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27-バイク


 店を出るとおじいさんの姿が見えない。


 辺りを見回してみる。するとガレージの奥の方で何かが動いた。


 おじいさんが黒っぽいシートを取り払っているところだった。急いで近づいた。



「これに乗っていくぞ。ここにある最後のガソリンバイクだ。流石に魔力機関のバイクに乗っていくわけにもいかんしな」



 そこにはあの畑の中のバイクによく似たバイクがあった。バイクの細部、特にフレームが違っていたが側車の方はほとんど同じに見えた。



「あれによく似てますね」


「同じ目的で生まれたもんだからの。本車が違うだけだ。それより、あれを持ってきてくれ」



 向こうにある梯子のようなものを指しているようだった。


 梯子に近づいてみる。折りたたみ式の梯子が何個か転がっている。これをスロープにするのだろうか?少し大きな声で尋ねてみた。



「これでいいんですか?」


「おぅ、それだ。二つ持ってきてくれ」


「わかりました」



 これでいいらしい。梯子を二つ持っておじいさんのところへ戻る。


 おじいさんは器用に側車の椅子を外しているところだった。これって、そんな簡単に外れるんだ。



「持ってきました」


「おぅ、それをこの毛布に包んで紐で縛ってくれ」



 持ってきた梯子を二つ重ねて毛布に包んで紐で縛る。この状態でも対物ライフルより軽い。



「できました」


「よし。では、この中に入れてくれ」


「はい」



 梯子を側車の中に入れる。すっぽりと側車の底に収まった。


 おじいさんは俺に指示を出しながら、バイクにガソリンを入れているようだった。足元にジェリ缶が見える。



「これ、随分動かしてなかったんですか?」


「半年は動かしてないな。今は魔力機関が主流というよりガソリンが手に入らんからな」

「貴重なガソリンをこんなことで使って大丈夫なんですか?」


「おまえさんが心配することではない。わしにとってはこんなことではないからな」



 あのバイクにはなにがしかの因縁みたいなものがあるのだろう。下手に首を突っ込まない方がいいかもしれない。


 どうやら、ガソリンを入れ終わったようだ。おじいさんがバイクのあちこちを確認している。



「さて、今日の機嫌は…」



 そう言うとおじいさんはキックペダルを勢いよく踏み込んだ。


 エンジン音が聞こえてきた。アースで聞いたのは初めてかもしれない。



「よし、幸先がいいぞ」



 おじいさんはエンジンをかけると側車のトランクを開けて何かをチェックしている。


 俺も覗いてみた。ワイヤーや工具箱みたいなものが既に入っていた。



「大丈夫そうだの。あとはあのバイク用のガソリンを…」



 おじいさんはジェリ缶を持ってどこかへ行ってしまう。


 さて、俺は… マガジンの弾込めの続きをしよう。リュックサックからハンドガンの弾を取り出しながらマガジンに込めていく。


 この流れだと準備が終わったらすぐに回収に行くとか言いそうだ。


 このバイクに二人乗りして現地に向かうとすると対物ライフルを載せることは難しいだろう。すこし不安だ。


 弾込めの終わったマガジンをハーネスに挿し空のマガジンを取る。そしてひたすら弾込めを続ける。


 おじいさんが戻ってきた。こっちは最後のマガジンに取り掛かっている最中だ。


 おじいさんはジェリ缶を側車の右横に取り付けて腰を伸ばしていた。



「こっちは準備が終わったぞ。おまえさんは?」


「もうすぐ終わります。というか今終わりました。ひょっとして、これから回収に行くとか言いませんよね?」


「うん?これを見てどうして、その質問が出てくるんかの。意外と空気が読めておらんのか」


「いえいえ、確認ですよ。確認。傭兵や兵士じゃない人が都市の外にあっさり出るとか思いませんから。それに現地はゴブリンが集団で徘徊しているようなところですよ」



