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17-重い槍


 逸る気持ちを抑え一度ログアウトして昼飯とか用事を済ませた。


 納豆牛丼が今週のイチオシだ。


 よし、武器屋へGO。



「ちわー」


「いらっしゃい」


「マスター、とうとうアレを買いに来ました」



 対物ライフルがある方に指をさしながら一直線にカウンターへ向けて歩く。



「あれは、売り物じゃねぇ」



 指をさした方を向くと全然知らない奴が立っていた。なぜか顔が赤い。コイツじゃねぇ。



「あんなのいりません。PTRDですよ。PTRD」


「おぅ、とうとう春が来たのか。その割には痛そうな格好してるな」


「これですか。さっきリザードマンにやられました。そう、そのリザードマンにハンドガンの弾が効果が薄くて…」


「リザードマンか。苦戦した話を客から聞いたことがある。皮膚が硬いんだってな。ハンドガンで挑む奴はおまえくらいじゃねぇのか」


「結局はハンドキャノンを使いましたけど。リザードマンを何とかできるハンドガン、あったりしませんか?」


「ないな、ここには。もっと西側の都市、クシマとかならマグナム弾を撃てるハンドガンがあるんだが効果的かは正直わからん」


「同じ日本でも扱ってる銃や弾の傾向が違うんですか?」


「そうなんだよ。おかしな話だろ。理由を聞かれても俺も知らんからな」



 この都市の銃も不思議だ。日本の銃を見たことがないドイツとソ連のものばかり。一部変なのを見たが…


 ってことは、ハズレを引いた都市というかプレイヤー達がいるかもしれない。強く生きて欲しい。


 そういう情報は公式ホームページにもなかったし。ひょっとして今なら情報が増えてたりして。



「まぁ、今はこんな状況だから銃とかは入ってこねぇ。もし、銃が手に入ったとしても弾はないぞ。この都市でマグナム弾なんてつくってないからな」



 ここではマグナムの運用は無理なのか。あまり知りたくない情報だった。ハンドガンの希望が流れ去って行く。ちょっと悲しい。


 こうなるとハンドガン自体が失敗だったかもしれない。が、対物ライフルを使いたいのに他のライフルを使うという選択肢は初めからなかった。


 しょうがない最後までニッチなところを攻めていくか…



「そんじゃPTRDを持って来るぞ。持てないとか言うなよ」


「はい、頑張ります」



 邪魔になりそうなナイフとライトをリュックサックにしまう。何か冷や汗が出てきた。自分で注文しといてちゃんと持てるか心配になってきたぞ。


 なんで、たかがゲームでこんなに真剣なのか不思議でしょうがない。


 逸っていた気持ちがどんよりとしてきた。


 切り替え、切り替え。



 よし、気楽に行こう。深呼吸をする。どうせ俺の金だ、まともに使えそうにないなら浜辺にでも埋めればいい…


 悪いことを考え始めたころドンっという音とともにカウンターに銃が置かれた。でかい。


「ほれ、持ってきたぞ。他に何かいるか?弾はどうするんだ?」


「弾もいります。それとお尻というか腰につけるハーネスの拡張品で弾を入れるのによさげなものってありますか?」


「待ってろ、ちょっと探してくる」



 店内の他の客も揃って訝しい表情を浮かべて、こちらを見ている。恥ずかしい。見ないで。ほっといて。


 ちょっと対物ライフルを持ち上げてみる。


 重い、持てなくはない。が、かなり重い。けど、持って帰れそうなので冷や汗はちょっと引いた。


 そっと対物ライフルをカウンターに置いたところでマスターが戻ってきた。



「おい、ちょうどいいのがあったぞ。これぞおあつらえ向きってヤツだ」


「あったんですか?このハーネスの拡張品は都合が良くて助かります」


「ホントだな。考えることは同じなんだろ。で、これだ。本来はハンドガンのマガジンを入れるもんなんだが大きさが絶妙だった。少し隙間が空くが逆にいいかもしれん」


「あ、これ、ハンドガンのマガジン用なんですね。こんなにたくさんマガジンを持つ必要なんてあるんですかねぇ?」


「10個2列だからな。このご時世でこの数のハンドガンのマガジンを何に使うんだろうな?それとも、これマガジン用じゃないのか?まぁ、そんなことはこの際どうでもいい。使っとけ」



 横に細長いバッグで蓋付きだ。蓋に固いものが入っているのかバッグの形は崩れたりしていない。蓋を開けると10個2列分の穴というか仕切りがあり、1列目と2列目には段差がついていた。


