32-精鋭
盾持ちゴブリンの動きが非常に良かった。魔法が放たれる直前に移動して、魔法が通過するとすぐに戻る。杖持ちのガードを完璧にこなしている。
ゴブリンがここまでのチームワークを発揮できるとは… 考えもしなかった。認識をあらためる必要があるようだ。
盾持ちの盾も厄介のようだ。アサルトライフルでは貫通できないらしく数発撃ったところで傭兵の動きが悪くなった。
そこに魔法が続けざまに飛んできている。避けるので頭がいっぱいという感じだ。
想定外のことだらけで頭が回っていないのかもしれない。焦りがこちらにも伝わってくる。
「ちょっと厳しそうね。援護する?」
「これなら援護しても文句は言われないでしょう。相手はゴブリンといっても侮れない精鋭のようだし、あれで銃持ちとかいたら…」
「そういえば、傭兵か兵士の落とした銃を使うゴブリンがいるって話。あったわね。しかし、ホントなの?」
「シグレさん。魔法使いゴブリンの横に、その銃みたいなものを持ったゴブリンが」
確かにファンタジーの武器に棒を横にする武器なんてあっても遠距離武器だろう。ここからではわかりにくいが銃と言われれば、そのようにも見える。
これは逆に援護しないと恨まれる流れになってきた。
「俺は、ここから援護します。二人は下で近づいてくるゴブリンに対処してください」
「ええ、わかったわ」「了解です」
「鎧のない部分を狙ってくださいよ。盾はあの覗き穴みたいなところを」
そう言いながら窓枠に対物ライフルを置き銃持ちゴブリンを狙い、撃った。
銃持ちゴブリンがいきなり霧散を始める。周囲の杖持ちが慌てだした。
傭兵のアサルトライフル持ちが、ここぞとばかりに盾持ちゴブリン一体に集中銃撃を浴びせ盾の覗き穴周辺をボコボコにしてゴブリンを倒す。なぜ、最初からそれをしないのか?
対物ライフルの次弾の装填が終わり、次は盾持ちゴブリンの頭を狙い、撃つ。あの盾は、この対物ライフルの前では板切れ同然だった。
盾持ちがいなくなると一気に形勢が逆転する。
戦士ゴブリンは盾持ちが攻撃を受けるとすぐに突撃していたが、サブマシンガンの的になっただけだった。
アサルトライフル持ちが杖持ちゴブリンを倒したところで戦闘が終了した。魔法を数発食らったようだが命に別状はなさそうだ。
マユミさん達が2階に戻ってきた。少しつまらなさそうな顔をしている。
苦笑いでそれに応えた。
イヤホンから男の声がした。傭兵の誰かだろう。
「どこにいるかわからないが助太刀感謝する。聞こえていたら返事をしてくれ」
無視する必要もないので傭兵にグローバルチャンネルで話しかけた。
「銃持ちみたいなゴブリンがいたので援護しました。そこのビルが非常に危険なので、そちらも写真を撮って報告してくれると助かります。こっちも報告しますが、報告数が多い方が信憑性も高くなります」
「応答感謝する。報告はこちらでもするつもりだ。ドロップはどうする?そっちの分は受け取って欲しいんだが」
「ここで悠長にやりとりは危険ですからドロップのことは気にしないでください。それでは」
傭兵との会話を短く切り上げ、こちらも今後を考える。
傭兵のグループは手早くドロップの回収を済ませるといなくなった。あの銃もなくなっていたので傭兵が回収したのだろう。
情報端末でグループチャンネルに切り替えた。時間は14時25分。
「マユミさん、これからどうします?ここら辺りでゴブリンを減らしますか?」
「そうね。戦闘よりあのビルが当たりかどうかを偵察しておきたいわ」
さっきの不満を解消しなくてもいいのだろうか?ストレスの行き場に寒気がしてくる。
「センパイ、あれは当たりです」
「アオイちゃんのその自信が恐ろしいわ」
「それでは、しばらくあのビルの動向を見ましょうか。精鋭ゴブリンがたくさん来たらここを去ります。いつでも出られる準備をしといてください」
「わかったわ」「わかりました」
ここなら魔石をたくさん持っているくらいでは、ビルから出た直後のゴブリンに気づかれることはないだろう。精鋭ゴブリンが南下してきたら、あらためて判断することにした。
ビルを偵察しているとゴブリンの集団がいくつも出ていくのがわかった。
驚いたのはビルに入っていくゴブリンの集団がいたことだ。きっちり写真に収めた。