 手に持っていた最後のマガジンを手の平で回しながらハーネスに挿す。


 あ、失敗した。やっぱりマガジンが大きすぎた。おじいさんの無表情に救われる。


 落としたマガジンを拾いハーネスに挿した。これで俺も一応は準備完了だ。



「あれはわしの最後の心残りだからの。できるときにすぐ行動するのは当たり前だ。ゴブリンもわしにはこれがあるし、おまえさんの護衛にも少しは期待しておる」


 おじいさんが腰のホルスターから銃を取り出しマガジンを落とす。それを空中で掴みトランプを回すように散々クルクルさせたあと、銃に挿してトグルを引いた。


 くっそ。ってルガーじゃん。しかもバレルが長ぇ。まさに親子といったところか。


 たぶん、どこかに32連マガジンを隠してるぞ。バイクのバッグの中が非常に怪しい。



「それじゃ、その少しの期待に応えられるように頑張ります」



 少しだけ早い昼飯をおじいさんがご馳走してくれたので一緒に食べた。大変美味しゅうございました。


 最終確認をしてバイク屋を出たのは12時ごろだった。


 おじいさんがバイクを運転し俺はバイクのタンデムシートに座る。タンデムシートといっても独立したシートであり手で持つところも専用のものがある。おじいさんに抱き着いたりする必要は全くない。良くできたバイクだった。リアルでも乗りたい。




 流石のバイクだった。徒歩と違って10分弱で防衛櫓に到着した。


 ここで一度打ち合わせのために停車してもらおうかと思ったのだが、何も言わなくてもバイクは停車した。おじいさんも同じことを考えていたのかもしれない。


 アドレス交換をしてグループ会話の準備をする。バイク屋で確認するのを忘れていたがおじいさんもちゃんと情報端末を持っていた。二人してイヤホンをつける。


 グループ会話のテストも兼ねて道をどうするか聞いてみた。



「道はどうしますか?」


「おまえさんが通った道ではいかんのか?」


「防衛櫓08-0102までは問題ないと思いますが、そこからは道が整備されていないので最悪障害を取り除く必要が出てくるかもしれません」


「ま、大丈夫だろう。駄目なら南に迂回すりゃぁええ。あの辺りはよお知っておるからの」


「了解しました。それでは道はおまかせします」



 そう言うとバイクはまた走り始めた。霧の中なのでバイクといってもスピードは出せない。それでも徒歩の4分の1くらいの時間で防衛櫓09-0001に到着したので防衛櫓08-0102には15分くらいで着く計算になる。何事もなければ…



 おじいさんの熟練した運転技術のおかげか全く疲れはない。


 標識を通り過ぎた。ここからは道が悪くなるので体の固定に意識を向ける。


 ウルフスポットに近づいたがおじいさんは躊躇なく通り過ぎた。ウルフの気配はなかった。俺だけがひやひやしていたようだ。


 何事もなく防衛櫓08-0102に到着した。


 少し休憩のようだ。おじいさんに水をコッヘルに注いで渡して自分も水を飲む。



「気が利くのぅ、若いのに」


「水ですけどね」



 平和な防衛櫓では兵士がこっちを見ているようだが話しかけてはこなかった。バイクが珍しかったのかもしれない。


 コッヘルが戻ってきたので水筒に被せてリュックサックにしまった。



「ここからはゴブリンに注意してください。道も悪くなってます」


「わかっておる」


「俺は左右の索敵をしますので」



 それを聞いたか聞いてないのか、おじいさんはバイクを走らせた。


 さらに悪くなった道を難なく進んでいる。


 道にかぶさっている木や土砂を避けれるものは避けていたのだが… あれは無理そうだった。



「あれ、どうします?」


「さっさと、どけてしまおう。バイクを寄せるんでワイヤーを掛けてきてくれ」


「了解です」



 側車のトランクからワイヤーを取り出すとおじいさんはバイクの後部を木の方に向ける。その間、俺は木をワイヤーで引っ張れるようにし、ワイヤーの端をバイク後部の牽引用の器具に引っ掛けた。



