34-調査
お茶を二杯飲んだところでバイク屋をあとにした。ようやく傭兵事務所である。
傭兵事務所に入り、まず対物ライフルを邪魔にならない場所に置く。最近はこの場所、地下に下りる階段の傍に置いていた。
そして掲示板をチェックする。情報掲示板に変化なし。依頼掲示板は護衛依頼が多めという感じだった。護衛依頼ができるプレイヤーなんているのだろうか?護衛依頼は最低でも傭兵ランクEからだ。
今日は普通に防衛依頼かな。依頼窓口へと向かう。この時間だと並んでいる人も多くはない。すぐに順番が回ってきた。
いつものお姉さんである。顔見知りになってしまうと他のお姉さんのところに並びにくい。考えたくないが、これがお姉さんの術かもしれない。
「防衛依頼をお願いします」
傭兵カードをカウンターに置く。
「おはようございます。シグレさん。今日は中学校に行かないんですね」
「そうですね。たまには普通の防衛もいいかなと思って」
(これは様子見でしょうね。でも、助かりました)
「ちょうどシグレさん向きの防衛依頼があります。防衛櫓02-0103なんですが、ここもモンスターが増えているようなのです。しかも都市に近い場所なんです」
「え?緊急事態なのでは」
「いえいえ、モンスターも強いわけではないし傾向的に増加している感じなんです。最近西側に傭兵が偏ったせいかもしれません。そこで少し東の防衛を厚くしているところです」
傭兵が偏っていたか、やっぱり。アース人の傭兵はこれまでの感じだと多くはなかった。傭兵より防衛隊の方が人気があるのかもしれない。傭兵より安定していそうだ。
「わかりました。そこの防衛でかまいません」
いつものお姉さんがノートパソコンでいつもの操作を行っているようだ。
「ありがとうございます。地図を転送します。川の傍の防衛櫓で状況は防衛櫓01-0101と同じと考えて問題ありません」
「はい、ありがとうございます。それでは、行ってきます」
「お気をつけて」
傭兵カードをしまい対物ライフルを担いで傭兵事務所をあとにした。
昼食用のおにぎりを露店で買い傭兵通りを真っ直ぐ東に向かう。地図を見た感じだと標識を見つけてそこから北に向かうようだった。
標識を見落とさないように道を歩く。新しい場所へは最初が肝心だ。
02-0001の表記のある標識を発見。ここから標識が示す北の道に入る。ここが傭兵事務所から10分くらいの位置だ。
舗装された道をずんずん進む。ひそかに歩行戦車を運ぶトラックが通るのを期待した。
しかし、トラックどころか軍用車両すら目にすることはなかった。
目にしたのは自転車だ。でも普通の自転車ではなかった。後輪にモーターのようなものがついている。さしずめ魔力アシスト自転車といったところだろうか。
そういえば、おじいさんの事務所にもあったような気がする。自転車だったので完全にスルーしていた。おじいさんのところの商品かもしれない。
そんな自転車を何台か目で追っているうちに防衛櫓02-0001に着く。時間を確認した。11時40分だった。
おもむろにポケットからイヤホンを取り出す。同時に何かが落ちていくのが見えた。
「ビスケット!」
地面に落ちたビスケットを3秒ルールで拾い上げる。
「セーフ」
気休めのフーフーをして食べた。やっと口にできたビスケットはとても美味しかった。しかも力が湧いてくるようにも感じた。不思議なビスケットだった。
しかし… まぁ、こんなことができそうなのは服屋の店員さんしかいない。あの人には近づかない方がいいだろう。寿命が縮みそうだ。
イヤホンを耳につけて地図を確認した。ここからは一度防衛櫓02-0101を目指し、そこから北西を道なりに進むようだ。
素直にそうしようと思う。が、モンスターが道に沿って進むとは思えない。歩きやすいところを進むという思考ができれば道を進むだろうが…
傭兵が道沿いを歩くと周辺のモンスターは減るかもしれないが道から離れているところはどうなっているのだろうか?
