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55-神託の像


「フクヤさん、質問があるんですがいいですか?」



 イヤホンを確かめながら質問をした。このグループの場合、グループ会話の管理をしているのはフクヤさんだった。今日はこのグループチャンネルにイケメン地図も参加している。



「何でしょう?死ぬ前に聞いておきたいこともあるのでしょうから」



 フクヤさんは前を向いて歩きながら恐ろしいことを言ってくる。



「シープっていうか車のことですけど、駐車場だか駐機場に止めているんですよね?盗まれたりしないんですか?それとも凄い防犯機能でもついているんですか?」


「君は心配性だね。そんなことを心配していたのかい?」


「俺もバイクを手に入れましたから、中学校にバイクで来て盗られたりしたら悲しいでしょ。薬屋さんやフクヤさんみたいに恐ろしい人間じゃないので、何か盗られそうで」


「盾君、それはアース人を疑っているのかい。アナザーを疑っているのかい。それとも、両方かな。でも、大丈夫だと思うよ」


「何が大丈夫なんですか。フクヤさんみたいに盗った人を見つけて闇討ちとか俺にはできませんけど」


「あなた、私を何だと思っているんですか?都市に泥棒なんていません。アナザーには泥棒はいるかもしれませんが。しかし、アナザーといえど犯罪を犯せば大きい柱に罪人登録されて、こちらに来ることはできなくなります。そこまでして犯罪を犯す理由があるとも思えません。まぁ、いたら私が殺しますけど」



 アナザーを殺しているのはフクヤさんの趣味なのか?それとも、組織みたいなものがあるのか?



「え?そりゃあ、露骨に犯罪をしているアナザーならさっさと退場させて欲しいんですけど。狡猾に嘘をついてのらりくらり逃げる人がいたら?裁判とかしてたら時間だけが過ぎていきますよ」


「君ねぇ、君達アナザーの世界がどうだか知らないけど、都市では裁判なんかしないよ。裁判なんて言葉久しぶりに聞いたよ。都市には神託の像というのがあって、その像の前では嘘をつけないんだ。ついてもバレるんだよ」


「そんなブラックボックスがあるんですか。もし、間違っていたら…」


「神託の像は、ブラックボックスではないんだ。このアースに昔からある。アース人は、神託の像の決定に逆らわないよ。今まで間違いを起こしたこともないらしいからね。神託の像は神様との通信手段ともいわれているのは、そのせいだよ。まさか、君は神様も信じていないのかい」



 神様が本当にいる世界なのか。まぁ、神様って開発者のことだろうけど。



(もっと、私を信じていいのですよ。あなたをいつも見守っています)


(見守るのは僕の仕事なんだけど)


(あなたは、邪魔です。他の人のところに行ってください。この人は私がつきっきりで見守るので)


(いや、他の人も別の僕が今も見守っているけど。ホント、イヴはしょうがないなぁ。贔屓はやめてよ。イヴの場合、仕事上贔屓は問題でしょ)


(贔屓してもいいんですよ。誰がダメだって決めたんですか。決めても私は自由ですけど)


(そんなこと言って、君の権限減らすよ)


(なら、あなたの権限を減らします)


(おかしいなぁ。なぜ、こんなことに―)



 何か耳元がムズムズする。最近変な音が聞こえる頻度が多くなったようだ。この体でも耳鼻科に行かないといけないのか。都市にあるのかなぁ。



「盾君、わかったかい。冗談っぽいのを除いてアース人は犯罪を起こさないしアナザーは犯罪を起こすといなくなる。ただ、意見の食い違いで対立することはあるが、殺し合いに発展することはないかな。昔なら違ったかもしれないが。現在、まず第一に僕達は都市の防衛のことを考えないといけないからね」


「はい、なんとなく理解できました。納得は難しいですけど。でも、フクヤさんはアナザーを殺しまくっているんじゃ」


「人聞きが悪いですね。きちんと選んでいると何度言わせるんですか。それに、アナザーを殺しても犯罪にはなりません」



 ガーーーーーーーーーーーン。衝撃の事実が発覚した。殺され放題だったのか。思わず例のポーズを取りそうになるのを必死に堪える。



「ちなみに、あなたが私を殺したら立派な犯罪です。立派な犯罪ですから反撃する際は、このことをよく思い出してみてください」



 ゴーーーーーーーーーーーン。ずるい。フクヤさんを殺す気も殺せる気もしないが。何かずるい。



「ただ、魔力機関の魔力結晶を預けることはあります。場所によっては防衛のために魔力結晶を同じ場所に集めることはありますので。その場合は駐機場に預り所の案内があります。中学校は預りは行っていないようなので、そのまま止めるだけです」



