26-親子
ログインした。公園だ。
黙って日課をこなす。
「あっ」
掲示板のチェックを忘れた。もう面倒なのでこのまま行こう。
昨日はハンドガンが大活躍してしまったので残弾を確認する。
ハンドガンに20発のマガジン。空のマガジンが二つ。中途半端に弾が入っているマガジンが二つだ。
中途半端に弾が入っているマガジンから弾を抜く。16発出てきた。その弾をリュックサックのポケットにしまう。公園のベンチでする作業じゃないな。
空のマガジンをハーネスに挿した。マガジンの弾込めを考えると朝から頭が痛い。
それにしてもズボンがボロボロだった。これをダメージドとかでごまかすのもダメージを受けすぎだろう。普通は血なんかついてないし。しかも上衣が無傷だからバランスが悪い。
いっそ上衣をダメージドに… アース人にダメージド衣服はそのままの意味で捉えられるだろうなぁ。いつものお姉さんの顔が浮かぶ。
「買うかぁ」
その前に、朝飯だな。
牛丼屋で牛丼の大盛を食べた。いつもの味で安心する。
そういえば薬屋の近くで”カメチャブ”の張り紙のある飯屋があった。
全く想像つかないそれを確かめるのも悪くないだろう。今度行ってみよう。
食べ物のことを考えつつ服屋への道を歩く。
向かったところは傭兵通りにある服屋だ。ここなら防具屋があるかと思ったが、なかった。
まぁ、皮鎧はギリギリありかもしれないが、それ以上は着て戦うイメージができない。
しかし、近接武器だけで戦う傭兵がいたら… 需要がなさすぎだな。
服屋に到着。対物ライフルがぶつからないように慎重に店に入る。
店内にはまばらに客がいた。少し頭の中のモヤモヤが気になる。
「いらっしゃいませ」
どこかから声がした。店員さんは見えない。対物ライフルを邪魔にならないところに立てかける。
店内をザッと眺めた。うん、置いてある服は傭兵通りだけあってそれっぽい服ばかりだった。アオイちゃんがセーラー服を買ったのは別の店なのだろう。
面倒なので店員さんに同じようなズボンを見繕ってもらう。
店員さんもやり手だ。合うような上衣がないと言って上下を勧めてくる。
悩んだあげく今後のことも考えて勧められた服をそのまま買うことにした。
野戦服上下で9800YENだった。ズボンの丈を調整してくれるみたいなのでお願いした。
調整してもらっている間、店内を散策する―
防刃の服や防弾ベストのようなものもあった。俺が着けているハーネスも置いてあった。
「防刃素材なんてあるのかぁ」
「ありますよ。服、おつくりしますか?」
【気配察知】をくぐり抜けるような身のこなしで商売熱心な店員さんがグイグイ迫ってくる。できるぞ、この店員さん。まさか…
「つくるなんて、そんな。気になっただけですよ」
「その時は当店をお願いします。それでは調整が終わりましたので、こちらを」
正直冷や汗が止まらない。営業スマイルが眩しい店員さんから服を受け取り試着室で着替えた。量産型プレイヤーの卒業である。
「古い服の処分をお願いできますか?」
「ええ、もちろん」
閉じているのか開いているのか判断のつかない目がこちらを見ている。
「そ、それでは。また、いつか」
「またのお越しをお待ちしております」
立てかけておいた対物ライフルを担ぎ店をあとにした。
それにしても汗はかかないはずなのに冷や汗の感覚だけが不思議だった。漠然とした危機みたいなものを教えてくれているのか。それとも新スキルの兆候…
切り替え、切り替え。
次は弾の補充だな。
露店を眺めながら武器屋に向かった。
武器屋に入り対物ライフルを置く。ここがこの店での定位置となりつつあった。
「おはようございます」
「おぅ」
「ハンドガンの弾を80発、アレの弾を5発ください」
「おぅ、7.63が80。14.5が5と待ってろ」
弾込めする場所にあらかじめ移動しておく。今日はいつもより弾が多いので既にどんよりだ。
「ほら、持ってきたぞ。7400YENだな」
「今日は口座払いでお願いします」
「おぅ、どっちでも問題ない」
情報端末を取り出し口座から支払った。
対物ライフルの弾をまずバッグへしまう。こっちは苦にならない。
ケースに入ったハンドガンの弾を一つ手に取り見つめる。問題はこっちだった。
「弾込めさせてくださいね」
「用意いいな。そこで、せいぜい頑張んな」
一つのマガジンに弾を込め終わったのでハーネスに挿した。
「そういえばマスター、これ見てくださいよ。これ」
「なんだぁ、こう見えて忙しいんだぞ」
これをどう見たら忙しく見えるのだろうか?少し離れたカウンターでノートパソコンを覗いているようにしか見えなかった。マスターが渋々こちらにやって来た。
置いたままの情報端末を操作してバイクの写真を表示してマスターに見せる。もちろん、ニヤケ顔でだ。
「これ、見つけたんですよ。畑の中に突っ込んでるので移動が難しそうなんですよね」
「お、おまえ、これ、どこで見つけたんだ」
マスターにしては表情が真剣だ。
「俺が見つけたんですけど。ひょっとしてマスターが」
(見つけただけじゃ、ダメなんだぞ。都市に持ち帰らなきゃな)
