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22-セーラー服と短機関銃3


「いい時間だし、お昼にしますか?」


「いいわね」


「やた、お腹ペコペコです」



 土壁に身を隠すように地面に座り、リュックサックから弁当箱と水筒を取り出す。


 まず乾いた喉を潤す。やっぱり水が美味しい。


 マユミさんとアオイちゃんも水を飲みだす。


 マユミさんはいつ見ても水を美味しく飲む。ジュースなんて必要のない人間かもしれない。



「やっぱり水ね。このゲーム只者じゃないわ」


「ホント美味しいです。この水」


「で、シグレはおにぎり何を買ったの?聞くまでもないと思うけど鮭はあるんでしょうね」


「センパイ、何を言ってるんですか。シグレさんが買ったのは当然梅干しに決まってます。そうですよね、シグレさん」



 やはり、そうなったか。



「と、当然じゃないですか。ありますよ、鮭」


「ほら、アオイちゃん。通は鮭なのよ」


「ぐぬぬぬ。シグレさん?」


「やだなぁ、梅干しも、ほら、こんなところに」


「センパイ、やっぱり梅干しだったんです。しかし…」


「つまらないわね」「つまらないです」



 二人の顔から暖かさが去っていく。



「シグレ、あなたはどちらかをきちんと選ぶとかできないの?ハッキリしない男は好かれないわよ」


「そうですよ、シグレさん。きちんと選ばないと地獄です。地獄」


「あれぇ、鮭と梅干しって片方選んだら、もう片方を選べないルールとかありましたっけ?初耳なんですけど」


「アオイちゃん、知らないみたいよ。残念ね」


「ホント、残念です」



 二人は心底落胆しているようだ。おにぎりのことなのに。


 おかしいなぁ。俺の世界ではそんなルールなかったんだけどなぁ。いつできたんだろう。


 納得いかないがおにぎりに罪はない。鮭と梅干しのおにぎりを交互に食べる。力仕事の後のおにぎりは最高だ。


 マユミさんは鮭を、アオイちゃんは梅干しのおにぎりを美味しそうに食べていた。


 二人がおにぎりを半分くらい食べたところで、それは起きた。



「アオイちゃん、交換しよっか」


「はい、センパイ。どうぞ」



 二人は交換したおにぎりをまた美味しそうに食べ始める。



「ちょ、ちょっと、待って。今おかしなことが起こりませんでした?」


「そう?アオイちゃん、何かあった?」


「もぐもぐ、うん?何もありませんけど。それにしても美味しいですね、この鮭」


「ほら、二人のおにぎりが入れ替わって…」


「美味しいものを分け合うのが、そんなにおかしい?」


「もぐもぐ、全くおかしくありませんね。美味しいです」



 くっそ。くっそ。結局自分達だって選んでねぇじゃん。


 残った鮭と梅干しのおにぎりが食べ終わるころ、マユミさんとアオイちゃんが二人そろって次のおにぎりを取り出す。



「アオイちゃん、私の次のおにぎりはシラスよ」


「センパイ、ワタシはツナマヨです。あとで交換しましょう」


「そう、そうしよ」



 シラスとツナマヨか。海で攻めてきたな。ま、俺は冷えた唐揚げという最強候補だけどな。


 冷えた唐揚げをこっそり取り出して食べ始めた。



「この中に一人、裏切り者がいるわ」


「いますね。裏切ってます」


「悲しいことだわ。こんなに早く裏切り者を出してしまうなんて」


「どうします?センパイ」


「これは、没収ね」


「少し可哀そうな気もしますが背に腹はかえられません」



 不穏な会話が終わると二人は自分達のおにぎりを弁当箱に置くと構えだした。面白い構えだ。


 何かが来る!



