10-帰路
寂しい道を今度は東に進む。帰るだけなので随分と気が楽だ。足取りも自然と軽くなる。
途中の民家を通り過ぎたとき、視界の端に黒い影が通り過ぎる。
ハンドガンをホルスターから抜くと同時に黒い影が見えた方向へ体を向ける。
黒い影が飛びかかってきていた。犬!?反射的に横に回避しつつ黒い影が飛んだ方向へ振り向きハンドガンを構える。
黒い影が反転して再度飛びかかろうとしていたところにハンドガンを乱射する。
4〜5発は撃った。何発当たったのかはわからないが黒い影は悲痛な鳴き声を最後にその場に崩れた。
周囲に注意を払いつつ近づく。これは犬か狼かよくわからないがウルフが出ると言っていたから狼なのだろう。そして死体は霧散していき魔石と黒い立方体が残されていた。
この黒いのはマテリアルか… 当たりじゃん。
「よっしゃぁぁ!」
声を出してしまう。やばい、辺りを見回す。モンスターは発見できず。
魔石とマテリアルをすばやく回収し走って民家を離れる。
見通しの良い場所まで走ったところで水を飲む。
ビギナーズラックさんありがとうございます。今日は牛丼以外のものを食べようと思います。
しばらく休んでもモンスターは現れなかった。この辺りは、はぐれっぽいモンスターしか出ないのか?
ゴブリンもウルフもそうだったが死体が霧散してくれて助かった。ゲームによっては死体が残り解体の手順を踏まないとモンスターのアイテムが得られないことがあるのだ。このリアルさで解体とか無理です。
さて落ち着いたところで帰ろう。寂しい道を再び歩き出した。
大きい道路に辿り着いた。安心が広がる。
大きい道路の道沿いを警戒しつつ進み交差点を通り過ぎた。そして防衛櫓09-0001が見えてくる。
足早に都市に入る。あまり急ぐとモンスターから逃げてきたと思われるかもしれない。時間は15時56分。疲れた。酷く疲れるゲームだ。
イヤホンを外しポケットにしまう。傭兵事務所に報告に行く前に居酒屋へ行こう。ビールが飲みたいのだ。
疲れているのにもかかわらず足早に傭兵通りに戻る。通り過ぎる人の顔が険しいのが気にはなったがビールにはかなわない。
傭兵通りに戻ってきた。ここまでくれば居酒屋は目と鼻の先だ。
居酒屋に入る。この時間だと人はまだ少ない。空いている席につく。
「すみません。注文をお願いします」
すると店員がやってきた。
「ビールと焼き鳥盛り合わせを」
「はい、ビーツとや、焼き鳥盛り合わせ、ですね」
店員は俺の顔を見てギョッとしていたが注文を聞くと奥へ去っていった。
何かおかしなことを言ってしまったのだろうか?
注文のビールと焼き鳥盛り合わせがテーブルにきた。
ビールを飲む。
「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ、うまい」
働いた後のビールがこんなにもうまいとは… 焼き鳥も美味しい。ネギもうまい。
これは生き返る。この量で1000YENとは。このゲームできる!
ビールと焼き鳥を堪能し居酒屋を出る。依頼の報告に行こう。
傭兵事務所に行き依頼窓口へ向かう。
窓口のお姉さんがギョッとしつつ応対してくれた。
「防衛依頼の報告に来ました」
「その前に地下のシャワー室で顔を洗ってきてください。報告はそれからにしてください」
「顔に何かついてますか?」
「ついてますよ」
「わかりました。行ってきます」
地下のシャワー室へ向かう。射撃訓練場の近くにあった。
洗面所の鏡で顔を見てみると自分の顔ながらギョッとした。左頬が5センチメートルくらい切れて流れた血の痕がついていた。
ウルフの時か?あの時は全然気づかなかった。が、この状態でここまで来てしまったのか。恥ずかしい。
急いで顔を洗う。傷口は完全に閉じていた。化膿もしていないようだ。というかこの体は傷が化膿とかするのだろうか?
