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58-不安定


 気絶、した、のか?世界が90度傾いている。


 柔らかいものが頭に当たっている。太腿かな?少し頭を押し付けてグリグリしてみる。


 そして、頭というか体を90度回転させて上を見ると―



「何ですか?殺しますよ」



 すぐに飛び起きた。なぜ、フクヤさんが膝枕を。まぁ、いい。グリグリは成功したんだ。殺されるのも仕方がない。良しとしよう。



「えーと、あ、あれからどうなりました?」



 すると薬屋さんが、こちらにやって来た。ここは、まだあの部屋のようだ。しかし、あの壁は既に閉じていた。



「いやぁ、すまないね。あまりの嬉しさに我を忘れていたよ。もう少しで君の背骨を折るところだった。あばら骨は折れたようだけどね。あばら骨なんてそんなもんだから気にしないで」



 気にするって。でも、痛くはない。



「一応、薬屋さんがポーションを出してくれましたので私が治療しました。あなたの貧弱なあばら骨は治ったかもしれません」



 まぁ、薬屋さんがしたことだから薬屋さんがポーションを出すに決まっている。しかし、どうやって使ったのか?非常に気になる。口、口…



「もう少しで死ぬところでした。気を付けてくださいよ。死んだらどうするつもりだったんですか?殺人、殺アナザーですよ」


「そりゃぁ、これからも長い付き合いになりそうだから生き返った時に”ごめん”くらいは言うつもりだった。ホントだよ。でも、君を殺しても犯罪ではないから。それくらいかな」



 くっそ。そうだった。犯罪にはならないんだった。罪の意識もそんなにないのだろう。通常のゲームでプレイヤーがNPCを殺すくらいの感覚なのだろうか。いや、それでもかわいそうだ。俺はそんなことしてない。してないと思う。し、してないはずだ。あっ、ごめんなさい。



「そうですか。もし、装備が壊れていたら弁償してくださいね。俺は貧乏なので買い直せませんから」


「わかってるよ。それじゃ、君の意識も戻ったことだし急いで帰るよ。今晩は良い酒が飲めそうだからね」


「あのお酒は、いいものなんですか?俺はビールしか飲みませんから詳しくないんです」



 薬屋さんの表情が面白いことになってきた。真剣な表情に笑顔を混ぜて蒸したようなことになっていた。



「世界がこんなになってから、お酒も貴重になってね。そして、アサヒワシは世界がこんなになる前から貴重なお酒だったんだ。噂だけは耳にしていてね。まさかこんなかたちで出会えるとは。まだ、希望はあるんだね」


「そういうのって、マテリアルでつくれたりはしないんですか?」


「マテリアルでつくったお酒は、お酒だけど違うんだ。死んでいるというか、ただ設計図通りにつくりましたって感じでお酒だけど私にとってはお酒のような何かでしかないんだ」



 はい、はい。俺は居酒屋のビールで十分生きていけます。設計図通りで十分です。



「それなら、さっきのも設計図だから薬屋さんが満足するものじゃないのでは」


「それが君、聞いてくれ。不安定な設計図からできるものは品質が毎回違うんだ。過去に不安定な設計図からつくられた食べ物の話を聞いたことがあって」


「あって?」


「その日は霧が出ていたらしいんだ」



 でしょうね。って。



「あのう、それまたやるんですか?急ぐ気って実はないでしょう?」


「君、つれないねぇ。で、食べ物の設計図で大当たりを引いたんだ。それは果物だったらしい。あまりの美味しさにアース人なのにもかかわらず、それを巡って人が死にそうになる事件にまで発展した。事態を重く見た都市が、それを見つけて廃棄したそうだ。でも、それが噂になって不安定な設計図からできるものは安定した設計図より優れたものができるといわれるようになったんだ」