「準備できました」


「よし、引っ張るぞ」



 バイクの後輪が土を巻き上げながら少しずつ前に進む。土の巻き上がり方を見るに側車のタイヤも駆動させているようだ。


 雑木林にゴブリンの反応があった。集団のようだ。



「こんな時に…」


「どうした?」


「そのまま、お願いします。ゴブリンを掃除してきます」



 そう言って反応のあった雑木林に入る。


 わざわざ雑木林から来てくれるのはありがたい。


 スキル頼りにゴブリンを探し遮蔽物からチクチク銃撃をした。


 明らかにわかりやすく落ちている魔石以外は回収せずにゴブリンを倒していく。


 ゴブリンの気配がなくなったので急いでおじいさんのもとへ戻る。


 おじいさんは木を取り除いてワイヤーも片付けて俺を待っていた。


 無事なおじいさんを見て安心する。



「無事でしたか?」


「ああ。おまえさんも大丈夫のようだの。それでは、行くぞ」



 そう言いながら、おじいさんが魔石を2個こちらに投げてきた。


 それをお手玉しながら受け取りポケットにしまう。ゴブリンがこっちにも来ていたらしい。


 このおじいさん、戦闘もこなすようだ。


 あれこれ考えながらシートに座るとバイクは走り出した。


 順調に雑木林を抜けて南北の道に合流する。おじいさんが道を知っているので索敵に集中できた。



「あの辺りだな」


「そうですね」



 バイクは畦道に入りゆっくりと進んだ。


 昨日、足を踏み外したT字路に到着した。おじいさんはバイクの向きを変えて停車させる。



「よし、スロープをつくるぞ。あれを持ってきてくれ」


「わかりました」



 毛布に包まれた梯子を紐を解いて取り出す。


 梯子を展開して一つ置くと緩やかなスロープが誕生した。おじいさんはそれにのって畑に下りて草を払いながらバイクのもとに向かった。


 二つ目の梯子を畦道に停車しているバイクを見ながら位置を決めて置いた。



「こんなもんだろう」



 周囲を警戒しつつ必要になるだろうジェリ缶を持っておじいさんを追う。



「おい、ガソリンを持ってきてくれ」


「はい」


「お、おぅ」



 おじいさんにジェリ缶を渡して索敵を続けた。


 しゃがんでT字路の方向を重点的に警戒する。


 後ろでエンジン音がした。無事にエンジンはかかったようだ。


 おじいさんはバイクを運転してスロープに向かった。この畑は結構な悪路なのだが2輪駆動で難なく進んでいる。


 スロープの間隔も問題なかったらしくそのまま上がっていった。バイクの向きを変えアイドリング状態で降りると、おじいさんは梯子を片付け始めていた。



「俺がやりますから」



 そう言って梯子を取り上げ、折りたたんで毛布の上にのせる。もう一つを折りたたんだところで、おじいさんが前のバイクのエンジンをかけた。


 急いで梯子を重ねて毛布で包み紐で縛る。



「おまえさんは後ろのバイクを運転してくれ」


「はい、わかりました」



 梯子を前のバイクの側車に入れて、俺は後ろのバイクにまたがった。



「よし、帰るぞ」


「了解です」



 おじいさんがバイクを走らせた。


 続いて俺の番だ。慎重に1速に入れた。ここでエンストは避けたい。


 優しくクラッチを繋ぎバイクを走らせる。


 前に少し進んだところでT字路の北側からゴブリンの集団が近づいているのが見えた。



「ゴブリンが来てます」


「ゴブリンは無視だ。急ぐぞ」



 おじいさんが畦道をスピードを上げて進む。俺も拙い運転技術で追いかけた。


 南北の道に合流した。順調に距離を稼げただろう。


 おじいさんが鮮やかに曲がっていくのを見送り、こっちも曲がるために減速していく。


 曲がり始めたところでエンストしてしまった。こんな時に… マーフィーさん頼みますよ。完全に自分のせいなのだが八つ当たりしたい心境だった。



「すみません。エンストしてしまって」



 急いでエンジンをかけようとするのだがなかなかうまくいかなかった。焦りで足の動きが悪くなっているのだろうか。自分ではよくわからない。


 そこにおじいさんがバイクをバックさせてやってきた。



「まぁ、そう慌てるでない。ちょっと代わってくれ」


「は、はい」



 おじいさんが代わってエンジンをかける。勢いよく踏み込んだキックペダルがあっさりとエンジンの機嫌を取った。


 そんなに俺とやっていることは変わらないと思うのだが…


