13-AK女子
今日の仕事を探そう。リアルでは考えられない真面目さだ。思わず笑ってしまう。
傭兵事務所に入り依頼掲示板で依頼を探す。
依頼掲示板の依頼用紙を見るのも一苦労である。これは直接依頼窓口に行くか…
「すみません。昨日頬に血を付けてた方ですよね?」
すごい声のかけられ方だ。新鮮すぎて頭が痛い。
「そうですけど、血は好きで付けてたわけではありません。気がつかなかっただけで…」
「そんなことより、あちらの方がランドマークに行けそうにないと心配して動かないのでついて行ってくれませんか?」
「そんなことって… 俺の案内できるランドマークなんて一つだけですけど」
(大丈夫です。その一つですから。これを早くどこかに持っていって)
「ランドマークは防衛櫓08-0102ですから問題ありません」
「そうですか」
さて、問題の傭兵はどんな奴なのか―
苦笑いを浮かべてこっちを見ている女がいた。アイツだ。
「アイツか…」
「知り合いですか?」
「いえ、知り合いではないです。わかりました。案内します。それで俺も同じ防衛依頼を受けることはできますか?」
「はい、もちろんできますよ。まず、あちらのカウンターへどうぞ」
受け付けのお姉さんがアイツの隣に椅子を用意してくれたので、そこへ座る。
アイツに軽く会釈する。
「シグレさん、傭兵カードを貸してください」
「どうぞ」
「マユミ様、こちらの方がランドマークまでの案内をしてくれますので問題は解決しましたね。防衛依頼、よろしくお願いします」
「はい、わかりました」
マユミという名前なのか。嫌がっているのか安心しているのか判断できない表情だ。
「シグレさん、傭兵カードをお返しします。説明は必要ですか?」
「防衛櫓08-0102の防衛依頼ってことですよね?問題ありません」
「その通りです。それではよろしくお願いします」
傭兵カードを受け取り席を立つ。
なぜ、お姉さんは俺だけ”さん”なのか。謎だけが深まる。
「マユミさんでしたか、とりあえず傭兵事務所を出ましょう」
「はい」
傭兵事務所を出て人の往来の邪魔にならない壁際に移動した。
マユミさんの背は俺より頭半分くらい低い。しっかりとAKを抱えている。リュックサックもちゃんとあるみたいだ。
「な、何よ。ジロジロ見ないで。私はマユミ。よろしく」
「俺はシグレです。よろしくお願いします」
「なんなの、その喋り方。普通でいいわ、普通で」
「これが普通ですよ。さっそく移動しましょう。忘れ物とかないですよね?」
「今忘れ物に気づけるなら世界には忘れ物なんて存在しないと思うわ」
「なら大丈夫でしょう」
するどい。いきなりタメ口をきくわりには頭が回ってそうだ。それとも年下に見られているのか。美人さんなんだからもう少し物腰が柔らかくてもいいのでは…
切り替え、切り替え。
移動しよう。基地を南に迂回して西に進むだけだ。一度歩いた道なので何の心配もない。
西の道に入ったところで話題を振ってみた。
「マユミさん、よくこのゲームをプレイする気になりましたね。あのプロモーションビデオに女子を惹きつけるようなものがあったとは思いませんが」
「その喋り方ぁ… もう、いいわ。いくつかのVRMMORPGをプレイしたんだけどリアルすぎて近接武器で敵を斬った感触がどうにもならないの」
マユミさんは喋り方を気にしているが初対面の異性にタメ口は普通じゃないと思うけどな。最近の若い娘はこうなのだろうか。
ただ、理由自体はわりと普通だった。昨今のVRMMORPGはリアルを追及するあまり戦闘が結構凄惨になりがちなのだ。そこをうまく誤魔化しているものもあるのだが、そうすると他にしわ寄せが行き違和感が生まれてくる。非常に難しい問題なのだ。
「わかります。俺も苦手です。でも、それなら、このゲームも同じかもしれないし遠距離職を選ぶということもできたはずでは」
「遠距離職は性に合わないの」
「えっ、このゲームって実質遠距離職を選んだのと同じなのでは」
「プロモーションビデオでAKを見たの。AKはAK。私の職はAK使いよ」
すごい職が爆誕した。近接武器でどうとか関係ないじゃん。見かけによらずこんな面白い女子がいるとは世の中は広いなぁ。
防衛櫓09-0001を目指しつつ話を続ける。
「そのAKは武器屋のマスターが勧めてくれたんですか?」
「えっ?AKくらい自分で選ばなくてどうするの?死ぬの?変な銃を選ぶイコール死よ」
「じゃ、迷わずそのAKを選んだんですね」
「いや、迷ったわよ。そりゃぁもう。AKとAKSで。最終的には屋内戦闘を考えてストックが折りたためるAKSに軍配が上がったわ。そう言うシグレの武器は何?」
「えっと、M712ですけど」
「ふーん、貧弱そうね」
「そうですねー」
このAKダイスキーが。ハンドガンをなめるなよ。いずれ対物ライフル買うからな。
「ハンドガンは持たなくていいんですか?」
「お金が苦しくなるし、なるべく種類を絞った方がスキル的にも良さそう」
結構考えている。ただのAK女子ではないらしい。
「それに、AKを信じていればカラシニコフさんが微笑んでくれるのよ」
おっさんが微笑んでくれると何が良いのかわからないが良かったねカラシニコフさん、女子が喜んで使ってるよ。
「AKが売ってなかったら、どの銃にしたんですか?」
「何、喧嘩売ってるの?AKがないとかないから。そんな心配する必要なんてない。強いて言うならI型だったら重たいので、どの型のAKなのかが重要だったわ。重たいと余計に肩がこるし」
どうやら住んでいる次元が違うようだ。
重たいと余計に肩がこるとかのたまっている。この体って肩、こるのか?
