21-セーラー服と短機関銃2
イヤホンをつけて防衛櫓から離れ、周囲を警戒しながら標識を目指す。だいぶ慣れてきたが気を抜かずに進もう。
交差点を通り過ぎる。自然と雑談も収まる。
何事もなく標識に到着した。
「これが標識ですか。これって防衛隊の兵士さんが立ててるんですよね?」
「たぶん、そうだろうね。兵士も交代とかあるだろうから、どの防衛櫓もある程度迷わないようにしてるんじゃないかな?」
「この道路といい、霧の中整備は大変だと思うわ」
「ですよね、センパイ。道路も綺麗だから不思議だったんです」
「傭兵の依頼に、道路整備の護衛とかありそうですね」
「そうね。でも、護衛依頼は私達のランクじゃ無理そうよ」
そういうのきちんとチェックしてるのか。偉いぞマユミさん。
「護衛は難しそうだし、アース人が死ぬくらいなら盾になってあげないと都市の損失になりますからね」
「やっぱりシグレもアース人は復活しないと思ってるのね」
「このゲームのシビアさを考えると復活するとは思えないんですよ」
「センパイ、このゲームってシビアなんですか?」
「この状態を見てもわかるでしょ?普通のゲームだったらインベントリとかあってリュックサックやポケットに物を入れたりしないわ。目に映る視界にもゲーム的な表示があったりするんだけどね、普通だと」
「あ、やっぱり、そうなんですね。何かおかしいなとは思ったんですけどVRMMORPGは初めてだから、これが普通なのかと思ってました」
初めてのVRMMORPGがこれとか。かなりハードだと思うけど、頑張って欲しい。
「では、進みましょうか」
「ええ」「はい」
舗装されていない細い道を歩き出す。歩くにつれ周りが畑だらけになっていった。いつもの光景だ。
民家が見えてきた。すると家の中というか門から黒い影が出てきてこちらに走ってきた。ハンドガンをホルスターから抜く。対物ライフルは担いだままだ。
「ウルフです」
「そのようね」「はい」
マユミさんが撃ち始めた。2発撃ったところでウルフは倒れた。だいぶ上手くなっている。
「マユミさん、ナイスです」
「センパイ、流石です」
警戒しつつ霧散していくウルフに近づく。ここは相変わらずウルフがよく現れる。何かあるのか?
ウルフからのドロップを回収する。マテリアルはなく魔石のみだ。
「はい、マユミさん。これを」
「私が預かるけど今日は等分よ」
「わかってますよ」
「センパイ、だったらワタシが持ちます」
「そう、じゃ、お願い」
「はい、はぁい。これが魔石ですか。綺麗です。指輪とかにならないのかな?」
アオイちゃんが魔石をリュックサックにしまった。
「魔石はモンスターを引き付けるらしいので装飾品には向いてないだろうね」
「そうなんですか?じゃ、ワタシが集中的に…」
「いや、魔石がなくても襲われるので魔石はモンスターに見つかる要素の一つだと覚えててくれればいいよ。実際防衛櫓は強力な魔石の力でモンスターを引き付けているようだし」
「へぇ、勉強になります」
「珍しく無駄知識じゃない情報ね。覚えておくわ」
マユミさんがそれを言うんだ。
民家の門の近くを通ることを避けて前の畑を歩く。十分な距離がとれたところで民家の方を見た。
「まだ、いますね」
「そのようね。まだ気づいてないみたいだから、それ撃っとく?」
「そうですね。そうします」
ハンドガンをホルスターにしまい、対物ライフルを地面に下ろす。
伏せたあとに腰から取り出した弾を装填する。
「恐ろしいくらいに大きい弾ですね」
「ホントね」
だいたい、距離は70〜80メートルくらいだろうか。
ウルフの動きは激しくないウロウロしているだけだ。
向きを変える瞬間を狙い、撃った。
衝撃が首に伝わる。すっかり忘れていた。どこに当たったかはわからなかったがウルフは即霧散した。しかし、自分にもダメージがあった。
「お見事」
「シグレさん、凄いです」
「い、痛たたた。つ、追加を、け、警戒してください」
「わかってるわ。痛いってそれ自傷ダメージがある銃なの?」
「い、いや、そうじゃないんですけど。昨日の依頼で、く、首が軽いむちうち症だったりしてて。忘れてたんですよ、そのこと」
「バカね」
「センパイ。シグレさんて、アホなんですか?」
痛みが少し引いてきた。
「二人して厳しいですね。お兄さん悲しくて熱出して寝込みますよ」
「やっぱりバカね」
「いやアホだと思います」
この二人、グイグイくるな。マユミさんとは2回目、アオイちゃんにいたっては初対面で、これだ。