 その間もゴブリンは距離を縮めている。


 もう、ゴブリンと戦闘しようかと思ったが、北の方から新たにゴブリンの集団が近づいてくるのが視界に入る。


 おじいさんは自分のバイクに戻りさっそうと前を走っていく。



「ほれ、行くぞ」


「はい」



 深呼吸をしてバイクにまたがり、おじいさんを追った。


 そして東への左折が近づいた。今度こそ慎重に運転して曲がる。側車付きバイクの運転の難しさを身をもって知った。しかし、次は心の余裕があるときに教えて欲しいと思う。


 2台のバイクは細い道から雑木林へと入った。ゴブリンの心配はもういらないだろう。


 防衛櫓に続く道を障害を慎重に避けて走り抜ける。



「だいぶ様になってきたようだの。一時はどうなるかと思ったが…」


「心配かけてすみませんでした。できると思ったんですが意外と難しくて」


「焦りは判断も体も鈍らせるからの。しかし焦りから抜け出すのも経験せんとな。若いんだから、たくさん焦るがええ」


「あんまり焦りたくないですけどね」



 モンスターには遭遇せずに防衛櫓08-0102に到着した。ここまで来ると運転にも余裕が出てきていた。


 おじいさんと水を飲み防衛櫓を去る。


 ウルフの出ないウルフスポットを通り過ぎ標識まで来た。こういうところでは一時停止が必要だ。


 舗装された道路に入りスピードも自然と上がる。おじいさんの背中しか見えないのだが何だか楽しそうだ。


 無事に防衛櫓09-0001に到着した。



「よし、二人とも無事でなによりだ。あと少し。わしの店まで事故るなよ」


「わかってますよ。バイクの運転にも慣れてきましたから」


「そういう時が一番危ないからの。気を抜かんように」


「了解です」



 ここからバイク屋までの道は覚えていないので見失わないようにバイクを走らせる。


 おじいさんも気を遣ってくれているのかスピードをあまり出していないようだ。


 そして、とうとう、ようやく、バイク屋までバイクを運んできた。


 体より心が疲れた。早くビールを飲んでログアウトしてビールを飲んで寝たい。


 バイクをおじいさんのバイクの横に止めて降りる。一息ついてイヤホンをしまいながら話しかけた。



「お疲れ様でした」


「お疲れさん」


「都市の外から持ち帰ったものって防衛隊に持って行かなくていいんですか?」


「よいよい、どうせ持ち主はわしなんだ。そんな無駄なことはせんでもええ」


「そうですか」



 こんな状況でバイクの交渉ができるのか非常に疑問だがやらないわけには…



「それで、おまえさんはこのバイクに本当に乗る気はあるのかの?」


「おじいさんさえ良ければ」


「そうするとガソリンエンジンのままっていうわけにはいかんから、手を入れなきゃならんが…」



 お、これは俺にとって良い流れでは。



「期間は急いで10日。代金は頑張ってくれたのを入れても45万YENくらいかの。他に希望はあるか?」



 そんなお金はないが10日あるなら貯まっていると信じたい。他の希望は…



「わかりました。その期間と代金で。で、希望の方なんですが、長さが2メートルの銃を持ってまして、それを持ち運ぶために固定できる装置というか器具みたいなものを取り付けて欲しいんです。他はおまかせします」


「では、今度その銃を持ってきてくれ」


「はい。それで今言うのはおかしいんですが、そのバイクは俺が貰ってもいいんですか?」


「ああ、問題ない。心残りは解消したからの。こっちのバイクを眠らしといて言うのもなんだが、バイクは乗らないと意味ないからの。どんどん乗ってやってくれ」


「わかりました。どんどん乗りたいと思います。それでは、今日はこれで失礼します。本当にお疲れ様でした」


「では、また来るといい」



 おじいさんの声が残っているうちにバイク屋をあとにした。



「えーと、ここどこだっけ?」



 バイクで一度や二度通っただけでは覚えられるはずもなく、散々迷ったあげく傭兵通りの武器屋に着いたのは1時間後の15時半ごろだった。


 無言で武器屋に入りカウンターのマスターを睨みつけ対物ライフルを回収して店を出た。何かマスターが喋っていたようだが無視だ。無視。


 その後、居酒屋で飲み食いして公園でログアウトした。



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