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線路の向こう側  作者: 吉田伊織
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線路を越えたいのは誰だったんだろう?

睡眠時遊行症(すいみんじゆうこうしょう, Sleepwalking)とは、睡眠中に発作的に起こる異常行動のことで、夢遊病や夢中遊行症(somnambulism)とも呼ばれる。睡眠障害として睡眠時随伴症パラソムニアのひとつに分類される。

無意識の状態で起きだし、歩いたり何かをした後に再び就眠するが、その間の出来事を記憶していない状態を指す。その時間は、30秒から30分までの長さになり得る。

このような夢遊病の多くは、就眠後1時間から3時間のノンレム睡眠時に発生することが多い事が分かっている。小児に多い病気である



アレ《夢中遊行むちゅうゆうこう》のせいで、小学校の頃から鍵っ子だったオレは、何度か鍵をなくしている。

普通にしていたら、絶対に落とせないようにしていたのに。

ランドセルなどというシロモノは3年生の時にはすでに、激しい喧嘩ばかりしていたため、帰り道でいきなり背後から蹴りつけられたり、ランドセルを防御に使ったり、散々な目に遭わせていたため、ズタボロだった上、身長が伸びるのが速くて、すでにキツかったので片方しか引っかけていないのが常だった。

安物のランドセルだったことも有り、蓋というか、かぶせる部分が破けてしまった。きっかけは多分喧嘩のもみ合いからで、教科書の重みでそのまま裂け目が大きくなった感じだろうか?

そのため打ち捨てて、布の鞄で通学していた。




塾へもそれで行っていたので、ランドセルなんて買い直せない我が家の事情もあり、学校では一応認められていたが。何故か理由など考えもしない輩に、生意気だと言われ……コレが理由で先輩などにも目をつけられ、無意味に殴られることも多かったが、女子には絶対に余程でなければやり返さなかった。

その鞄の、内側にあるポケットのファスナーの金具の穴に、キーリングで鍵を通してさらにキーホルダーをつけて、見失わないようにもしていたが、ポケットの内側に入れて、ファスナーも閉めて鍵をしまっているのが常だった。

いじめっ子で、いじめられっ子で、常に何があるか分からなかったからだ。


その状態で、何故か朝に突然鍵がなくなっていて、親に怒られた挙げ句、その日の登校中に、つけていたキーホルダーだけ、家から歩いて10分程の沢の近くで見つけた。


アイツは何故か、私が大事にしているものを、捨てたり、どこかに埋める変なヤツだった。

多少被害はあるが、アイツは物に基本的に執着があるらしく、誰の物か分からないように捨ててくれたり、隠すのが好きらしいので、発見されて悪用される可能性も少ないだろう。


他にも数人いるのは確認済みだったが。


まぁ、死体堀るのが好きなヤツより、物を棄てられたりする方がまだマシだったかもな……。


何しろどうやって嗅ぎ付けるのか、他人様の家の庭に侵入し、小鳥の骨を全部きれいに持ってきて、元通りの形にして、まるで骨格標本のようにベランダに綺麗に並べてくれたりする、意味不明なヤツなのだ。が、勿論私に記憶は無い。

起きると手足が泥まみれで、布団も当然汚れていて、犯人が自分だと気付く。


小学校一年生から預けられていた家では、小鳥の骨でも絶叫されたのに、どこで見つけてきたのか、犬の頭の骨を庭にある金魚の池の一番高い岩の所に飾りやがって……三姉妹の一番下の悲鳴でオレが目を覚まして、その人にスゲェ強烈なビンタを張られまくった記憶がある。

バレー部アタッカーのビンタ、キツいっすわ—。

オレじゃないのに……と言いたいが、手足は汚れていて、出て行ったドアの鍵が開いていて、入って来たらしい窓から泥汚れが付いていて手足が泥まみれでは、身に覚えがなくとも、言い訳も出来ないし、どうしようもない。

(夜中に抜け出すオレの、出入り口は、何故か決まっていた)


死にたがりのヤツは、最後に記憶にあるのは19歳だったな。多分。

確かとは言えない。

何しろ寝ている間の記憶がないので、証拠が残らないタイプのヤツは、何故かいつも裸足なので、目が覚めると足や布団に砂が付いていたり、確かに鍵をかけて、チェーンまでかけた玄関の戸締まりが一切されていない。


