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33-ポーション


 さて、アースに帰ってきました。噴水の石像が笑顔に見える。


 こちらの12時間をリアルで4時間過ごすかたちで消費したので、昨日の散々した飲み食いの記憶が鮮明に残っている。しかし、もうお腹はすいているという状態だ。食い溜めとかできたら良かったのに。もったいない。


 まず、日課から始める。弁当箱と水筒を清潔にしておきたい。しなくても変わらない気もするが気分の問題だ。


 そして、昨日の戦闘でハンドガンのマガジンの弾が中途半端なことになっているので、それを解消する。


 結果10発入りのマガジンが一つできてしまった。リロードするときは気を付けなければ。ハーネスのマガジンポーチに入れる順番を見直す。


 公園での作業はこれで終了だ。今日は何をするか?中学校の方は、巣も見つかったことだし他の出方を窺う意味でも行かなくていいだろう。


 とりあえず公園を出て辺りを見回してみた。いつもの光景が目に入る。


 右側が裏通りに、正面は傭兵通りに続いている。しかし、公園の周辺は寂れており、いつも閉まっている店が多い。


 左側は小さなビルがあるのだが、こちらもシャッターがいつも閉じていた。1階がガレージにできるならバイクを置き、2階に居住と俺的にベストな物件である。


 しかし、場所的には家賃が払えるとはとても思えなかった。ここは寂れているとはいえ中心に近い場所なので家賃もさぞ高いことだろう。参考に家賃を調べるだけはしてみてもいいかもしれない。相場すら知らないのは、他を探すにしても問題だ。


 しばらくビルを眺めたあと牛丼屋に向かった。


 変わらない牛丼の味を堪能して薬屋に行く。ここらであれの謎を解消しておきたい。



 薬屋に入ると眠そうなギリギリお姉さんがカウンターに両肘をついていた。眼鏡がズレ気味なのは何かのアピールなのだろうか?


 カウンターに行き、対物ライフルのストックを床につけバレルを左手で抱えた。



「おはようございます」


(このお兄さんは見たことあるようなないような)


「はい、おはよう」


「回復薬をください。傭兵が良く買う」


(思い出した。大きい銃のお兄さんか。回復薬好きの)


「もう、なくなったのかい?そんなに消費するもんじゃないんだが。回復薬をご飯代わりに食べたりしてないだろうねぇ」



 そう言うとお姉さんは商品を取りに行った。回復薬をご飯代わりとか面白いことを言うなぁ。その発想すらなかったわ。


 お姉さんを待っている間、店内を見て回った。対物ライフルは床に置いた。どうせ客は俺しかいないし問題ないだろう。


 壁に貼られたチラシがいい雰囲気を出している。手洗いやうがいの啓発はアースでも同じようだ。


 見たことも聞いたこともない薬のチラシやポスターもいくつかあった。


 やはり病気が存在するみたいだ。ここまでして雰囲気を出すためだけに薬だけありますとか言わないだろう。



「はい、回復薬ね。3000YENだよ」



 少しびっくりしつつお金を渡し回復薬をリュックサックにしまった。


 そして、つぶれた箱を取り出しお姉さんに聞いてみた。



「これを外で見つけました。ポーションとありますが、これは薬なんですか?」


「き、君、これをどこで見つけたんだい?でも、この有様じゃ。中身は期待できないか…」


(ちょっと、喜んじゃったじゃないか)


「ええ、箱だけ拾いました。ただ、ポーションという名前が気になりまして」


「このポーションというのは神薬と箱にもあるように回復効果が凄いんだ。この箱は最も出回っていた外傷用だね」



 どうやらファンタジーゲームに出てくるポーションがこのゲームにもあるらしい。どういうことなのか。興味が湧いてきたぞ。しかも、神薬とある。



「神薬って誇張表現だと思ってました。神なんてつけたくなるほど凄いんですか?」


「初期のころの箱には神薬なんて書かれてなかったよ。一部で評判になったところで自信がついたのか、このデザインにしたようだ。このデザインになってからは、さらに売れたんだ。ご利益があったのかもしれない。君の買った回復薬なんかこのポーションに比べたら、ただの駄菓子未満の存在だよ」



