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100-設計図


「おじいちゃん、来たよ!」


「お邪魔します」



 二人の声が狭い事務所?店に響く。誰もいないようで返事は、ない。


 開店休業状態の店内はきれいに片付けられており机の上を指でなぞってみても、指はきれいなままだ。荒らされた様子も皆無、となると…



「事件は現場で―」


「シグレさん、何おかしなこと言ってるんですか。この様子だと、おじいちゃんはガレージです。こっち、こっち」



 いきなりの中断だった。俺の中ではアサヒ妄想連続失踪事件として捜査は進み犯人まで辿り着いたというのに。そう、その犯人は―



「あなた、ですね?」


「シグレさん、誰と話しているんですか?それ、ただのアナザー支援ポスターですよ。いいから、早く」



 うーん、このポスターの子も可愛い。お友達になってくれたら犯人の件は考え直してやらんでもない。


 あ、置いていかれた。トシコちゃんを追ってガレージに急ぐ。



 以前来たときも見たバイク屋には似つかわしくないもの、歩行戦車がかなり目立つ場所で装甲等を外され涼しい美脚を披露していた。大小の魔力シリンダーがミッチリと… おっと、いけない。そして、そのそばには、ツナギを着たおじいさんが忙しく手を動かしている。



「おじいちゃん、遊びに来たよ。おまけのシグレさんもいるよ」



 よし、おまけゲット!俺の称号にまた一つ自慢できないものが増えた。しかし、普通のゲームと違ってリスティングされなければ表示もされない。そのうちというかすぐに風化するだろう。ありがたいなぁ、このゲームは。


 ひょっとしたら、トシコちゃんはアオイちゃんの影響を受けてしまっているのかもしれない。かなり、グイグイきだした。お兄さんとしては素直のままのトシコちゃんでいて欲しい。



「トシコか、ようきたの。随分と久しぶりだったりせんか?」


「おじいちゃん、1週間前に来たばかりでしょ。随分っていう感じじゃないと思うなぁ」


「そうだったかの。毎日来てもいいんだぞ、じいちゃんとしては」


「私も、もう働いているから無理なの。都市に貢献できて嬉しいんだから」


「立派になったのう。それで、シグレ。九日ぶりだが、元気にしとったかの?」



 あれぇ、俺の場合は覚えてるんだ。おかしくない?



「え、ええ、一応元気です。近くに危険人物が多くて毎日死にそうですけど」


「そうか元気そうでなによりだの。それで、今日は孫の護衛しとるのか?」



 肝心なところをサラッと流されたな。切実なところだったのに。



「あ、はい。護衛、かもしれません」


「おじいちゃん、聞いて。お父さんは最初、シグレさんだけおじいちゃんのところに行かせようとしてたの。おかしいでしょ?」


「うん?トシコが仕事に熱心だったからではないかの」


「仕事中でも、シグレさんだけ美味しい思いはずるいの。ということで長めの昼休みにしました」


「トシコも色気より食い気ということか。もうすぐ昼なんだが、おまえ達はどうする?」



 食べます。食べます。



「私はまだなんで食べるけど。シグレさんはどうします?」


「じゃ、ごちそうになります」


「なら、トシコ。ミツエに伝えてくれるかの」


「はーい。いってきます。シグレさんはおじいちゃんの相手をしてあげてね」



 トシコちゃんは軽快な足取りでガレージからいなくなった。


 残される俺とおじいさんと機械達。


 えーと、話題、話題。



「シグレ、バイクの調子はどうかの。故障はしとらんか?」



 買ってからあまり乗れていないのが現実なんだよな。おっかしいなぁ。もっと、こう、いつでもどこでも足として使うはずだったんだけどなぁ。



「え、ええ。調子は、いいです」


「そうか、それは良かった。ところで、おまえさんは、こういうのに興味はないんかの?」



 目の前の歩行戦車のことを言っているんだろう。それとも、もっと突っ込んだところで2脚や4脚、形状のことを言っているのだろうか?