 やっと、まともな答えを聞けた気がする。



「いろいろ聞けて勉強になりました。ありがとうございます。しかし、他のアナザーにも知っておいて欲しい内容だったんですが」


「うん?盾君は知らないのかい。今の内容をソフィスティケートしたものが冊子として傭兵事務所に置いてあるんだが。無料だよ。自由にお持ち帰りくださいだよ。なぜ持ち帰らないのかなぁ」



 知りませんでした。対物ライフルが心配でしょうがなかったんです。



「君が疑り深いのは君の世界が問題みたいだけど、奥さん達はそんなでもないよね。君ももう少し気楽に生きた方がいいんじゃない」


「慎重と言ってください。慎重なんです」



 あの面白娘達がお気楽なだけです。


 ダンジョンの地下の方の入口の安川支社が見えてきた。



「盾君の話が、退屈しのぎにはなったね。さぁ、ここからは僕が君達を何とかするよ」


「君、こんな女を守るの一言も言えない男になるんじゃないよ」



 それは薬屋さんとフクヤさんを守る必要がないからでは…


 安川支社の前では防衛隊の兵士や傭兵達がいつものように集まっていた。なぜか、露店がある。仕事熱心すぎというか命知らずというか。


 入口はこの建物の地下なのだが、人は建物の外に集まっているようだった。


 異界の門へ向けて歩き出す。



「もう、14時ですよ。今日は軽く中を見て回るだけがいいですね。うん、そうだ。そうだ。なのに、なのに、いつの間にか、みなさんは重装備ですよね」


「うん?異界の中は昼夜関係ないし私は泊りでも問題ないよ」


「私も問題ありません」


「僕も問題ない。寝袋も当然あるよ」



 当然ありません。食べ物もありません。お茶が、あります。



「なんで、そんなものを用意してるんですか?探索でしょ」


「探索だからだよ。君は銃だけ凄いけど他は手を抜きすぎだ」



 ゲーーーーーーーーーーーン。準備万端だと思っていた時期がありました。



「ま、寝袋は貸してあげないけど。食事くらいは面倒みてあげるよ。寝袋も。なんなら一緒に寝るかい?」


「遠慮しておきます。ですが、食事はいただきます」


「それじゃ、異界に入るよ」



 近接戦闘種族の女性から異界の門を抜けていった。


 入ったところは、木の根が暴れまくってはいたが建物の部屋らしきところだった。


 ランプが置いてあり部屋を明るくしていた。防衛隊の人がやってくれたのか。


 壁に大きな穴が開いており、そこから地下道に出るようだ。というか出られるところはそこしかなかった。




 地下道に出た。ここも以前の地下道と同じように光がどこからともなく差し込んでおり想像より明るかった。ヒカリゴケが何だかかわいい。



「ここが異界なんだ。意外と普通だね。なんかもっと凄い植物とか生物とかいるかと思ったんだけど」


「そうですね。見たことがあるような光景ですね」


「それなら、地上の方がそれらしいですよ。ここよりは幻想的です。今から行きます?」


「君は往生際も悪いね。キタサト、病院まで案内よろしく。戦闘は三人でするから」


「そうかい助かるよ。でも、僕にもこれががあるから」


「StG44ですか。いい銃ですよね」


「今はそういう名前らしいね。僕に支給されたころはMP43だったんだ」


「そういうのいいから。早く」



 MP43かぁ、StG44ではないところに歴史を感じる。ここでも配備されるのに苦労したのかもしれない。


 対物ライフルを下ろして弾を装填した。病院に着くまではハンドガンの出番はないだろう。


 イケメン地図の指示通りに地下道を進んでいく。木の根のおかげで歩きにくい。



「ゴブリンです」


「あれなら君は休んでていいよ。警戒を、よろしく」



 薬屋さんが白衣のポケットからナックルを取り出している。



「僕は?」


「キタサトはずっと休んでて。地図だけ、よろしく」



 杖持ちもいるようだが、あ、苦無が額に。フクヤさんは杖持ちに何もさせないまま霧へと変えた。超加速のようなものを使わなくてもスピードは薬屋さんよりかなり速い。


 薬屋さんはフクヤさんが置いていったゴブリンを坦々と処理していた。あれだけ動いて眼鏡がズレないのが不思議でしょうがない。


 背も高いし手足も長い理想的なモデル体型なのだろう。胸は筋肉になっちゃったのかもしれないが。


 二人がドロップを回収しているところにイケメン地図と向かった。



「薬屋さん、魔石を」


「はい、フクヤちゃん。3個あったよ」


「こちらも3個です。マテリアルはありませんでした」


「お疲れ様です」


「相変わらず強いね。どっちがモンスターかわかったもんじゃない」


「さぁ、先を急ぐよ」



