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53-スピードの行方


 ログインするのが怖い。


 昨日はお仕置き部屋でマユミさんから関節技のフルコースのもてなしを受け、あまりの味に途中で気絶したようだ。


 とはいえ、次にどんなけしからん技が来るのかと期待していた自分もいて途中で強制終了することもできなかった。技の順番が絶妙だったのだろう。な、なぜか気持ちいい技もあった。嬉しい。いや、おかしい。


 気が付いたときには、マユミさんの姿はなく手足を動かせない俺とポーションの入ったスキットルだけが部屋に転がっていた。


 手足の痛みやまともに動けないということは、マユミさんはポーションを使ってくれなかったようだ。まさに鬼の所業。痛みが治まらないしどうすることもできないので強制終了、ログアウトしたというわけだ。


 初めて強制終了をしてわかったことがある。当然といえば当然なのだが強制終了と認識されるまで時間が数秒かかるのだ。誤認をさけるためなのだろうが咄嗟に強制終了はできないかもしれない。


 そして、この痛みだ。むちうちのときもそうだったが、外傷と違い自然治癒に時間がかかるところが厄介だった。なんちゅうゲームやねん。


 しかし、もうすぐ約束の時間だ。ログインするだけしてみよう。


 VRギアを慎重に装着してゲームを起動。


 白い世界に移り、そして…



「ぐぅおおお」



 やっぱり、痛い。痛みが抑えられていて、これだ。


 しかも、この手では時間を確認することもできない。あ、でも、情報端末は自分の部屋か。こんなんじゃお仕置き部屋から出ることすらできない。



『ピンポーン』



 呼び鈴が鳴る。音はどこか聞き覚えのある音だった。


 しかし、どうすることもできない。薬屋さんだろうか?これは、ピンポン連打の流れか?


 静かだ。ピンポン1回で終われるなんて大人だ。諦めてくれたかな。


 約束を守れなかったのは俺の責任だが、フクヤさんの陰謀によりこうなったのだ。間違いない。フクヤさんも悪い。いや、全部フクヤさんのせいにしよう。痛みは移せないが。


 さて、これからどうしよう?ログアウトして現実逃避するか?それとも…


 お仕置き部屋の扉が開いた。マユミさんとアオイちゃんは千葉デスティニーランドのはず、こんなときに空き巣?



「薬屋さん、いましたよ。無様に転がっています」


「どれどれ。プッ。やぁ、おはよう。君、調子はどうだい?」


「いろいろ言いたいことはあるんですが。こうなったのはフクヤさんのせいですからね。なんとかしてください。今も激痛が続いているんですよ」


「あなたには私の攻撃が当たりにくいですから、いろいろ調べさせてもらいました。どうやら奥方の攻撃は避けれないようですね。フフフ。いいザマです」



 やっぱりか。あの閉じているのか開いているのか判断のつかない目が憎い。非常に悪い顔をしている。



「薬屋さん、なんとかしてください。このままじゃ、今日は俺参加できませんからね。なんとかしてくれないなら帰ってください」


「君、ひどいなぁ。それが人にものを頼む態度なのかい。しかし、フクヤちゃんにここまでさせるとは、えらく気に入られたものだ」



 フクヤさんが俺の肘を掴んで力を入れ始めた。激痛が走る。



「ぐぅぬぬぅぬぅ。な、何をするんですか。まだ、気が済んで、ないん、です、か」


「フフフ。今なら私の攻撃は避けれないでしょう。フフフ」



 よっぽど自分の攻撃が当たらなかったのが悔しかったのかもしれない。今まで百発百中だったのかも。やはり細目は信用できない。


 フクヤさんは俺の肘を掴んでいた手を放しポンチョコートの中から苦無を取り出した。


 え、まだ、やるの?これって、死んじゃうイベントかな。マジか。どこで選択を誤ってしまったのか…



「はい、そこまで!」



 フクヤさんの苦無が俺の額に当たる寸前で止まった。助かった。のか?