 ハーネスにワンタッチで付け外しができる器具もついている。至れり尽くせりだ。



「弾は何発いるんだ?」


「このバッグがあるので20発お願いします」


「なかなか強烈な春だな。よし、バッグはサービスしてやろう」


「ありがとうございます。それとハンドキャノンの榴弾を2発お願いします」


「なんだ、そっちは景気悪いな。まぁ、いいだろう取ってくる」



 ハンドガンの弾は射撃訓練場で買えば問題ないだろう。


 マスターが持ってきた対物ライフルの弾を見る。銃が大きければ当然弾も大きくなるのだが… これ程とは。



「それで、全部でいくらになりますか?」


「―78800YENだ」


「口座払いでお願いします」


「おぅ」



 情報端末を使い口座から支払う。



「よし、入金を確認した。PTRDはそれで最後だ大事にしろよ。PTRSもなくなったし、これで店内も片付く」



 かなりの厄介物だったらしい。



「そんなに売れてるんですか?」


「いや、売れてないぞ。そもそもモノがなかっただけだ。PTRDなんてもともと一つしか仕入れてねぇ」


「PTRSがあったんですね。最初に来たときから見なかったのでないのかと思ってました」


「おまえ、PTRSを知ってるのか。アナザーはここの武器に詳しいんだな。PTRDの倍くらいの値段だったがあったモノは売れたな。どんな奴が買っていったかは教えてやれねぇが」


 PTRSはこっちでは国民的アニメのおかげで有名なんだよ。興味を持った人には…



「知りたくありませんよ。世の中には知らない方がいいことなんてたくさんありますからね。ただ、PTRSとPTRDが並んでたら迷ったと思うので無かったのは逆に幸運でした」


「PTRSな、あれはコイツよりさらにでかくて重いぞ。ジャムらなければ良い銃なんだ。この弾をさくさく撃てるぞ、ジャムらなければな」


「いやいや、そんなジャムらないでしょ?」


「そりゃ、そんなに頻繁にジャムったら欠陥だ。ただ、ジャムって欲しくないときにジャムるのが問題なんだよ。一部のもんはその要素を極端に排除したがるし」



 はい、アースにもマーフィーさんはいるようです。


 しかも銃がジャムるとか、またも知りたくない情報が集まってくる。今日は厄日か?