「もちろん、興味あります。というか、ここってバイク屋ですよね?最近は、歩行戦車も扱っているんですか?」


「バイクはほとんど需要がない。売り物は魔力支援自転車がある。おまえさん達アナザーが増えた今、これくらい弄れんとそのうち都市に貢献できなくなるかもしれんからの。それと、装甲歩兵の方はわしには合わんかった」



 おじいさんもいろいろ考えているようだ。俺以外にアオイちゃんも興味を持っているから非常に助かる。アオイちゃんのことだから欲しいと言うに決まっている。しかし、ねだられてもどうにもならない値段だろう。値段を聞く気もおきない。


 それにしても、自転車の在庫は見当たらない。店に数台あるくらいだ。ここではないところに在庫を置いているのだろうか?ま、バイクの在庫もないんだが。


 あ、でも、奥の方にいつかのバイクはあるようだ。俺のバイクの救出を手伝ってくれたバイクだ。元気にしているようでなによりだ。


 ガレージの前の方にも取り囲むように機械というかガラクタはあるのだが、完成品のようなものを見つけることはできなかった。



「売り物の自転車、それにバイクも見当たりませんけど…」


「そりゃあ、そうだろう。注文を受けてからつくるのが普通だからの。おまえさんみたいに持ち込みというのはほとんどない。在庫を用意しておいても邪魔になるだけだからの」



 そうか、そうか。そうだった。リアルでも、だいたいそうだ。代理店とかだとメーカーに発注するんだよな。


 あれ?でも、ここってメーカーになるんだよな。じゃ、部品とかはどこにあるんだろ?流石にあの山になっているので、つくるとか… ないよな。



「えっと、つくる場合、その部品とかはどうするんですか?見当たりませんけど。もしかして、ここの裏が倉庫だったりとか?」


「うん?部品製造機があるだろ。おまえさんは知らんのか?アナザーの世界でもあれで部品をつくっておるんだろ?」


「アナザーの世界にあんな便利なものは、たぶんないと思います。俺が知らないだけかもしれませんが」



 そうでした。この世界には万能製造機があるんだった。武器屋が在庫販売が基本だったから変な思い込みで肝心なことを隠してしまっていたようだ。



「ということは注文を受けたら部品をつくり、それを組み立てる。あ、そうか、設計図があれば完成品が部品製造機から出てくるんですよね?凄く楽ですね」


「うーん、少し違うのう。流石に部品を出してゼロから一つ一つ組み立てるということはせんが、完成品をいきなり出すということもない。注文によっては変更する箇所があったりするからの。それに対応するためにある程度まとまった部位ごとに設計図を用意しておき、部位を部品製造機で出してから注文に合わせて調整しつつ組み立てになるかの」



 つくる工程は部品製造機でかなり楽が出来ている分、設計図の方にニーズに応えるためやメンテナンスのしやすさなどを考慮する必要があるということか。


 おじいさんは話をしている間も手を休めず何かをしているのだが、何をしているかは全くわからない。



「だとすると設計図をつくるのは、とても大変そうですね」


「それが設計図をつくるだけなら、難しくはない。ただ、部品製造機に入れるだけだからの」


「そうなんですか。俺はてっきりノートパソコン、あ、ノートパソコンっていうのは、事務所にあるあの黒いポチポチするヤツ。で線とか引いてつくるものかと思ってました」


「いや、その方法もある。わしは主に修正にしか使っておらんが。構成素材や成分とかはさっぱりわからんからの。部品製造機に入れた場合、それと同じものをつくる設計図ができる。傷とか摩耗していた場合も当然そのまま再現する設計図になる。そういうのを修正しちゃんと新品ができるようにせんとな」



 うわっ、一気に面倒くさくなってきたな。素材や成分の設定も必要とかゼロからつくるのは、かなり敷居が高いようだ。俺がやるにしても取り込んで修正だけだろうな。


 しかし、これってコピーが簡単につくれたりして。完成品を入れれば簡単にそれの設計図がつくれるんだよな?あれ、コピー天国?



