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49-妹


 いつものエイトイレブンで食い物を買ってきた。


 今日はすき焼き丼に納豆だ。すき焼き丼はニラの少ないニラ玉丼とは大違いだ。もう少しニラを増やしてください。お願いします。


 すき焼き丼を食べながら掲示板を確認する。時間もあまりないので総合スレだけで勘弁してやろう。


 総合スレ、総合スレはっと。あった、あった。何々―



 総合スレに速報が入ってきていた。アメリカの一つの都市がモンスターの大群によって半壊したらしい。


 あっちの掲示板を見た人の書き込みだから詳細は、まだわからない。嘘かもしれない。すき焼き丼の豆腐が美味い。


 続いてURLが書き込まれる。何人かの人柱が踏んだ。俺は踏まない。


 人柱によるとあのURLは公式ホームページに新たに追加されたページのURL。ということらしい。


 URLを踏まずに公式ホームページから新たに追加されたページを探す。



 これか。アースの戦況が確認できるページだった。


 真っ先に鮮やかな緑の日本をクリックする。拡大されてアサヒとクシマの位置に大きい柱のアイコンが表示された。アサヒのアイコンの隣に99%の表示がある。クシマは97%だ。どうしたクシマ。


 1%減っているのが気にはなるが大丈夫なのだろう。ほうじ茶を飲む。


 右上のバツ印をクリックして日本の地図を閉じて全体地図に戻した。


 問題のアメリカは少し元気のない緑だ。そのアメリカをクリックすると大きい柱のアイコンが四つ表示される。そして、その一つが78%だった。


 ユマという都市らしい。全然知らない名前だった。ユマ頑張れ!


 残りのすき焼き丼をかきこみながら掲示板に目を移す。


 総合スレでは数値的に半壊していないのだが、その原因についてあれこれ書き込みが続いていた。


 ほうじ茶を飲み干してログインの準備をする。トイレ、トイレっと。


 VRギアを装着して。よし、ログインだ。時間もギリギリ間に合う。はずだ。


 白い世界から、だんだん、だんだん、マユミさんの顔が…



「間に合ってますよね?」



 喋りにくい。両方の頬をマユミさんが手の平で押さえている。もう少し普通にログインさせて欲しい。



「日本人なら最低でも5分前には来るものじゃないの?」



 頬が解放されたので情報端末で時間を確認する。ちょうど9時だ。素晴らしい。



「ちょうどですよ。ちょうど。遅れてはいません」


「まぁ、いいわ。行くわよ」



 マユミさんは休憩用テントの中へ入っていった。こんな人目のつくところで変なことをするのはやめて欲しい。走り去る兵士らしき人を見た。砂糖でも吐きに行ったのだろうか?


 そんな甘いものでもなかったので大丈夫だろう。


 地面にストックをつけた状態で腕に収まっている対物ライフルを持ち直し、遅れて休憩用テントに入る。リアルで食べたばかりだが、また朝食だ。こっちの体は昨日の晩から何も食べていない。


 休憩用テントに入りイヤホンから声がした。イヤホンもつけたままのようだ。声の主を探す。



「こっちですよ、シグレさん」



 休憩用テントの角の席に座っているアオイちゃんとマユミさんを発見した。


 対物ライフルを置いて席に座る。朝食のメニューは既に決まっているらしい。


 サンドイッチと、サンドイッチと、ラムネだった。栓は当然開いている。これは、飲む前に開けて欲しかった。



「早く食べて。それから、すぐに都市に帰るわよ。いただきます」


「「いただきます」」



 朝食が静かに続いた。この二人にしては珍しい。マユミさんは光学照準器のことで頭がいっぱいなのだろうか?