その後もAK話を防衛櫓に着くまで聞かされる。カスタムセレクターレバーがお気に入りらしい。なんでもストックを折りたたんだままでもセレクターレバーの操作がしやすいらしい。実演までされた。知らんわそんなの。
耳にたこが大量生産されそうになったころ防衛櫓09-0001に着いた。
「あれが防衛櫓なのね。なんかものすごい櫓って感じ。防衛櫓08-0102はアレと同じ形なの?」
「そうです。それでここら辺りから都市の外になるんですが会話はどうします?」
「どうするって… イヤホンつけないといけないのね、ここからは」
「ええ、グローバルチャンネルで話し続けるのはまずいと思いますけどグローバルチャンネルで話しますか?」
「流石にそれはまずいというか恥ずかしい。だからと言って喋らずに依頼を終わらせるのも無理だと思う。何かある?」
「俺も知りません。じゃ、情報端末のアプリを探してみますか?」
「わかったわ」
情報端末を取り出す。チャットアプリはすぐに見つかった。使い方に悪戦苦闘しつつ、ようやくグループを作ってそこで会話できることを発見した。
これでグローバルチャンネルに会話を垂れ流すことは避けられた。が、グループに招待するにはアドレスが登録されていないとできずアドレスを交換することになった。
マユミさんは非常に不服そうな顔でしぶしぶアドレス交換に応じた。
「そんな嫌な顔をしないでくださいよ。ストーカーみたいなことはしませんから」
「顔に出てた?そこまで嫌じゃないのよ、ホント。あぁ、嬉しいわぁ。こんな喋り方が変で貧弱なハンドガン持ちの男がフレンドリストに入るなんて、あぁ、今日は最高の日だわぁ」
ひどい言われようである。俺は受付のお姉さんとアドレス交換したいなぁ。
「で、ここから先が都市の外になりますがマユミさん自分で地図を見ながら目的地を目指してみますか?それとも俺が先導しましょうか?」
「シグレが先導して、お願い、します」
早い、即答か。何かトラウマでもあるのか。
「了解。それじゃ、イヤホンを忘れずにつけて索敵もちゃんとしてくださいよ」
「わかってるわよ」
ここからも一度歩いた道だ。迷う心配をせずに目的地を目指せる。気持ち的には非常に楽だ。マユミさんは緊張しているようだが初めてなら仕方がない。
視界を遮るものが瓦礫と白い霧だけになる。索敵に集中しながら交差点を通り過ぎた。
「外はこんな風になってるのね。ただでさえ霧で見通しの悪いとこに瓦礫が続くと私一人では無理だったわ」
「今から行くところは道があるので道を選び間違わなければ迷いませんよ」
「……」
え、何この沈黙。
黙々と歩き続け標識まで到着した。
「ここまで迷う要素なかったでしょ?」
「………」
ええええ、何この沈黙。
不思議な顔をしたマユミさんが標識に近づいてきた。
「これが標識なのね。で、どのくらいまで来たの?」
「だいたい3分の2くらいです」
「結構遠いのね」
「ここからは舗装されていない細い道なのでちゃんとついてきてください」
「だ、大丈夫よ」
5分くらい歩くと民家が見えてくる。
「あの民家に昨日はウルフがいたので注意してください」
「ウルフって狼?」
「狼です。犬にも見えましたけどね」
民家を慎重に警戒して通り過ぎる。
マユミさんがきちんとついてきているか確認をしつつ歩みを進める。
何事もなく防衛櫓08-0102に到着。防衛櫓の兵士と軽く挨拶をした。
「マユミさん、防衛櫓の兵士に挨拶してきました。一人で来たときはきちんと兵士と応対してください」
(一人で来ることなんてないけど)
「わかったわ。で、写真を撮ればいいのね」
「そうです。きちんと番号を入れて撮ってくださいよ」
防衛櫓の写真を撮る。一応マユミさんの撮った写真も確認した。うまく撮れていた。
前回と同じ南の畑に入ることにする。
「ここでは戦闘しても意味がないので移動します」