 お姉さんはいつの間にか手にコップを持っていた。カウンターにはポットみたいなものまである。おっかしいなぁ。お姉さんを見て会話してたと思ったんだけど…


 それに飲んでいるのはコーヒーなんだろうか?お客さんには、それ、もらえたりしないのかなぁ。



「駄菓子未満の存在が想像できませんが。これが外傷用ってことは他にも種類があったんですか?」


「そうだね。これは外傷用。一般的な怪我とかは、これを飲んだり患部にかけると見る見るうちに治っていく。他には万病に効くもの、解毒に特化したものがあったんだ。一時期ポーションしか薬は必要ないとも言われていたよ。その時に製薬会社がいくつかつぶれちゃって業界は荒れまくったんだ」


「ポーションは、もうないんですよね?」


「モンスターの霧が出始めた混乱期にポーションはほどんど消費されて、今は貴重品だね」


「つくらないんですか?って、できればやってますよね。ポーション以外の薬はあるようですが」



 あれ、今度はビスケットを手にしている。カウンターにはお菓子の入った籠が。



「ポーションは安川製薬というところがつくっていたんだ。青いガラス瓶が印象的でね、2年前に世界中に広まり世界に安川がないところはないと言われるくらいになったんだよ」


「それは凄いですね。世界の安川ですか」


「ブルーボトルとかヤスカワボトルとか言われて、そりゃあ凄かったよ。その安川製薬もモンスターの霧が出てからは、他と同じように音信不通になってしまった。この都市には運悪く安川はなくて、アナザー技術で薬を何とかしているんだ」


「アナザー技術で薬もつくれるんですか。便利ですね」


(君らの技術なのになぜ他人事みたいな言い方なんだ?もっと違う薬が欲しいんだが)


「君らの技術で薬はつくっているのだが、できる薬はポーションほど凄くないんだ。ポーションが存在する以前の私達でもつくることができた薬が大半なんだ。それでも、助かってはいるよ。ただ、種類は多くなくてね。たまに困るんだよ。だから薬を探しているんだ」


「よく俺がアナザーだとわかりましたね。ここに来たのは2回目ですけど」


「君は私を馬鹿にしているのかい?この都市でポーションを知らない人間なんて君達アナザーくらいだろ」


「あ、そう言われれば。すみません。俺の頭が悪いだけです。アナザーにもいろんなのがいるということで」


(アナザーの一般兵士みたいなのが、こっちに来ているということなのかもしれない。都合よく薬に詳しい人が来るわけないか…)


