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20-セーラー服と短機関銃


 一日はこの公園から始まる。首が少し痛い。


 時間は8時20分。9時までには余裕がある。


 日課をこなして腹ごしらえだ。



 牛丼屋を出て傭兵事務所を目指す。露店がまばらに営業を開始していた。


 傭兵事務所前に到着。場所はこの辺りでいいのだろうか?待ち合わせまで、あと8分くらいだ。


 時間がある。これはガン賢の時間だな。


 対物ライフルを壁に立てかけ情報端末を取り出してガン賢を起動する。



「やらせないわよ」



 出待ちだ。絶対に出待ちしている。タイミングが良すぎる。俺にガン賢をさせない集団意識のようなものがこのアースには存在しているようだ。



「まだ、時間じゃないですよね?」


「全員揃ったら時間なのよ」


「あ、そうですか」



 さらば、ガン賢。また逢う日まで。



「それで、今日は何用ですか?」



 マユミさんの後ろに誰かいる。きちんと隠れきれていない。



「今日は前回の反省をふまえて新兵器を持ってきたわ。これよ」


(アオイちゃん、今よ)


(わかりました。センパイ)


「ジャジャーーン。ワタシが、どうやら新兵器らしいアオイです。アオイちゃんと呼んでください」



 ジャジャーーンって、久しぶりに聞いた。ある意味新鮮だな。


 マユミさんより頭半分くらい背が低く、かわいいお嬢さんだった。


 マユミさんもそうだがプロポーションが良い。服の上からでも… って、なぜにセーラー服?



「どうも、シグレです。よろしくお願いします。アオイさん」



 アオイさんが頬を膨らませて、微妙な睨みをきかせてくる。リスっぽいな。ひまわりの種をあげたくなった。



「アオイ ちゃん です。ちゃん」


「アオイちゃんは、そこにうるさいのよ。ちゃんって呼んであげて」



 人にはいろんなこだわりがあるのを再認識させられる。ちゃんにこだわって歳をとったらどうするんだろう。永遠のちゃんづけでもするつもりなのだろうか。



「そうですよ。アオイちゃんです。シグレさん」


「それっておばさんになっても、ちゃ―」



 マユミさんのボディブローが突き刺さる。い、息が。



「その先は危険よ。帰ってこれなくなるわ」



 面倒くせぇ。帰ってこれなくなるって何だよ。何処かに連れていかれるのか?



「はい、アオイちゃん。よろしく。それで凄い服着てますね」


「そうですか?普通だと思います。この銃と良く似合ってますし」



 アオイちゃんは肩にかけていた銃を両手に持って少し持ち上げた。


 MP40だな。これは… ドラマの影響か?



「サブマシンガンを選んだんですね。マユミさんにAKにしろ!とか言われなかったんですね」


「言われましたよ。そりゃあ、もう。でも、その服がババくさ 嫌なんで先に服屋さんに行ったんです。そしたら、なんと、セーラー服があったんですよ。これ一度着てみたかったんです。通ってた学校もこういうのなかったですし。しかも、これ見てください」



 アオイちゃんはスカートを少し上げスパッツを見せてくれた。でも、これは邪道だな。思わずガン見する。


 え、これ、こんな昔にあったっけ?女子の服には詳しくないので自信はないが…


 いやぁ、それにしてもいい景色だ。今日は幸先いいぞ。



「シグレ、どこ見てんのよ。アオイちゃんもサービスしないで」



 ちっ、終わりか。



「それで、この服を買ってから武器屋に行ったんです。そして、ドラマを思い出して主人公が持ってた銃を探したら、あったんです。これ、いいでしょ?」



 ドラマを見て銃を覚えるとか、ただの女子の所業じゃないな。流石、マユミさんの新兵器。



「アオイちゃんにはAKを選ばないと寿命が縮むって言ったのに…」


「いいと思いますよ。有効射程はハンドガンと同じか少し長いくらいですが、弾も安いし撃ちまくれます。ただ、たまに、それを撃った後に快感と言っちゃう病を患う人が出てくるのが問題ですね。呪われた銃ですよ」