 ピクルスの味を確かめながらサンドイッチを食べた。ラムネも美味しいのだが、コーヒーが良かったかもしれない。



「「「ごちそうさまでした」」」


「さぁ、行くわよ」



 対物ライフルを持って休憩用テントを出る。そして空を見上げた。霧がなければ日差しが気持ちいいことだろう、今日は。そんな気がした。



「シグレさん」



 アオイちゃんが前の方から声をかけてくれた。置いて行かれそうだった。対物ライフルを担ぎ直し追いかける。



 中学校を出て防衛櫓08-0102に向けて歩き出した。


 陣形は言わずもがなリバーストライアングルだ。マユミさんとアオイちゃんが楽しそうに話をしている。


 それをイヤホン越しに聞き耳を立てる。



「センパイ、アメリカの都市の一つがモンスターの攻撃でダメージを受けたらしいです。大きい柱は大丈夫のようですがアース人さんが心配です」


「そうね。心配ね。今ついているレールで大丈夫かな?もし、このレールでダメならレールからね」


「シグレさん。センパイは、もうダメみたいです。都市までは持つと思ったんですが」



 マユミさんの方を見ながらアオイちゃんが俺に話しかけた。



「そうみたいだね。重症だね、これは」


「昨日からセンパイの家に泊まっているんですが、リアルでもこんな感じです。昨日はセンパイの家からログインしてました。VRギアももちろんお泊りセットに入れてます」


「それは、大変そうだね。アオイちゃんが」


「ええ、お風呂も一緒に入りましたが勝手に沈むし自分では頭も体も洗えないのでワタシが洗いました。二人分ですよ、もう」


「そこのところを、詳しく」



 詳しく。



「アオイちゃん、もしマテリアルが足りなくなったら貸してね。今度メロンパンで返すから。キルフラッシュはどうなっているのかな。電池は、きっと魔力電池ね。調整は傭兵事務所だと無理だから。どこがいいかな。アオイちゃん、どこ…」


「キルフラッシュって何ですか?あっ」



 マユミさんが歩きながら自分の世界に入ったようだ。もう、雑木林だけどこけたりしないで欲しい。起こすのが大変だ。



「昨日から会話が続かないんですよ、シグレさん。ただ、AKですか?銃の話だと比較的大丈夫だったんでドットサイトのことを聞いたんです。すると、センパイがドットサイトのついたAKを貸してくれて覗いてみることができました」



 AKを持っているのは当たり前だろうな。ブイブイ言わせてたらしいし。問題は数だが、考えても仕方ないだろう。その上を軽く超えてきそうだ。



「見やすかったでしょ?」


「初めて覗いたんですけど見やすいというより面白かったです。覗いているときに手や顔が動いちゃうと光っている点が動くんです。凄いですね、ドットサイトって」


「アイアンサイトだと下半分は銃だし黒い標的とかそもそも暗いところでは狙いにくいという問題をドットサイトなら解消できるんだよ。でもね、きちんと調整しないといけないし、なんと言っても電源が必要になってくるからメリットだけっていうわけでもないんだ」


「ワタシのサブマシンガンには無理ですか?」


「マユミさんのAKがあんなことになっているから無理じゃないと思うけど、レールはつけてもらわないといけないね。そこはマユミさんに相談するといいよ。今はあんなことになってるけど、銃のカスタムは俺より詳しいと思うから」


