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30-便利アイテム


 白い世界から浮かび上がるのは、いつもの公園。


 最近はこのゲームのおかげで規則正しい生活ができている。


 ゲーム時間の8時は、リアル時間で1日3回決まった時間に訪れる。


 ゲーム内で夜になるとログアウトするので不健康にもならない。


 ただ、夜に行動するようになるとまずくなるのだが。夜に行動できる装備があったとしても金がないし、夜でも明るくモンスターが出現するところなんて存在しているかさえわからない。


 最大の問題は、リアルの職探しが捗っていないことだな。


 切り替え、切り替え。


 こっちで考えることじゃあ、ない。


 日課を終わらせて深呼吸した。


 今日は牛丼でいいだろう。対物ライフルとともに牛丼屋に向かった。


 牛丼屋で並盛を食べお茶を飲む。このひと時がなぜかとても贅沢に思えた。


 300YENをカウンターに置き店を出る。最近は店の外に対物ライフルを置いても盗られる心配をしなくなった。慣れとは不思議なものだ。


 武器屋に行く途中に銀行に寄って10000YENを引き出す。


 そして武器屋に到着した。



「ちわー」


「いらっしゃい」



 いつもの場所に対物ライフルを置きカウンターに行く。



「ハンドガンの弾を… やっぱいいです。アレの弾を5発、ハンドキャノンの榴弾を3発ください」


「おぅ、待ってろ」



 弾込めスペースに行きマスターを待つ。


 リュックサックのポケットにハンドガンの弾を入れていたのを思い出した。それを空のマガジンに込めていく。16発の弾を込めたマガジンをハーネスに挿した。



「ほら、持ってきたぞ。6200YENだ」


「口座払いでお願いします」


「おぅ」



 情報端末を取り出し支払う。やはり弾が高い。バイク代、貯まるかな…



「確認した。そういえば、ちゃんとバイク持ってきたそうじゃねぇか。親父が喜んでたぞ」


「大変でしたよ。変なところでエンストしたりもしてメチャクチャ疲れました」


「おまえ、バイクを手に入れたら何処に置くつもりなんだ?アナザーはバイクもどっかに持って行けるのか?」


「それなんですよ。バイク代もないのに置く場所も考えないといけないとかアナザーに優しくして欲しいんですけど… 住める倉庫というかガレージありませんか?もちろん、お金はありませんよ」


「俺に聞くなって。不動産には詳しくないんだよ。ただな、都市の外周の防衛櫓付近は安いって聞くぞ」



 面白い情報を得た。うん?店に客が入ってきたようだ。



「おはようございます」


「いらっしゃい」



 どこかで聞いた声がする。ここは振り向かずハンドキャノンの榴弾をハーネスのポケットにしまいながら様子を窺ってみる。なぜか、冷や汗が…



「センパイ、ここに大きい銃があります。どこかで見たことがある銃です。売り物ですかねぇ」


「売り物が店の床のそんなところに置いてあるとは思えないわね」



 ヤバイ無駄にピンチだ。対物ライフルの弾を今バッグに入れるのは自ら首を絞めるようなものだ。どうしよう。マスターの機転に期待するか。



「それは売り物じゃねぇぞ。こいつのだ」



 マスターーーーーー。守秘義務、守秘義務。個人情報だって。



「へぇ、服は見慣れないけど装備には見覚えがあるわねぇ。変装のつもり?」



 マユミさんがこちらに近づいてくるのがわかる。


 なぜ、こんなに焦っているのか自分にもよくわからない。お、俺は悪いことなんてしてないはずだ。はずだ。


 すると、横からマユミさんが覗いてきた。怖い笑顔だ。



「シグレ、言い残すことはある?」



 既に罪人のような扱いだった。走馬灯が見えた気がするが、やっぱり悪いことをしていなかった。



「センパイ、やっとシグレさんを確保できましたね。苦労しました」



 逃亡していることになっているのか?



「お、俺は何もしてませんよ。無実です」


「無実な人が店長と何を話していたの?」


「黙秘権があるはずです。も、黙秘します」


「センパイ、黙秘とか言っちゃってます。罪の意識が感じられません」



 もう、マユミさんにバレたので対物ライフルの弾を腰のバッグにしまい始める。



「こいつが何かやったのか?俺はバイクの置き場所の話をしてただけだからな。俺を巻き込むなよ」


「マスター、火に油。しかも個人情報」


「おまえにそんなものはねぇ」


「シグレにはないわね」


「そうです。ありません」



 みんなして俺の扱いがひどいな。何とかしないと。マスターがいると話がこじれそうなので…



「それじゃ、マスター。また来ます」


「おぅ、悪いことはするなよ」



 やってないんだよなぁ、本当に。


 対物ライフルを担いで武器屋を出た。当然のようにマユミさん達も一緒だ。



「マユミさん、武器屋に用事があったんじゃ?まさか本当に俺を捕まえに来たんじゃないでしょうね?」


「そのまさかよ。廃人のシグレが行きそうなところを巡っていたのよ」


「センパイ、牛丼は美味しかったです。次は開花丼にしましょう」


「本当に真面目に探してたんですか?探すなら情報端末でメールとか通話を試せば」


(そうね、すっかり忘れてたわ。アオイちゃんも気づかなかったのかな?)