いや、自分でも頭悪いなぁと思うけど。だいたい、この首はアズマさんが悪いわけで。
念のために次弾を装填する。しかし、追加でウルフは出てこなかった。
「どうします?民家に入ってみますか?」
「そうね、入ってみましょうか。アオイちゃんにもモンスターと戦って欲しいし」
「が、頑張ります。射撃訓練は頑張りました」
「じゃ、行ってみましょう。対物ライフルはここに置いておきます」
ハンドガンをホルスターから抜き、三人で民家に向かう。固まらずに少し離れて門を通った。
まず民家の周囲を回ってみる。家の角を曲がるときはなるべく離れて様子を窺ってからにした。
再び民家の玄関まで戻って来た。周囲にウルフはいなかった。さっき倒したウルフの魔石だけが収穫だ。
「アオイちゃん、魔石」
「はい、預かります」
「周囲にはモンスターいませんでしたね」
「そのようね。あとは中だけど」
「ワタシ、緊張します」
「中ですが、光が差さないところは当然暗いので注意してください」
「やっぱり暗いのね」
「センパイは暗いのもダメですからねぇ。弱点多いですよね」
「それもトップシークレットって言ってるでしょ。しかも暗いのがダメなんじゃなくて」
「今長話は危険なので中をあらためてからにしましょう。ライト貸してあげますから」
ハンドガンをしまってリュックサックからライトを取り出しマユミさんに渡す。マユミさんは若干安心したような表情を見せたような気がした。ライトは用意してなかったようだ。
「では、俺から行きます。後ろも注意してくださいよ」
玄関に入った。狼なら嗅覚のおかげでとっくに襲ってきているはずだから、この状況なら狼は大丈夫だろう。しかし霧が嗅覚にも影響を与えていたら… 嗅覚の検証、誰かやってくれないかぁ。
再びハンドガンをホルスターから抜く。いつ飛びかかって来られてもいいように心構えだけはしておく。
2階への階段は崩れている。2階は無視しよう。
右側の和室を覗く。モンスターなし。
左側の居間も、モンスターなし。
人がいけそうなところは一通り確認してみたがモンスターはいなかった。
「中にもモンスターはいませんでしたね」
「少しは落ち着けるわ」
ハンドガンをホルスターに収めた。緊張した体が緩んでいく感じがする。
マユミさんからライトを受け取りリュックサックにしまって、代わりに水筒を取り出した。
水を飲む。カラカラだった喉が潤った。するとマユミさんとアオイちゃんも水を飲み始めた。
「水が美味しいです」
「なぜか、ゲーム内の水が美味しいのよ」
「ちょっと、対物ライフルを取ってきますね」
水筒をリュックサックにしまって、畑に対物ライフルを取りに行くと二人ともついてきた。
「ゆっくりしてればいいのに」
「いや、何か落ち着かないのよ」
「こんなところで人が減ると不安になっちゃいます」
対物ライフルの無事を確認し担いだところで再び安心する。担いでいないと落ち着かないのだ。
「それじゃ、防衛櫓に向けて出発します」
「ええ、了解」
「はぁい、頑張ります」
そして、歩き出す。索敵だけは怠らなかった。
防衛櫓08-0102が見えてきた。
防衛櫓の外に一人の兵士が出てきてあちこちを歩き回っている。
どうやら戦闘があったようだ。
会話をグループチャンネルからグローバルチャンネルに切り替える。
「お疲れ様です。傭兵のシグレです。防衛依頼で来ました」
「お疲れ様です。第6部隊のアラキです。ちょうど戦闘が終了したところです」
アラキさんが手を止めて応えてくれた。モンスターのドロップはまだまだ地面に転がっている。中にはマテリアルもあるようだ。
「ちょうど戦闘に出くわすとは、ひょっとして最近増えてますか?」
(傭兵なら喋っても問題ないよな)
「そう、ですね。ウルフは変わりませんがゴブリンが増えています」
「ゴブリンが増えて。あ、すみません。仕事を中断させてしまって。写真を撮ったらすぐに離れますから」
「いえいえ、お気になさらず。そちらも防衛、お気をつけて」
グループチャンネルに戻してマユミさんとアオイちゃんの方へ向く。マユミさんは少し真剣そうな表情を浮かべていた。アオイちゃんとは対照的だ。
「とりあえず、写真を撮りましょう。アオイちゃん、きちんと番号を入れてね」
「了解です」
全員で防衛櫓08-0102の写真を撮り確認しあう。アオイちゃんの写真も問題なかった。
「じゃ、マユミさんいつもの場所に移動しませんか?」
「そうね。そうしましょうか」
