けます。お願いします」


「銃は持ち込みが基本ですがなければ貸し出しも行っております。複数の銃を持ち込んでも銃弾が無料になるのは一つだけですから注意してください」



 なにやらお姉さんは書類を用意しているようだ。


 1マガジンとはいえタダで銃が撃てるというのは非常に助かる。これでケースのことは忘れよう。



「こちらの用紙を地下の射撃訓練場に入ってすぐの窓口の者に渡してください。地下へはあちらから下りてください。これで傭兵登録は終了です。訓練頑張ってください」


「はい、ありがとうございました」




 射撃訓練場は案内された階段を下りるとすぐに見つかった。


 射撃訓練場に入ると右手側に射撃カウンターが並び左手側には銃弾販売所のブースと休憩スペースのような空間があった。


 たぶん用紙は銃弾販売所に持っていくのだろう。窓口には年配のおじさんが暇そうにしていた。



「すみません、これを」



 用紙をカウンターに置くとおじさんはそれを手に取り注意深く眺める。



「それでどの銃の弾でしょうか?」



 ハンドガンをホルスターから取り出しマガジンを抜いて両方をカウンターに置いた。


 おじさんはそれでわかったのか奥の方から弾を持ってきた。



「7.63x25?、20発と。それで足りない場合はここで買ってください」


「はい、わかりました」



 ハンドガンにマガジンをセットしホルスターへしまい、弾が載ったトレイを持って窓口を離れる。


 さて、どの射撃カウンターでやろうか―


 うぉ、あれは女だよな。髪の長さでは判断つかないとしても。もう、ちょっと横の方から… あ、いきなり振り向いた。目があった。銃はAK47っぽかった。


 ”何よ!”とでも言ったのだろうか口は動いていたが声は聞こえない。


 気まずい空気に耐えながら会釈だけして空いている射撃カウンターを目指した。


 このゲームに女子プレイヤーがいることに普通に感動した。まだプレイヤーと決まったわけではないが服も俺が来ている服に似ているし確率的には非常に高いと思う。


 しかもAKを選んだのか。武器屋でAKを見た時はこれアリなのかとは思ったがアサルトライフルなら俺もAKを選んだ。いや、しかしStG44も捨てがたい。


 そんなことより武器屋のマスターだ。女子だけは真面目に銃を選んであげたのか?謎は深まる。


 切り替え、切り替え。



 まず、情報端末でステータスアプリを起動し自分のステータスを確認する。



 能力:筋力1 体力1 耐久1 敏捷1 器用1 知力1 精神1

 スキル:なし

 ストック:なし



 HPとかの表示はなし感じろっということか。


 能力はオール1でスキルはなしストックは意味わからん。


 この状況でまず両手でハンドガンを数発撃ってみる。耳栓を忘れていたが結果的には必要なかったようだ。屋内なのに、この距離でもうるさくなかった。実銃を撃ったことはないのでホントのところはよくわからない。


 10メートル先の的には一応命中した。黒い人間の形をしたところには当たった。


 次は右手だけで撃ってみた。かろうじて当たる。


 次は左手だけで撃ってみた。これもかろうじて当たる。


 どうやら利き手の概念はないようだ。俺は右利きだが左手でハンドガンを撃っても違和感はなかった。今度牛丼を食べるときは左で箸を持ってみよう。


 両手に戻して数発撃ってみた。やはり両手の方が集弾が良い。片手の場合は命中率が落ちるようだ。


 そしてステータスを確認。



 能力:筋力1 体力1 耐久1 敏捷1 器用1 知力1 精神1

 スキル:拳銃1



 おぉ、【拳銃1】を習得したぞ。変化があると素直にうれしいな。


 情報端末に表示された【拳銃1】の部分をタップしてみるとヘルプウィンドウが現れた。



”拳銃の扱いが上手くなる。命中率が5%上昇”



 ま、そんなものか。威力も上がって欲しかったが贅沢は言うまい。


 この命中率の上昇ってヤツは弾の方向を修正するのか?ハンドガンを握った腕を修正するのか?すごく気になる。夜が寝られなくなるかもしれない。


 今度は両手でハンドガンをフルオートで撃ってみる。


 うぉぉぉぉ。これは手が大暴れしてしまった。的にもほとんど当たっていない。これは至近距離での非常用か?スキルが上がればこれがきちんと使えるようになるのか?


 それだと楽しみである。やっぱり夜が寝られなくなりそうだ。


 ステータスは―



 能力:筋力2 体力1 耐久1 敏捷1 器用1 知力1 精神1

 スキル:拳銃1



 最終的に20発撃ったがスキルは1止まり。変化はこれだけか… と思ったら【筋力】が2になっている。銃を撃っても能力が上昇することがわかったが。


 【筋力2】の部分をタップしてみるも何も表示されない。そこは教えてくれないらしい。


 もう少し訓練してスキルの検証をしたいが弾を買うお金がない。


 次にハンドガンを使うのは実戦になるだろう。


 トレイの弾をマガジンに込めて射撃訓練場をあとにした。



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