54-地図
シープが傭兵事務所のところで進路を南に変える。
この車がオープンカーでとても助かっていた。普通の屋根付きだと対物ライフルが入らなかっただろう。
右隣のイケメン地図は銃を持っていないようだが、この人も近接戦闘種族なのか。最近、近接戦闘をする人が増えてファンタジーっぽくなってきていた。ダンジョンは異世界感あるし。
「あのう、地図さん。銃とかは使わないんですか?まさか、前二人みたいに銃があるのに近接戦闘する側の人間なんですか?」
「まさか、前二人みたいに脳と脊髄が筋肉みたいな人達と一緒にしないでくれよ。前線キャンプに僕の銃はあるんだ。最近はずっと前線キャンプだったから。女の子達を悲しませちゃって悪いんだが、誰かが異界の門なんか見つけたもんだから仕方ないね」
「言うじゃないか、キタサト。ま、あんたに戦闘能力なんか期待してないから異界の案内をしてくれるだけでいいよ。せいぜい、爆発しそうな女の子の数でも数えときな」
「盾君も注意した方がいいよ。アサヒの女性はやたら腕っぷしが強いのが多いから。うちの隊長も女だてらに刀を振り回しているからね」
アサヒの女性は近接戦闘種族っと。覚えとこうっていうか体が既に覚えているな。
「最近、近接戦闘種族の女性に遭うことが多くて命がいくつあっても足りません」
「無限にあるのでは」
「フクヤちゃん、それはいけないよ」
いかん。空気が悪くなってきた。話題を変えなくては。
「地図さん。ダンジョンじゃなくて異界でしたか。ゴブリンの異界の調査はどうなっているんですか?」
「地上の方はほとんど進んでないかな。地下の方は、だいたい把握できたところだ。探索に時間がかかりそうな廃墟がいくつか見つかっているから、今後はそちらに重点が置かれるだろうね」
「それって、防衛隊の機密とかではないんですか?前の二人は知りませんが、俺はただの傭兵ですけど」
(ただの傭兵ねぇ。この二人がただの傭兵をつれ歩くわけないんだが)
「大丈夫だよ。僕が頑張ってつくった地図も一般に配布される予定だから気にしないでくれ。危険はみんなで分かち合わないとね」
確かに、それはあるな。アース人にしたらアナザーに探索させたいだろうし。
「どうせ防衛隊はアナザーを人柱にしたいんだろう。君も防衛隊の美味しい依頼には気を付けた方がいいよ。君は疑り深いからあまり心配してないけど」
ほんと、アズマさんにはしてやられたからな。気を付けないと。
「人柱なんてひどいなぁ。僕達も危険を冒していろいろ整備しているというのに。ミナイ君だって防衛隊にいたじゃないか」
「防衛隊にいたからやり口を知っているんだよ。やめて、せいせいしてるよ。フクヤちゃんも防衛隊をやめて私かシグレのところに来たらどうだい?いろいろ楽になれると思うんだけど」
前二人も防衛隊関係者なのか。しかも、薬屋さん。フクヤさんを俺に勧めないで。命を狙われています。
「私、ですか。私は―」
「前見て、前。こっち見ないで危ないですって」
「私のところにずっといてもいいんだよ。それか、シグレのところに3番目の奥さんでもいいじゃないか。部屋もちょうどいい感じのがあるみたいだし。防衛隊やめちゃおう、一緒に探索者をやろうじゃないか」
薬屋さんは、薬屋以外にも探索者をやっているのか。へぇ、探索者かぁ。
「考えておきます」
車は防衛櫓09-0104を通り過ぎた。舗装はされていないが道の状態はいいように見える。もう少しで舗装道路に合流して中学校の北に出るだろう。
「中学校に着きました。みなさんは先に降りて休憩用テントに行ってください。私は車を置いてきます」
中学校の門を入ったところで車を降りた。
「盾君、誤解のないように言っておくが、ミナイ君やフクタニ君が少し特殊なだけで防衛隊は決しておかしなところじゃないからね。君の中では悪の秘密結社みたいになっていると大変だから。防衛隊はアナザーの味方だ。ホントだよ」