「わかりました。センパイに相談してみます。センパイ、もう、防衛櫓に着きます。水飲みますよ。一人で飲めますか?」



 防衛櫓08-0102に到着した。水休憩をする。マユミさんがアオイちゃんに水を飲ませてもらっている。症状が重くなってきているようだ。早く都市に帰らないと。


 水を飲んだらすぐに出発した。マユミさんの歩くスピードが上がった気がする。重症なのに。


 旧何とかスポットを通り過ぎ標識に到着。黙々と歩くマユミさんが怖い。


 とうとう、防衛櫓09-0001に辿り着く。イヤホンを外してポケットに入れる。マユミさんのイヤホンはアオイちゃんが外してあげていた。



「マユミさん、正気ですか?これから、どこへ行くんですか?」


「センパイ?」


「な、何を言ってるの私はいつもと変わらないわ。それで、中学校を出たら急いで…」



 マユミさんは、まだ中学校にいるようだ。アオイちゃんが悲しい表情でマユミさんを見ている。



「マユミさん、ここは都市ですよ。もう帰ってきています」


「え?そ、そうなの。い、いつの間に。じゃ、武器屋へ行くわ。設計図の使い方を聞きたいから」


「アオイちゃん、武器屋だって」


「わかりました。それじゃ、センパイ。武器屋に向かいますね」



 アオイちゃんが少し正気を取り戻したマユミさんの手を引っ張って歩き出した。


 途中、都市警察の人とすれ違う。マユミさんの薬をキメたような顔が心配だったが問題は起こらなかった。良かった。


 武器屋に着いた。アオイちゃんがマユミさんの背中を押して武器屋に入る。俺も対物ライフルが扉の枠に当たらないように注意して入った。



「いらっしゃいませ」



 対物ライフルをいつもの場所に置いていると女の子のかわいい声がした。トシコちゃんだ。



「ちわー」


「こんにちわ」



 今日はマスターはいないのか?



「いらっしゃい」



 あ、普通にカウンターにいた。気が付かなかった。



「ちっ」


「おいおいおい、シグレ。なんだ、その”ちっ”ってヤツは」


「ちっ、ちっ、チキュウは今日もいい天気ですね」


「なんだ、それは。今日も霧じゃねぇか」


「そんなことより、チップを手に入れたんですよ。チップを」


「ほぅ、とうとう貴重なものを手に入れる傭兵になったのか。どれ、見せてみろ」


「アオイちゃん、お願い」


「センパイ、チップを出してください。武器屋ですよ。チップ」


「武器屋に着いたのね。チップは―」


「センパイ、堂々と胸に手を入れない」



 マユミさんがマスターの前でも平気で胸に手を入れてチップを探していた。それをマスターがガン見している。俺もガン見する。下じゃなくて上なのか。



「お父さん、お母さん呼ぶよ。何してるの?」



 細目のトシコちゃんも、いい。



「おい、トシコ。いきなりそれはないだろ。まず注意からだ」


「お父さんにそんな温いことは意味がないから、いきなりお母さんよ」



 ようやくマユミさんが胸からチップをサルベージした。まず、それをこちらに… 手を出したところをアオイちゃんにインターセプトされる。



「シグレさん、センパイに言いつけますよ。正気を取り戻したセンパイに」


「ごめんなさい。アオイちゃん、それをマスターに」


「わかりました。トシコちゃん、これをお父さんに」



 トシコちゃんはチップを受け取るとなぜかエプロンでチップを拭いていた。もったいないことを。



「お父さん、はい。変なことに使わないでよ。お母さん呼ぶからね」


「わかってるって。よし、確かにチップだな。待ってろよ」



 マスターはチップをカウンターにあるノートパソコンに近づけた。中を確認しているのだろう。



「これは、光学照準器のようだが初めて見るな。譲―」



 マユミさんがAKを構えてマスターに向けた。一瞬だった。相変わらず速い。アオイちゃんと俺で必死に抑える。



「じょ、冗談だろ。シグレ、このお嬢さんの目が怖いぞ」


「ただいま、冗談とか通じないモードなので理解してください」


「わ、わかった。で、これは制限付き設計図だな。俗にいう不安定な設計図ってヤツだ」


「不安定な設計図?く、詳しく」


「簡単にいうとだな。こいつの制限は5回だから、この設計図を部品製造機で5回読み込んで部品を作ると設計図が消えるんだ。そして不安定な設計図でつくる部品は完成品の品質が一定じゃない。ハズレを引くとガラクタが生まれるな」



 来たぞ。来た、来た。このアースでもガチャか。このゲームにもガチャの魔の手が伸びていたのか。



「ガチャね」


「ガチャです」


「アオイちゃん、ガチャって何ですか?」


「アナザー用語ですよ、トシコちゃん。ハズレが99個とアタリが1個入っているくじのことをいうの。アナザーはこれが大好きでアタリを出すために大枚をはたいてくじを引いてるの」