「それじゃあ、趣がないでしょ。でも、考えとくわ」


(シグレさん、そういうのは本人が気づくまで放置して眺めるのが面白いんです。特にセンパイは)


「で、シグレさんに合流できたし次はおにぎりですか?傭兵事務所?」



 マユミさんがこちらを見ながら真剣な表情をしている。



「シグレは今日どうするの?」


「結局無実だったことだし傭兵事務所で掲示板をチェックしたらおにぎりを買って中学校ですね。お金も稼ぎたいし」


「そう。じゃ、目的は同じみたいだし私達も同行するわ。いいわね?」


「やっとシグレさんと一緒だ。リアルだと昨日なんですけど、随分あってない気がします。面白いセンパイをワタシが独り占めみたいで良心が痛むんです」


「アオイちゃん、お菓子抜きじゃ効果がなかったようね。やっぱりご飯がいいのかな?」

「シグレさん、ホントだけどウソです。それじゃ、行きましょう」



 面白娘達と傭兵事務所に向かった。


 途中の露店で先におにぎりを買う。



「アオイちゃん、今日のお昼が楽しみね」


「センパイ、今日は負けません」



 この二人は何と戦っているんだ。ま、俺のおにぎりは決まっている。我が国は絶対中立だ。


 傭兵事務所に入り、そのまま情報掲示板に向かう。


 情報掲示板にはモンスターが増えた防衛櫓のリスト以外に、もう一つ情報が増えていた。



”アナザーの一部はサンブ中学校の周辺を探索する”



 という一文とともに、これに参加しているプレイヤーの名前が列記されていた。全部で22名だった。


 このサンブ中学校って、あの中学校だよな。


 この情報はアース人に向けて発信しているかのようだった。



「マユミさんも、これを見たんですか?」


「いえ、違うわ。しかし、これは牽制したいの?それとも…」


「センパイ、布石ですか?」


「まぁ、人が増えてくれれば見つけやすくはなると思うわ」


「中学校周辺の防衛依頼はないそうなので、もう行きますか」



 依頼掲示板のチェックはスルーして傭兵事務所を出る。


 アナザーの集団の意志表明か。面白くなってきたな。


 軽く忘れ物をチェックして防衛櫓09-0001へ歩き始める。



「マユミさんは中学校には行ったことあるんですか?」


「ないわよ。ただ、ゴブリンが増えている原因みたいなもの。それがあるかもしれないって言うじゃない。戦闘が楽とはいえ、おかしなことになる前に潰したいわ」


「センパイの言う通り何か嫌な予感がします。牧場みたいな風潮になる前に何とかしないと」



 面白娘達の考えることは鋭い。素直に感心した。アオイちゃんは、また謎スキルをゲットしたとか言わないよな。



「初めてですか。中学校はそこそこ遠いんですよ」


「仕方ないわ。何かの経験値が増えると思って頑張るわ」


「センパイ、シグレさんが武器屋の店長さんとバイクの置き場所がどうとか言ってませんでしたか?」



 アオイちゃん、そこは勘弁してください。



「シグレ、隠し事が多そうね。中学校までの道のりが楽しくなってきたわ」



 防衛櫓09-0001に着いた。マユミさんがサクッとグループ会話の準備をする。意識せずにイヤホンをつけている自分が怖い。



「無実のシグレさん、バイクの話から聞かせてもらいましょうか」


「マスターが余計なことを言うから」


「シグレさん。マスターの話じゃないでしょ?バイクです。マスターは今後も情報提供者としての仕事を頑張ってもらいます」



 アオイちゃんまでもが、こんなに。マスターがこの娘達に取り込まれるのも時間の問題か。



「今から行く中学校の近くでバイクを偶然見つけて武器屋のお父さんがバイク屋でそのお父さんとバイクを回収しただけの話ですよ。で、回収したバイクを改造して、それを買うって話になってます」