「嘘ね。君、こいつの言うことは信じなくていいよ。息をするように嘘をつく女の敵だから」
「これは、困ったなぁ」
「ほら、休憩用テントに行くよ。朝食まだなんだろ」
「了解です」
防衛隊には何か闇みたいなものでもあるのだろうか?ただ、フクヤさんは遠慮します。命がいくつあっても足りません。
薬屋さんについて休憩用テントに入る。薬屋さんが座るところを決めたので近くに対物ライフルを置けそうなところを探して置いた。そして、四人分のお茶を取りに行く。
「あなたは、席に戻ってください。お茶は私が運びますから」
点数稼ぎのお茶運びを横からかすめ取られる。じゃ、朝食でも―
「君、いいから来なさい」
朝食に伸ばした手を戻し席に戻った。わざわざ呼びに来なくても。
「朝食は?ここで食べるんじゃ」
「まぁ、まぁ、そこに座って食べ物は逃げたりしないから」
渋々席に座る。隣はイケメン地図だ。
「お茶をどうぞ。幸運があるかもしれません」
「フクヤちゃんは気が利くねぇ」
それは、俺の仕事でした。さっき横取りされたんです。
しかし、お茶に罪はない。茶柱が立っていないか探してみる。
結構きわどいのがあった。グレーゾーンだ。これは、立っているといえるのか?少し湯呑を揺らしてみる。あ、角度が変わった。
ダメだな。まぁ、そんなもんだろう。今日はそんな日だった。お茶をいただこう。
お茶を飲もうとすると自然と目線が上がる。すると、三人が同時に食事を取りに行っていた。あれ?
「どういうこと?」
しばし茫然とする。いくら霧があるといっても静かに行動しないとできないし、イケメン地図も一緒になってやっているとは。防衛隊恐るべし。
などと考えていると、薬屋さんがいろんなものを少しずつのせた皿を机に置いた。
「どういうこと?」
「君は疑り深いくせに抜けてるよね。この時間は美味しいものはすぐになくなるんだよ。全部美味しいけど。ライバルは減らすもの」
くっそ。子供みたいなことしやがって。ギリギリお姉さんのくせに。
混み始めたテントの中、俺も朝食というか、もう昼食を取りに行く。
なぜか列ができていた。え?さっき、お茶を取りに来たときはこんなじゃ…
おかしい、こんなことが都合よく起きるなんて。俺をはめる集団意識のようなものが―
しかし、現実はどうにもならなかった。運が悪い日はとことん運が悪いようだ。
俺が手にした食べ物は、梅干しのおにぎりと卵サンドに唐揚げ一つだった。ピクルスすら入っていないサンドイッチとか。これでは、能力が下がったままかもしれない。
貴重な食べ物を持って席に戻る。一応、みんなは食べずに待っていてくれたようだ。いや、違うか。
「「プッ」」「クスッ」
失笑のようなものが聞こえた気がしないでもないが、気のせいだろう。
「それじゃ、いただこうか」
「「「「いただきます」」」」
梅干しのおにぎりと卵サンドという謎の組み合わせの食事をいただいた。
最後に唐揚げを食べる。唐揚げは俺を裏切らない。
対面では薬屋さんとフクヤさんがプリンを食べていた。隣のイケメン地図の生態は全く気にならない。
お茶のおかわりを取りに行く。なかった。
それなら、ラムネだ。ラムネなら。なかった。
美味しいお水を湯呑に入れて席に戻る。
対面で薬屋さんとフクヤさんがお茶を飲んでいた。俺は水を飲んだ。水も俺を裏切らない。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
「さて、作戦会議を始めるよ。キタサト、地図出して」
「え?持ってきてないけど」
「なら、取ってくる。ほら、早く。駆け足」
「人使い荒いなぁ」
イケメン地図が休憩用テントから出て行った。軽やかな足取りだ。
「今日は何が目的なんですか?異界の風景を楽しむとか」
薬屋さんが眼鏡越しに凄い目を向けてきた。今何かおかしなこと言ったかな?
