24-中学校
今日もこの公園からスタートだ。噴水の石像が微笑んでいるように見える。幸先が良い。
お腹もすいているし日課をこなして朝食にしよう。
牛丼屋で牛丼を食べて傭兵事務所に向かう。
開店した露店を見ていると何か食べたくなってきた。
「そういえばハンバーガーがないな」
思わず口に出してしまったがアースでハンバーガーを食べていない。こんなにおかしな世界観ならあってもいいと思うのだが。
リアルのハンバーガー屋とコラボして出店してくれたりしないかな。宣伝になると思うけどなぁ。
それかプレイヤーが露店でハンバーガーを売ってくれてもいい。
ここでいろんなものが食べられると非常に便利なんだよな。リアルが辛くなるけど。
プレイヤーの生産活動も現状は死んでいるとしか思えない。ギリギリ料理は何とかなりそうだが、他は。
どこかに生産設備の共有スペースがあったりしないのだろうか?弟子入りから始めるしかないのか?生産ダイスキーならやるかもしれんが…
傭兵事務所に到着。この時間の傭兵事務所は元気が良すぎて困る。
適当な場所に対物ライフルを置いて依頼掲示板の方を見る。今日も結構な人だかりだ。
げんなりしながらも昨日まではなかったものが依頼掲示板の隣にあることに気づく。
近づいてみると、それも掲示板で上方のプレートには情報掲示板と書かれていた。
依頼掲示板よりは小さく掲示されている情報も一つしかなかった。
それには最近モンスターが活発な防衛櫓がリストアップされていた。
リストには08-0102もある。公に発表されたのか。
こういうのをやってくれるなら早くやって欲しかったなぁ。リアル掲示板で工作した自分がむなしくなってくる。
とりあえず情報掲示板を歓迎して本来の依頼掲示板を気合いを入れて覗いた。
面白い依頼はなかった。
さて今日は何をするか工作した手前自分だけ静観するわけにもいかないし。
依頼窓口に並びながらガン賢をプレイせずに真面目に考える。
「次の方、どうぞ」
早っ、もう俺だ。いつものお姉さんの手招きがどこか怖い。
「どうかしましたか?シグレさん」
「今日は依頼じゃないんですが少し質問してもいいですか?」
「かまいませんよ。どうぞ」
嫌な顔をせずに即答してくれた。ありがたい。
「常設依頼の偵察ってどんなことをするんですか?」
「指定したランドマークの写真を撮っていただくだけの依頼です。依頼料は1000YENです。だいたい低ランクや装備が整っていない傭兵さん用の依頼です」
「じゃ、危険な地域の偵察ってどうなってるんですか?」
「危険地域は依頼にはなっていません。そういうのは防衛隊がやりますので。ただ、防衛隊も防衛が主任務ですので生存権を広げる目的の偵察は、現在行っていないと思います」
「傭兵が勝手に行った先で得た情報というのは報告しなくてもいいってことですか?」
いつものお姉さんの表情が少し変わったような気がする。微妙なラインに踏み込んだかもしれない。
「報告の義務みたいなものはありませんが写真を撮っていただければ内容によっては買い取りをしています。正しい有用な情報は重要ですから」
「一応お金になる可能性はあるんですね。それと防衛櫓08-0102の西にランドマークってありますか?」
あ、お姉さんの機嫌が急降下した。
「そこまでしても大したお金にはなりませんよ。防衛櫓08-0102の防衛でよろしいのでは…」
「そこの防衛でもいいんですが」
「それでは、そこを防衛ということで」
「ただ、気になるんですよ。西にランドマークってありませんかね?」
「アサヒ都市がランドマークとしているものは防衛櫓08-0102より外側にはありません。外側の探索は自己責任となっております」
いつものお姉さんには言いづらい内容だったのかもしれない。どこの探索も自己責任なんだけどな。
