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18-テストパイロット


 まとまった時間があったのでリアルでの用事が捗った。


 掲示板のチェックはお休みして公式ホームページを覗いてみる。


 寂しかった公式ホームページに情報が追加されていた。


”新人傭兵のためのアサヒ都市の歩き方”なるページには初めてアサヒ都市に降り立った傭兵を視点にした体験記のような内容が書かれていた。


 防衛隊で都市セーブポイントの登録と個人登録。


 銀行で口座開設。80000YENを口座に移す。


 雑貨屋でリュックサックを購入。雑貨屋の店員さんが携帯シャベルや携帯ストーブを勧めていた。シャベルが非常に気になった。


 武器屋で銃の購入。緊張したマスターの顔が面白かった。


 銃のお勧めはStG44だそうだ。防衛隊でも使用しているアサルトライフルで弾も安い。これはマスターのお勧めではなく運営のお勧めみたいだ。StG44と予備マガジン、弾を購入していた。


 傭兵事務所横の露店を散策。サンドイッチを買って食べていた。弁当にはしないみたいだ。あとで、お腹が空くぞ。


 傭兵事務所で防衛依頼を受けて実行し報告終了。いつものお姉さんがいつもよりおめかししている感じがしておかしかった。


 防衛櫓は08-0102、北東の空き地で防衛をしていた。北東に空き地があるのか。


 ざっと読んでみたが、このページよくできてるじゃん。これ初日にあっても良かったのでは?


 ま、これでこれから参加する人は俺みたいに苦労しなくて済むだろう。


 健全でやる気があって方向音痴ではない女子を希望したい。


 野郎はどうせほっといても勝手に何かみたいに増えるからな。


 しかし、これどこで撮影したんだろうか?普通にテストサーバーだよな。まさか、ライブサーバーを使ったりなんか…


 同様にクシマ都市の歩き方というのも追加されていた。流し読みしただけだが銃のお勧めがM1カービンだったのが印象的だった。どうやら、あっちはアメリカ系らしい。


 切り替え、切り替え。


 公園でいつもの日課をこなし牛丼屋へ行く。


 牛丼の並盛を食べて傭兵事務所に向かった。




 傭兵事務所はいつもより賑わっているように見えた。最初に目をやったのが依頼掲示板だからだろうか。


 対物ライフルを担いだまま依頼掲示板を覗くわけにもいかないので邪魔にならないところに置く。


 身軽になったところで依頼掲示板の人だかりの中に突入した。


 面白い依頼を発見!装甲歩兵の中の人をアナザー限定で募集しているようだ。先着1名。


 居合のような速さで依頼用紙を引き抜く。この時間までこの依頼が残っていたことに驚いた。


 素知らぬ振りをして依頼窓口へ急ぐ。空いている窓口がないので少ないところに並んだ。




 やっと俺の番がきた。いつもと違うお姉さんだ。



「この依頼をお願いします」



 カウンターに依頼用紙と傭兵カードを出す。



「はい、少々お待ちください。条項を確認します」



 たぶん、俺は大丈夫だと思うんだけど…



「一つ質問があります。装甲歩兵を操作した経験がありますか?」



 操縦じゃなくて操作なのか装甲歩兵って。どうでもいいか。


 で、そもそも操作したことがないといけないのか?盲点というか、当たり前というか。良く読んでなかった。興味があったので反射的にやってしまいました。



「あ、ありません。これ経験者のみでしたか?それは、すみません」


「いえ、その逆です。未経験者のみです。でしたら、大丈夫そうですね。それでは説明します」



 説明によると時給は1000YEN。アースの最低賃金なのだろうか、これも1000YENみたいだ。


 拘束時間は不明だが最大8時間。受付は12時までのようだ。


 防衛隊にいって案内してもらうように言われた。



「それでは、お気をつけて」



 傭兵カードをしまいながら何かを忘れているような気がしながら傭兵事務所を出る、ところで気づく。



「あ、対物ライフル」



 すっかり忘れてた。隅の方に置かれた対物ライフルに哀愁を感じつつ無事だったことに安心する。


 対物ライフルを担いで傭兵事務所を出て露店に向かう。


 いつものように露店でおにぎりを買った。今日は鮭、卵、唐揚げだ。


 冷えた唐揚げはさぞ美味しいことだろう。


 そしてすぐそこの防衛隊東門に行く。


 東門の傍には小さな建物がありそこの兵士に依頼のことを話す。


 案内の兵士を呼んでくれるようだ。ソワソワしながら待つ。


 あまり時間がかかるようならガン賢をしようかな。



 ガン賢を始めようと思って情報端末を手に取ったところで案内の兵士が来た。


 タイミングが良すぎて出待ちを疑ってしまう。



 兵士に案内されたのは格納庫だった。外見は大きい柱の施設と同じようだ。


 格納庫の大きい扉から入るのかと思われたが横の普通の入り口から中に入った。


 中に入ると軍服ではない普通の格好をした俺より歳が上そうな人が笑顔で迎えてくれる。



「依頼の件で来ました。傭兵のシグレです。よろしくお願いします」


「あ、そうだ。自己紹介だね。私は麒麟重工兵器開発第4部副部長のアズマというんだ。今日はよろしくお願いするよ」



 副部長が防衛隊に出向しているのか。



「それと失礼だとは思うけど君の情報端末を見せてくれるかな。待機画面を表示してくれるだけでいいから」


「ええ、問題ありませんよ」



 対物ライフルのストックを床につけ情報端末を胸のポケットから取り出す。


 下部のボタンを押して待機画面を表示する。時間と名前が表示された。これでいいのだろうか?



