4-情報端末
白に埋め尽くされた視界にだんだんと周囲の光景が映し出されていく。
少し白っぽい。目が馴染んでいないのか。
「やっと、ログインできたか」
周囲には他のプレイヤーも見える。その後ろにはガラスに囲まれた大きく黒い柱が建っていた。
5メートルくらいはあるのか。ガラスに近づいて覗いてみるも表面には模様も文字も何も描かれていない。
不思議な構造物である。これが特殊なセーブポイントなのだろうか?
「あれっ、何か変だ。普通なら…」
視界には、ゲーム情報と思われるものは一切表示されていなかった。
手を左右や上下に振っているプレイヤーが目に映る。微笑ましい光景である。VRMMO特有のジェスチャーメニューを探しているのだろう。
普通この類はチュートリアルで教えてくれるものなのだが、チュートリアルが始まる気配さえない。
ゲームとしてどうかと思うが新鮮ではある。
公式ホームページで導入部分の説明があってもいいんじゃないか?
うーん、システムメニューくらい何とかしないと…
ログアウトすらやり方がわからない。毎回ゲーム強制終了手段を使うわけではないと思うが。
実際、掲示板に書き込んでいる人がいた。絶対に何かあるはずだ。
だからといって自分もジェスチャーメニューを探すために踊りたくはない。
「みなさん、よろしいですか。個人登録が済んでいない方は、あちらのテーブルで手続きをお願いします」
軍服らしき服装の男が近くで叫んでいた。
少し驚いた。こ、これが強制イベントなのか。
男が指す方、この施設に出入りできそうな場所にテントが建てられていた。
リアルでもよくみる金属の支柱を支えにした細長い三角屋根のテントだ。
ゲームの中でみるとは思わなかった。
そこには、”個人登録受付”の張り紙がされたテーブルが並んでおり、テントの周辺には列を整理するためのロープまで張り巡らされていた。
既に何人かのプレイヤーが並んでいる。
ゲームの中でみるとは思わなかった。
さっそく列に並んだ。
「情報端末を手に取って、しばらくの間お待ちください」
さっきの男か?情報端末って何だ?そんな物持って…
あ、左胸のポケットにマイク付きイヤホンと一緒に入っていた。ゲームでポケットを探るとは思わなかったので気づかなかった。というか服のポケットがポケットとして機能するのか。
服やズボンのポケットを探ってみた。
右胸のポケットからお札が10枚出てきた。この世界のお金なのだろうか”10000YEN”と書かれている。
”YEN”なのか。”円”の表記はない。特に人物が描かれているわけでもない。オモチャっぽい紙幣である。
で、10万YENと情報端末とイヤホンが所持品の全部か。ポケットに入っているということはそういうことなんだろう… アイテムインベントリがないんだな。
前途多難だ。
はい、切り替え切り替え。
情報端末でも弄って順番を待つ事にしよう。
この情報端末、こりゃ、スマホだな。間違いない何処からどう見てもスマホ。
ゲームの中で…
画面の下部のボタンを押す。すると中央に時間が表示された。
1940年4月10日 水曜日 20時20分。この世界って1940年だったんだ。プロモーションビデオの兵器が微妙に古いなぁとは思ってたけど。
1940年なのに情報端末の技術がぶっちぎりでおかしいよね。
まぁ、いいや。画面を指で触れてスライドさせる。
馴染み深い操作である。
ホーム画面には、個人登録、メール、システム、通話等様々なアイコンが並んでいた。
試しにシステムアイコンをタップしてみた。
あっ、ここにログアウトがある。これか、これだろうな。今これを実行してみる気はない。また並び直しは勘弁だ。それとサポートへの問い合わせもここにあった。
「次の方、どうぞ」
ようやく、俺に順番が回ってきた。1時間半くらい待ったみたいだ。
「そこにお掛けください」
対応してくれるのは若い男だった。隣をチラッと窺うと若い女だった。
ハズレだとかは決して思っていない。相手に失礼である。全く思っていない。ホントです。
