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35-前線キャンプ


 今日は午後からログインだ。久しぶりに長時間寝た気がする。前回がいつかは覚えていない。


 VRギアを頭に装着しながら、ふと思念コントローラを思い出す。



「VRギアの中に思念コントローラが入ってたりして…」



 ま、それはないか。ベッドに横になりゲームを開始する。目の前がだんだん白くなっていった。




 そして白から解放されるとそこは…



「えーろ、なにを、なはっれいるのれしょう?」



 マユミさんが俺の頬を指で引っ張って遊んでいた。横にはアオイちゃんもいる。ズボンの裾をめくってふくらはぎを触っているようだ。



「タイミングよくシグレが現れたから検証スレにあったことを私もやってみたのよ」


「センパイ、ホントに30秒くらいは反応しませんでした。触り放題でしたね」


「面白かったわ。結構ぷにぷにしてるのね。シグレのほっぺは」



 やっとマユミさんの指から頬が解放された。



「あの二人とも、今してたことを俺も二人にしていいってことですよね?」



 グヘヘヘヘヘ。



「何言ってるの?いいわけないじゃない。犯罪よ」


「シグレさん、それは犯罪です。都市警察のお世話になりたいんですか?」


「あれぇ、でも、二人は俺に散々…」


「シグレはいいのよ。便利アイテムだし。おもちゃみたいなものなんだから」


「ホントです。シグレさんはとても便利です」



 ダメだ。面白娘達のいつもの超理論が展開された。


 諦めて渋々日課をこなす。噴水の石像も苦笑いだ。



「シグレ、今日も中学校に行くわよ。ビルの中へ突入が目標ね」


「シグレさん、防衛隊が中学校に前線キャンプをつくるそうです。あそこがさらに安全になれば捗りますね」



 昨日一日休んだだけでいろいろ動いていたようだ。リアルだと午前中ログインしてなかっただけなのに。



「ビル発見から二日で防衛隊の行動開始ですか。遅いのか早いのか… それでも中学校に小さい柱を置いてもらえれば通信やメールもできて便利ですね。安全ならログアウトもできるかもしれません」