確かにベッドに入って寝た記憶があるのに玄関で寝ている。

(コイツは単なる散歩好きと推測しているのだが。比較的鍵をかけるタイプだった)


などぐらいであろうか。


まぁ、本人的にも、気味が悪い現象であることは確かだ。




あの夜、柵をよじ登り、乗り越えて電車に飛び込もうとしていたらしいオレは(しかも男物で多少厚いものだったとは言え、真冬にパジャマ一枚で裸足だったような気がする)

そこをたまたま通りかかった男性が発見し、助けられてしまい、半分目が覚めたオレは、夢の中を走っているような感覚と混乱する頭の中、何とか全力ダッシュでアパートまで逃げ帰った。


時間帯が悪いらしく、その男性にはさらに一度同じ様な状況で出くわしてしまった……らしい。


歩いて行けば、人や自転車は普通に通れる柵しかない。

そんな、車は通れない小さな踏切で、オレがフラフラと電車の前に飛び出そうとしていたらしい。

その時は腕を掴まれて、あまりにも強く引かれたせいで転んでしまったらしく、その衝撃で我に返った。


(ここどこだ?!電車の音?なんで地面がある?!ベッドで寝たはず……またかよ!!畜生、誰だ今夜のバカは?!)


そう思いつつ、とりあえずアスファルトといつまでも仲良くしているのも阿呆らしいと思い、立ち上がろうとしたら、男の人が声をかけてきた。

その人も尻餅をついたようにして、座っていたように思う。


「大丈夫?ちょっと俺もビックリしちゃってさ、思いっ切り引っ張っちゃった、ゴメン。同じ子が電車に飛び込もうとするの、止めることがあるなんて思わなかった。っていうか、俺、自殺止めたのキミがはじめて?ああ、自殺しようとしてる人見たのもキミが初めてだわ。何かあったの?」


「……は?」

(なにいってんだ、この人。べらべらと、良く喋る……って、もしかして、前回自殺好きのバカを助けてくれた人か?!アイツはどうせ未遂ばっかりだから、ほっといてくれればいいのに〜〜!!お節介な人も居るもんだ!!!)


とりあえず速攻で後ろも見ずに、全力でアパートに向かって走ったが、いつも通り裸足だったので、最短距離に細い路地裏があるのだが、砂利が敷いてあって、足が痛い!

その人もなぜなのかは知らないが、追いかけて来るので、心の中で(追ってくるな!!バカ!!ほっとけよ!!)と思いながら、何とかアパートについて、急いでドアを閉め鍵をかける。

すると、そっと。伺うような感じで。

なぜか追いかけてきたあの男性らしい声が、ドア越しに何か問いかけてきているのが聞こえた。

ドアを軽く叩いてきて(深夜近くだったため配慮してくれたのだろう)ドア越しに状況を説明してくれたため、自分が踏切に飛び込む所だったうえ、どうやら命の恩人と呼べるかも知れない人なのだと分かったが……。

とりあえず、知らんぷり(?)というか、出たくないし会いたくないし、死にたいとかオレは思ってない!アイツが勝手にやってるんだ〜!!

な〜んて〜?言おうものならぁ?キチガイ扱いされるだけだと、学習はしていたので。無視を決め込んだ。

どうやら一度目の時に抱えるようにして、引き摺り下ろしてくれたらしく、オレが女だと分かり、少々同情してくれたらしいが……余計なお世話だ。

どうせ頭の変な、裸足で電車に飛び込もうと、無意識(?)で奇っ怪な行動をする人間です。捨て置いて下さい。

ああもう、とにかくそんな事どうでも良い!どっか行け!お前なんかと二度と遭遇するモノか!


その男性が立ち去ってくれるまでの時間が異様に長く感じられたが、彼は真冬に寒いあそこにどのぐらい居たのだろうか?