「まぁ、人によってはアタリの数が変わってくるけど。だいたい、そんな感じね。ものによってはアタリの確率が1%未満だったりするわ」


「え?そんなにお金を払って引くほど価値のあるアタリなんですか?」



 ド正論を返された。目を背けるアナザーが武器屋に三人いた。


 切り替え、切り替え。



「それで、マスター。ここには部品製造機はあるんですか?あったら使わせて欲しいんですが」


「そりゃあ、修理もするからあるぞ。マテリアルがそっち持ちなら使わせてやるぞ。失敗作のガラクタも引き取ってやろう。ありがたく思えよ。だから、もし一つ余ったら、な?」


「それは、完成品が3個できたらですね。それなら、いいでしょ?マユミさん」


「それなら、いいわよ。3個できるとは思えないけど」



 マユミさんの目が魚の目みたいになっている。ガチャにはいい思い出がなさそうだ。



「そ、そうか、じゃ、こっちへ来い。部品製造機は奥だ」



 トシコちゃんを店に残しマスターについて店の奥に入った。客のいない店内にトシコちゃん一人になるのが少しかわいそうだ。



「これが部品製造機だ」



 店の奥の工房みたいなところに3Dプリンターのような黒い機械があった。これもブラックボックスなのだろう。なぜかマスターが自慢気だ。



「ここにチップを置くんだ。このくぼんでいるところだ」



 そう言ってマスターが手に持っていたチップをくぼみにセットした。



「この不安定な設計図だと、マテリアル1個のチャージで12回分作れるんだが制限が5回だから7回分は無駄になる。その7回分は俺が買い取ろう」


「それは、助かるわ。マスター意外と気前がいいわね」


「俺は最初から気前がいいって。な、シグレ」


「そうですねー」


「なんだ、その気のない返事は。それで、ここをこうして設計図は外部読み込みにと― マテリアルをくれ」


「アオイちゃん、お願い」


「はい、センパイ」



 アオイちゃんがリュックサックからマテリアルを1個取り出しマスターに渡した。



「マテリアルをここに入れて。よし、準備できたぞ。この開始ボタンを押せば製造が始まる。で、誰がくじを引くんだ?」



 俺はダメだ。ガチャでもいい思いなんてしたことがない。もし、失敗したらマユミさんに手や足の関節を操り人形のようにされるかもしれない。


 そのマユミさんも目がうつろだ。さっきから水中を泳いでいるようだ。


 ここは、やはり、アオイちゃんに期待したいのだが。そのアオイちゃんですら表情は暗い。



「アオイちゃん、引いてみたら?」


「シグレさん、ワタシもガチャだけは…」


「当然、私もガチャは…」



 そこに、トシコちゃんが飲み物を持って工房に入ってきた。店はどうしたのか?



「みなさん、コーヒーを淹れてきました。落ち着きますよ」



 全員がコーヒーを飲んだ。凄く美味しい。これは武器屋喫茶に期待が持てるな。



「!」



 ひらめいた。



「そうだ、こうしよう。ここにいる全員で1回ずつくじを引いて、あらかじめ決めた順番で完成品を受け取る。アタリを引いても手にするのは決めた順番に従うということで、どうでしょう?」


「シグレ、今日は冴えてるわね。だけど、私が受け取る順番の最初だから。そこは譲れないわよ」


「わかってますよ。受け取る順番はマユミさん、アオイちゃん、マスター、俺、トシコちゃん。で、いいですか?」


「文句ないわ。それでお願い」


「ワタシもそれでいいです」


「マスターも大丈夫ですよね?」


「おぅ、問題ない。トシコがもらっていいんだな。返さんからな」


「そんなにアタリが出るわけないでしょ。それとも、マスター。アタリの確率を知っているんですか?」


「そんなわけないだろ。不安定な設計図はそもそも貴重なんだからな。俺も見たことしかない。この部品製造機だって不安定な設計図で部品をつくるのなんか初めてだ。アタリの確率も不安定な設計図によって変わることくらいしか知らん。ホントだぞ」


「わかりました。これから長い付き合いになるかもしれないので信じることにします」


「それじゃ、始めましょうか?誰からくじを引くの?」



 さて、どうなることやら。何も言わない部品製造機を眺めながらコーヒーを口に運んだ。



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