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そして賽は投げられた  作者: 月野白蝶
第一話
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序章 -2-

 夕暮れの薄暗闇の中、瓦礫ばかりの街をオレは走っていた。この辺は岩ばかりで走りにくいことこの上ない。帽子が風で飛んでいかないように押さえておかなけりゃなんねぇのがめんどくせー。

 でも、オレには走らなきゃいけねぇわけがある。


「やべぇな」


 赤から青に変わっていく空を見ながら、呟いた。もう少しで、この辺は夜の闇に沈む。その前に帰らねぇと、ひどい目に合う。

 それなのに、


「勝負!」


 不意に、後ろから聞きなれた声がした。


 おいおい、またか……

 ちょっと気乗りはしないけど、オレは立ち止まってもと来た方向を振り返った。


「い・や・だ」


 ハッキリ言うと、瓦礫の影から案の定、雨月(うづき) (そう)が出てきた。

 紅い髪にバンダナを巻き、夏だろうと冬だろうと袖なしのTシャツを着用している、元気な二十五歳だ。左手は義手だって言ってたかな。だからなのか、左腕にはめてある長い手袋が、夏場はめっちゃ暑そうで見てるこっちが汗をかきそうになる。

 身寄りのない子供を拾うのが趣味みたいなやつで、実際、オレも拾われてきたひとりだ。オレの武術の師匠でもある。悔しいけど、かなり強い。

 これでもアイツは、《ブレイブ》っていうグループのリーダーのはずなんだけど、毎回毎回、ヒマがあればオレに勝負を吹っかけてくる。そんな余裕あんのか? リーダーならリーダーらしく仕事しろ、仕事。副リーダーの紫闇がぼやいてたぞ。かわいそーに。


「今日は急い」


 ため息混じりに、オレは話し掛けようとしたんだけど、あえなくそれは失敗に終わった。

 最後まで言う間も無く、草は愛刀を片手にオレに向かってくる。横薙ぎされた剣を飛んでかわし、地面に着地と同時に身体を沈めた。足払いをかけるもそれはかわされ、今度は頭上から一直線に剣が降る。大鎌の柄で剣を受け止めると、ずっしりと重い感触がした。力では、体格の差でどうしたってオレは草に負ける。だから、渾身の力で剣をはじき、鎌を振った。鎌の刃はよけられたけど、オレの狙いはそっちじゃねぇ。

 鎌の刃で重心が下に来たその勢いのまま、思いっきり草の横っ面を蹴る。結構な勢いで蹴ったから、草はそのまま地面を滑った。反撃が来る前に鎌の柄でとどめに頭をぶっ叩き、倒れたところで草の前にしゃがみ、今度こそ否が応でも相手に聞こえるように改めて言い直す。


「あのな? オレ今日急いでんの。人の話くらいちゃんと聞けや、頼むから」


 返事はない。

 聞いているのかいないのか。とにかく急いでいるのは本当なので、先を急ぐ。


「じゃあな。草!」


 軽く手を振り、道を走り始める。振り返ると、優しく微笑みながら草は手を振っていた。

 思わず、顔がにやける。

 そういや、一応手加減してぶったけど、大きな怪我とかしてねぇだろうか。たんこぶくらいできちまったかな。でもなぁ、鎌振り回すと刃の重さでスピードが出るから、あれ以上の手加減ってぶっちゃけ無理なんだよな。うーん。怪我をしていたら、明日きちんと謝ろう。うん、それがいい。

 ひとりで納得して速度を上げる。

 でもさ、昔はオレも全然アイツに勝てなかったんだ。武術を教えてくれてんだから当然だし、そもそも、まがいなりにもグループのトップに立つ人間だぜ? オレが勝ててるこの状況がおかしいよな、どう考えても。ってことはさ、何? アイツ手加減してるってことじゃん。なんかムカツクな。

 本気でやれよ。ちくしょう。

 腹立ち紛れにオレはさらに速度を上げた。

 明日は、草と軽く模擬戦闘でもさせてもらおうとか考えながら。





 でも、俺は気づいてなかったんだ。

 オレの後ろの黒い影にも、過去の自分の過ちも。これから始まる戦いの存在にも。

 知らなかったのは、もしかしたらオレ一人だったのかもしれない。そう思うと、今でも怖ぇ。

 寒い季節を終え、周りが暖かくなり始めたころ。

 オレは、人生最大の過ちを犯した。

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