「ミナイ君、それ僕も聞いたことがあるよ。それに一時期市場から果物、リンゴかな消えたよね。あぁ、何だかリンゴが食べたくなってきたなぁ」



 やはり、不安定な設計図は危険だ。そして、ガチャは人類の敵だ。



「じゃ、噂なんですね」


「そう噂だね。しかし、君は知っているんじゃないのかい?」


「いえ、俺の場合は安定した設計図が存在するアイテムかどうかわからないものでしたから。ただ、不安定な設計図でつくるものの品質が毎回異なることはわかりました」


「まぁ、そこに賭けてみたいじゃないか。幻のお酒なんだよ。設計図通りでも私を納得させてくれるかもしれないし。それ以上が確定なんだから。これほど、嬉しいことはない。なんなら、もう一度抱き着いてあげようか?」


「遠慮します」


「ですが、薬屋さん。まだ、設計図です。喜ぶのは完成品を見てからの方がいいのでは。それに、くじ引きですか?何回挑戦できるのでしょうか?」


「それが… 3回、なんだ」





 壊れている装備がないか確認した。幸いあばら骨以外に壊れたものはなかったようだ。あばら骨が身を挺して守ってくれたのだろう。ありがとう、あばら骨。


 情報端末を拾ってポケットにしまう。チップは見当たらない。薬屋さんが回収したのだろう。


 無駄に床を照らしているライトを拾い対物ライフルを担いで光の石棺部屋を出た。


 一変して重苦しい空気が漂っていた。霧の新しい効果かとも思ったが、この雰囲気は薬屋さんがつくり出していた。なんか最近、このパターン多いような。


 やはり、アースには宝箱は早すぎたようだ。



「フクヤさん、なんでたかがお酒でこんなことになるんですか?」


「あなた、薬屋さんには聞こえないようにしなさい。たかがお酒とか… あなたを殺すのは私ですから」



 えーと、薬屋さんはお酒を変に言うと殺されるっと。死亡フラグが多いな。ちゃんと覚えていられるだろうか?


 でも、これ、マイクは拾ったんじゃないかなぁ。薬屋さんを見るのが怖い。



「これ、もし、3回引いても当たりが引けなかったら、フクヤさんはどうするんですか?」


「薬屋には当分近づかないであなたの奥方のところへ行くか店で仕事をします」



 だから、家には来ないでちゃんと仕事してください。だいたい、防衛隊はどうなっているんですか?


 とは、口に出せない。



「俺は最初から薬屋には近づきませんけど、今日はどうなるんですか?」


「くじ引きまでは犠牲者は出ないと思います。私は薬屋さんに捕まる可能性はありませんが、あなたやキタサトさんは危ないですね。特にあなた、犯罪にならないというのがポイント高いです。あなたの場合、私のスピードに対処はできるかもしれませんが単純な力比べではどうにもならないのでしょう?」



 はい、そうです。フクヤさんのスピードに対処するのも自分では制御できません。


 リアルでは命懸けのガチャなんてやらないしなぁ。しかも、このガチャは当たる確率が高いとはいえ試行回数が少なすぎるんだよな。誰だよ、こんな仕様にしたのは。ホントに自滅する未来が見えてきそうだ。


