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105-兆し


 マユミさんの視線が俺に張り付いている。彼女の頭の中で俺は今まさに関節技をかけられているのかもしれない。AKが好きなだけでなく関節技、格闘も好きとか…


 どう生きてきたら、そんなことになってしまうのか。それでいて、ちゃんと家庭的なところもあるというアンバランス。さっきの料理も大変美味しゅうございました。



「関節技より、さっきの料理。アースで食べたヤドカリのような味が少ししましたけど、カニとか入ってたんですか?」


「ヤドカリ?カニ?そんな凄いものは入ってません。まぁ、入っていればアクセントにはなったかもしれませんが」


「じゃ、風邪で味覚がおかしくなっているのか、アースの感覚が残っていたのかもしれないですね」



 異世界症候群のわかりやすい症状がとうとう俺にも… ま、でも、美味しい方向なので、これはこれでいいんじゃないかな。



「シグレさん、VRゲームのしすぎで異世界症候群になったとか言いませんよね?」


「マユミさんは、異世界症候群を知っているんですね」


「ユミカです。ニュースでも結構な頻度で出てきますし、それにドキュメンタリー番組とかでも」


「そうですか」


「で、どうなんですか?」


「完全に否定できないのが怖いところなんですが、今のところ実害はありませんから問題ないです」


「今のところはって。異世界症候群って見えないものが見えたりして五感がゲームの中だと錯覚するっていうのですよね?大丈夫なんですか?」


「だから、大丈夫ですって。それに見えないものが見えたりしたらファンタジーじゃないですか」


「私は嫌です。幽霊とか見たくありませんから」


「俺だって幽霊はちょっと勘弁して欲しいです。でも、料理とかが美味しく食べられたりするし」


「それは、私の料理が美味しくないと言っているんですか?」



 まずい。いや、美味しい。ち、違う。まずい。座っているマユミさんが、なぜか中腰の姿勢に。まさかとは思うけど病人に関節技とかは常識的に考えてしませんよね?



「そ、そんなことないです。とても美味しかったです。また、食べたいです」



 マユミさんの腰がスーっと下りていく。危なかった。



「シグレさん、言動には気を付けてください。病人でもシグレさんには容赦しませんから。ここにはポーションなんてありませんので、かなり苦しむことになると思います」



 わかっているのなら病人に止めを刺すようなことはしないでください。少しは労って。


 ここは病人をアピールするためにも、マユミさんにもらった薬を飲んでおく。そして、あとはぐっすり休めばコンボ達成なのだが、俺のベッドはアオイちゃんに占領されていた。熱い視線を抗議の意味オンリーで送る。



「シグレさん、目がエッチですよ」


「気のせいです」


「そういえば、霊能者とかって、どう思います?あの人達も普通の人には見えないものが見えていたりするんですよね?」


「VRゲームでもしているんですかね?」



 マユミさんの冷たい視線が俺に突き刺さる。避けるのは無理だった。



「アホですね」


「よく言われます」


「私の従姉妹にもいるんです。不思議な子が」


「V―」



 マユミさんの腰が上に…



「冗談です。続けてください。霊能者ですか?」


「いえ、霊が見えるとかそんなんじゃないんです。ただ、描いている絵を見せてもらったことがあって、その絵がちょっと不思議な絵で」


「不思議な絵ですか」


「その子が近所のお寺で描いた絵なんですが、その絵には普通の木に混ざって真っ黒で枝一つない大きな木、みたいなのが描かれているんです」



 うん?



「それって、ファンタジーとか関係なく風景を描いているんですよね?」


「そうなんです。私も創作かと思って聞いてみたんですが、確かにそこにあるそうです。黒い柱のようなものが」


「で、実際あるんですか?」


「いえ、ないと思います。あったら騒ぎになっています」


「ち、ちなみにですけど、その子が病気とか?」


「いえ、そんなことはなく健康で可愛い女の子です。犯罪になりますから紹介しませんけど」



 うん?犯罪?



「V―」



 あれ?今度は腰が上がらない。通ったのか?



「ゲームくらいはするでしょう。でも、その子は、絵以外おかしなところを見たことはありません。その子のお母さんとも仲がいいのでよく話しますが、いたって普通の子だそうです。犯罪になりますから、その美人のお母さんも紹介しませんけど」



 うん??犯罪??