防衛櫓に向かいながら、思わず怖いことを考えてしまった。いかんいかん。
蓋を開けなければ危険かどうかわからない。ではなく危険な可能性を生じさせる考え自体が既に危険なのだ。マーフィーさんとは友達になりたくはない。
左右の畑を警戒しながら歩き続ける。ときおり山を削った斜面が現れる。上からのモンスターを想定して対物ライフルを構えてみたりもした。
すっかり持ちなれた対物ライフル。【筋力】の補正があるのだろう最初のときよりはかなり軽く感じる。
身長より長い銃を立った状態で構えると傍目には非常にバランスが悪く見えているとは思うが、構えている本人は意外と普通だ。
撃つこと自体は何の問題もなく行える。問題は次弾の装填だった。流石に片手で対物ライフルを支えて固定するのは難しく、マズルブレーキを地面につけて腰の位置まで銃を下ろさないと装填は無理だった。
あれこれ対物ライフルの取り回しを試しながら進む。人通りはないのでおかしく思われたりもしていないだろう。
「!」
何か嫌な視線を感じたので振り返ってみる。
しかし、何も発見できない。気のせいか…
この対物ライフルに銃剣を付けて槍みたいに使うというのはどうだろう。
意外とアリじゃね?
槍のように突き刺す感じで対物ライフルを前方に突き出す。
そこにちょうど後ろから車が通り過ぎていった。運転している人の顔が… あれは、きっと笑いを堪えているに違いない。
静かな車も考えものだ。霧も手伝って気づいたころには車が横を走っている。【気配察知】も今のレベルだと速いものへの対応が難しかった。
防衛櫓02-0101に到着した。水分を補給する。
ここからは道沿いに北西だ。川に沿って道が続いている感じだった。対物ライフルを担ぎ歩き出す。
この道の川側は川まで背の高い草で覆われている。いつか見た光景だ。反対側は畑のようだ。こちらは荒れているが背の高い草が生えているわけではなかった。
道を挟んでこんなに違うとは不思議すぎる。サハギンは背の高い草から来るだろうから距離を取りたくなったら畑に入ろう。
畑側の道沿いを歩き5、6分くらいか。思った通り背の高い草の方に【気配察知】の反応があった。
畑に入り距離を取る。50メートルくらい入ったところで一旦様子を窺う。対物ライフルを下ろし弾を装填した。
数分経ったが草から何も出てこない。こちらだけが先に気づいて距離を取っても意味がなかった。前回がたまたまだったのかも。
背の高い草はサハギンを完全に隠してしまうので、反応を確かめるにはあの中に入るか、おびき出すしかないが… どっちにも問題があった。
「スルーしよっと」
あっちには防衛櫓もあるし問題ないはずだ。
道に戻ると既に反応はなかった。
少し悪いことをした気分になってしまう。
切り替え、切り替え。
防衛櫓02-0103に向けて歩き出した。
歩き出すとすぐに畑の中を悠々自適に進む1匹のリザードマンを発見した。
「今度は畑の中かよ。人の気も知らないで。はい、永遠に眠ろうね」
この立ったままの状態で対物ライフルを構えてリザードマンの頭部を狙い撃ってみた。外したところで気づかれたりしないだろう。弾がもったいないだけだ。弾が。
いつもと少し違う衝撃が肩近くに生まれた。そしてリザードマンは頭部が吹き飛び霧散した。
「よし!」
次弾を装填しながら発した声は霧の中に消えていく。
「あ、でも、ドロップ」
外さなかったことの喜びは、ドロップを探す困難で打ち消された。
それでも弾代を取り戻すべく霧散した方向へ一直線に進んでいく。こんなときに死体が残らないのは不便に感じた。が、その考えは一瞬で霧散する。やっぱ解体は無理。
記憶を頼りに霧散した辺りを探す。雑草をかき分け執念で探し続けた。
「あった」
どうにか見つけることに成功した。これが1500YEN。弾代を回収できたことに満足して防衛櫓に向かった。マテリアルは、きっとドロップしていない。きっと、そうだ。
防衛櫓02-0103に無事辿り着いた。時間は12時26分。
防衛櫓の番号入り写真を撮る。かなり久しぶりな気がした。
防衛する場所は川辺は問題が多いので、ここから南の畑の中にしよう。
防衛櫓がギリギリ見えなくなるくらいまで南に行く。100メートルはだいたいこんなものだろう。
周囲を警戒しつつ昼食をとる。今日は面白娘達がいないので、おにぎりの具を好きに選ぶことができた。
そぼろ、おくらと食べて最後の味玉を食べる。
どのおにぎりも美味しかった。味玉の味の染み込み具合が特に素晴らしい。
水を飲んで弁当箱と水筒をしまった。
南南東の方から食事が終わるのを待っていたかのようにサハギンの集団が現れる。
北を目指しているようだ。このままだと俺の横を通ることになる。気づかれる前に先手を撃っておこう。
対物ライフルをサハギンの方に置きなおして伏射で撃ち始める。畑のでこぼこが少し邪魔だ。
3発撃ったところでこちらに向けて走り出したのがわかる。しかし足が遅い。
最後まで対物ライフルで対処できた。弾の消費が激しい。リザードマンに撃つなら問題ないがハンドガンでも難なく倒せる相手には…
サハギンのドロップを探しながら反省会を開いた。
残りの弾はリザードマンに使い、サハギンはハンドガンで倒すことに決定する。俺の中の天使と悪魔も参加して満場一致で可決された。
魔石を5個回収して対物ライフルのところまで戻ってきた。防衛は16時半くらいまでするとして残り3時間半どうしよう?