 今更、薬屋さんに当たれば儲けもので外れるのが普通なんて言える空気ではない。言ったら、あのゴブリン達のように。



「薬屋さん、私も手伝いましょうか?」


「いいよ、フクヤちゃん。私が全部やるよ。今、霧占いしてるから。きれいに霧散の華が咲いたら当たると思うんだ。こういうのは日頃の行いが物を言うからね」



 言いません。薬屋さんも違った形で症状が出始めていた。


 いかん、出遅れた。杖持ちゴブリンが魔法を…



「あの杖持ちは俺が」


「いいよ、大丈夫だから。君にはあとで大役が待っているから体を休めといて」



 ハンドガンのホルスターに手をかけていたのを戻す。


 薬屋さんは飛んできた火の玉のようなものを拳ではじいていた。あらぬ方向に飛んでいく火の玉。


 小さい火の玉は爆発しないのか。そうか、そうか。って、もう盾いらないよね。


 しかも、大役って。自分で引けばいいのに、引かされるのか。ひょっとして、俺を恨めばいいっていうのがまだ残っているのかも。


 くじを当てても抱き着かれて死にそうだし、外しても死にそうだ。ここは、アオイちゃんにでも… って、アオイちゃんはいなかった。


 薬屋さんの霧占いが終わったようだ。薬屋さんの表情が暗いということは、そういうことだろう。


 フクヤさんが薬屋さんに近づいて薬屋さんの白衣からポーションを取り出し薬屋さんの拳を治療していた。薬屋さんは無傷ではなかったようだ。ギリギリ盾が必要かもしれない。



「フクヤちゃん、はい、ドロップ」


「薬屋さん、大丈夫ですか?戦闘は私と盾がやりましょう」


「大丈夫、大丈夫。まだ、占いのチャンスはあるから。それと、フクヤちゃんにも大役があるし体をいたわって」


「はい、承知しました」



 ゴブリンがかわいそうになってきた。まさか、占いの触媒にされているとは思わないだろう。


 それにフクヤさんだ。普通に返事をしていた。身を守る術があるというのは、心底羨ましかった。



「ミナイ君、僕もくじ、引こうか?」


「ああん、なんだってぇ」


「なんでもありません。独り言です」



 地下道に重い空気が流れる。水中のような歩きにくさだ。フクヤさんだけスイスイ歩いていた。


 その後、もう一度占いのチャンスがやってきた。薬屋さんが軽やかなステップで占っていたが、戻ってくる足取りは重かった。


 異界の門をくぐりダンジョンを出て安川支社の中を出口に向けて歩く。



「まだだ。まだ、チャンスはある」



 まだ、諦めていないようだ。


 階段を上がり建物のエントランスに向かった。


 建物の外が何だかざわついているように感じた。そこに一人の兵士がイケメン地図のところにやってきて小声で話をしていた。



「ミナイ君、すまないね。ちょっと急用ができたので、ここで失礼させてもらうよ。今度当たったお酒をご馳走して欲しいものだ。それじゃ」


「当たれば、ね」



 イケメン地図は片腕を上げてイケメンっぽく去って行った。急用が気になる。アントがどうこう言っていたように聞こえたが。


 時間は19時を過ぎて辺りを暗くしていた。



「さぁ、行くよ」


「はい」「了解です」



 少し歩くスピードが上がったような薬屋さんをフクヤさんと一緒に追いかける。


 薬屋さんの時折見せるギラギラした瞳が獣のようだった。まずい、俺も何か対策を考えないと。


 前回当たりを引けたとはいえ、俺のくじ運はすこぶる悪い。今回も自分のためではないが楽観はできない。マーフィーさんはどこにでもいるのだ。安全策はないものか。


 そうだ、トシコちゃんを借りるか?トシコちゃんなら当ててくれるかも… しかし、この時間にマスターがトシコちゃんを貸してくれるとは思えなかった。きっと、凄い門限があるはずだ。


