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31-ビル


「おにぎりは美味しかったけれど、シグレ何か言うことは?」


「そうです。シグレさん」


「娘さん方は何を言っているんですか。おにぎりが美味しい。ただそれだけが重要なことなのです。おにぎりで争う必要などないのです」


「アオイちゃん、誰この人?」


「シグレさんに似た何かですね。ドッペルゲンガーの方が、まだ、シグレさんらしいかもです」



 アオイちゃんがドッペルゲンガーを知っているとは。しかし、ここではシェイプシフターが正解かな。



「昼食の話はおしまいです。後片付けをしてください。これからが本番ですよ」


「わかってるわよ」「はい」



 よし、うまく逃げ切れた。これは、毎回平和に昼食をとる方法を考えなければいけないのか?変なところで苦労が増える。


 全員の後片付けが終わり準備が整ったようだ。


 二人を校舎に案内しようとも思ったが、やっぱり巣探しを優先しよう。



「それでは、ゴブリンの巣探しを始めましょうか」


「そうね。今日はまだ戦闘をしてないし、これだとAKが鈍るわ」


「きっと、この辺りの傭兵さんが頑張っているんです」


「そうだね。ただ、二人とも流れ弾が怖いので傭兵を見つけても不用意に近づかない方がいいですよ」


「ええ、理解してるわ」「わかってます」



 中学校を出て広い道を北に向かう。放棄車両を無視して交差点に着いた。


 東西南北、どの道もゴブリンもいなければ傭兵も見えない。



「マユミさん、行きたい方向あります?」


「うーん、東はないとして北か西ね。アオイちゃん、どっち行きたい?」


「センパイ、西です。嫌な感じがします」



 アオイちゃんの天性の勘なのかスキルなのかわからないが俺よりは期待できそうだ。



「それじゃ、西ね。いいわね、シグレ」


「了解です」



 交差点から西の道を進む。ここも放棄車両があちこちにあった。乗れそうな車もあるのだが、シープならまだしもこの辺りの車は正直傭兵稼業に向いてない。と、俺は思う。


 シープは都市内で何度か見たことがある。ザ・軍用車って感じで良いとは思う。なぜ、あれが”ひつじ”という名前なのか?シープの最大の謎だ。



 三人が思い思いの方向を警戒しながら歩みを進める。


 商店のような店は軒並み荒らされていた。商品には興味があるのだが、あの惨状では時間の無駄だろう。



「シグレ、ゴブリンの集団よ」



 家と家の間の北に続く細い路地からゴブリンが出てきていた。



「弓持ちがいるので俺がやります」


「わかったわ。確認だけど首は大丈夫なんでしょうね?」



 適当な車のボンネットに対物ライフルを置きながら答える。丸いボンネットでは、対物ライフルを支えることしかできず手を放せない。



「大丈夫です。完治してますよ」



 腰から対物ライフルの弾を取り出し装填する。ゴブリンもこちらに気づいているようだ。走り出してきている。


 弓持ちを狙いにくくなったが、それならそれでやりようはある。貫通を意識してトリガーを引いた。


 マズルフラッシュが一瞬ゴブリンを隠す。



「お見事。残りは任せなさい」


「シグレさん、同時に2匹なんて凄いです」



 二人は近づいてきたゴブリンを難なく魔石に変えた。見ない間も遊んでたわけではなさそうだ。いやいや、遊んではいるな。


 対物ライフルに次弾を装填して回収作業に加わる。



「センパイ、シグレさん。魔石運びはワタシがやります。仕事とらないでくださいよ」


「はいはい、わかってるわ」


「アオイちゃん、いつも助かるよ」


「全部で魔石が6個とマテリアルが1個ですね。いきなり運がいいみたいです」



 回収作業が終わりゴブリンが出てきた路地を進むことになった。ゴブリンが出る方に進めば何かに近づく。そんな気がした。


 道幅は狭いが左右が家の塀ばかりではないので安心だ。【気配察知】もあるし問題ないだろう。