「シグレさん、ドラマではそのセリフ言わないんです。知らないんですね」


「安心しました。じゃ、銃を撃った後は静かにできるんですね?」


「でも、でも、映画版は言うんです。カイカンなんです。シグレさん、冷たくないです?」


「冷たいわね。温かくした方がいいわ」


「え?お日様のように暖かい目で見守っているというのに、ひどいですよ」



 ま、お日様はお隠れだけどな。しかしドラマでは、あのセリフ言わないんだ初めて知った。よく我慢したな。



「で、アオイちゃんは、このゲーム大丈夫?これ、女子向きとは言えないけど」


「VRMMORPGには興味があったんですが、これは知りませんでした。センパイに、これやってって言われて。センパイの頼みだし。センパイ面白いから」


「面白いって何?アオイちゃん、これ終わったらリアルで話があるから」



 リアルでカラシニコフさんの刑を食らうのか。かわいそすぎる。



「それで、マユミさん。アオイちゃんの何が新兵器なんですか?まさかサブマシンガンじゃありませんよね?」


「当たり前じゃない。アオイちゃんはね、一度歩いた地形を覚えることができるのよ。道なんてなくてもね。何度救われたことか」



 なんだと、道がないところでさえ記憶できるとか。スゲー。俺なんか道があってやっとってところなのに。


 これは、お友達になってもらうしか。



「アオイちゃん、凄いですね。お友達から、よろしくお願いします」


「シグレさん、こちらこそ、よろしくお願いします」



 ノリがいいぞ、この子は。



「そこ、二人で盛り上がるのやめなさい。どう、新兵器の凄さがわかったでしょ?今日はアオイちゃんに地形を覚えてもらうのよ」


「ゲームの地形をリアルと同じように覚えられるかわかりませんけど。ただ、ステータスを見たときに【空間認識】というスキルがありましたから、希望はあると思います」



 アオイちゃんが情報端末でステータスを見せてくれた。【空間認識】が確かにあった。勝手にタップしてみた。



”一度歩いたところとその周辺を記憶できる”