「さっき、アオイちゃんに傭兵事務所に行ってもらったんだけど、前線キャンプの他にも09-0104経由のルートに警備依頼が出されているみたい」


「アオイちゃん、初めてのおつかい良くできました。はい、拍手」



 さっきのお返しにアオイちゃんを少し煽ってみる。パチパチパチ。



「シグレさん、何ですかそれ?ワタシは20です。成人式にも行きました。もう子供じゃありません」



 むくれ顔のアオイちゃんが面白い。重要情報もゲロッたようだ。若いな。フヘヘヘヘヘ。



「アオイちゃん、歳。シグレの誘導に引っかからないで。アオイちゃんの歳がバレるのは構わないけど私の歳まで予想されるんだから気をつけてね」


「ぐぬぬぬ。シグレさん意地悪です。マユミさんの情報なんて聞いてくれればいくらでも教えてあげるのに…」


「アオイちゃん!!」


「二人とも仲間割れですかぁ。いつでも俺の陣営に寝返ってもいいんですよ。ウェルカーーム」


「何言ってるの?頭、壊れた?」


「センパイ、シグレさんはアホですから。平常運転だと思います」


「普通にひどいですね」



 相変わらずの扱いだった。しかし、もう慣れた。


 時間は9時。結構時間を食ってしまった。食べ物の方が食いたい。


 急いで持ち物を確認する。


 中途半端だったハンドガンのマガジンの弾を集める。マユミさん達がいるならハンドガンの弾はこれでいいとしても対物ライフルの弾は補給が必要だ。


 この間もマユミさんとアオイちゃんの目が俺を急かす。



「二人は準備とか大丈夫なんですか?俺の方ばかり見ても何も出ませんよ」


「私は大丈夫。撃った弾はその日に補給するしAKの分解清掃もしているわ。パズルみたいなものね」


「センパイはちょーーっとおかしいですから、そっとしておいてください。ワタシの準備はまだというか弾の補給とおにぎりですけど、シグレさんと同じですから」



 アオイちゃんの鋭さが半端ない。実を言うとキャラをつくっているだけでマユミさんより年上だったりして。



「アオイちゃん?肉じゃがはいらないようね」


「シグレさん、ホントだけどウソです」


「そんなアオイちゃんにはこれをあげよう」



 リュックサックから回復薬を取り出してアオイちゃんに差し出す。



「これは、薬、ですか?」


「薬だよ。二人は薬持ってなさそうだから。薬屋で話をするとき余分に買ったんで気にせず使って。ただ、回復効果は微妙っぽいから鎮痛剤としてだね」


「シグレさん、ありがとうございます。回復のことをすっかり忘れてました。誰かさんは当然脳筋なので持ってないと思います」


「何、シグレ、薬屋でナンパしてるの?」


「センパイ、そこより大事なところがあったと思います」



 マユミさんの着眼点が恐ろしい。



「それでは、行きますよ。まずは露店に行きましょうか」


「ええ、それで、ナンパは…」


(傭兵事務所に、薬屋まで)


「センパイ、行きますよ」



 公園を出て武器屋を目指しつつ露店を物色する。そういえば朝食がまだだった。



「俺、そこで開花丼食べますけど二人はどうします?」


「当然、ワタシも食べますよ」


「なら、私も食べるわ」



 三人で露店の横の机で開花丼を食べた。


 ”なら”と言っていたわりにマユミさんは開花丼を幸せそうに食べていた。アオイちゃんは言わずもがなだが。


 平和な食事が終わりおにぎりの露店でおにぎりを買う。


 なぜか一人がおにぎりを買っているときは買い終わるまで近づかないという謎ルールができていた。既に戦いは始まっているようだ。


 無事火種を手に入れ武器屋に向かう。おにぎりが火種になっている物騒な現状を露店のおばちゃんが知ったら…




「ちわー」


「「おはようございます」」


「お、いらっしゃい」



 武器屋に入った。いつもの場所に対物ライフルを置く。アオイちゃんはさっそく弾を買っているようだった。


 マユミさんはカスタムパーツコーナーを覗いていた。これでAKをデコりだしたら終わりだな。でも、マユミさんなら”デコるとかカラシニコフさんに対する冒涜だわ”とか言いそうで逆に怖い。


 アオイちゃんの隣で順番を待つ。


 アオイちゃんが弾の入ったトレイを持ってあの位置に移動した。あそこら辺はみんなの弾込めスペースなのだろうか。



「おぅ、おまえは何にするんだ。最初から女連れとか偉くなったもんじゃねぇか」


「そんなことありませんよ。人間としてカウントされてないし。ハンドガンの弾を20発、アレの弾を11発。それとハンドガンに弾を込めるクリップをください」



 あの娘達がどんだけ爆弾か知らないからそういうことが言えるんだよ。くっそ。マスターでさえそう見えているということは、他の人も同じだろうな。


 知らず知らずのうちに敵をつくってそうだ。気を付けることも難しい。しかも、戦闘では頼りになるから困ったものだ。もう少し普通の娘さんらしく振る舞ってくれると敵をつくってもしょうがないと思えるのだが。