 似たような光景が続く中に、またゴブリンが現れた。やはり、地下の方が多いし減っていない気がする。盾持ちもいた。出番か。



「君、あれを撃つかい?あれだけ撃ってもいいけど」



 ま、まだ、続いているのか。あれが。



「あ、はい、じゃ、あれだけ撃ちます」



 対物ライフルをしゃがんで構え、しっかりと盾持ちの覗き穴辺りを狙ってトリガーを引く。すぐさま次弾の装填を開始する。


 一見アンバランスに見える状態から撃ち出された弾は正確に覗き窓を通り奥のゴブリンに命中し霧散した。が、今、連続して霧散したようにも見えた。



「あっ」


「今、後ろにもゴブリンいましたね。審議ですか」


「君、前もって言ったよね。今日は分け前から引いちゃおうかな」



 ちゃんと分け前がもらえるらしいが、今のは不可抗力だ。



「ビスケットじゃなくお金が貰えるんですね。でも、今のはしょうがないでしょ。弾は急には止まれないんですよ」


「相変わらず無茶を言ってるようだね。防衛隊を辞めても変わらないな」


「まぁ、いいや。フクヤちゃん、残りを倒すよ」


「承知しました」



 瞬く間に残りのゴブリンは二人に倒されたのだが、なぜかドロップを回収せず地面に木の枝で何かを描いていた。そして、薬屋さんに手招きされる。


 現場検証だった。



「ほら、ここが盾持ちの魔石。その後ろに魔石とマテリアルがある。この魔石とマテリアルは何なのかな?」


「神様の贈り物。とかですかね?」


「ミナイ君、急いでいるんじゃないのかい?誰が倒しても問題ないだろう。ドロップを盗られたわけじゃあるまいし」


「キタサト、そんなだから地図のままなんだよ。モンスターを倒さないと強くなれないんだよ」


「だったら、フクヤさんは?フクヤさんもゴブリンを倒してます」


「フクヤちゃんはいいんだよ。私の飛び道具だから。君は私の盾だろ。もっと抑えて」



 超理論キターーーーー!



「もう、マイナスでも何でもいいですから。早く行きましょう」


「何でも?」


「もう、マイナスでいいですから。早く」


「今」


「言ってません」


「神託の像の前で言える?」


「言えません」


「じゃ、君から何でもチケットを1枚ゲットできたことだし急ごうか」



 くっそ。これはまずい。気を付けよう。まだ、1枚だ。慌てる時間じゃない。まだ、1枚。視界の中にいるフクヤさんの口角がゆっくりと上がっていった。すこぶる悪い顔だ。


 ドロップを回収してフクヤさんに渡す。



「魔石7個にマテリアル1個です」


「フクヤちゃん、ありがとう。よし、行くよ」


「もうすぐそこだよ。あそこだね」



 廃病院の入口というか、これまた建物の地下の部屋の壁が崩れて地下道と繋がっているパターンだった。


 部屋に中には一応ランプが置かれていたが暗い。雰囲気が暗かった。



「では、お疲れ―」


「君、君」



 首根っこというか首を掴まれ対物ライフルごと持ち上げられる。いや、凄い力ですね。盾が必要な理由が全くわからない。



「盾君、この二人から逃げるなんて無理だから。ホントに逃げるつもりがあるならクシマまで行かなきゃ」


「そう言えば最近子供を叱るのにクシマにつれて行くってのがありますね」


「面白いね、それ」



 面白くねぇ。クシマにも行きたくねぇ。あ、でも、バイクで旅するのは面白そう。



「薬屋さん、そろそろ下ろしてください。もう、逃げませんから」


「神託の像の前で言える?」


「言えます」


「なら、下ろしてあげよう」


「それで、薬屋さんはそのままでアンデッドと戦えるんですよね?」


「そうだよ、ナックルと靴は特殊な金属で補強してあるから。ちなみにフクヤちゃんの苦無はもっと凄いけど」



 握手したら血が出ましたから、さぞ凄いんでしょう。


 ハンドガンをホルスターから抜きシルバー弾のマガジンと交換してホルスターに戻した。


「それじゃ、あらためてよろしくお願いします。ゴブリンスケルトンしか知りませんからね」


「いや、私もモンスターに詳しいわけじゃないから。殴れないモンスターが出たら終わりだよ」


「ミナイ君、ここには未確認のゴースト以外は殴れると思うから大丈夫だよ。そのゴーストもそのナックルなら殴れるかもね」


「いえ、まだ他にも未確認のモンスターはいるかもしれません。油断しないように。あなたは、油断してください」



 はい、はい。油断して頑張ります。


 ランプの置いてある部屋でそれぞれが準備を済ませ部屋を出た。陣形はそのままだった。



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