「君はアホだろ」
「よく言われます」
「異界の風景が面白くても、それを目的にする奴なんて絵描きくらいじゃないか?ちゃんとお宝探しに行くんだよ。お宝」
「お宝ですか?マテリアルがあれば大抵のものは何とかなるのでは?」
「君にはロマンがないねぇ。それとも情報操作のつもりなのかな。こっちには神田アームズのマスターがレアアイテムを手にしたという情報が入ってきているんだけど」
マスター、自慢したな。自分の首が締まるだけなのに。
「そのアイテムの設計図を持ち込んだ人の名前も知っています。とても、殺したくなる名前でした」
ちっ、マスターは俺まで道連れにする気か。
「で、君は、私達に何か言うことはないのかい?」
「えーと、宝箱見つかるといいですね」
「君が便利アイテムとはよく言ったものだね。流石奥さんだ」
「じゃ、俺達が行ったところに行くんですか?」
「いや、宝箱自体は貴重ではあるが過去にも見つかっているんだ」
「よく、それが宝箱だとわかりましたね?」
「そう、それなんだよ。―その日は霧が出ていたらしいんだ」
うん?
「でしょうね」
「男が防衛櫓に交代のために向かっているときだったんだ」
「兵士さん、お疲れ様です」
「ちなみに防衛隊は隊員であって兵士ではないんだけど、アナザーには… 兵士でいいか。で、いつもの道を歩いていると民家からウルフが襲いかかってきたんだ」
「そういう民家、知ってます」
「男はウルフを難なく倒して、民家の方へ他にウルフがいるかもしれないと探しに入ったんだ」
「最近、ウルフが出ないんです」
「そしたら、出たんだよ」
「ウルフが?」
「何を言ってるんだい。箱だよ。鉄で補強された古ぼけた木箱が出たんだ。まぁ、出るところを見たわけじゃないらしいが」
「俺が見つけたのは銅でしたね」
「え?ど、銅なんてあるんだ。そ、それで、男は何も考えず箱を開けたそうなんだ」
「バカですね」
「バカだね。そのバカは、運良く何も起こらずに開いた箱から虹色に輝く小さな円盤を見つけたんだ」
「黙秘します」
「そして、そのバカは、そのことを自慢して、その防衛櫓に向かう隊員はみんな民家を探すようになったんだ。付近のモンスターを倒しながらね」
「ウルフが絶滅しますね」
「その虹色の小さな円盤に何が入ってたと思う?」
「さ、さぁ」
「ということがあって、二度目の出現は期待されていたが、まだ起きていないんだ。もう、10か月くらいになるかな。なので、同じ場所には二度と現れないと思って行動した方がいいだろう」
「えーと、円盤の中身は?」
「同じ場所には二度と現れないと思って行動した方がいいだろう。ね」
ちっ、そこまで話しておいて中身は教えないとか詐欺じゃん。
「へぇ、普通の宝箱の場合もあるんですね。俺が見つけたのは宝箱モンス―」
いつの間にか横に回っていたフクヤさんに口を塞がれていた。早すぎる。
「君は面白い情報をたくさん持っているようだね。お姉さん興味津々だよ。でも、ここじゃ、これ以上の話はできないかな。キタサトを待って移動しよう」
薬屋さんの目が輝いていた。マユミさんの目と似ている。同じ人種なのだろう。
ようやく、イケメン地図が戻ってきた。戦闘の準備もしてきたようだ。アサルトライフルのStG44が見える。
「地図を持ってきたよ。さぁ、作戦会議を始めよう」
「よし、異界に向けて出発だね。行くよ」
「え?作戦会議は終わったのかい。僕抜きで。防衛隊第1部隊の頭脳と言われて―」
「キタサト、そういうのいいから。ちなみに、君には教えておくけど第1部隊の頭脳はアイツじゃないから」
「はい、俺も違うと思います」
「何を言ってるんだい。【知力】が一番高いのは僕なんだけど…」
対物ライフルを持って休憩用テントを出た。【知力】は賢さとは無関係のようだ。アオイちゃんとは違うスキルなのかもしれない。
「キタサト、地図貸して」
中学校の門を出たすぐのところだ。往来の邪魔にならないように地図を広げる薬屋さん。
「キタサト、この廃墟はどんなところ?」
「そこは、通称”塔”だね。地下より地上部分が大きいらしい。防衛隊が行ったときは地上部分にモンスターはいなかったそうだよ。スライムは別だったが。傭兵にもスライムに詳しい人がいるのかな」
『ヒュー ヒャーー ヒュルー』