「シグレさん、ゴブリンです。後ろ」


「え?後ろ?」



 首を動かして後ろを見ようとする。そのとき、すっと右手からおにぎりの重みがなくなった。


 お、俺の最強候補が…



「ゴブリンというか、俺のおにぎりは?」


「私達が半分に分けて食べます。ありがとね。はい、アオイちゃん」



 マユミさんが素早い手つきでおにぎりを半分にしてアオイちゃんへ渡した。もう俺の分はないようだ。



「もぐもぐ、センパイ。これ、最強です」


「ホントね。シグレは自分だけ美味しい思いをしようとするのね」


「自分だけって、俺の最強候補」



 空になった弁当箱を見つめ悲しみにくれる。


 すると、弁当箱に半分になったシラスとツナマヨが出現した。



「しょうがないわね。こっちをあげるわ」


「ワタシも」



 シラスとツナマヨを交互に食べながら、次は全部唐揚げにすると誓った。


 おにぎりを食べ終え水を飲む。すると土の壁の横、奥の方にゴブリンが歩いているのが見えた。



「え、ゴブリンいるじゃん」


「シグレさん、そんなこと言っても騙されません」


「女を騙す男は嫌われるわよ」



 ハンドガンをホルスターから抜き土の壁から頭を出してみる。



「あれ、見てから言ってくださいよ。杖を持っているゴブリンも。ほら、早く撃って」



 マユミさんはおにぎりの残りを慌てて口に放り込みアサルトライフルでゴブリンを撃ち始めた。


 ゴブリンは全部で7匹くらい。少し遠いところに杖のようなものを持ったゴブリンがいた。


 あのゴブリンはちょっと遠いので近いのから2発ずつ撃っていく。


 横でアオイちゃんも撃ち始めた。


 近づいてこないゴブリンにマユミさんが狙いを定めたときに何かが飛び出した。



「伏せて、早く」



 全員が一斉に土の壁に身を隠す。頭上を何かが通り過ぎる。



「マユミさん、横から撃って、俺はこっち側から撃ちます」


「わかったわ」


「それじゃ、3、2、1、GO!」



 同時に左右から体を出してゴブリンを撃つ。ハンドガンでは有効ではない距離だが構わず撃った。


 ゴブリンはマユミさんの撃った弾で倒れた。俺の弾は途中から急速に力を失い地面に落ちたようだ。少なくともゴブリンには命中していない。



「アオイちゃん、終わったわよ」


「センパイ、危なかったですね。あれ、魔法ですか?」


「魔法でしょうね」


「みんな怪我はありませんか?」


「大丈夫よ」「大丈夫です」


「じゃ、回収ですね。シグレさん」


「そ、そうだね」



 全員で警戒しながらドロップを回収した。



「はい、アオイちゃん」



 俺は魔石を3個渡す。



「ワタシは、魔石2個でした。センパイは?」


「見てマテリアルよ。それに魔石2個」


「ホクホクです」



 今のは土の壁があったから助かったのか、あったから危険になったのか判断に困る。



「ご飯を食べているときに索敵しなかったのがまずかったですね。次は気を付けます」


「おにぎりが美味しくて、はしゃぎすぎたわ。気を付けるわ」


「ワタシもおにぎりが美味しかったです」


「それじゃ、反省は終わりにしてこれからのことを考えましょう」


「そうね」


「防衛櫓で写真を撮ったのが、だいたい11時30分でした。今日はどのくらい防衛しますか?」


「既に1時間30分の防衛だから、あと3時間30分くらいが良さそうだけど。アオイちゃんはどう?できそう?」


「ワタシなら大丈夫です。体力には自信があります」



 アオイちゃんは相変わらず元気だけど、その自信はゲームの体と関係ないぞ。



「では、今が13時くらいなので16時30分まで防衛するということで」


「了解よ」「わかりました」


「防衛はどうします?この土の壁でモンスターが来るのを待ちますか?それとも移動します?アオイちゃんがいるなら、移動というのもない話ではありませんけど」


「ゴブリンの数が増えてるみたいだし、遭遇戦は避けてここで待っていましょうか」


「ワタシはどちらでもいいですけど。センパイが待つなら待ちます」


「では、ここでモンスターを待ちましょう」



 そのままにしていた弁当箱と水筒をしまい対物ライフルを近くに持ってくる。


 そして、次弾を装填する。



「ひょっとして、それを撃つ気なの?」


「撃ちたくはないんですけど、魔法を使うゴブリンがいるなら真っ先に倒しておきたいし」