「いやぁ、アースじゃなくてリアルでも不思議なことは多いようですね。アハハハ。で、その美人のお母さんのお歳は?」



 マユミさんはスーっと立ち上がり、俺の後ろの方に回っていった。歳くらいで、まさか。


 そして、俺の首ににゅるっと腕が巻き付いてくる。



「シグレさん、どうやら少し眠ったほうがいいようですね。私がお手伝いします。記憶の整理も必要でしょう」



 病人だって。マジで。すぐにマユミさんの腕をパンパンする。


 が、巻き付いた腕は緩むどころかジワジワ絞まっていった。



「病人、病人。熱、熱。ナギさん、ナギさん」


「私は病人の介護をしているだけですから安心してください」



 安心できねぇ。誰か助けて。


 あ、アオイちゃんが戻ってきた。



「アオイちゃん、助けて。お、お姉ちゃんが、で、殿中です」


「シグレさんの言っている意味が全くわかりません。それにお姉ちゃんといつの間にか仲良くなってて嬉しいです。それと、ナギさんが、今日はこっちに顔を出さずにゆっくり休んでくださいと言ってました」


「いいから、た、助けて」


「シグレさん、おやすみなさい」



 病、人、な、の、に、ぃ。





 目が、覚めた。いつの間にかベッドで寝ていたようだ。コンビニから帰ってきてからの記憶がハッキリしない。


 ひどい夢だった。またしても悪夢が俺を襲っていた。


 メロンパンを執拗に食べてアースに行く妹、美味しい料理を食べさせておいて首を絞めてくる姉。同じような夢を2回も見るとは。こちらの世界に、神様はいないようだ。


 体を起こし目に入ってくる光景に違和感を少し感じる。散らばっていたものが部屋の隅に移動している気がしないでもない。



「体調が良くなってる」



 栄養と薬からの睡眠コンボの効果が現れているようだ。熱は下がり頭痛もかなり治まっていた。あともう1回コンボがきまれば憂いなくアースに行けそうだ。が、薬に頼りすぎるのはよくない。ここからは栄養と睡眠からの気合で何とかしよう。病は気からというからな、気合で何とかなるはずだ。


 まずはシャワーして着替えだ。今ならシャワーも問題ないだろう。



 シャワーしてきた。汗を流せてスッキリだ。冷蔵庫からほうじ茶を取り出して飲む。


 台所のシンクの横に知らない紙袋が置かれていた。味気ない紙袋だ。中を覗いてみる。



「メロンパン?」



 メロンパンのようなパンがいくつか入っていた。俺の知識ではメロンパンとしか言いようがないパンだった。どうして、ここに?まさか、泥棒?


 玄関のドアを確認してみる。



「か、鍵がかかっていない」



 汗を流してスッキリしたところに冷や汗が流れる。急に落ち着かなくなってきた。と、とりあえず、鍵をかけておく。



「何か、盗られた?」



 冷蔵庫にほうじ茶をしまい、財布を確認する。いつも同じところに置いているから確認はすぐだ。


 恐る恐る財布があるべき場所に視線を送る。



「あ、ある。良かった」



 もしかして、中身がない?


 急いで財布を手に取り中身を確認する。



「問題、なし」



 偉人の方が少ないのが気になるが、これはいつものことだった。クレカや免許証も変わらず収まっていた。一応免許証を確認する。顔写真にイタズラされていたら大変だ。


 しかし、顔写真は冴えない男のまま何も変わっていない。写真写りが悪いだけで男が残念とかそういうのではない。と思いたい。


 うん?じゃ、メロンパンが増えただけ?何のために。まさか…



「毒!」



 こればかりは確認ができない。ど、どうしよう。


 切り替え、切り替え。


 メロンパンは保留ということにする。カビる前に解決したい。はい、終わり。


 さて、謎の不審者の行動を考える。泥棒の要素が少ないので不審者とした。メロンパンを置いていっただけとは思えない。


 もしかして部屋に散らばっていたものを隅に移動させたのも、その不審者の仕業?いったい何がしたいのか?


 人に恨まれるようなことはしていない。と思う。アースでは、掲示板を出禁になるようなことをしたかもしれないが、これだって出禁と決めたのは自分で本当のところは誰にも気にされていないかもしれない。


 ただ一つハッキリしていることは、誰かに目をつけられたということだろう。これは、引っ越しも視野に入れなくてはいけないのか。今はそんな余裕はないというのに。


 はい、切り替え、切り替え。


 まだ、風邪が完全に治っていないというのに頭の痛いことを増やさないで欲しい。


 時間は14時23分。第二次大戦が開始しているはず。何か起きていないかチェックでもしよう。パソコンの電源を入れ、る?