「薬屋さん、なぜ止めるんです?この男は一度死んだ方が私のためになりますが」


「フクヤちゃん、表現の仕方がわからいからといっても、やりすぎだね。そんなことしてたら、みんな離れていくよ。また、一人になっちゃうよ。いいのかなぁ、それで」



 フクヤさん、苦無、苦無が当たってしまいます。



「私から離れられるわけがありません。すぐに追いつきます。私のスピードに勝てる人間なんか―」



 泣いている?苦無が小刻みに震えている。


 このままでは埒が明かない。



「ナギさん…」



 フクヤさんの背中から黒い靄が出ているような。いないような。


 え?名前だよ。名前。何か勘違いしてない?



「どうやら、本人が死を望んでいるようです。私がかなえてあげましょう」



 フクヤさんが両手に苦無を握った。薬屋さんは手で顔を抑えていた。あちゃぁってヤツだろう。



「今なら私の攻撃に当たるしか選択肢はないでしょう。フフフ。大丈夫、服は汚しませんから」



 そこ、かぁ。死んで復活するときに汚れた服ってどうなるんだろう?それは、検証してみたいところだ。


 やるなら一思いにやって欲しいんだけど、この様子だと楽に殺してもらえないかもしれない。


 強制終了という手もあるがアース人の前でやりたくはない。ないが、死んだら復活することを二人は知っているから… やっちゃうか。



「ナギお姉様、何をしてるんですか?事と次第によっては、ナギお姉様といえども―」



 お、思わぬ助っ人が千葉デスティニーランドはどうなったのか?今度こそ助かった。のか?



「フクヤちゃん、もういいだろ。奥さんも来ちゃったし、あっちでお茶でも飲みながら事情を説明しようじゃないか。ほら、行くよ」


「しかし、薬屋さん。今なら簡単にこれが刺さるんですよ。せっかく―」


「フクヤちゃん、別に刺さなくてもいいんだよ。刺さなくてもちゃんと伝わってるから」



 何が伝わっているんだろう。すぐ俺を殺そうとする細目の忍者、それとも暗殺者?



「シグレ。話をしてくるから、そこでジッとしてなさい」


「ジッとしてなさいって、痛いし動けないんですけど」


「なら、心配ないわね。行ってくるわ」



 三人はお仕置き部屋からいなくなった。お願いだから俺の体の心配をして。何も事態は進展しなかった。あ、命拾いはしたのか。


 体を動かせないまま手足の痛みに耐えていた。ひどいゲームだった。しかし、これも新鮮だ。



 30分くらい経ったのか?時間がよくわからないが薬屋さんがお仕置き部屋に入ってきた。



「それじゃ、傷を治してあげよう。ポーションは私が出すよ。いろいろ迷惑かけたね。でも、君は一言多いよ。せっかく丸く収まるところだったのに」


「えええええ。名前ですよ。フクヤさんの名前」



 薬屋さんが動かせない手足にポーションを少しずつ垂らしてくれた。痛みがスーッと引いていくと手足が動かせるようなってくる。凄い。体験してみると回復薬とは大違いだということがあらためて理解できた。


 直ぐに回復していく感覚が癖になりそうだった。カイカンかもしれない。これは、瀕死状態から回復してもらったら、どんなに、どんなに…



「奥さんとは話がついてるから心配しないで、君もお茶を飲んだらどうだい?美味しいよ」



 我が家のお茶ですけどね。ポーションの入ったスキットルをポケットに入れてお仕置き部屋をあとにした。


 居間に行くとマユミさんと細い目の狂人が話をしていた。怪獣大乱闘ではなくて安心する。大家さんに大事に使うと言ったばかりだ。



「本当に話はついてるようですね」


「シグレ、座って。お茶をいれるわ。ナギお姉様、お茶のおかわりは?」


「いただきます」


「あ、奥さん。私のお茶もよろしく。熱いのが好みだから」


「薬屋さん、グイグイきますね。ただのお客さんなのに」


「つれないなぁ、君。奥さん達とは仲良くなったのに君との距離は縮まらないね。どうしてかなぁ。まぁ、いいさ。今度泊まりにくるから、そのときにでも話をしよっか」



 えええええ。どうして、マユミさんとアオイちゃんはこんな危険が危ない人達と仲良くできるのか不思議でしょうがない。


 マユミさんがお茶を配ってソファーに再び座る。



「マユミさん、凄いタイミングで来てくれましたが忘れ物ですか?」


(千葉デスティニーランドはどうしたんですか?)