「わかりました。ありがとうございます。それでは、これで失礼しますね」
「はい、お気をつけて」
お姉さんの表情は晴れなかったが、いつかはする質問だからしょうがないだろう。
対物ライフルを担いで傭兵事務所をあとにする。
露店でおにぎりを買い忘れ物をチェックした。
「よし、忘れ物なし!」
ま、この時点で忘れ物に気づけるとは思えないが、景気づけにはなっただろう。
防衛櫓09-0001に向かう。足取りは少し重い。
道路を走る車両も心なしか増えているような気がする。全てを関連づけるのは悪いことかもしれない。
防衛櫓に到着した。イヤホンをつけて都市を出る。次の防衛櫓までは徒歩1時間の工程だ。移動手段が切に欲しい。
ときおり走り去っていく車やバイクに目が移る。
世界が広いからか都市の外では人とすれ違うこともない。常に一緒なのはこの霧だけだ。
交差点を過ぎ標識で立ち止まることなく進む。
警戒は【気配察知】に任せっきりだ。非常に頼りになる。
常に発動しているスキルなのでスキルレベルも自然と上がっていくことだろう。スピードは遅いとしても。
問題は都市内だとこのスキルが邪魔なことだ。昨日今日で少しは慣れてきたが公園以外だと、だいたいモヤモヤしっぱなしだ。スッキリしない。
ウルフスポットの民家に近づいてきた。頭の中はクリーンだ。
大手を振って門の前を通り過ぎた。いきなり右から頭をガブッとされたりもしない。流石のスキルだった。
そのまま逆再生のように体を動かして門まで戻る。
今日は依頼もないし同行者もいない自由な探索だ。ジックリと家の中を見て回ろう。見落としがあるかもしれない。
いろいろ探し回ってみたが目ぼしいものはなかった。しかし、一人で気の済むまで探索できたのでスッキリした。
防衛櫓に向けて歩き出す。
それにしても、あそこに出るウルフが不思議でしょうがない。
防衛櫓08-0102に到着した。今は平和そうだ。
時間を確認する。10時15分。時間は十分にある。
この防衛櫓の外を目指す決意を固め脚を動かした。
スキルのおかげで初めて都市を踏み出した時よりは軽い一歩だった。
なんで、ゲームなのにこんなに真剣なのか。アースの人達を見ているとつい自分も死んだら復活しないんじゃないかって気がしてくる。
死んでも復活するのに… あ、でもゲーム内だと三日留守にするのか。
美味しいものが食べられなくなるな。それは、まずい。
あらためて気を引き締めた。
防衛櫓から、さらに西に進む。道は一応ある。ここまで来た道はこの先も続いていた。
とうとう防衛櫓が見えなくなった。防衛櫓の周囲には基本的に障害物がない。木や遮蔽物はあらかじめ排除しているようだ。
ここら辺りからは鬱蒼とした雑木林の中を進まないといけないらしい。
【気配察知】頼りに道を歩く。途中幾度となく道の上に木や土砂などがかぶさっていた。道は整備されていないらしい。当然か。
整備したとしても大型車両は無理な幅員だった。
真っ直ぐではないが道さえあれば迷うことはないだろう。
時間を確認する。20分くらい歩いたところでゴブリンの集団と出くわした。
こちらと同じく道を歩いている。こちらに向けて。
対物ライフルを地面に置いて伏せ、腰から弾を取り出し装填する。
距離は60、50?ま、視認できていれば問題ない。こっちに気づくまで撃てるだけ撃つのみだ。
1匹、2匹、3匹、気づかれたな。
対物ライフルをそのままにして左の雑木林に入る。木に隠れながら残りのゴブリンを確認する。
3匹が武器を手に持ち近づいてくる。武器が振り回しにくいところを選びつつ奥に入る。
【気配察知】がゴブリンを捉えた。ハンドガンをホルスターから抜く。
ゴブリンにここまで有利な状況を揃える必要はなかったのでは?