「頭の悪い君、コーヒーでも飲むかい?」



 ついにきた。これで俺もコーヒーとビスケットに…



「あ、はい。飲みます」


「そんなことより、サンム辺りに安川の支社みたいなのがあったようななかったような」


 ビスケットに伸ばした手が空を掴む。お姉さんがお菓子の入った籠を遠ざけていた。コーヒーもなかったことになったようだ。


 くっそ。



「サンムって、どの辺りなんですか?」


「え?今、アナザーの傭兵が中学校に集まっているって聞いたんだけど。君は、その話聞いてないのかい?」



 身を少しカウンターに乗り出し籠に手を伸ばす。


 お姉さんは両手で籠を掴み頭の上に上げた。くっそ。



「あの辺りがサンムなんですね。集まっているのは知ってましたが場所の名前までは」


「あそこに行っているなら、薬期待してるよ。まだ、残っているかもしれないし」



 籠を諦める振りをして姿勢をもとに戻す。


 お姉さんは籠をカウンターの下に入れる。くっそ。それはルール違反なんじゃ。



「わかりました。ちゃんと薬を見つけたら持ってきますって。それでは、これで。もういりません」


「薬頼んだよ。持ってきたら、このビスケットをあげよう。もし、他の店に売ったりしたら服屋ちゃんにおしおきしてもらうからね」



 お姉さんは籠をカウンターの上に再び置いた。もういらんわ。


 服屋ちゃんって、まさか、あの服屋の店員さんってことはないよな。



「もう、俺の知らない人で脅されても脅しになってませんよ」


「そうかもね。しかし、君の背後にはさっきからずっといるよ。その子は、君のことをよく知っていそうだけど」



 え?そっと後ろを振り返ってみた。


 そこにいたのは、あの服屋の目の細いというかほとんど閉じているようにしか見えない店員さんだった。手にはビスケットを持っていた。くっそ。



「あのぅ、わざわざ人の背後で何をしているんでしょうか?」


「並んでいただけですが、何か失礼なことでもしましたでしょうか?」



 並ぶって、普通はあんなに近くで並ぶわけないし。


 【気配察知】にも反応がない。おかしいじゃん、この人。まさか【気配察知】を反応させないスキルがあるのでは…



「あ、そうですか。俺の用事は終わりましたので、これで失礼します」


「これから、私の店ですか?それなら急ぎますが」


「どうして、今のでそういう流れになるんですか?あなたの店は服が破れたら行きます」


「そうなんですね。それなら―」



 この冷や汗というか悪寒は… 服屋の店員さんが悪いことを考えている証拠だ。



「今、破ろうとしない!!それインチキでしょ」


「なかなかするどいですね。今日はこの辺りで勘弁してあげましょう」


「服屋ちゃん、その子はまだ悪いことをしてないんだから。悪いことをしたときに、お願いね」



 最近、会う人の俺の扱いがひどい気がするんだが。おかしいな。日頃の行いは悪くないはずなのに。



「はいはい、気を付けます。それでは、また」



 知りたい情報は得た。これ以上の長居は危険すぎる。薬屋と服屋は蜜月な関係っと。薬屋を急いで出た。


 次は、バイク屋だ。あそこから傭兵通りに出るのは苦労したが、それも今となっては過去のことだ。


 傭兵通りのあるところからオミガワ通りに入り南に行けばバイク屋が見えてくる。


 このあるところがポイントだったのだが、それがあのカレー屋だった。変なところでカレー屋の恩恵を受けることができた。感謝して今日の晩御飯はカレーにしようと思う。



 バイク屋に到着。店に入る。どうやら、おじいさんはいないようだ。



「すみません。誰かいませんか?」



 返事はない。ガレージの方へ行ってみる。というか最初からそっちにしとけば良かった。


 ガレージの方では、まさにちょうど俺のものになる予定のバイクを弄っているおじいさんがいた。問題のバイクはエンジン部分が取り払われており、とても風通しが良くなっている。水平対向エンジンがなくなるのは惜しいが、こればかりは仕方がない。



「おはようございます」


「おぅ、おはよう。どうした?今日は」



 おじいさんは手を止めた。こちらの話を聞いてくれるようだ。



「あの、以前話をしていた銃を固定する器具のことで」


「そうか、そうか。それで、その銃を固定したいわけだな」


「はい、そうです」



 返事をして、対物ライフルをおじいさんに見せる。



「ちょっと貸してくれんか」


「どうぞ」



 おじいさんは軽々と対物ライフルを持ってあれこれ確かめていた。



「この対物ライフルをバイクと側車の間、この辺りに固定できればと思うのですが」


「うーん、そうだの。それなら側車にマウントを付けるとしてスペアタイヤが干渉するかもしれんが、どうする?」


「スペアタイヤはあっても俺には交換できないし外してしまって、そこに荷物を置けるラックというか籠というか網みたいなものを取り付けてもらえれば」



 表現が難しいな。ラックで通じたりしないかな。



「何となく言わんとしておることはわかった。じゃ、そうしてやるかの」


「ありがとうございます」


「これも都市を護るためだからの。そういう銃が必要なモンスターもおるんだろう」


「ええ、盾を使う鎧ゴブリンに遭遇しました。こちらは防御を考えていないので先手を取って数を減らせないと苦しいですね」


「そうか、そうか。ほれ、銃を返すぞ」



 おじいさんから対物ライフルを返してもらい、いつものように担ぐ。


 おじいさんは対物ライフルの寸法を測っていたようだ。いろいろメモをしていた。



「それでは、俺はこれで。忙しそうだし」


「まぁ、まぁ。せっかくだからお茶でも飲んでいきなさい」



 ちょうど、おじいさんの奥さんのおばあ― おばさまがお茶を運んできてくれた。


 このあと急ぐ予定も特にないのでおじいさんと一休みした。


 熱いお茶がとても美味しかった。流石だ。お茶の味は年寄りに聞けってヤツだな。



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