偵察中に家の前まで来たゴブリン集団がいたので対処した。マユミさんとアオイちゃんが張り切って飛び出していた。退屈していたのかもしれない。
ま、杖や弓持ちがいても2階から何とかできるから問題はない。
かれこれ1時間半は偵察をした。時間は16時を回っていた。
「シグレ、これくらいでいいんじゃない?確定でしょ」
「そうですね。ここを離れましょうか」
「ね。当たってたでしょう」
アオイちゃんが小さな胸を張る。いや、大きい方だった。これは、失礼。
絶好の偵察ポジションだった家を出て来た道を戻る。
帰り道はアオイちゃんのおかげで何の問題もなかった。せっせと先導するアオイちゃんが小動物みたいでかわいい。
路地で一度戦闘になったが各自分担して難なく撃破した。三人の息も合ってきたようだった。それにマテリアルがウハウハだ。今日の打ち上げは楽しめそうだ。
「だいぶチームらしくなってきたんじゃない?」
「そうですね。自然と分担もできてるようだし」
いち早く回収に行ったアオイちゃんが笑顔で戻ってきた。
「センパイ、またマテリアルがドロップしてました。今日もビールが美味しいですね」
「アオイちゃん、日本酒もどう?美味しいわよ」
「マユミさん、アオイちゃんをお酒の道にはまらせるのはどうかと思いますよ」
「ゲームだからいいのよ。気にしないでガンガン飲みなさい」
「飲んで儲けを減らすくらいならバイク代を少し…」
「何を言ってるのシグレが飲まなきゃいいだけでしょ」
やっぱり、ひどい。金銭面でのチームワークに問題がある。
会話をしていても警戒だけは怠っていない二人はすっかり傭兵が板についたようだった。頼もしいかぎりである。金銭面以外では。
無事に中学校に到着した。門の前に傭兵が何人か集まっているのが見えた。
「マユミさん面倒そうなんで中学校での休憩はなしにして防衛櫓に向かいますね」
「そうね。問題ないわ」
傭兵をスルーして南に進む。中学校がすっかり傭兵のたまり場になっていることが少し嬉しい。ここに防衛隊が補給キャンプとかつくってくれると助かるのだが。
傭兵の横を通り過ぎるときにビルがどうこう言っているのが聞こえた。さっきの傭兵かもしれなかった。
東の細い道から雑木林に入りモンスターに遭遇することなく防衛櫓08-0102に着いた。
中学校付近でゴブリンを倒しているせいで遭遇しないのかもしれない。
「少し休憩しましょう」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「やっとです。喉がカラカラです」
みんなして水筒を取り出し水を飲む。水も十分美味しいのだが、たまにはお茶が飲みたい。
マユミさんも同じことを考えているのか水筒を見つめていた。
休憩を終えて都市を目指す。この辺りでもモンスターには遭遇しなかった。こっちは別の傭兵が頑張っているのかもしれないな。
そんなことを考えつつ歩き続ける。マユミさんとアオイちゃんも二人で話がはずんでいるようだ。
防衛櫓09-0001に到着。既に全員イヤホンを外していた。対物ライフルのストックを地面につけて弾を抜く。
「シグレ、何をしてるの。早く傭兵事務所に行くわよ」
「シグレさん、お腹ペコペコなんです。早く」
「わかってますって。俺もお腹すいてますから。ただ、これの弾を抜いておかないと危ないんです」
抜いた弾を腰のバッグに入れて歩き出した。全員が速足で傭兵事務所に向かう。少し異様だった。
途中すれ違った都市警察の人の目が怖い。
傭兵事務所に到着すると、すぐにでも換金に行きたそうな二人を止める。
「ちょっと、あれの写真を提出してきます」
「わかったわ。換金したら居酒屋で待ってるから」
「焼き鳥、先に食べて待ってます」
こ、い、つ、ら。
ぶつぶつ言いながら傭兵窓口へ向かう。いつものお姉さんだけは優しかった。
「シグレさん、こんな時間に依頼ですか?」
「いえ、依頼じゃないんですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。それでどんな用事でしょう」
情報端末を操作してビルの写真を表示する。
いつものお姉さんの表情が真剣なものに変わっていった。