冷静に自分にツッコミを入れつつ残りのゴブリンを倒した。頭部へ2発ずつは厳守だ。
ハンドガンのマガジンを交換してホルスターへしまう。
警戒しつつ雑木林内のドロップを探し始めた。
こ、これは見つけるのが大変だ。戦闘には有利だったが回収にはメチャクチャ不利だった。
何とか魔石を2個回収した。1個はあきらめた。マテリアルはなかったと思いたい。こういうときマーフィーさんが仕事熱心だと知られているので、凄いものがドロップした可能性はあるのだが…
対物ライフルのところに戻り次弾を装填してから、残りのドロップの元へ向かう。
こっちは道の上だから見失ったりしないだろう。
マテリアルはなく魔石を3個回収するだけに終わった。
荒れた道の先を見る。どうやら雑木林の終わりが近づいているようだ。
ついに雑木林を抜けた。
また、畑?だった。荒れているのでわからない。田圃でも畑でもなかったのかもしれない。
道だけは何とか残っていたので歩き続けた。
ポツポツと家が見えてくる。倒壊したものもあった。道を外れて畑に突っ込んでいる車を横目に進む。
10時50分。だいたい南北に続く道に合流した。こちらの道は今までの道よりはしっかりしていた。
どっちを歩いても同じなので、この場所を写真に撮って北に向かうことにした。
歩いてすぐに学校の校庭のようなものが目に入る。
そのまま歩くと学校の門らしいところがあった。中学校だということはわかったが名前は判別できなかった。
見通しが良くなる校庭の真ん中へ行き地面に座る。
リュックサックから弁当箱と水筒を取り出し早弁をすることにした。
今日のおにぎりは唐揚げ、鮭、シラスだ。
まず水を飲み、鮭のおにぎりを口に運ぶ。
薄っすら見えている校舎は木造の2階建てのようだ。あそこも調べる必要があるだろう。というか調べたい。ただ、誰もいない薄暗い校舎も不気味だ。廃病院よりは幾分かマシだが。
鮭の次はシラスだ。
薬屋のギリギリお姉さんが薬がどうとか言っていたので保健室を探すのも悪くないだろう。不安があるとすれば俺では見つけた薬に優先順位がつけられないことだ。運べる量には現状かなりの制限があるのだ。
最後は唐揚げだ。水を飲み唐揚げのおにぎりを食べる。
露店のおばちゃんにグッジョブを連呼したいデキだ。とても美味しい。
弁当箱と水筒をリュックサックにしまう。早弁は早々に終了した。
一応校庭の写真を撮ってみた。うーん、メモリの無駄だったようだ。
校舎の方に向かってみる。玄関のようなところを見つけた。写真を撮る。
ライトを右胸にぶら下げて点灯させる。そこまで暗くないのだが念のためだ。
荒れた玄関を進み左右に続く廊下を見る。廃墟マニアはこのゲームをせずにどのゲームをするのか?と訴えたくなる惨状に引き返したくなった。
防衛ではないので敵を倒す必要はない。保健室だけを探したい。保健室だけを。
右側の廊下から調べることにした。廊下を歩く。今にも床が抜けそうで怖い。
最初の部屋を覗く。扉はなかった。
「失礼しました」
思わず口から出てしまった。すぐに次の部屋へ向かう。
あれは職員室だな。荒れていても独特の雰囲気がそう感じさせた。あそこには長居を許さない何かがあるに違いない。くわばら、くわばら。
次の部屋はプレートが健在だった。
”衛生室”
たぶん、ここが保健室なのだろう。早めに見つかったことに安堵する。
引き戸を強引に開けて部屋に入る。モンスターの気配はない。
保健室特有の匂いはなかった。正面にはベッドのフレームのようなものが見える。
棚や引き出しといった薬がありそうなところを探したが何も見つからなかった。既に持ち出された後みたいだ。
保険の先生の机だろうか。奥の方に机がある。調べてみたが、やっぱり何もなかった。
机の下や机と壁の隙間も念入りに調べる。机に向かって右側の壁との隙間に何かの箱が見えた。
机を動かして箱を拾い上げる。中身はなくつぶれた箱だけが落ちていたようだ。
「これもダメか」
しかしボロボロの箱には”神薬ポーション”と書かれていた。
「え?ポーションって、まさか」
こんな露骨にファンタジーでいうところのポーションが出てきたりはしないと思う。だとしたら、これは何だろう。わからないので捨てずに持って帰ることにした。
薬屋のお姉さんなら何か知っているだろう。今度聞いてみよう。
つぶれた箱をリュックサックにしまい、衛生室を出た。
一度玄関まで戻り校舎の裏に出てみる。放置された車両がないか見回してみたが一台もなかった。
「一台もないのか」
がっかりした気分のまま玄関を通り校庭に出る。道に迷わないためにも学校に入ったところから出たかったのだ。
校庭のさっき休んだところで水筒を取り出し水を飲む。
時間は… 12時32分。意外と時間は経っていなかった。
午後は学校の外の探索だな。この中学校をランドマークにしよう。




