4.賭け
潜んでいたところを、あっさり発見された敵艦は、早々に退避したため
アルバトロスは当初の進路に入り敵の別動隊とミサイルをかわす事に成功した、しかしそれ以降は、一番近い友軍の基地である、1145中継ステーションへ向かうしかないのを、敵も知っているため、進路を妨害されその度に、敵を回避する状態が5時間以上も続いていた。
今まで、致命的な損傷も無く戦っているのは、奇跡と言ってもいい。
「新たな敵艦発見、駆逐艦4、くそ、これで42隻目だ、小惑星連合の保有艦艇の1割超えてるじゃねーか、やつらたかが戦艦一隻に、どれだけ用意周到なんだよ!」
索敵担当の少尉が、上級士官がいないのをいいことに、思わず悪態をつく。
長時間の戦闘で精神的な消耗が激しい上に、進路妨害する敵を回避するための、小競り合いがあるたび、潜んでいる敵艦が見つかるので、絶望的な雰囲気が出始めていた。
「今思いついたんですけど」
重い空気の中、口を開いたのはエリだった。
立体スクリーンに、空間図を表示すると、少し縮尺をひろげて説明を始めた
「今我々がいるのはここ、そして向かおうとしているのが、一番近い友軍の基地であるこの1145中継ステーションです」
さらに縮尺を広げると、少しはなれたところにある小惑星が表示される、友軍のセバストポリ要塞だ。
「少し遠くですが、このセバストポリ要塞には第6艦隊が駐留しています、電波妨害のため、友軍との通信は未だ出来てませんが、恐らく観測で要塞側は、もうこの戦闘を知っているはずです」
スクリーンに表示された要塞の図から赤い矢印が伸びる、その矢印は途中でアルバトロスの進路をあらわす青い矢印とぶつかる。
「臨戦態勢にある第6艦隊が、救援に出航するまで約1時間として、出航していればこの地点で出会えるはずです」
確かにそれはサラも考えていた、しかし、1時間以内に艦隊を出航できる、というのは、あくまで地球連邦宇宙軍の広報が言うだけの、宣伝文句のひとつであり、実際は補給や調整などで、そうすぐに出航は出来ない、下手をすると1日掛かっても出航できない場合すらある。
「たしかに、その場所ならば3時間でたどり着けますが、もし第6艦隊が出航していなかった場合、要塞にたどり着くのに13時間以上かかってしまいます」
要塞は、軌道ステーションより遠い上に方向も違う、
一方1145中継ステーションは、駐留艦隊を持たないため救援こそ望めないが、要塞並みの武装があり、あと8時間ほどで到着できる距離だ。
「少尉は、軌道ステーションへ到着する8時間、敵の包囲を突破して、さらに追撃を阻止し続けることが出来ますか?」
独り言を言っているような、どこか遠い目線でエリがつぶやく、
エリの問いに、サラはすぐには答えられなかった。
おそらく無理だろう、中央突破を成功させても、これだけの数の敵だとすぐに、再包囲されてしまう。
「...いいえ」
そう言うのが精一杯だった
サラの答えを聞いて、エリが振り向く、少し困ったような、それでいて悲しそうな表情で、エリは微笑んでいた。
「では、士官学校も出ていない、名前だけの大尉には、もっと無理ですね」
「では、少しでも可能性のある方法で、やってみましょう、第6艦隊との合流予測地点までの3時間、なんとか敵を振り切ってください、責任は私が取ります、存分にやってください、名前だけの臨時指揮官ですが、そのくらいは出来ますから」
サラは彼女は本当の指揮官だとこの時思った、指揮官の仕事は決断することだ、しかしそれが出来ない人は意外と多い。
「今まで本艦は、1145中継ステーションに向かうコースを取っていましたが、敵はそれを阻止するために、進路をふさぐ行動に出ています」
サラは戦闘指揮所にいる各部署の責任者たちに、今後の方針を説明した。
「我々は逆に、それを利用して、進路を塞ぐ敵艦を避けるふりをしながら、第6艦隊の合流予想地点へと、進路を変更していきます、この時、最も重要なのは、敵をどれだけ長く欺きつつ距離をとることができるかです」
説明を聞いていた、兵装科の若い少尉が具体案を出す。
「攻勢と撤退を交互に繰り返しながら、徐々に敵から遠ざかるしかないな、それでも誤魔化せるのは1時間ってとこだな、それで敵に我々の意図がばれたら後は?」
「全速で逃げます」
思わず一同から笑いが出る、しかし圧倒的な戦力差のあるこの状況では、他に方法は無い、そのため笑いも少し自嘲気味である。
「作戦は理解しました、しかし第6艦隊がもし出撃していなかったら、我々は本当に敵中で孤立してしまうことになりますな」
航法担当のベテラン准尉の発言に、今度はエリが答える。
「その場合は、この艦を敵に差し出します」
一同驚いてエリの方を見る、サラも驚いてエリに振り向いた。
「本気ですか艦長」
「もちろん全乗員の安全と早期帰国を条件にしますよ」
「...いや、そういうことではなく」
軍艦の降伏について、地球連邦では、やむ終えない場合は指揮官は降伏しても罪は問わない、という事になっているし前例もある、しかしこの「やむ終えない」と言う表現が、各国の思惑の違いから、かなり曖昧な定義になっているため、軍事法廷で無罪になるとは限らない、しかも社会的制裁もかなりあり、降伏をした艦長の中には自殺をした人もいる。
「冗談ですよ、そのときはその時で考えましょう、皆さんはそれまで全力を尽くしてください」
「了解」
そう言って全員が持ち場に戻っていく。
「何処までが本気なんですか?」
サラはエリに尋ねた
「さあ?何処まででしょうね」
わかって言っているのなら、かなりの大物である、しかし同時に、彼女をここまで追いつめたのは自分だと思うと、サラは自分に嫌悪感を感じた。
(敵の指揮官は、今までの戦いから考えると、非常に慎重で臆病な人物らしい、逆に我々の意図を深読みして、撤退してくれれば...)
途中まで考えてサラは考えを振り払う、希望的観測で戦ってはだめだ、と思ったがこの作戦自体が希望的観測を前提にしているのを思い出して苦笑いする。
5時間以上の戦闘で全員疲弊している、今はその希望だけが頼りだった。