 10分くらい歩いたところでアオイちゃんに反応があった。



「ここを西です。勘の女神様が言ってます」



 これまで、いくつか左右に路地があったのだがスルーしてきた。しかし、この西に続く路地はスルーできないらしい。俺にも勘の女神様とやらを紹介して欲しいものだ。


 特に反対する理由もないので西に進路を変更する。


 ここも所々崩れている塀が続く、なぜか傭兵には遭遇しない。


 数分歩いたところで前方からゴブリンが現れた。



「ちょっと遠いですね。どうします?」


「シグレ、ゴブリンが気づくまで数を減らして。残りは私達がやるわ。ヤバイのが残ってたら、それもお願いね」


「了解です」



 対物ライフルを地面に置いて伏射でゴブリンの数を減らしていく。この距離で戦闘状態ではないゴブリンの武器を確認するのは難しい。


 3匹のゴブリンが霧散したところでゴブリンが走り出した。次弾を装填しながらマユミさんの出方を窺う。



「シグレは休んでて残りをやるわ。アオイちゃん構えて」


「センパイ、わかってます。いつでも撃てます」



 マユミさんが射程距離に入ったゴブリンを軽快に倒していく。狙いも正確な上、1発で仕留めている。AK使いであることは認めてもいいだろう。



「アオイちゃん、後ろ後ろ!」


「流石、シグレさん」



 【気配察知】に反応があった後方にはゴブリンの集団が迫ってきていた。危なかった。ハンドガンをホルスターから抜きながらアオイちゃんに指示を出す。


 仰向けになって上体を起こし応戦する。アオイちゃんは既にゴブリンを撃ち始めていた。



「杖持ち優先で」


「こっちは私で何とかするわ」



 杖持ちのゴブリンの頭を狙い2発撃つ。アオイちゃんも片膝をついて軽快なリズムでゴブリンを倒していた。


 次は… うわ、もう選ぶ余裕はないな。


 アオイちゃんと標的がかぶりそうでも近いゴブリンから2発ずつ撃っていく。ゴブリンの攻撃を許すよりはマシだろう。



 ゴブリンの集団と戦闘を終えた。辺りには魔石が散乱していた。



「ふぅ、どうやら何とかなりましたね。二人とも怪我、してませんよね?」


「ええ、大丈夫よ」「大丈夫です」


「流石、私の危険探知機だけあるわ。優秀ね」


「センパイ、ホントです。やっぱり、便利アイテムがあるだけで冒険の安心感が違いますね」


「この便利アイテムは喋りますし、息もしてますよー」


「これで静かなら文句なかったのに…」


「センパイ、完璧なものなんて存在しないんです。このアースもきっとそうです。我慢しましょう」



 ひどい、ひどすぎる。強く生きろ、俺。



「アオイちゃん、後ろを回収してから前にしましょう」


「わかりました」



 二人が回収している中、対物ライフルを担ぎ辺りを警戒する。


 アオイちゃんの腰に小さいポーチのようなものがいくつもぶらさがっているのに気づいた。嫌らしい目などしていない。少しだけだ。



「アオイちゃん腰にポーチたくさんあるけど、それ何?」


「シグレさん、気づいちゃいましたか。これは、ワタシの秘密兵器の手榴弾です。これで範囲攻撃もバッチリです」



 あっさり秘密兵器をばらしてしまう、アオイちゃん。迂闊だのう。



「期待してるわ」


「意外とやる気満々でびっくりだよ、お兄さんは。けど危ないから細心の注意を払って扱ってね」


「わかってますって。それにワタシ、こう見えてもコントロールはいい方なんです」


「ソフトボールとかのクラブに入ってた?それだとお兄さん安心だけど」


「”お兄さん”は気持ち悪いからやめて。アオイちゃんが、そんなクラブに入ってたなんて初耳だけど。お姉さんに内緒だったのかなぁ」



 自分だってお姉さん言うてるやん。



「ワタシのクラブはセンパイ観察部ですからソフトボールとか体育の授業くらいです。シグレさんが何か心配してるようですけど、ちゃんと練習で一つ投げてみましたから安心してください」