「もしかすると部品製造機って簡単に商品のコピーがつくれてしまうんじゃ?」


「そう思うのも無理はない。しかし、そこは良くできておっての、マテリアルでつくられたものは設計図にならずにマテリアルに戻ってしまうんだ。だから設計図にするためにも最初の一つはつくる必要がある」



 そういえば、マスターもそんなことを言っていたような。そうか、マテリアル産、マテリアル製はマテリアルに戻るのか。不安定な設計図、ガチャからつくられたものも設計図にはできないんだろうなぁ。できたらガチャの意味がないし。


 激しいオリジナル争奪戦が繰り広げられたような気がしないでもないが、アース人の場合はそういうことは起きなかったのかな。



「もしかして、あそこのガラクタの山ってオリジナル?」


「おまえさん、鋭いのう。と言っても少し考えたらわかることだがの。部品取りに使った機械だ。あれはわしの宝の山でもある。秘密だぞ」



 これは、都市の外の物が人によっては宝だったりするのか。回収を専門にしている人もいそうだな。俺も少しはそういうのを探してみよう。


 待てよ。俺の対物ライフルってどっちなんだろ?代わりがない対物ライフルの設計図を何とかしておきたいのだが…



「マテリアル製かどうかを見分ける方法はあるんですか?」


「あると言えばあるが、ないのう」


「どっちですか?」


「その見分ける方法、わしの話の中にあったろう?」



 そんな話あったっけ?


 …


 ……


 あっ!



「部品製造機に入れるんですね?そして、オリジナルなら設計図になりマテリアル製だとマテリアルに戻る」


「そういうことだ。やってみるかの?わしはこの方法しか知らんぞ。それにもう一つ重要なことがある。オリジナルも設計図になると失われるということだ」



 はい、無理です。対物ライフルを失ったら俺のアイデンティティが崩壊してしまう。


 新しいハンドガンもそこそこ凄いのだが、弾を変えたところで攻撃力的にはどうにもならない。


 対物ライフルの設計図の入手は諦めるしかないかもな。需要が高いものからオリジナルがなくなっていくとするとワンチャンあるかもしれないが… やっぱり、無理だ。



「おじいちゃん、シグレさん、お昼ごはんできたよ」


「よし、それでは行くかの」


「はい」



 ガレージの裏は倉庫なんかなく畑になっていた。小さめの畑だ。ここがあれを育てている家庭菜園だろう。しかし、一つ育てれば、これもマテリアルで複製ができたはずだ。なのに、どうして…



「何か面白いものでもあったかの?」


「いえ、そういうわけでは」



 おじいさんの家に到着。立派な和風の家だ。もしかして、おじいさんとおばさまだけで住んでいるのだろうか?使われていない部屋に何かが住み着きそうな雰囲気がある。


 玄関に入るとおばさまが出迎えてくれた。丁寧に靴を脱いであがらせてもらう。



「いらっしゃい、シグレさん」


「お邪魔します」



 おじいさんとトシコちゃんは既にいない。どうして俺を置いていくの?