「ボロ雑巾をそのままにしてたのを思い出して、それで」


(何言ってるの。まだ夜でしょ。朝になったら行くわ)


「ひどい忘れ物ですね。あやうく死にかけたんですよ」


(ボロ雑巾って、死にかけたんですよ)


「いいじゃない、結局は死ななかったんだし。それに死にかけた理由も全部シグレ自身にあるんでしょ」


(一言多いのよ。太るとか胸がないとか)


「ありがとうございます。言動には気を付けます」


(胸がないなんて言ってません。胸がナギ―)



 俺がお茶を飲んでいた湯呑に苦無が突き刺さって他界した。もう、お茶は飲めない。しかし、こんなこともあろうかとお茶は全部俺の腹の中だ。熱い。



「そ、それで、薬屋さん。もう10時半過ぎてますけど用事はなんでしょう」


「用事はなんでしょうって、君を迎えに来たんだよ。君のせいで時間がこんなことに」



 はい、はい。全部俺のせいですよ。



「キタサトさんが薬屋で首を長くしてますね。もうすぐモンスターになるでしょう。なったら殺しますけど」


「あ、そんな奴もいたね。忘れてたよ。影が薄くて」


「それじゃ、手足も治りましたし行きましょうか」


「そうしよっか。奥さん盾をお借りするよ」


「お姉様方もお気を付けて。シグレ、きちんと守りなさいよ」


「マユミさん、守りなさいって言うけど。この人達普通に強いからね。こっちの眼鏡は格闘家だし、こっちの細目は忍者です」


「ヒロコお姉様は格闘家なんですね。今度お手合わせをお願いしたいところです」



 あ、一言多かったか。マユミさんの目が輝き出した。



「そういえば旦那の体をあんなにしたのは奥さんだったね。なかなか面白い技を持ってるみたいだ。手合わせなんて、こちらからお願いしたいくらいだよ」


「そんな物騒な話はいいですから、早く行きましょう。そのキタサトって人が待っているんでしょう」


「物騒な話になったのは君のせいだけどね。じゃ、奥さんこれで失礼するね。また、今度泊りにくるから」


「それでは奥方様、失礼します」



 自分の部屋へ戻り外した装備をつけなおす。そこへマユミさんが入ってきた。



「はい、水筒。お茶をいれておいたわ」


「あ、ありがとうございます。助かります。アオイちゃんは?」


「寝てるわよ。朝早いから」



 水筒をリュックサックに入れて背中の器具に装着する。対物ライフルを担いで準備完了だ。



「それじゃ、行ってきます」


「いってらっしゃい」



 すると、眼鏡と細目がこちらを覗いていた。嫌らしい目だ。



「何見てるんですか?チームメイトとして普通の会話ですよ」


「はい、はい。アナザーの新婚さん」



 玄関に来た。扉は普通に閉まっていた。



「薬屋さんとフクヤさんは、どうやって家に入ったんですか?」


「うん?目の前の扉から入りましたよ。靴もここにあります」


「鍵はかかってなかったんですか?マユミさん、かけ忘れたのかなぁ」


「鍵はかかってたよ。普通に開けたけど」



 普通に開けることができるんだ。鍵、意味ないじゃん。鍵開けのスキルとかあるのかなぁ。



「人の家の鍵を勝手に開けるのは犯罪では」


「人の家って他人行儀な。もう、家族だよ。家族」


「そうです。奥方様もお姉様と呼んでくれているようですし。あなたは殺しますけど」



 どうやら、俺は家族に入れてもらえないようだ。少し寂しい。



「あ、お姉様達の鍵をつくっておきますね」



 マユミさん、いたんだ。しかも、鍵を渡すとか。完全に、この二人を引き入れる気か。それとも、マユミさんとアオイちゃんが洗脳されたのか?お、俺は一人でも抗ってみせるからな。