防衛櫓が見えなくなった辺りで、さらに南に向かおうとするとゴブリンの姿が目に入った。どうやら集団のようだ。いきなりだな。
5〜6匹くらいのゴブリンがこちらに向かって来ている。気づかれていなくてもこちらには遮蔽物がないので時間の問題だろう。
距離は80メートルくらいなのか。このくらいになるとおおよその距離ですら正直よくわからない。
「マユミさん、アサルトライフルでここからゴブリンやれそうですか?」
「AKだって、どのくらいが最適距離なのかさっぱりわからないから、ここで適当な距離に近づいたゴブリンを撃つわ。あとはよろしく」
「了解。こっちは10メートルが戦闘距離なので近距離に迫ってきたのを撃ちます。安心してください」
ひょっとしたら、20メートルはいけるかもしれないが無駄弾を撃ちたくない。
「ちっか、10メートルって、これだからAKを選ばない男は…」
「ハンドガンにはハンドガンの戦い方があるんですよ」
マユミさんは、だいたい50メートルくらいの距離で撃ち始めた。最適距離を探しているのだろう。ゴブリンは依然としてゆっくり歩いてくるだけだ。なめられているのか?
30メートルくらいだろうかゴブリンが倒れた。それを見た他のゴブリン達は一斉に走り出した。ぐんぐん距離が縮まる。
ゴブリンが集団で向かって来ているというのに、マユミさんは動じず逆に当てやすそうに撃ち続けていた。
AK使いと自称するだけあってなかなかさまになっている。さぞかし射撃訓練を頑張ったのだろう。
10メートルまで近づいたゴブリンが2匹いたので俺もハンドガンで2発ずつ撃つ。
きちんとゴブリンの頭に命中した。成長を実感できることは楽しい。
最後のゴブリンはアサルトライフルとハンドガンの弾を受けオーバーキル状態だった。ご愁傷様。
「お疲れ様。一人でも大丈夫でしたね」
「最後は少し焦ったわ。練習にもなったし、ありがと」
「こっちもスキル上げをしたいので問題ありません。それじゃ回収しに行きましょう。俺は今回ドロップいりませんから」
「え?それ、おかしくない?」
「おかしいですか?そもそも俺は案内役ですよ」
「あぁ、そういう認識なのね。じゃ、とりあえず全部私が貰うけど、あとで案内料を払うわ。これなら問題ないでしょ」
「マユミさんが、そうしたいなら」
二人で手分けしてドロップを回収する。マテリアルは見つからず魔石をあわせて6個回収した。
「これが魔石、なのね。傭兵事務所で見せてもらったのと大きさや色、形も違うけど綺麗だわ」
「戦闘はどうでした?続けられそうですか?」
「それは大丈夫。AK使いは伊達じゃないわ。だいたいの戦闘距離もわかったし」
すごいかっこいいことを言っているようなのだがいまいちピンとこない。
「それで、どのくらい防衛しますか?」
「今が14時40分だから3時間くらい。どう?」
「3時間だと帰りの道が少し暗くなりますけど大丈夫ですか?」
「2時間に、します」
「了解」
リュックサックから水筒を取り出し水を飲む。マユミさんがこっちをジッと見つめている。
「飲みますか?」
コッヘルに水を汲んで差し出した。
「気にしなくていいわ」
マユミさんはすばやくコッヘルではなく水筒を掴むと水をごくごく飲みだした。
今度はリュックサックから弁当箱を取り出す。すると目をキラキラさせた獣が現れた。
「えーと、おにぎり、食べます?」
獣のお腹から音がした。お腹は正直である。
「貰ってもいいの?何も出ないわよ」
「梅干しと鮭と野沢菜、どれにします?」
「鮭をお願い」
「どうぞ」
獣はおにぎりを美味しそうに食べ、水を飲む。それ、俺の水筒だから忘れないで。
俺は梅干しのおにぎりを食べた。こういう場所だがやっぱり美味しい。
「すごく美味しい。どこで買ったの?」
「傭兵事務所横の露店です。もう一つ食べますか?」
「いいの?ありがと うございます」
うん?言葉が…
獣はさらにおにぎりを食べる。当然水筒は離さなかった。