「いつもの場所って、センパイ怪しいです」
「怪しくありません。2回目だし、ただの畑よ。シグレも変な言い方しないで」
あれぇ、今の全くもって普通の言い方だと思うけど。2回目だと使っちゃいけないのか…
腑に落ちないまま南に移動する。いつもの畑だ。
防衛櫓が見えなくなったところで一息つく。モンスターは見当たらない。
対物ライフルを地面に置きリュックサックから携帯シャベルを取り出した。
「何をするつもり?」
「いやぁ、ここ遮蔽物もないし少し土でも掘って盛っておこうかなっと思って。警戒をよろしくお願いします」
「警戒ね。それはいいんだけど。シャベルまで用意して、よくそんなこと思いつくわね」
「少し掘るくらいならたいした手間でもないし伏せて撃つとスキが大きいんですよ。せめて片膝ついたくらいで撃てた方が危険も少ないですから」
「私とアオイちゃんがいるじゃない」
「それは、そうなんですけど。いつもいるわけじゃありませんし。こういうのは経験を積まないと良いところや悪いところが見えてきませんから」
畑の土を掘っては盛っていく。携帯型なのでシャベルの柄が短いのが気になるが十分な働きをしてくれている。
「シグレ、ゴブリンよ。それも集団。やっぱり増えてるんじゃない?」
「今度こそワタシもやっつけてみせます」
「その意気だよ、アオイちゃん。でも慎重にね。それじゃ、俺が1発撃ちますね」
ゴブリンが白い霧から出てきていた。南西の方向から5〜6匹みたいだ。ゴブリンのグループはそのくらいの数が標準なのだろうか。
一番近いゴブリンの方に対物ライフルを向ける。弾はさっき装填したのがあるはずだから、そのままトリガーを引いた。
マズルフラッシュが素晴らしいなどと思う暇もなく首を抑える。
「だから、首ぃ」
「バカがいるわ」
「シグレさんはアホなんです」
霧散したゴブリンを不思議がっている他のゴブリン。キョロキョロしながらようやく、こちらに気が付いたようだ。ゴブリンが距離を詰めてくる。
「えーと、首が首なんで、もう撃てません。みんな、よろしく」
「はい、はい。アオイちゃんやるわよ」
「はい、頑張ります」
呆れ顔のマユミさんが腰を落としてアサルトライフルを構える。一番近いのと一番遠いのを残して苦も無く倒した。
「あとは、アオイちゃんが頑張るのよ」
「はいっ」
アオイちゃんもマユミさんをマネして腰を落として構えた。姿勢が微妙に悪い感じがするが頑張りでカバーするようだ。
「今よ!」
「は、はい」
マユミさんがサブマシンガンの距離を測ってあげたようだ。アオイちゃんが撃ち始めた。狙いは悪くないのだがトリガーを引きすぎてしまい狙いがどんどんずれていく。
「撃ちすぎよ。最初の2、3発で倒してるから短く切って。次来るよ」
近いゴブリンは倒れ、遠い方が有効射程に入った。アオイちゃんは慎重に狙い、撃ち始めた。タタタという感じで撃ち出された弾がゴブリンの首辺りに集中する。満点のデキだと思った。
「今の感じよ。忘れないでね」
「はい、緊張したけどワタシでもできました。ありがとう、お姉ちゃん。あ、センパイ!」
「もう、どっちでもいいのよ」
「普段から気をつけてないとボロが出ちゃうので」
ここで、俺のセリフなの?これ入っていっちゃっていいの?知らないよ。
「えーと、アオイちゃん上手だね。この調子で頑張って」
「はい、近づいたモンスターはまかせてください。あ、忘れてました。カイカンです」
それ、そんな風につけ加えて言うもんじゃないから。
二人が次の戦闘にむけて準備をするなか、俺はドロップを拾いに行く。
「シグレ、穴を掘ってていいわよ。私が拾いに行くから」
「あ、ワタシも行きます」
「それじゃ二人にまかせて俺は穴を掘りますね」
二人がドロップを拾いに行っている間、軽く周囲を警戒しながら土を掘っては盛っていく。
二人が戻ってきたころには、扇形の低い土の壁ができた。掘った穴に入って地面に腰掛けると上半身がちょうど隠れるくらいだ。
「それで完成なの?」
「ま、これくらいでいいでしょう。そっちは随分時間がかかりましたね」
「ドロップを探すついでに周囲を少し探検してました」
少し難しい顔をしてみせる。
「二人いれば大丈夫だと思いますけど、あまり危険なことは…」
「わかってるわよ。魔石が6個と」
「これ、マテリアルがありました。ホクホクですよ」
表現の仕方。焼き芋じゃないんだから。
アオイちゃんはマテリアルが珍しいのだろう、いろんな角度から眺めていた。