「どこで??」


「それ、聞いちゃいます?」


「いえ、いいです。これでこのチームは範囲攻撃もバッチリだぁ。アハハハハハ」



 いろんな意味で終わった。アオイちゃんが手榴弾を握っていたら逃げることを真っ先に考えないと死んじゃうかもしれない。


 このグループは両手に花に見えて爆弾なんだよなぁ。


 そんな話をしながら全てのドロップの回収が終わった。


 リュックサックから水筒を取り出し水を飲む。



「ゴブリン、増えてきたわね」


「傭兵がいないのが気になりますが、何かに近づいているのかもしれません」


「このまま前進です」



 アオイちゃんが自信満々に歩き出す。水筒をしまい対物ライフルを担ぎなおす。


 しばらく進むと広い舗装された道に合流した。こういう道にはセットで放棄車両があるらしい。


 南側には傭兵のグループが戦闘をしているようだ。ちょうどゴブリンの集団を挟む形になっていた。



「このまま道に出るのは危険ですね」


「そうね。あのグループともめる可能性もあるし」


「センパイ、だったらそこの家に入りましょう。2階から高見の見物です」


「そうしましょうか。シグレは、それでいい?」


「いいですよ、それで。休憩もできるし」



 傭兵のグループに鉢合わせしないよう家に入った。戦闘中でこちらには気づいていないだろう。


 入った家は壊れたところはなく家具とかもそのままだった。土足で上がるのに罪悪感を感じる。


 全員で2階に上がり警戒を解かずに休憩をした。


 窓からは西と北の様子を知ることができた。北の方を眺めながら体を休める。



「センパイ、シグレさん。これ食べます?」



 アオイちゃんがキャラメルを手の平にのせていた。



「ありがとね。アオイちゃん」


「それじゃ、俺も」



 キャラメルを食べながら外の様子を窺う。さっきの傭兵がゴブリンを倒し北に向かっていた。そこで、またゴブリンの集団との戦闘に入った。



「また、戦闘してるわね」


「センパイ、まずいです。あのゴブリン達がいる隣のビル。あそこから、ゴブリンが」



 白い霧の中、ギリギリ見えるくらいにビルがあり、その入口からゴブリンが出てきていた。


 ゴブリンの集団が傭兵に近づいていく。すると集団の異様さもハッキリとしてきた。


 盾持ちで鎧を着ているゴブリンがいる。体格も少し大きい。それを隠せるような盾が不気味な存在感を出している。


 もちろん、杖持ちもいた。その他のゴブリンも今までと違っていた。ゴブリンの精鋭なのだろうか?



「シグレ、あのビルが怪しいと思わない?きっとあれが巣よ」


「俺もそんな気がします。ここからだとギリギリですが一応写真を撮っておきます。あと、あの精鋭ゴブリンも」



 情報端末のカメラアプリを駆使して写真を撮った。ここにきて初めてズームを使ったのだが望遠鏡の代わりになりそうな解像感だった。



「センパイ、あそこです。女神様の太鼓判をもらいました」



 アオイちゃんの女神を華麗にスルーして情報端末をしまい、さっきの傭兵がこれからどうするのかを見守る。


 傭兵のグループは戦闘中のゴブリンを難なく倒し精鋭ゴブリンとの戦闘に入った。


 盾持ちゴブリンの後ろから杖持ちが魔法を飛ばしている。そして戦士ゴブリンが横から遮蔽物に隠れながら前進していた。これまでのゴブリンと比べて動きが段違いだった。


 2体の盾持ちに2体の杖持ち。左右に2体ずつの戦士。それと最後方に謎ゴブリンが1。


 対する傭兵側はアサルトライフルが3、サブマシンガンが2という感じだろうか。ライフルや対物ライフルといった長物は見当たらなかった。


 これは早めに盾持ちを何とかするか、魔法を放つ一瞬を狙撃しないと厳しい戦いになるな。


 さて、どうなる?



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― 新着の感想 ―
[一言] もしかしてジープのことをずっとシープって言ってる?
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