「まぁ、落ち着け。俺が盗ったりはしねぇ。しねぇんだが場所はどこだ」
「場所は… 俺はこの辺りの土地に詳しくないんで地名とかは知りません」
「だいたいでいいから。近くに何か目立つものとかなかったか?」
「信じてますからね、マスターを」
(疑り深い奴だなぁ。面倒くせぇ)
中学校の写真を表示して説明する。自然と小声になった。
「場所は南西の防衛櫓08-0102から西へ50分弱くらいに、この中学校があります。そこから南西の畑の中です」
「そうか、そこか」
マスターの目が中学校の写真を食い入るように見ている。
突然マスターが店の奥に向かって叫んだ。
「おーい、店番頼む。ちょっと出てくるからな」
「そして、シグレ。おまえはちょっと俺と来い。じゃねぇとバイク盗られちまうぞ」
マスターから初めて出た俺の名前にびっくりする。そんなことよりバイクだ。
「行きます。行きますって。バイクのために」
弾の入ったケースをリュックサックに入れマスターを追う。
マスターは店の客用の出入口に向かっていた。
対物ライフルを担いで店を出ようとすると声がかかる。
「そんな邪魔なもの、置いていけ」
「えええええ」
店を出て脇の路地に入る。店の裏に回っているようだ。
裏には車が止まっていた。オート三輪のような車だ。
車にさっそうとマスターは乗り込んでいた。車でどこかに行くらしい。
「早く乗れって。忙しいんだからな」
全く何に忙しいのかわからない。客だってほとんどいなかったのに。しかも、この車なら対物ライフルを荷台に載せることができたんじゃ…
「今、行きますって」
車に乗り込むとすぐに走り出した。しかしエンジン音は聞こえない。どうやら魔力機関仕様みたいだ。
どこをどう走っているのかわからないが着いた場所はバイク屋というか修理工場というかそんなところだった。大きなガレージ内にはバイクじゃないものも見えた。
マスターは車を降りるとずんずんと歩き出す。ガレージ傍の事務所のようなところに向かっているようだ。
「キョロキョロすんな。早く来い」
「はい、はい」
俺も遅れないようについていく。しかし周りにはいろんな機械があって目が移りがちだった。
ここが店らしい。そこそこの広さの店内には5〜6台のバイクがあった。自転車みたいなのもある。そして壁にもバイクが掛けられている。カウンターの隣の低いテーブルにはパンフレットが数枚散らばっていた。
カウンターにはお茶を美味しそうに飲んでいるおじいさんがいる。
「親父あったぞ。あのバイクが」
「あれって、あれか」
「おぅ、あいつが見つけた。シグレ、写真を見せてくれ」
「わかりました」
カウンターに近づき情報端末でバイクの写真を表示してマスターに渡す。
「ほら、これだ。親父、あのバイクだ」
マスターが親父と呼んでいるおじいさんが写真を真剣な表情で見つめていた。
「間違いない、これだ。まだ、あそこにあるのか」
「どうやら、そのようだな」
あぁ、これは、俺のバイクの雲行きが怪しくなってきた。ひょっとして、このおじいさんがあのバイクの持ち主なのかなぁ。
「それで、シグレといったか。これをどうする気かの?」
「えーと、回収して乗れるようになったりしないかなぁって」
さっきまで思ってました。テヘヘ。
沈黙が通り過ぎる。
「そうか回収する気があるのか。おまえさん傭兵みたいだしの。だったら手伝ってやるとするか」
うん?もう雲がどこへ行くかわからなくなってきた。どうなるんだ、これ。
「見たところ状態はあの時からそう悪くなってないだろうからガソリンが残っていれば動かせるとは思う。が…」
おじいさんがお茶を飲みながら写真を見つめている。俺もお茶が欲しい。
「道に上がれるように橋みたいなのをかけて走って上がるとか。無理ですかねぇ」
「おまえさん、バイクの運転はできるのか?」
リアルで免許持ってるし。
「アースのバイクを運転したことはないですが、その写真のバイクの構造ならたぶん大丈夫だと思いますけど。ここにあるバイクでも運転してみましょうか?」
「よし、ではスロープをつくって走ってみるか」
決意のこもった声が店内に響いた。
「おぅ、親父。話はついたようだな。これは貸しだぞ」
「親に貸しなんかつくるな。そこは親孝行だろ、親孝行」
「そんじゃぁな、シグレ。あとは親父とよろしくやってくれ。バイクの交渉は自分でしろよ」
そう言うとマスターはどこかへ行ってしまった。
と思ったら戻ってきた。忙しそうだな。
「対物ライフル、あとで取りに来いよ。邪魔だからな」
今度こそマスターはいなくなった。
あれ、俺、どうやって帰るの?この場所知らないんだけど…
「シグレ、準備するぞ。こっちに来い」
おじいさんが勢いよく立ち上がる。初対面とかお構いなしだ。
「あ、はい」
「元気ないな。若いんだからしゃっきりせぃ」
おじいさんはそう言って店から出て行った。
一人残された店内で水を飲む。
「ふぅ。水が美味い」
「何しとる。さっさと来んかぁ」
準備ってまさか、今から回収に行くわけじゃないよね?
情報端末をポケットにしまいながら店をあとにした。