「どれどれ― よし、問題ない。見せてくれてありがとう。もうしまってくれていいよ」

「今ので何かわかるんですか?」


「君は知らないんだね。名前の最後にアスタリスクがついているとアナザーなんだよ。私のにはついてないだろう」



 そう言って、アズマさんも自分の情報端末の待機画面を見せてくれた。


 アズマさんの下の名前は”シンイチ”らしい。待機画面に苗字は表示されていなかった。


 アースの人はフルネームでプレイヤーは名前だけなのか。ふーん。



「あ、ホントですね。アースの人の情報端末なんて初めて見ました。ありがとうございます」


(アナザーは私達をアース人と呼ぶのか。そのままだけど、そう呼ばれると意外と不思議だ。しかし、なぜ、呼び方を変える必要が…)


「いやいや問題ないよ。それにしても凄い銃だね。君達にも、そんなのが必要なくらい外は危険なんだね。私は最近外に出たことがないんで、もしおかしな事を言ったとしても気にしないでくれ」


「こんな銃を使ってる傭兵は俺も見たことがありませんよ。俺は好きだから使ってるだけですよ」



 まだ、実戦で使ったことないけど。



「そうなんだ、でも今日の実験では不必要だから荷物はあそこの机の上に置いて、銃とかリュックサックとかも全部外しておいて。準備ができたらまた私のところまで来てくれるかな」


「わかりました」



 さっそく机の上に銃やリュックサックを置いた。体の軽さに驚く。今なら2メートルくらいジャンプできそうだ。


 アズマさんのところへ行く。



「準備できました」


「お、早いね。じゃぁ、こっちに来てこれを頭につけてくれ」



 大きなフレームに人間の右腕の形をした機械の腕がついていた。


 そのフレームの後ろの方から伸びたコードに繋がったカチューシャのような物を手渡された。


 それをヘッドホンをつける感じで頭にのせた。



「あ、そんな感じだけど。もうちょっと前かなぁ」



 アズマさんが微調整をしてくれた。



「よし、これで準備完了だ。起動スイッチをポチ」



 あ、それ言葉で言っちゃうんだ。通は”ポチッとな”って言うんですけどね。



「それじゃ、シグレ君、君にはこの腕を動かしてもらうんだけど。毎回思うけど説明難しいんだよね。うーん。どれがいいかな。えーと。自分の腕を動かさずにもう一つ自分の腕が増えた感じで、その腕を動かすイメージをしてみて欲しい」