「それを撃たなくても私が何とかしてみせるけど難しいところね」



 マユミさんがアサルトライフルを見つめながら呟いた。


 しばらくは索敵と雑談が同時に進行した。



「センパイ、ゴブリンです。集団です」


「アオイちゃん、杖とか弓を持ったゴブリンいそう?」


「うーん、いない、みたいです」


「そうですね。俺も確認できません」


「じゃあ、気楽に行きましょう。シグレは休んでていいわ。私とアオイちゃんでやるから。アオイちゃん、今度は半分くらい残すから頑張ってね。修行よ」


「わかりました。修行します」


「俺は念のためアオイちゃんの近くで休んでおきます」



 休めるのは嬉しいのだがスキルが上がらないんだよなぁ。もどかしいところだ。


 そしてアオイちゃんがちょっと危なっかしくてハンドガンに手をかけそうになったがゴブリンの集団は倒れた。回収もサクッと終わる。



「問題ないわね。アオイちゃん、これ」


「はい、全部で魔石6個になりました」


「アオイちゃんも今日だけで随分上達したね。ちょっとヒヤヒヤしたけど」


「昔から物覚えがいいの。できた妹よ」


「えへへ。それほどでも、ありますけど」



 こっちまでアオイちゃんの嬉しさが伝わってきそうな表情だ。



「調子にのらないの。フラグよ、それ」


「フラグ?」


「何でもないわ。はい、周囲を警戒して」



 索敵と雑談が再開した。


 マユミさんとアオイちゃんは周囲を見回しながら楽しそうに何かを話している。


 リアルでも話せるというのにそんなに話すことなんてあるのだろうか?


 時折見せるアオイちゃんの大袈裟なポーズが微笑ましい。



 それにしてもゴブリンだ。数が多い。ここに来るたびに増えているような気がする。


 ここから西に何かあるのかもしれない。


 一人でこの先を偵察するにしても難しい。せめてこの西にランドマークがあれば。


 それか、この二人がいるときに偵察… いや、やっぱ危険か。


 掲示板でそれとなくプレイヤーを誘導するという手も…



”お前がやれ”



 失敗して総ツッコミを食らう自分しか想像できない。結局自分がやるとしても情報だけは流した方が…。






「シグレ、シグレ」


「あ、はい、呼びました?」


「呼んだけど。考え事?ゲームのことなら聞いてあげるわよ」


「い、いえ、大丈夫ですよ。マユミさんこそ用事があったんじゃ」


「用事というか時間よ」


「もう、そんな時間ですか。それじゃ防衛櫓に戻りましょう」


「ええ」「わかりました」



 随分と考えていたみたいだった。索敵もできていなかったかもしれない。グループ行動だとこんなときは安心だが。気を引き締めよう。


 北の防衛櫓に戻り写真を撮る。防衛櫓は平穏を取り戻していた。



「アオイちゃん、写真大丈夫?」


「大丈夫です。ほら」



 アオイちゃんが自慢気に写真をマユミさんに見せている。本当に元気な子だ。


 全員が写真を撮り終わったので防衛櫓をあとにした。


 寂しい道を東に進む。ウルフスポットになりつつある民家に近づいた。


 慎重に周囲を警戒しながら近づく。すると頭にぼんやりと靄のようなものが北東方向に浮かぶ。目を閉じてみると靄をはっきりと把握できた。思わず口角が上がる。



「これは…」


「どうしたの?」



 来たときと同じように畑の方に出て距離をおいて民家の方を見た。



「ウルフです」


「いたのがわかったの?」


「それより1匹みたいなので倒しましょう」


「って、ここから?首大丈夫?」


「大丈夫じゃないですけど、何とかなるでしょう」



 対物ライフルを地面に置いて伏射の準備をする。弾は装填済みだ。ウルフの行動を観察し歩いているところを頭を狙い、撃った。


 首がかなり痛いがウルフはそれどころではなく霧散した。


 急いで情報端末を取り出しステータスを確認する。



 能力:筋力17 体力10 耐久13 敏捷4 器用7 知力1 精神6

 スキル:拳銃2 対物小銃1 思念操作1 気配察知1



 【気配察知1】が追加されていた。喜びのあまり叫びそうになったがマユミさんとアオイちゃんが横から覗き込んでいたので我慢した。良くない我慢だ。


 震える指を何とか制御して説明を表示してみる。



”20メートル以内の生物の存在を知ることができる”