「情報端末で、まずは都市セーブポイントを登録してください」
「都市セーブポイントですか?」
「そうです。情報端末のホーム画面を出せますか?」
「はい、これですよね」
情報端末を操作してホーム画面を出す。あ、セーブポイントアイコンがある。これか。
「セーブポイントアイコンをタップしてください」
「はい」
セーブポイントアイコンをタップすると、画面には都市セーブポイントと優先セーブポイントが、下の方に”セーブポイントの近くでタップしてください”と表示されていた。
シンプルな画面構成だった。
「都市セーブポイントをタップしていただければ終了となります」
「はい、タップしました。質問してもいいですか?」
「どうぞ」
「都市セーブポイントって何ですか?」
「実物はあなたの背後にあるアレです。”大きい柱”や”大柱”と私達は呼んでいます」
「アレの近くでないと都市セーブポイントの登録が正常に終了しなかったことから、私達はアレを都市セーブポイントであると知りました」
「そして正常に都市セーブポイントを登録できないと情報端末の重要機能のほとんどが正常に動作しないので、まずこれの登録をお願いしています」
「わかりました」
アレが都市セーブポイントで、アレがプレイヤーが死守すべきセーブポイント。
この施設からするとNPCにも重要なモノなのだろう。
「それでは、情報端末から個人登録をタップしてください」
「はい」
そこには、登録情報と登録開始が表示された。
「登録開始をタップしてください」
「はい」
登録開始をタップするとあっさり終了した。光が出てきたりとかそれらしい演出は一切なかった。ちょっと寂しい。
そして、キャラクター名と英数字や記号がでたらめに並んだ文字列が表示されていた。
「これで個人登録は終了しました。個人登録された情報端末は本人以外の操作を受け付けませんので注意してください。最後に連絡先の交換をさせていただきます」
お、何か情報端末に通知が表示された。アドレスの登録を促されたので登録しておいた。
「確認させていただきます。ホーム画面のアドレスをタップしてください」
「はい」
「画面を拝見させてもらいます。はい、確認できました。こちらは緊急時の防衛隊への連絡先となります」
「えーと、こちらからは、どうすれば」
「アドレスの自分の名前をタップしてください」
「はい」
「画面下部のアドレス送信をタップしてください」
「はい」
アドレスを送信しているアニメーションが表示されている。即座に終了する。
俺のアドレスは何に使われるのだろうか?プレイヤー数の把握?一斉招集?怖いので質問するのはやめておこう。
「それでは、ここでの手続きは終了です。出口はあちらになります」
「あと傭兵事務所より先に銀行で口座をつくることをお勧めします。今日はお疲れ様でした」
「あ、ありがとうございました」
「次の方、どうぞ」
長かったのか?短かったのか?正直既に疲れた。
掲示板にあったイベントとは少し違っていたが、ある意味これがチュートリアルだったのだろう。
格納庫のような施設の出口に向かう。案内された出口は人用の出口というよりは戦車や飛行機の搬入出用の大きな扉が少しだけ開いている、そんな感じだった。
そこから施設の外に出ると辺りはすっかり日が落ちて暗くなっていた。
しかも霧が立ち込めていた。かなり濃い霧だ。施設内もぼんやり白いなぁと感じてはいたが外はこんなだったのか。
ここは基地なのだろうさっきの施設と同じような格納庫が並んでいるようだ。それが照明に照らされている。
照明がないところは歩くのも困難だな。初期装備にライトなんてない。
全然遊べてないけどこれじゃ満足に遊べないし仕方ないログアウトしよう。
情報端末からログアウトを選択。
視界がだんだん白くなっていく―
VRギアを外す。
時間を確認する。13時前だった。
えー、マジか。さっきログインしてから1時間経っていないのでは…
掲示板は… もういい。昼寝する。