 おおおお、マジだ。最初から覚えてたのか。ユニークスキル?しかもスキルレベルがないみたいだから最初から100%の状態で使えるというか使っているのか。



「え、タップしたら説明が出るんだ。早く教えてくれればいいのに」


「説明が出るのはスキルだけみたいですけどね」


「それじゃ、行くわよ」



 対物ライフルを担いで、マユミさんのあとに続く。すると、ひょいっとアオイちゃんが横から腰を曲げて覗き込んできた。



「とーっても、重そうですね」


「うん、重たいよ。持ってみる?」


「そこ!」



 姑の目が厳しい。黙ってマユミさんについていく。


 とりあえず、マユミさんがリーダーをやってくれるようだ。傭兵カードを集めて依頼窓口に向かって行った。


 窓口では、いつものお姉さんが応対していた。


 マユミさんが俺とアオイちゃんの傭兵カードを持っていたので驚いたようだ。



「シグレさん、あなたの意志でマユミ様に傭兵カードを貸しているという認識でいいですね?」


「はい、今日はグループで行動するのでここで三人別々に依頼を受けても、そちらが面倒でしょ?」


「それは、そうなんですが。傭兵カードは自己管理が原則ですから一応確認させていただきました」


「はい、いつも助かっています」


「アオイ様も、自分の意志ということでよろしいですね?」


「はい、そうです。よろしくお願いします」


「それで、マユミ様。防衛依頼は何処にしますか?」


「前回のところ、防衛櫓08-0102だっけ?そこをお願い」


「はい、わかりました。グループで行動しても写真は全員分必要ですので」


「了解よ」


「それでは、みなさんお気をつけて」



 混雑している依頼掲示板を横目に傭兵事務所を出る。外に出るとマユミさんが傭兵カードを返してくれた。



「マユミさん。俺ちょっとおにぎり買ってきます」


「あ、私も行くわ。アオイちゃんもお昼買っておいて」


「はい、わかりました。おにぎり大好きです」



 いつもの露店に顔を出す。おばちゃんは今日もおにぎりを握っていた。



「おはようございます。今日も買いにきました」


「いつもありがとね。今日は美人さんがこんなに。モテる男はつらいわね」


「本当につらいです」


「何がつらいのよ。役得じゃない。意味がわからないわ」


「センパイ早く選びましょ。うわぁ、いろんなのがあります。やっぱり梅干しですよね」


「鮭よ、アオイちゃん。昔から言ってるでしょ」



 マユミさんが鮭派で、アオイちゃんが梅干し派か。戦争前夜のような緊張感が押し寄せてくる。


 結局、俺は鮭、梅干し、唐揚げを選んだ。決して両派閥に配慮したわけではない。



「マユミさんも弁当箱を買ったんですね」


「当たり前でしょ。同じ過ちを繰り返さないのが私の主義なの。水筒も買ったわ。当然アオイちゃんにも用意してもらったわよ」


「ワタシも買いました。VRMMORPGってこういうの自分で用意するんですね?すごく新鮮でワクワクします」


「普通のVRMMORPGはこんなことないと思う。これはこのゲームがおかしいと思った方がいいよ」


「そうなんですか?でも遠足を思い出せて楽しいです」



 とりあえずの防衛櫓09-0001を目指して歩き出した。



「マユミさん、水はどうしました?」


「水も汲んできてるわ。ちょうどいい公園があったのよ」



 マユミさんに俺の楽園がバレたか。嬉しいような悲しいような。



「裏通りの公園ですか?あそこは俺も良く行きます。というか半分住んでますね」


「あの公園の雰囲気良いですよね。ワタシも好きです」


「ふーん、あそこも秘密にしてたんだ。シグレ、まだ何か隠してることがあったら白状しちゃいなさい。楽になるわよ」


「別に隠してたわけじゃありませんよ。あとは何かあったかなぁ。あ、南の浜辺で銃の試射をしたくらいですね」


「海に行ったのね。どうだった?」


「防衛櫓がないのでモンスターは出ないのかもしれません。実際モンスターに遭遇しませんでした。あとは漂着物が多いってくらいですね。そういえば漂着物に魔石が混ざってましたよ。今度キャンプでもしてみれば」


「センパイ、キャンプですよ。キャンプ。潮干狩りもしたことありません。魔石みたいですけど」


「キャンプ道具を用意するのが大変だしお金もかかるわ。いつかできるといいわね」



 そんな雑談をしているうちに防衛櫓に到着した。



「アオイちゃん、ここからはイヤホンをつけてね。今からグループに誘うから」



 マユミさんがグループを作るのか。これは…



「アオイちゃんとアドレス交換をさせない気ですね」


「当たり前じゃない。私の新兵器なんだから。シグレには使わせないわよ」



 ケチ。



「センパイは、シグレさんとアドレス交換してるんですよね?だったら、ワタシもします。さぁ、シグレさん」


「アオイちゃんはいい子だなぁ。マユミさんにもこの素直さが欲しいです」



 アオイちゃんとアドレスを交換した。グヘヘヘヘヘ。



「いや、センパイは、これでリアルは違うんです。リアルは…」


「はぁい、アオイちゃん、少し黙ろっか」


「センパイ、怖い。そんなんじゃ、男が寄って来ませんよ」


「そうしてるのよ」


「二人とも凄く仲がいいですね。姉妹みたいです」


「アオイちゃんは妹みたいなものよ。このくらいのときから一緒だし」



 腰の辺りに手を当てて自慢気に語るマユミさん。



「センパイとはそのくらいから一緒ですけど、迷子になって泣いているのを助けるのはいつもワタシでしたけどね」


「アオイちゃん、それはトップシークレットって言ってるでしょ。それ以上言うなら、ご飯作ってあげないんだから」


「ごめんなさい。シグレさん、今のは忘れてください。ホントだけどウソです」


「はい、はい、わかりました。それじゃ行きますよ」


「アオイちゃん、シグレが先導するから地形を頑張って覚えてね」


「大丈夫ですよ。意識しなくても地形は頭に入ると思いますから。索敵も頑張ります」



 なんて、いい子なんだろう。一家に一アオイちゃんってところだな。


 あとはマユミさんの目を盗んで新兵器を使えるかが今後の課題か…



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