「いまごろクリップを買うのか。相変わらず変な奴だな。まぁ、待ってろ」



 アオイちゃんとマユミさんが和気あいあいとマガジンの弾込めをしている。俺も加わりたい。マスター早く。



「ほら。12200YENだぞ」


「はい。あそこで弾込めしますね」



 手持ちから弾代を払った。



「おぅ、おまえのせいですっかりあそこが変なことになっちまったぞ」


「人のせいにしないでくださいよ。いいって言ったのはマスターですからね」



 弾の入ったトレイを持って二人の隣に行く。マユミさんまでアオイちゃんのマガジンに弾を込めていた。お姉さん風を吹かしているのだろうか。


 まず、対物ライフルの弾を腰のバッグに入れた。腰のバッグをハーネスから外せば弾の収納には苦労はしない。


 バッグを腰に取り付けたあとハンドガンを取り出しマガジンを空のものに交換する。


 しゃがんでハンドガンの排莢口を下に向けてボルトを引き弾を抜く。落ちていった弾をすぐに拾ってポケットに入れた。


 ハンドガンをカウンターに置いてクリップに弾を10発セットする。


 そのクリップをハンドガンに装着し弾を押し込む。一瞬にして10発がマガジンにセットされた。


 そしてクリップを外さずにこのままクリップに弾を10発セットして、また押し込む。


 これで20発の弾込めが終了した。クリップを外すとボルトが前進してマガジンから弾が1発抜かれる。マガジンを外しポケットの1発を入れてハンドガンに戻せば準備完了だ。


 クリップをリュックサックのポケットに入れる。


 この弾込めが普通より早く終わるかどうかは疑問だが、力が必要なところは3回なので楽とはいえるだろう。



「面白いことしてるわね」


「シグレさん、また自分だけですか?」



 いつの間にか二人に監視されていた。



「アオイちゃん、今度ね。今度」



 アオイちゃんのかわいいふくれっ面を見ながら宥めた。



「それじゃ、マスターまた来ます」


「おぅ、頑張れよ。お嬢さん方の盾を」



 た、盾なんだ、俺は。



「頼りない盾ね」


「センパイ、ハンドガンの弾くらいなら盾になると思います」



 ひどい。


 悲しみとともに武器屋を出た。対物ライフルだけが俺の味方だった。


 防衛櫓09-0001に向う。三人で話がはずむと思いきや俺の話相手はいなかった。


 対物ライフルと仲良くして黙々と歩いた。こうなったらゲームだし、対物ライフルが人に変身してもいいのではないだろうか。対物ライフル娘とか。それなら、話相手なんかに…



(いくらゲームといっても、それはできないよ)



 今、神様のツッコミを食らった気がしたが、気のせいだろう。


 防衛櫓に着いた。マユミさんが率先してグループ会話の準備をする。ここを張り切る理由がよくわからない。


 全員の準備が終わり都市の外に出た。


 いつもと同じように防衛櫓08-0102を目指す。


 通り過ぎていくトラックが交差点を右に曲がっていった。前線キャンプに向かうトラックなのだろうか。


 トラックを見送りつつ歩き続ける。


 標識を過ぎて旧ウルフスポットに近づいた。警戒は一応しているが全員ウルフが出るとは思っていない。【気配察知】さんも同じようだ。全く反応はなかった。


 防衛櫓08-0102に到着した。こちらも平和だった。



「休憩しましょうか」


「了解です」「そうします」



 水筒を取り出し水を飲む。


 するとマユミさんが缶を取り出して蓋を開けた。ビスケットが入っていた。



「アオイちゃん、お菓子よ。シグレも欲しいならあげるわよ」


「センパイ、流石です」


「欲しいです。いただきます」



 ビスケットを美味しくいただく。


 熱い飲み物が欲しくなった。



「お茶かコーヒー、欲しくなりますね」


「シグレさん、ワタシも」


「私のバイクが手に入ったら考えるわ」



 俺のだって、バイクは。まぁ、その辺りはマユミさんにお願いしよう。バイクは勝手に乗るだろうし。


 休憩をして中学校を目指した。


 道の美化活動は忘れずに行った。もう、バイクの障害になるようなものはなかった。素晴らしい成果である。道がでこぼこなのは仕方ない我慢しよう。


 ゴブリンにも遭遇せず雑木林を抜けた。



「センパイ、ゴブリンが出てこないです」


「楽で助かるけど物足りないわね」



 広い道に入り進路を北に変更。もうすぐ目的地だ。


 中学校の校庭が見えてくるあたりで、放棄車両が畑に落ちているのに気づいた。


 どうやら、道をきちんと使えるようにしているようだった。


 中学校の門に到着。向こうの道では今も放棄車両が作業用の歩行戦車によって移動させられている。作業用!作業用の歩行戦車に目を奪われた。



「シグレ、どこ見てるの?」


「シグレさん、おいて行きますよ」


「ほら、作業用の歩行戦車です。かっこよくありませんか?」


「そう?」


「あ、ホントだ。歩行戦車って言うんですね。かっこいいです。乗りたいです」


「アオイちゃん、わかってるねぇ。あの良さが理解できるとは」


「あの重厚な鳥脚がガチャガチャしているのがたまりません」


「二人ともおいて行くわよ」



 俺とアオイちゃんは、マユミさんに手を引っ張られて中学校の校庭に入った。


 回転砲塔の部分がクレーンになっていて可動式排土板が作業用であることを前面に押し出している。このロマンがわからないとは…


 渋々入った校庭は前回とは様変わりしていた。


 いくつもの大型テントと簡易住宅というかプレハブが建設されていた。数はまだ増えそうだった。


 情報端末を見ると電波アイコンのアンテナが3本になっていた。


 防衛隊の兵士の人達もたくさんいるようだ。非常に活気のある場所へと変貌していた。



「これは、なかなか凄いですね」


「プレハブなんてあるのね」


「これなら食堂とかありそうです」



 三人で思い思いの感想を口にし立ち止まったところは、作業の邪魔になりそうな場所だった。



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