「これは土堀りだな」
周囲をうろつくにしても目印が必要だった。携帯シャベルを取り出し穴を掘り始める。もちろん警戒しながらだ。
モンスターが来る方向を南と想定して掘った土を盛る。
現在の時間は15時。2時間もあれば穴掘りは終わり周囲をうろついたりもしたが、モンスターは一向に現れなかった。平和でいいことなのだが。
掘った穴に足を入れて地面に腰掛けた。ちょうどいい高さだ。水を飲んで休憩をする。
はい、休憩はおしまい。再び巡回を開始した。
巡回を再開して1時間が経った。16時。ようやく団体さんが現れた。やはり南からだ。急いで目印の穴まで戻り土壁に身を隠す。
サハギンの数は6。こちら、北に向けて進行中だ。どうしても北が気になるようだ。防衛櫓の虜らしい。
土壁の横からサハギンの集団と距離が縮まるのを待つ。
【気配察知】にも前方の集団しか反応がないことを確認した。
20メートル弱、ついにハンドガンの距離になった。サハギンの大きい目と目の間に向けて2発ずつ撃っていく。
サハギンを3匹倒したところで他のサハギンが走り出してきた。包囲する気なのか3方向に広がり始めている。
穴から出て囲まれないように素早く動く。左のサハギンのさらに左を目指しつつ近い順に1発ずつ頭部を狙い撃つ。
全てに命中したようだがハンドガンでは死んだとしても、すぐには霧散しない。
倒れていくもの動きが鈍ったものにさらに1発ずつ撃って止めを刺す。
結局サハギンの集団は一度も攻撃することなく霧へと帰っていった。
距離が近いのでドロップの回収は容易だ。魔石6個にマテリアル1個を回収した。
ハンドガンのマガジンを交換して一息つく。10分くらい休憩したら帰る時間にはちょうどいいだろう。
最後の休憩を終えて北の防衛櫓に向かった。
防衛櫓に着くとすぐに写真を撮り、帰り道を急ぐ。
来たときと同じように畑側の道沿いを歩く。一応リザードマンを警戒した。
何事もないと防衛櫓02-0101は近かった。10分くらいだろうか。
そこから南西の道に入り防衛櫓02-0001を目指す。
車が横を通り過ぎていった。少し背筋を伸ばしてみた。俺は何をやっているのか。
防衛櫓02-0001に到着。イヤホンを外しながら無事だったことを喜ぶ。
あとは傭兵事務所に報告するだけだ。急いで傭兵事務所に向かう。
今なら対物ライフルがあっても走れるかもしれない。ダッシュはやってもダッシュにならないだろうけど。
傭兵事務所に着いた。対物ライフルを置いて依頼窓口に行く。
いつものお姉さんと防衛依頼の報告をたんたんと進めていく。4時間で4000YENになった。
「それで、モンスターの方はどうでしたか?」
「サハギンが11で、リザードマンが1でした。多いんですかね?」
お姉さんの表情が少し変わったような気がした。
(やっぱり少し多い。リザードマンまで。でも、これくらいなら…)
「少し多いですね。でも、怪我もないようで安心しました」
「ありがとうございます。それでは、これで」
「お疲れ様でした。また、よろしくお願いします」
買い取り窓口に行き戦利品を換金する。魔石12個、マテリアル1個で57500YENが口座に振り込まれた。
これで傭兵事務所の用事は終わった。対物ライフルとともに傭兵事務所をあとにする。
さて、今日の晩御飯はカレーと決めていたのでカレー屋に行く。
大盛中辛カレーにイカリング、ソーセージ、チーズ、納豆、唐揚げのトッピングを頼んだ。ご飯がトッピングで埋まるな。楽しみ楽しみ。
そしてビールだ。中瓶を注文した。一日の締めのビールはやめられなかった。