「悪いねぇ。何から何まで今度お酒を持ってくるよ。奥さん、飲めるよね?」


「当然です。お酒は女の嗜みですから」



 そんなマユミさんの言葉を耳にしてチームハウスをあとにした。


 前を眼鏡と細目が歩いている。この二人は俺のチームをどうする気なのか。マユミさんとアオイちゃんはもうダメだ。陥落している。


 公園の前を通る。噴水の石像は今日も機嫌が良さそうだ。


 裏通りから傭兵通りに入ると薬屋は… すぐそこだ。近すぎる。あの物件は失敗だったかもしれない。こんなに近いとご飯を勝手に食べに来るかも。



「薬屋さん質問なんですが、薬屋さんって薬屋に住んでるわけではありませんよね?」


「住んでるよ、2階に。君の家みたいな感じだよ」


「え?薬屋に薬屋さんじゃない人を見かけましたが」


「それは、バイトの子じゃないかな。用事で店を空けることもあるから」


「薬屋さんって一人暮らしなんですか?」


「あれ、あれ、あれ。急にどうしたんだい。フクヤちゃんじゃなくて私を口説きだして」


「口説いてません。このままだと家にご飯とか食べに来そうで警戒しているんです」



 あ、言っちゃった。



「あ。それはいい考えだね。気が付かなかった。フクヤちゃん、どうする?」


「当然、私も行きます。だいたい、まだ、ご馳走が残っているんですよ。いつか殺される、あなた」



 どうして、こういう展開になるのか。幸せには犠牲が必要ということなのか。俺の幸せはどうなるのか?


 おかしな展開になったことを後悔しながら薬屋に入った。そこには、女の子と話をしている背の高い男がいた。


 何か気分が悪くなってきた。砂糖を吐きそうだ。この感覚、イケメンか…



「ミナイ君、遅くないかい。僕を呼んだのは君だろう?しかも、あんなひどい手を使って」


「女の支度は時間がかかると相場が決まっているんだよ。知ってるだろ」


「そうだったね。それで、そちらが君の言ってた盾かい。君より背は低くて弱そうだが」


「傭兵のシグレです。よろしくお願いします」


「僕は、防衛隊の―」


「あ、いいよ。こんな奴の名前なんて覚えなくて。アイツは地図だから。それだけ覚えておいて」


「あ、はい。地図さん、あらためてよろしくお願いします」



 地図かぁ。アオイちゃんポジションだな。アース人にもいたのか。



「ミナイ君、ひどくないかい。このままだと僕はシグレ君の中で、ずっと地図だよ」



 外でも地図ですよ。



「フクヤちゃん、車よろしく」


「はい、承知しました」



 フクヤさんが薬屋を出ていった。薬屋さんに素直なフクヤさん。二人の関係が凄く気になる。非常に気になる。



「それで、キタサト。準備はちゃんとしてきたのかな?返事によっては爆発する女の子が増えるけど」


「大丈夫。君も女の子も僕が何とかするから」



 ゴホッゴホッ。口から何かが飛び出た。白い粉末のような物だ。この体には面白い機能が本当についているようだ。神様はアホだった。



(いや、バカよ。こいつは、バカ)


(ひどいなぁ。この機能つけるの苦労したんだよ。普通の人間にはついていない機能だからね)



 また、おかしな機械音が聞こえた気がする。耳にもおかしな機能があるのかもしれない。



「キタサト、今度変なこと言ったらタバスコを目と耳に突っ込むよ」


「それ、仕事に支障が出るから違うのにしてくれないかな。わさびとか」



 このアース人も分類的には、おかしい科とかになるのかな。それとも、わさびスキー?



「薬屋さん、車の用意ができました」


「それじゃ、行くよ。アユミちゃん、店よろしくね」



 薬屋の前に止まっているシープに四人で乗り込む。


 運転席がフクヤさん。助手席が薬屋さん。後部座席右が地図さん。後部座席左が俺と対物ライフルになった。しっかりとシートベルトで俺と対物ライフルを固定する。


 右は見ないようにしょう。吐き気がしてくる。



「薬屋さん、お腹が空きました」


「僕―」


「中学校に着いてからだね。だいたいは君のせいだから。我慢」



 シープが中学校に向けて走り出した。


 今日は幸先が非常に悪い。朝から散々だ。俺に幸せが訪れますように…



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