 パソコンのキーボードの上に紙が二つ折りにされて置かれていた。OSの起動画面をバックに、その紙を開いてみる。



”シグレさん、ここにワタシとお姉ちゃんの情報を残しておきます。今まで教えそびれていた分です。これを読んだらすぐにスマホに登録してください。あと、メロンパンも置いて帰ります。美味しいですよ。 アオイちゃんより”



「なんじゃ、こりゃぁ」



 と驚きながらも二人の情報をせっせとスマホに入力する。意味のわからない数値が書かれていたが、それも残さず入力した。いつか必要になるかもしれない。



 ポチポチっと、入力完了。俺のスマホの寂しいアドレス帳が少し賑やかになった。いやぁ、アオイちゃんがちゃんと重要情報を教えてくれるとは、爆弾とはいえいい娘じゃないか。グヒヒヒヒヒ。特にこの数値。これには夢が詰まっていそうだ。


 そして、不審者の謎も解けた。というか、あの悪夢は、夢じゃなく現実だったのか。ということは、この世界には、フランスパン革命派やメロン型原理主義が存在することになる…


 あれ?現実だったらだったで問題じゃないか。狂った組織はほおっておいても、一人はメロンパンを食べてアースに行き、もう一人は料理を食べさせ俺を気絶させた。おかげで、すぐ眠ることができたようだが。


 いやいやいや、他にやり方があったはずだ。ちょっと話の流れがおかしくなったくらいで、あれとは… マユミさんと付き合う人は大変だな。ご愁傷さま。


 だいたい、リアルでは初対面だというのにあの所業。喋り方こそ丁寧になっているがアースと同じで鬼だな。病人をもっと労って欲しい。お見舞いに来たんでしょ?


 いかん、頭が痛くなってきた。ちょ、ちょっと落ち着こう。さっき食べたであろうあの料理を思い出せ…


 結果的に良い方向に向かったのは事実だし、良しとしようじゃないか。メロンパンと重要情報もゲットできている。この情報は犠牲を払ってでも手に入れるべきものだろう。


 切り替え、切り替え。


 全ての問題が解決したところでメロンパンの紙袋を持ってきて改めてパソコンの前に座る。


 パソコンを待たせたようで、せっかく起動したのにスネたのかサスペンドしていた。



「かわいいのぅ」



 スネたパソコンを起こしブラウザを起動。まずは公式ホームページからチェックしてみよう。


 『Another Earth Online』の公式ホームページは相変わらず、やる気がなかった。あのプロモーションビデオが再生されているだけで告知の類は一切な…


 あ、下の方にお知らせ欄があった。小さいし何でスクロールしなきゃいけないの?こういうのは、もっと目立つところに置いて。


 で、内容は―



”第二次大戦、開始”



 それだけかよ!もっと、こうプレイヤーを煽ってこいよ!!あと、アップデートは?パッチ情報とかあったりしないの?


 他のゲームの公式ホームページと違ってうるさくないのはいいのだが、これで大丈夫なのか心配になってしまう。ちゃんと儲かってる?プレイヤーは集まってきてる?


 既存のまっとうにプレイしているプレイヤーを心配させるのはやめて欲しい。そこそこ順調にキャラが育ってきているというのに、サービスがいきなり終了とかされたら泣くよ。マジで。アースの人に会えなくなるのも、ちょ、ちょっと寂しいし。


 ここはせめて兵器、銃器紹介のページだけでも都市ごとに用意してみるとかするれば、人増えるでしょ?日本のホームページなんだから日本の都市だけでもいいじゃん。


 あ、でも、シーズンごとに都市が変わる可能性もあるのか。いや、しかし、同じ可能性もある。その辺の説明も全くないんだよなぁ。ゲームサイトやゲーム雑誌にも情報がないし。


 このままはもったいないんだよな。装甲歩兵や歩行戦車が乗れるVRMMOは他にない。ま、その兵器達は管理が大変そうだけど。


 切り替え、切り替え。


 掲示板チェックを始めよう。病人なので総合スレだけでいいかな。



「あれ?都市スレが増えてる」



 ”ミヤヅ”と”ムツ”が増えていた。


 こ、これは、第二次大戦の都市は第一次大戦の都市とかぶっていないということか。



「嘘だろ。どうやって開発してんの?」



 無意識に齧ったメロンパンから梅の味がした。



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