「シグレさん、どうぞ」


「あ、はい」



 おばさまに案内されて廊下を歩く。なるべくキョロキョロしないように心がけた。



「シグレさん、遅い。早く」


「ごめん、ごめん。何か緊張しちゃって」


「我が家と思ってくつろいでください」


「あ、はい」



 無理無理無理。こっち見ないで早く食べましょう。



「それでは、いただくかの」


「はい、はーい」


「「「「いただきます」」」」




「「「「ごちそうさまでした」」」」



 何を食べたのかさっぱりわからない食事だった。しかし、お腹の方は満足しているようだ。とても美味しかったに違いない。くっそ。熱湯攻めでもしてやろうか。



「おばあちゃん、あれは?」


「はい、はい。今、持ってきますよ」



 よし、あれだな。ここは気合を入れよう。今度はちゃんと味わうぞ。


 おばさまがテーブルの中央にイチゴがたくさん入ったザル?のようなものを置き、取り皿を配ってくれた。ヘタを置くのかな。


 トシコちゃんはフライングをして既に一つ目のイチゴを口に運んでいる。



「うーん、美味しい。ほっぺたが落ちそう。おばあちゃん、最高」


「この前も聞きました。味は同じですよ」


「美味しいものは美味しいの。さぁ、シグレさんも食べて食べて」


「シグレさん、どうぞ。今度はちゃんと味わってくださいね」



 バレてる。いや、何か緊張で味がわからなくて。でも、イチゴは頑張ります。


 それじゃ、俺もイチゴをいただこう。


 中央のザルに手を伸ばす。



「ハッ、ハッ―」



 まずい、急いでテーブルの下に顔を向ける。



「ハッキュシュン。あ、すみません」



 ギリギリセーフだった。誰にも迷惑はかけていないだろう。しかし、なぜくしゃみが。え?この体、風邪引くの?まさかの風邪の状態異常とか。効果はマーフィーさんアシストのもと肝心なときにくしゃみが出てしまって行動が中断されてしまうとかだな… うわっ、面倒くさいヤツだ。気を付けよう。



「シグレさん、風邪ですか?気を付けてください。イチゴたくさん食べると治るかもしれませんよ」


「そんな話は聞いたことありませんが、シグレさん気を付けてください」


「そうだの、体調管理も傭兵の重要な仕事だからの。気を付けんとな」


「ありがとうございます。でも、熱とかないし、どうしたんでしょうね?噂されたとか…」



 それか?そうに違いない。俺が美味しいイチゴを食べようとしているのを勘づかれたか?特にナギさんが怪しい。


 よし、落ち着いた。くしゃみも出そうにない。今度こそイチゴを手に取った。かなりの大きさのイチゴだった。トシコちゃんを見習ってヘタを取りイチゴを口に運ぶ。



「おぉ、美味しい」



 思わず口に出してしまったが本当に美味しい。瑞々しく甘いイチゴだった。リアルでも食べたことがない味だ。流石のオリジナルといったところか。あっ。



「ちなみに、このイチゴは全部畑で育てたものなんですよね?」


「ええ、そうですよ」


「部品製造機の食べ物版みたいなので、つくったりしないんですか?」


「私は食べ物まであれに頼るのはどうも好きではなくて。畑で育てられないものをマテリアル産で賄っているのですが、ほとんどマテリアル産ですね」


「部品製造機でも食材は問題なくつくれるのう。味もわしには違いがわからん。しかし―」


「シグレさん、料理は別なんです。調理は自分達でした方が美味しいんです」


「機械とかは完成品でも問題ないが、料理はまずいとは言わんが味がかなり違う。不思議だの」


「私の仕事がなくならなくてありがたく思っています。神様はちゃんと仕事を用意してくれているんですよ」


「それは不思議ですね。じゃ、機械の方も手で組み立てた方が何かのボーナス、恩恵のようなものがあるかもしれませんね」



 たぶん、あるな。アイテムの詳細ステータスがないから余程の性能差が現れないとこの先も確認できないだろうが。



「そうだの。ひょっとしたらどこかに違いが出ているのかもしれんの」


「シグレさん、もっと食べて食べて」


「そうですね。もう、イチゴの時期も終わりですから」



 そうだったのかぁ。時期とかあるのかぁ。


 そのあとは、トシコちゃんと競うようにイチゴを食べた。イチゴは別腹に格納されるようで食後でもかなりの数を食べることができた。


 あっ。これ、チームハウスの女性陣にもお土産がないとバレたら怒られるのでは?おかずの数を減らされたりして。ヒロコさんに知られると減点は確実だ。


 しかし、流石にこれだけ食べておいてお土産をくださいとか俺の育ちでは無理だ。ごめん、マユミさん、アオイちゃん、ナギさん。ヒロコさんは、いいや。


 いつの間にか置かれていたお茶を飲む。さっきも飲んでいた気がする元祖美味しいお茶だ。甘さに支配されていた口の中がスッキリしていった。



「シグレ、イチゴは堪能できたかの?」


「はい、今日はありがとうございました」


「うん?何を言っとる。ガレージに行って続きを始めるぞ」


「え?」


「シグレさん、おじいちゃんの相手頑張ってね」


「シグレさん、よろしくお願いします」



 おじいさんがマスターへ送ったメールには俺の名前が書かれていた可能性が浮上した。



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