「これなんですけど、このビルにゴブリンが集まっているようで。ひょっとしたらゴブリンの増加に関係のある場所かもしれません。それを報告しておきたくて」
そして、ゴブリンの精鋭とゴブリンがビルに入っていく写真も見せた。
(今日何件か報告のあったビルですね。精鋭は初めてかも。これで上が考え直してくれれば)
「この写真は、いただいてもかまいませんか?報告したいので」
「もちろん、かまいませんよ」
情報端末を操作して写真を窓口のノートパソコンに転送した。
「ありがとうございます。こちらは偵察依頼ということになりますがどうします?」
辺りを見回す。マユミさんとアオイちゃんの姿は既になかった。あ、い、つ、ら。
「一人で偵察したわけではないし、残りのメンバーがもうここにはいないので善意の報告ってことでお願いします。他にも報告があるなら、それは無視してくれてもかまいません」
「無視だなんて、そんなことはしませんが価値のある情報を善意だけで済ますのも… では、写真を情報というかたちで買い取りします。そうですねぇ… 1枚3000YENにしましょう」
「しましょうって、そんなんでいいんですか?俺はそんなお願いしてませんからね」
「心配しなくても大丈夫ですよ。情報提供の報酬は個人の裁量で決めることができますので。傭兵カードを貸してください」
なんとなく納得いかないが損をする話でもないので傭兵カードを渡した。
いつものお姉さんは笑顔で傭兵カードを受け取り手続きを進める。
あとで上司に怒られても俺に八つ当たりしないと一筆欲しいくらいだ。
「はい、傭兵カードをお返しします。口座には9000YENが振り込まれているはずです」
「あ、ありがとうございます。あとでどうなっても知りませんからね。八つ当たりとかよしてくださいよ」
「そんなシグレさんに八つ当たりとかするわけないでしょう」
「それを聞いて一応安心しました。それじゃ、今日はこれで。また、来ます」
「はい、危険な偵察お疲れ様でした。また、よろしくお願いしますね」
「またって…」
いつものお姉さんの機嫌がいいなら、ま、いっか。
さて、次はあいつらだ。急いで傭兵事務所を出ていつもの居酒屋に向かった。
居酒屋に入る。あの二人を店員さんに聞いた。どうやら、また個室を借りているらしい。案内してもらう。
個室には半分でき上がった二人がいた。
「遅いわね。早く席について」
「シグレさん、日本酒美味しいです」
「二人ともずるいですよ。俺達、チームでしょ?」
「チーム?私とアオイちゃん、それに便利アイテムじゃない」
不動の便利アイテム扱いにがっくりとくる。危うく対物ライフルを落としそうになった。
とりあえず対物ライフルをそこらに置いて席についた。
店員さんに適当に注文をして二人を睨む。
「シグレ、ここも当然割り勘よ。あとで清算して今日の儲けを渡すわ。どんどん注文してちょうだい」
「それって、俺損してませんか?もう二人食べてるし、お酒だってこんなに。さっきの情報提供で一人3000YENになりましたけど、あげませんよ」
「一人3000YENね。それは、あなたの取り分から6000YEN引くから、くれなくてもいいわよ」
くっそ。やたら計算するのが早い。迂闊に金額を言ったのが間違いだったか。
「シグレさん、細かいことを言うとモテませんよ。便利アイテムとして大きい心を持ってください」
「アオイちゃん、もうかなり酔ってるんじゃ?マユミさん飲ませすぎでは」
「呂律が回ってるなら酔ったうちには入らないわ。アオイちゃんもリアルのことは忘れてどんどん飲みなさい」
「はい、わかりました。どんどん飲みます」
やっと注文したビールがやってきた。勢いよく飲み干す。ビールだけは俺を裏切らない。
「くぅぅぅぅぅ、やっぱビールだな。店員さんおかわりお願いします」
マユミさんとアオイちゃんは女子とはいえない食べっぷりだった。ゲームだからと思ってやりたい放題だ。たぶん、太らないからだろう。
俺も二人に負けずに飲み食いをした。前回のときより高くついたことは確かだった。
バイク代を貯めないといけないのに飲んで儲けを減らしてしまう。これも開発の策か…
ガレージの家賃は絶対割り勘にしてやると心に誓った。