 いや、そもそも武器屋の製造機を使うならトシコちゃんに頼めるはず。



「薬屋さん、ちょっといいですか?」


「何だい。占いのゴブリン探しで忙しいんだけど」



 もう、ここ辺りにはゴブリンなんて出ないのに。



「ゴブリンは私も探していますので安心してください」


「そうだったね。それで、君何かな?」


「設計図からお酒をつくるには製造機が必要ですよね?どこの製造機を使うんですか?武器屋の製造機を使わせてもらいませんか?」


「なぜ、わざわざカンダの製造機を使うんだい。うちにも小さいが製造機はあるんだ。それでつくるつもりだよ」


「持ってるんですね。わかりました」



 そうか、持ってるのか。そりゃぁ、持ってるよね。なら、次だ。次は。



「薬屋さん、中学校に到着しました。少し休憩しましょうか?」



 え?もう。



「いや、帰りを急ごう。フクヤちゃん、車をお願い」


「はい、戦利品を換金してから車を回してきます」


「よろしくね」



 中学校の門を入ったすぐのところで車を待つ。


 喉が異常に乾いていた。リュックサックから水筒を取り出しお茶をの―



「ありがと。いただくよ」



 飲めなかった。



「全部、飲まないでくださいよ。っていうか自分のを飲んでください」


「うん?」



 お茶をゴクゴク飲みながら目だけこちらに向けていた。なくなるって。



「あぁ、美味しかった。奥さんに伝えておいて。返すよ」



 水筒を返してもらった。やっと、お茶が飲める。


 水筒を口にあてお茶を、お茶を結構な角度なのだがお茶が、お茶が出てきた。一滴だった。少し殺意が湧いてきた。薬屋さんを睨む。


 すると、鋭く重い正拳が顔の前で止まった。拳圧で髪が後ろに流れる。殺意は霧散したようだ。


 リュックサックに水筒をしまいながら対策を考える。くじ引きを何とか無傷で終わらせたい。


 フクヤさんが車に乗ってやって来た。



「乗ってください」



 ライトをしまい対物ライフルとともに車に乗り込み、対物ライフルとともにシートベルトで体を固定した。


 シープが中学校から都市に向けて走り出す。時間切れが迫っていた。





「着きました。降りてください。車を置いてきます」



 はっ、もう着いたの?いい考えが何も浮かばなかった。



「さぁ、君入って入って。君には大役が残っているから、家にはまだ帰さないよ」



 シートベルトを外し対物ライフルとともに車から降りる。


 薬屋さんに続いて薬屋に入った。ついでにイヤホンを外す。



「おかえりなさい。ヒロコさん」


「ただいま、もう店閉めてあがっていいよ」


「わかりました」


「君は、こっち」



 客が入れない店の奥に案内される。


 案内されたところは研究室のようなところだった。夜な夜な怪しい実験を繰り返していてもおかしくない雰囲気が漂っていた。


 机の上にはいつか見たビスケットも籠の中に見つけることができた。


 薬屋さんが製造機の横に立ち機械を紹介してくれた。



「これが、薬屋の製造機だ。カンダのよりは小さいと思うが武器をつくるために借りているわけではないから、これで十分なんだ」


「借り物なんですね。これって薬しかつくれないのでは?」


「それは少し違う。製造機は設計図に基づいてアイテムをつくるんだが、左右されるのは大きさであって種類ではないんだ。この製造機でも設計図があれば君の銃の部品もつくることができるよ。ただ、その大きい銃の銃身とかは無理だけどね」



 薬屋さんが正気を取り戻している。



「材料は、やっぱりマテリアルだけなんですよね?それで、薬も武器もつくるんですか?」


「使うのはマテリアルなんだけど材料とは少し違うんだ。マテリアルはブラックボックスで物を得るための通貨と考えた方がわかりやすい。最近の研究では、マテリアルがアイテムに再構成されるというわけではないらしいことがわかってきたんだ」



 そ、そうなのか。材料じゃなくて通貨なのか。それなら、いろいろ納得できる。だとすると、これは製造機というより転送装置?



「その証拠に、この製造機では無理だけど大量にものをつくるというか交換できるブラックボックスがあってマテリアル一つでかなりの数のものを得ることもできたりする。都市の生命線にもなっているんだ」


「薬屋さん、遅くなりました」


「大丈夫だよ。私の盾に製造機の説明をしていたところだから。さて、君、その大きい銃はその辺に置いて、こっちへ」


「薬屋さん、今日稼いだお金の振り込みは?」


「そんなのはあとでいいよ。フクヤちゃんも、こっちへ」



 とうとう、この時が来てしまった。対物ライフルを邪魔にならないところに置いて製造機の近くへ移動する。


 対策も思いつかなかった。しかし、三人いれば誰かが当たるだろう。待てよ。俺だけ当てることができなかったらどうなるんだ?


 どうなるんだ?世界からガチャなんてなくなればいいのに。



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