顔を洗い血を落とし鏡を見てみる。イケメンが出てきたりはしなかった。
ついでに水筒の水を入れ替えて窓口に戻る。
依頼窓口にはさっきのお姉さんがいた。
「防衛依頼の報告に来ました」
「傭兵カードを提示してください」
傭兵カードをケースから取り出し窓口のカウンターに置いた。
「どうぞ」
「少しお借りします。こちらに情報端末を置いて写真を転送してください」
情報端末を操作し開始と終了の写真をまとめて転送する。元々がスマホに似ているので操作も慣れたものである。
「転送しました」
「こちらで写真を確認します。少々お待ちください」
お姉さんが2枚の写真とにらめっこしている。
確認が終わったのかノートパソコンを操作しだした。
「確認しました。依頼料は2時間で2000YENとなります。シグレ様の口座に振り込まれます。よろしいですか?」
「それでお願いします」
ノートパソコンのキーボードがカチカチする音が聞こえてくる。
「傭兵カードをお返しします。ではこれで防衛依頼は終了となります。お疲れ様でした」
情報端末で2000YENの入金を確認し報告は終了した。残るは魔石とマテリアルだ。
傭兵カードを手に取り買い取り窓口に向かう。
「これの買い取りをお願いします」
傭兵カードと今日の戦利品を窓口のカウンターに置かれたトレイに載せる。
「少々お待ちください」
お兄さんがノートパソコンを操作している。お兄さんを見ても目の保養にはならない。
「お待たせしました。魔石2個とマテリアル1個で47000YENになります。口座振り込みになりますがよろしいですか?」
「はい、お願いします」
少しお金に余裕ができた。射撃訓練でもしてスキルを伸ばすとするか。
「手続きは終了しました。お疲れ様でした」
傭兵カードをケースにしまい入金の確認を済ませる。地下射撃訓練場へ行こう。
射撃訓練場に到着。訓練場に人は少ない。銃弾販売所に向かう。
「7.63x25mm、60発ください。口座払いで」
「それでは、1800YENをここに振り込んでください。こちらがあなたの口座からお金を引き出すことはできませんので」
傭兵カードを出しながらハンドガンの弾を注文する。どうやら、傭兵事務所側は俺の口座情報を知っていても、そこから勝手に引き出すことはできないようだ。当たり前か。
傭兵事務所の口座情報なのだろうか?提示された口座情報を登録して送金をする。
「送金しました」
おじさんは入金を確認できたのかカードを手に取りノートパソコンを操作し始める。操作が終わると奥の方へ入っていきトレイを持って帰ってきた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
傭兵カードをしまいハンドガンの弾が載ったトレイを持って射撃カウンターに向かう。
以前見た女子プレイヤーはいない。
射撃カウンターにトレイを置きステータスを確認する。
能力:筋力3 体力2 耐久2 敏捷2 器用2 知力1 精神1
スキル:拳銃1
能力が少しずつ上昇している。が、知恵熱が出そうになっただけでは【知力】は上昇しないようだ。残念。
ハンドガンを両手で構えてマガジンが空になるまで撃ってみた。
的の中心にそこそこ当たっている。ハンドガンの扱いに慣れてきたのか同じスキルでも命中率は最初のときより上昇しているようだ。
ステータスを確認する。
変化なし。
マガジンを交換。
次は右手だけでマガジンが空になるまで撃つ。
こちらも以前とは違って結構当たっている。
ステータスを確認する。
能力:筋力3 体力2 耐久2 敏捷2 器用2 知力1 精神1
スキル:拳銃2
【拳銃】が2になっていた。やっぱり変化があると嬉しいが同じスキル値による命中率の違いはわからなくなった。
最後のマガジンに交換。
フルオート射撃で終わりにしよう。
両手で構えフルオートで撃つ
的の方は、うん、まぁ、当たった弾があるかもしれないな。ただ、手の大暴れは少し軽減されたような気がした。
ステータスを確認する。
能力:筋力4 体力2 耐久2 敏捷2 器用2 知力1 精神1
スキル:拳銃2
【筋力】が4になった。フルオート射撃は【筋力】に与える影響が大きいのかもしれない。実際、腕力と握力をかなり使っているし…
今日の射撃訓練はこんなもんでいいだろう。
後ろの休憩スペースに移動する。休憩スペースには誰もいない。
マガジンに黙々と弾を込める。
弾を撃つのは一瞬なのに準備にはとても時間がかかる。何とかして欲しい。
だからといってエネルギー弾を撃つ武器があったら使うのかといえば、そんな武器は使わない。つまらない。
結局、この作業から抜け出すためにはゲームをやめるしかないのだろう。やめないけど。
マガジンに弾を込めるときのいつもの思考を3回繰り返したところで作業から解放された。
そうか、単発の銃を使えばいいじゃないか… それだ。
単発の銃を所持していて訓練に使わない理由を忘れていつもの思考を繰り返す。
今日はもう一杯ビールを飲んでも誰も怒らないだろう。