 注文が多いというか一文が長すぎるというか頭に入ってこない。


 自然と表情が硬くなる。



「あぁ、なるよね。そうなる。何を言っているかわからないよね」



 アズマさんがウロウロしながら顎に手を当てている。



「ただ、良い表現方法というか言葉がないんだよね。じゃ、もう一度言うよ。シグレ君の腕を動かさずに、もう一つの自分の腕が増えた感じで、その腕を動かす。さぁ、やって」


 この”もう一つ自分の腕が増えた感じ”が今まで想像したことないからなぁ。


 そして”それを動かす”とか。やることはわかったけど…


 自分の右腕を見つめながら、アレコレ念じて見る。



「シグレ君、苦戦してるね。でも、自分の腕は見ない方が良いよ。だいたいの人がそれやっちゃうんだけど逆効果なんだよね」


「わ、わかりました」



 あさっての方を見つつ、どこかで見た阿修羅像を自分と重ねてイメージしてみる。



「今、少し、動いたね。その感じで頑張って。最初だけは難しいんだよ。ただ、人によって適正があってできない人もいるから、そこは安心していいよ」



 俺は阿修羅、俺は阿修羅。ここだけ聞くと残念な病気を患った人に間違われそうだ。


 そして増えた腕をゆっくり回してみる。



「おおおおぉ、動いてるよ。それだよ、それ。こんなに早くできるとは… これからコーヒーを用意しようと思ったのに予定が狂っちゃうなぁ。アハハハ」



 指を動かして、グー、パーを繰り返す。



「こんな感じですかね。何かコツみたいなのがわかったような気がします。言葉にできませんが」


「だろう?上の人間にも”もっとわかりやすく説明して”とか言われるんだけど上手く言葉にできないよね?わかった人にしかわからないから毎回この段階は苦労するんだよ」


「これ、最初の人は相当苦労したんじゃないですか?」


「そうみたいだよ。なんせ、動くかどうかわからなかったからね。ちなみに私は最初じゃないからね」



 手首から先をドリルのように回転しないかやってみる。



「あ、それはできないよ。そこは構造的に回転しないから。ただ、人間にできない動きに挑戦すること自体は評価するよ。よし、ちょっと待っててくれ」



 アズマさんが奥から机を押してこちらに来た。机には卵?みたいな物が籠の中に置かれていた。



「これ、掴んでみて。大丈夫茹でてあるから」



 どうやら卵だったようだ。それをそっと掴むイメージをしてみる。



「おお、あれ、何か変ですね」


「シグレ君、それわかっちゃうかぁ。君、さてはニュー いやいやいや、今君がやっているのは思念操作って言うんだけど思念操作はイメージを送るだけでなく受け取ることもできるんだ。その機械の手の手の平と指先、人間では指紋があるところには特別な装置があるらしく、触れたものの感触というか情報を受け取ることができるんだ」


「あぁ、確かにそれがないと掴む加減がわかりませんよね。へぇ、これ、非常に良くできてますね。ただ、凄く変な感じですけど」



 卵が普通に掴める。イメージしたものにフィードバックがあるとかとても奇妙な感覚だった。



「もう、卵も掴めちゃうのか。このイメージの情報受信も適正があるからできない人は全くできないんだけど。予定が狂っちゃうなぁ。まだ、羊羹が…」



 一人だけ飲み食いしやがって。



「なんか、すみません。楽しくなってきてつい」


「いやいや、シグレ君は悪くないんだよ。私に言われたことを実行しているスゴーーーーーク素直なだけだから。アナザーがみんなこんな感じだったら嬉しいやら恐ろしいやらわかんなくなるなぁ。どうしよう?」


「どうしましょう?最初からコーヒーとおやつを用意しておくとか」



 アナザーに思念操作の適正があるかどうかなんて知らないし。



「コーヒーはやっぱり淹れたてが… まぁ、いいや。次の段階に進むよ。その思念コントローラを外してついてきて」



 このカチューシャみたいなのは思念コントローラっていうのか。


 思念コントローラを外して丁寧に机に置きアズマさんを追った。



「今度はこれだ」



 大きなフレームについているのが機械の腕から脚に変わった。だいたい理解した。



「脚を動かすのも腕と変わらないから、同じ感じで動かしてみて」



 手渡された思念コントローラを頭につけてイメージしてみる。


 脚がたくさんあるモノを浮かべてみるが近いのが思いつかない。


 馬、蛸、昆虫、どれも脚はたくさんあるけどこれとは違うと思う。


 強いていうならアニメや漫画の表現にある速く脚を動かしたときの残像のような感じ。でも見た目が近いだけで動かすとなるとこれじゃあ……



「あ、動いた」



 ええぇぇええ。



「おおお、シグレ君。もうコツを掴んだのか。先生嬉しいよ。こんなに良くできた生徒は初めてだよ。ここも脱落ポイントなんだよ。私の」



 アズマさんがいつのまにか先生になったぞ。案外ノリがいいな。しかも、自分が脱落するんだ。



「アズマさんが脱落するんですか?」


「そうだよ。さっき脚の動かし方説明しなかったよね。腕より表現が難しいから適当に頑張ってもらうんだよ。その際全く前に進まない生徒がいるから、説明をいろいろ頑張るんだけど… 私が先にギブアップしちゃうんだ」


「大変ですね。アズマさんって思念操作の使い方を教える人なんですか?」


「違うよ。兵器開発の少し偉い人だよ。こんな疲れること普段はやらないよ。普段は私が教えた数人が教えていて、今日はアナザー第一号生徒がどんなものかを知るために私がやっているんだ。非常に楽できて先生のうれし涙でコーヒーがしょっぱくなりそうだよ」



 そんな話を聞きながら機械の脚を動かしてみる。どうやら足裏にもフィードバックの装置がついているようだ。床に接地した感じが送られてくる。



「もう、その脚は問題ないね。なんか悔しいけど次に行くよ」


「は、はい」



 思念コントローラをその辺に置いて、次の場所へ移動って隣じゃん。



「次は、この脚だ。これは人間の脚と構造が違う。ま、鳥脚ってヤツだ」



 鳥脚か、膝が逆に曲がっている。思念コントローラをつけながらイメージを膨らませる。



「あ、言い忘れてた。これ構造は鳥脚だけどイメージはさっきと同じでいいよ。シグレ君は、ここで躓いたりしないと思うから答えを先に言っちゃうよ」



 さっきの脚と同じイメージで動かしてみる。あ、本当にそのまま動いた。不思議だ。



「やっぱり問題ないみたいだね。ここも脱落ポイントではあるんだけど、生徒の。優秀なシグレ君にここで時間を使うのはもったいないからね。さっさと次行くよ」



 優秀なのはアナザーかもしれませんけどね。


 アズマさんについていった先には、きちんとした人の形をした機械があった。



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