 そんな日に新しい武器を買っているのか俺は… 開拓者だな。


 バッグに対物ライフルの弾を入れ終わったので腰に取り付け、ハンドキャノンの弾をポケットにしまった。



「じゃ、俺はジャムらない神様に祈っときます」


「おまえが持ってる銃は単発の方が多いけどな」


「では、また来ます」


「おぅ、気を付けろよ。銃で店に傷つけたりすんなよ」



 そっちか。



「わかってますよ、一応気をつけてます」



 対物ライフルの持ち方をあれこれ考える。


 一旦対物ライフルのストックを床に置いて縦にする。


 親指側にトリガーがくるようにピストルグリップを左手で握る。


 バレルを左肩にかけて持ち上げる。こんな感じだな。慎重に歩き始めた。


 店の扉を出るところが一番の難所だ。店内は天井が高いから問題ないのだが扉の枠は低いので肩にかける角度を変えなければぶつかってしまう。


 左手に持っているピストルグリップの近くを右手で支え少し持ち上げる。


 今度は左右に注意しなければいけない。とても疲れる。


 何とか武器屋の外に出ることができた。今度からこの謎の作業が建物を出入りするたびに強要される。


 まさに今思い知る。楽しいことが10%でその準備が90%くらいあることに。


 この作業が報われることを信じたい。


 さて、これからは浜辺で試射だ。傭兵事務所の射撃訓練場でこれを撃つのは気が引ける。撃たせてくれないかもしれないし。


 さっさと移動しよう。




 浜辺に到着。途中重たいので何度も持ち替えた。両方の肩というか鎖骨が痛い。


 まずは場所の選定だが、前回のハンドキャノンの試射で使用した岩付近にしよう。暗くなってきているし時間をかけたくない。


 跳弾が怖いが的を別途大きめの流木でも使えば大丈夫だろう。


 まず、岩に向かい対物ライフルを置く。体が軽い。


 流木を探す。その際浜辺に面白い物が漂着してないかも注意しながら。



「あれぇ、これ、この宝石の原石のような、この石は。どっかで見たよな今日。やっぱ、これってアレだよなぁ。いやぁ、今日は良い日じゃないくわなぁ」



 誰もいないのに白々しい口調で魔石の発見を喜んだ。寂しい。


 ただ、こんなところで魔石を発見できるとは、魔石狩りの季節到来か…


 手頃な流木を発見したし岩に戻ろう。



 岩の前に流木を置き準備完了だ。


 対物ライフルを持ち、この流木が見えるギリギリのところまで離れる。


 バイポッドを立てて地面に置き伏せる。伏射で流木を狙ってみよう。


 その前にステータスを確認しておく。



 能力:筋力9 体力6 耐久5 敏捷4 器用5 知力1 精神1

 スキル:拳銃2



 【筋力】の伸びが良い。【知力】と【精神】は相変わらずだった。確認終了。


 ボルトを起こして引き腰のバッグから取り出した弾を装填する。そしてボルトを押して倒す。セーフティーを確認。


 しっかりとバットプレートを右肩にあて、チークピースに右頬をつける。


 バレルから左にずれているサイト越しに流木を狙う。


 世紀の一瞬である。肩がどうにかなってもゲームだから問題ない。だろう。



「よし、3、2、1、―」



 結構な衝撃が右肩に走る。音はそこまで大きくない。マズルフラッシュが素敵だった。


 思った程凄いことが身の回りで起きたりはしなかった。ちょっと拍子抜けだ。


 しかし、きちんと命中した。届かなかったらどうしようかと思ったが杞憂だった。命中した流木は… というかどこかへ飛んでいったようだ。流木の行方が気になる。人に当たったりしませんように。


 おかげで威力の判断が全くできなかった。


 ステータスを確認する。



 能力:筋力10 体力6 耐久6 敏捷4 器用5 知力1 精神1

 スキル:拳銃2 対物小銃1



 1発でスキルを習得。能力も【筋力】【耐久】が1ずつ上昇。素晴らしい。


 【対物小銃1】のスキル説明を表示してみる。



”対物小銃の扱いが上手くなる。命中率が5%上昇”



 予想通りの内容だ。


 ここは奮発して、もう1発撃っておこう。楽しい。


 岩に向かいながら適当な流木を探す。


 流木を岩の前に置いて足早に対物ライフルまで戻る。


 位置について次弾の用意をする。



「いきますよ。―」



 心地良い衝撃が全身を通り抜けた。今度も流木はさよならだった。


 ステータスを確認する。



 能力:筋力11 体力6 耐久7 敏捷4 器用5 知力1 精神1

 スキル:拳銃2 対物小銃1



 撃つたびに【筋力】【耐久】が1ずつ上昇するようだ。これは美味しい。


 能力が上がらなくなるまで撃ち続けたい。しかし、この弾は1発1000YENもするのだ。対物ライフルの値段を知っていたので計算したら判明した。


 威力はきっと凄いと思う。そこは心配していないが今の俺には1発1000YENは厳しい。


 今後の為に腰射ちをしたい。したいが…


 はい、諦めました。意気地はありません。


 対物ライフルから空薬莢を取り出しバイポッドを折りたたむ。


 空薬莢は銃から離れると数秒後に霧散する。確認したことはないが撃った弾の方も消えただろう。いつもの光景なのだがいつ見ても不思議な光景だ。


 ゲームだから当たり前なのだが、こうリアルだとすぐそのことを忘れてしまう。


 対物ライフルのピストルグリップを持ち肩にかける。気持ち軽くなったような気がしないでもない。


 今後はこの状態でモンスターの攻撃に対処しなくてはいけない場面も出てくるだろう。前途多難である。


 最終的にはこれを腰射ちしながら戦闘したい。そんなことを妄想しながら傭兵事務所に向かった。




 傭兵事務所の入り口を慎重に通り抜けて射撃訓練場に行く。


 いつものように銃弾販売所でハンドガンの弾を60発購入する。


 空カウンターに移動して対物ライフルを床に置く。


 ハンドガンの全てのマガジンに入っている弾を撃ちきる。今後の為にも全部片手で撃った。フルオート?知りませんねぇ。


 ステータスを確認したが【筋力】【器用】が1ずつ上昇しただけだった。


 いちいち対物ライフルを移動させるのを面倒に思いながら休憩スペースへ。


 そして、マガジンへの弾込めという苦行を味わった。いつもの苦い味だ。


 振り返ると今日はかなりの過密スケジュールだった。牛丼を食べてログアウトすることに決めた。



 牛丼屋へ向かい扉をくぐる。


 対物ライフルのバレルが扉の枠にぶつかり、その音が店内に響く。


 慌てて店の外に出て対物ライフルを横の壁に立てかけた。店内に置くには狭すぎる。ただ、盗られたりしないか心配だ。


 何食わぬ顔をして再び店内に入り大盛牛丼を注文して急いで食べた。


 カウンターにお金を置きお茶を飲み切って店を出る。


 対物ライフルが盗られていないことを喜びつつ担いで公園に向かう。


 せっかく牛丼の大盛を食べたというのに覚えているのはお茶の味だけだった。



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