 思った通りのスキルに顔が緩んだ。ゲヘヘヘヘヘ。



「【気配察知】【思念操作】シグレ、まだまだ隠していることがありそうね。この後が楽しみだわ」


「センパイ【筋力】とかも凄いです。今日は寝れないかもしれませんね」


「シグレ、都市に戻ったら居酒屋で洗いざらい話してもらうわよ。覚悟してなさい」


「センパイ、居酒屋行くんですか。それも楽しみです。明日というか今日は休日になりました」


「しょうがないわね、アオイちゃんは。それじゃ、さっさとドロップを回収して帰るわよ」



 アオイちゃんがさっさと魔石を回収してきたようだ。グフフフフフ。


 待望のスキルに胸を躍らせて都市に帰る。マユミさんの尋問するという宣言も喜びのおかげで脅威に感じなかった。


 あっという間に防衛櫓09-0001まで帰ってきたようだ。途中どうやって帰ってきたのかもあまり覚えていない。完全に浮かれていた。



「アオイちゃん、イヤホンを外しても大丈夫よ」


「わかりました。しかし、センパイ。シグレさんがあれから心ここにあらずって感じで別の意味でヤバイです。たまに変な笑い声が聞こえます」


「シグレ、シグレ。聞こえてるの?イヤホンを外しなさい」


「マユミさん、いたんですか。イヤホン?」



 マユミさんが俺のイヤホンを外してポケットにしまってくれた。



「ダメね。これは重症よ」


「もう、このまま連行しましょう」


「そうね」



 それからのことは覚えていない。【気配察知】の恩恵だけが頭の中をグルグル回っていた。


 傭兵事務所に着いた時もマユミさんが”情報端末の写真を見せなさい”と言ってきたので写真を表示したところでなぜか記憶が途切れた。


 いつものお姉さんの心配した顔を見た気がする。


 それから、またどこかを歩いた。対物ライフルは離さなかったようだ。


 両頬と首の痛みで正気を取り戻した。ビンタとチョップを食らったようだ。ひどい。



「痛!ここは?」


「ここは?じゃないわ。えらく面倒をかけさせてくれたわね」


「かなり大変でした。傭兵事務所で写真を出させるところなんてセンパイとワタシが悪者のようでした」



 今の二人の顔は十分悪者だけどな。


 さて、もう少し脳内シミュレーションが必要だろう。



「もう少しトリップしていたいんですが…」


「よく、この状況でそのセリフを言えるわね。感心するわ。アオイちゃん、アレの準備よ」


「肩たたき100回ですね。血は出なくても地獄を垣間見れますよ」



 悪魔だ。悪魔がいる。



「わ、わかりました。いろいろ面倒をかけました。すみません。で、ここは?」


「居酒屋よ。個室にしたから何が起きても外には聞こえないわ。席について、始めるわよ」


「え?何を」


「さぁ、なんでしょうねぇ。センパイ」


「まずは飲み物と料理を注文しましょう。話はそれからよ」



 マユミさんが非常に悪い顔をしている。かなりの修羅場をくぐり抜けてきた顔だ。悪代官が女性だったら、きっとこんな感じの顔だろう。


 アオイちゃんはそんな悪代官と悪だくみをする越後屋に見えた。きっと裁かれるに違いない。


 そんな二人組は店員に飲み物や料理を好き放題注文している。



「みんな顔が悪者ですよ」


「そう?いつもと同じよ。シグレも何か注文したら?割り勘よ」


「あ、はい」



 ビールと焼き鳥盛り合わせ、湯豆腐、餃子、刺身と適当に注文する。


 おしぼりで顔を拭きながら水を飲んだ。


 しばらくすると飲み物と料理が運ばれてきた。



「さて、いろいろ聞かせてもらうわよ。まず、情報端末でステータスを表示してここに置いて。アオイちゃん、そこの引き戸にシグレの対物ライフルを置いて開かなくして」


「了解です」



 アオイちゃんが非常に重そうに対物ライフルを持ち上げ引き戸に掛けた。


 雲行きがさらに怪しくなってきた。



「えーと、スキルのことを話すだけなのに何か物騒じゃありませんか?」


「それは、シグレ次第よ」


「シグレさん、センパイには逆らわない方がいいです」


「あ、はい。お手柔らかにお願いします」



 それから笑顔で乾杯した後、延々とスキルの説明とそれが手に入る要因について尋問された。あいまいな回答は許されなかった。


 アオイちゃんにも”能力が高すぎです。説明を求めます”と散々言われた。


 そして酔いが回るにつれてグダグダになっていき最後には誰が誰を尋問しているのか、わからなくなっていった。不思議なことに注文した飲み物や料理は全部なくなっていた。


 居酒屋を出てふらつきながら三人と対物ライフルが公園に向かう。


 公園のベンチに寝転がったところで眠ってしまった。


 頭の高さがいい塩梅だったのをかすかに覚えていた。



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