何やら『生きてる?』とか、聞かれた時に、ノックを返したのは、なんとなく記憶しているが。

ああいう時は、ちょっと朦朧としていることが多く、男性がいなくなってほっとすると、どっと疲れて、そのまま足も拭かずにベッドに倒れ込み、朝まで昏々と眠ったように思う。



もう二度と遭うことは無いだろうと、思っていたのに……。

飼っているハムスターのヒマワリの種を、いつもの店に買いに行って、普通にいつも通りに入ったら……その店のレジに26歳程度のあの時の男性……らしき人がいたのだ。

(人の顔が覚えられない脳ミソなので、判断が付かない。思い違いという可能性の方が大きいだろう)

小さな個人で経営している半分趣味なのではないか?と思えるほど客が入って居るのを見たことが少なく、小鳥やハムスター、金魚ぐらいしか売っていない(しかもエサなども爆安な)店で、いつも初老に近い男性が一人でいるだけだったのに。

ネズミ本体もそこで買っていたし、店のおじさんと話すのが好きだったのだけれど……。初めてハムスターを飼ったので、困ったことなどの相談にも

のってくれる、良い人だったし。


仕事帰りで作業服姿だったので、バレないよう、私物の被っていたツバの広いキャップを、さりげなく素早く目深に被り、ヒマワリの種を買って逃走しようとしていたのに、読んでいた雑誌をカウンターに置いて、ジロジロ見られた。

(蛇に睨まれた蛙って、こんな気持ちか……?いきなり何も買わずに帰ったら、逆に怪しまれるよな?買うべきだよな。ごく普通に……バレない。バレやしない。向こうも覚えてないさ。あんな暗い夜中だったし、街灯だってロクにない線路脇の細い道路だったんだから……)


レジでヒマワリ種の詰まった大袋を買おうと、俯いたままでやり取りして、ヒマワリの種を初老のおじさんがするように茶色い紙袋に入れてくれて、その袋をもらい、ほっとしつつ。

(これで帰れる。バレなかった……)

と、思って安心したら、ヒョイと無造作に顔を覗き込まれ、仰天して息を呑んで固まっていると。

「あ、やっぱり。そうじゃないかなー?って思ってたんだけど。キミだよね?電車に飛び込もうとした所を俺に二回も止められた子。あれ、趣味なの?でも、生きてて良かったよ。実はちょっと心配だったんだけどさ、家分かってるからっていきなり行くのも変だし。なんか、スゴい怯えて逃げてったしさ——聞いちゃ悪い事だったのかなー?とか。助けるって言うか、止めない方が良かったのかな?とか。うん。本当は色々考えたけど、助けて正解だった、という結論。まさかおじさんちのお客さんだったとはね〜俺さ、最初にキミを助けた頃に、仕事辞めちゃってて、食うに困ってここで昼間店番したり、夜のコンビニでバイトしてるんだけど、キミに会ったのは、その夜のバイトの帰り。なんで同じ時間だったのかな?って、二回目の後で考えてたんだけどさ、何かあるの?どうしても、あの時間帯の電車に飛び込みたい理由とか?」

多分、オレはムンクの叫び状態だっただろう。

しかも何でも顔に出てしまうたちです。

どうやら生来そう言う性格で、お喋りらしい男性、と言うか、

印象的には優しそうでフランクなお兄さんも、オレがあまりにも狼狽えたうえ、多分もの凄い顔で真っ青になって、震えてしまった状況に気付いたらしい……。

有り得ない程に怖すぎるホラー映画の、恐怖シーンクライマックス状態のオレに、お兄さんは黙ってくれた。

その次の瞬間に俺の口から言葉がすべり出ていた。

「人違いですっ!!す、すみませんっ!!」

「あ、ちょっと、ねぇ、べつに嫌なら聞かないから——」


まだお兄さんは話していたが、オレは頭を下げて、全力ダッシュで店を出て、そのまま駅前の雑踏を走り抜けて、アパートまで必死で帰った。



恐怖体験アンビリーバボーに近い。


なにしろあの頃はとにかく、親以外の誰にもこの夢遊病のことは話していなかったし、知られてはいけない己の秘密を他人に知られる、その恐怖の方が大きかった。

出る頻度も子供の頃に比べるとかなり少なくなっていたので、本気でビビった。


そのうえに———

偶然という恐怖は続いたのだ。




〜続く〜




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