思わずちゃんとできないのに下手糞な口笛を披露してしまう。おかしい、口笛なんて吹くつもりなかったのに。なぜか、吹いてしまった。
それなのに薬屋さんの口角が上がる。
「じゃ、こっちの廃墟は?」
「ああ、そこね。そこは、お勧めしないけど」
「こ、こ、は、何?」
「そこは、通称”病院”っていうところで―」
「あ、お疲れ様でした。俺、ちょっと体調が急に悪くなって、おばあちゃんが死んだかもしれません。これで失礼します」
「フクヤちゃん、お願い」
すると、フクヤさんが俺の対物ライフルを持っていない方の手を取ってひねり背中に回した。対物ライフルを持っている方の手は、今対物ライフルを持つという大仕事中だ。動かせないし動けない。
「だいたい、あなたの弱点が見えてきました。なぜ奥方の攻撃を避けられないのかとか」
俺の知らない俺の弱点を発見されたようだ。もうフクヤさんに抵抗することは無理かもしれない。
「それじゃ、ここに決まりね。キタサト、注意点」
「そこは、ゴブリン型のスケルトンやゾンビが出るらしい。未確認情報でゴーストを見たという報告もある。アンデッド用装備が必要かもなんだが、どうする?」
「俺は絶賛貧乏です。シルバー弾なんて買うお金は、ありません。それに、この対物ライフルのシルバー弾は存在すらしていない。と思います」
ちょうど貧乏で良かった。今日は運が悪いと思ったら貧乏が助けてくれるとは。
「私とフクヤちゃんは、アンデッドでも問題ないけどキタサトは?」
「僕はシルバー弾を出してもらわないといけないね。たぶん、ここにもあると思うから。何とかなるとは思う」
薬屋さんが腕を組んで顎に人差し指を持っていき思案に暮れていた。
「では、ここでお別れみたいですね。フクヤさん解放してください」
薬屋さんが俺の方に歩いてきた。そして、組んでいた腕を下の方に。え?えええ?
ハンドガンを勝手にホルスターから抜いた。マガジンも抜いて弾を眺めている。
「フクヤちゃん、これのシルバー弾を4マガジンほど買ってきてお金はあとで払うよ」
「承知しました。これをお借りします」
そう言って、フクヤさんは中学校の校庭に戻っていった。
「なら僕もシルバー弾を用意してくるよ。お金は…」
「キタサトは、仕事。防衛隊で何とかするんだね」
フクヤさんから解放された。今ならハンドガンを犠牲にすれば逃げることができるかもしれない。気配を最大限小さくする気持ちで後ろにフェードアウトする。
「!」
薬屋さんが鋭い踏み込みで正面から左手で首を掴んできた。対物ライフルを持っているのに踵が浮く。
「私はあまり力の加減がうまくできないから折れたらゴメンね。回復はしてあげるよ。死ぬかもしれないけど」
ダメだ。薬屋さんはフクヤさんほど器用そうじゃないから不意に死んでしまう可能性がある。逃げられない。観念するか。
「あのう、アンデッドとの戦闘経験はありませんよ」
「そんなのはわかってるよ。弾はあげるから頑張ること」
「薬屋さんも一応は女性でしょ。廃病院とか怖くないんですか?」
「一応はって、ひどいね。立派にかわいい女の子じゃないか。君は男だろ、廃病院の何が怖いんだ?モンスターなんて倒さなきゃ倒されるだけだよ」
かわいい女の子。全てに違和感が存在する。
「薬屋さん、用意できました」
「それは、君が受け取って。これも返すよ」
まず、対物ライフルを地面に置きハンドガンにノーマル弾のマガジンを入れてホルスターにしまう。
ハーネスにあるノーマル弾のマガジン四つのうち二つをリュックサックに入れて、空いたところにシルバー弾のマガジンを入れた。マガジンももらえるのか。今日一番の幸運はこれかもしれない。
しかし、補給用テントでこのハンドガンのマガジンが買えるとは。このハンドガンもマイナーだと思っていたのに。まぁ、助かるからいいか。
残りのシルバー弾のマガジン二つもリュックサックへ。
シルバー弾は文字通り弾頭が銀色なのでノーマル弾との判別も容易だった。
「僕も準備してきたよ。これでアンデッドが出ても対処はできるはずだ」
そこに、イケメン地図が戻ってきた。シルバー弾は何とかしたようだ。
「ようやく、出発できそうだね。それじゃ、地下の方の異界の入口に行くよ」
既視感のある陣形で中学校をあとにした。お化けが出たら薬屋さんを盾にすると決めた。