「へぇ、バイクを手に入れるのね。アオイちゃん、良かったわね。徒歩から解放されるわ」


「センパイ。ワタシ、バイクに乗ったことがなかったので楽しみです。たぶん、バイクに乗ってても地形は頭に入ると思います。勘ですけど」


「安心したわ。三人で窮屈なら降ろせばいいだけだから、シグレを」



 そんな窮屈なバイクに乗りてぇ。しかし、降ろされるのは当然俺なのか。



「心配してなさそうですけど側車付きで普通に三人乗れます。だいたい、俺を降ろしたら誰が運転するんですか?」


「私に決まってるじゃない。AK使いはバイクの運転もできるのよ」



 マジか。マユミさんのスペックが非常に気になるな。



「センパイは車の免許も持ってるし、そういう方面ではスキがないです」


「アオイちゃん、何だかトゲトゲしてない?」


「気のせいです」


「バイク高いんですから。マユミさん達も乗るなら協力してくださいよ」


「「それはそれ」」



 流石の息の合いようだった。


 そろそろ、旧ウルフスポットが近づいてきた。自然とみんなの警戒が強まる。


 しかし、というかやっぱりモンスターの反応はない。



「最近、ウルフ出ないんですよ。もう旧ウルフスポットって感じです」


「そうなの?ゲームみたいに出現ポイントが固定ってわけじゃないのね」


「ここのウルフは不思議なんですよ、最初から」



 旧ウルフスポットを通り過ぎ細い道を進んだ。


 防衛櫓08-0102に到着した。一斉に水を飲みだす。何だか面白い。



 休憩を終了して再び歩き出す。


 思わず目についた木を脇に寄せる。



「何してるの?美化に目覚めたの?」


「バイクでここを通るときに邪魔そうなものを掃除しているんですよ。そうしてたら癖になったみたいで」


「センパイ、シグレさんの面白い癖です。美味しいです」



 アホがおる。かわいいアホだ。



「じゃあ、あれも邪魔ね」



 マユミさんも手伝ってくれるらしい。流石運転免許を持っている人のモラルだ。



「助かります。ほら、アオイちゃんもマユミさんを見習って」


「私のバイクに傷でもついたら大変だし」



 前言撤回。この娘油断できない。



「で、バイクの話はわかったわ。それで置く場所を探しているのね」


「そうなんですよ。バイクは銃とかのようにログインログアウトで出たり消えたりしないと思うので置く場所が必要なんです。バイク代に住むところまで」


「そう、住むところならお金を出してあげてもいいわよ。ログアウトで寝る必要がないとはいえ料理とかもしたいし落ち着けるところが欲しいわ。シグレを見つけるのも面倒なのよ」


「ワタシ達にはシグレさんを入れる檻が必要だったんです。廃人を確保しておくと何かと便利だと友達に聞きました」



 その友達を紹介して欲しいなぁ。針の筵に一緒に座ろうじゃないか。



「俺の扱いがだんだんひどくなってますね。もう便利アイテムと変わらないというか」


「うるさい便利アイテムね。アオイちゃん、どんなところに住みたい?」


「別にどこでもいいです。生活するわけじゃありませんし」


「夢がないわね。シグレは?」


「広いガレージがあれば… 住めるようにした倉庫でも構いませんよ」


「こっちはこっちで現実的すぎね」


「傭兵通り辺りは家賃が高そうだし、都市の外周近くの安いところを借りることになると思いますよ」


「他のゲームみたいな想像をしてしまったわ。このゲームだとそういう感じよね、やっぱり。ま、私も少し探してみるわ。私のバイクが雨ざらしとかかわいそうだし、便利アイテムも逃げないようにしないといけないから」


「もう、ひどいなぁ。アハハハハハ」



 いずれ、この娘達に確保されると思うと嬉しいのか悲しいのかわからんな。


 ただ、二人には仕事や学校があるはずだから。ゲーム内でいつも一緒ということにはならないだろう。初見の場所はそういう時に行っておくか。


 邪魔な木を掃除しながら雑木林を抜けた。



「センパイ、また畑です」


「そんなもんでしょ。現代の東京じゃないんだから」



 細い道から広い道へ合流。北に向かう。


 この周辺はプレイヤーを含め多くの傭兵が来ていると思うのだが霧の中ではそんな雰囲気を一切感じさせなかった。


 ようやく中学校に到着した。時間は11時42分だった。



「ここが中学校です。というか中学校の校庭です。見えませんけど校舎もありますよ」


「それじゃ、時間もいい感じだしお昼にしましょうか」


「賛成です」


「了解です。校庭の中央はテントがあるかもしれないので、そこより少し南に移動して昼食にしましょう」



 校庭の中央を避けて、昼食をとる。


 第二次おにぎり戦争が起きることはなく、俺の唐揚げおにぎり3個作戦は内2個を他国と交換というかたちで昼食の幕を閉じることとなった。


 唐揚げおにぎりの尊い犠牲の上での平和だった。



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