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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

プリズン・フォルト・エ・デュール

作者: 陽川文実
掲載日:2015/04/30

 僅かに聞こえる鳥の声で目を覚ました。毎日毎日、この声で起きている気がする。

 硬い床から起き上がろうとすると、ズキリと背中が痛んだ。寝ている間にどこかにぶつけたのだろうか。背中を擦りながら身体を起こし、変わらぬ暗闇に目を凝らした。……今日は水のようだ。銀色の、所々が錆びたカップを手に取り、一口飲む。渇ききった喉が潤う感覚に、ほんの僅か、笑みが零れた。今すぐこのカップの水を飲み干したいという欲求に駈られる。だが、忘れてはならない。今日俺に与えられるモノは、このカップ一杯の水のみなのだ。

 今日は何月何日なのだろうか。ここに来て何年経っただろうか。それを考えることはとうの昔に放棄した。もう覚えていられないほど長い間、この暗闇に閉じ込められているのだ。月日の流れを知る手段など持ち合わせていない。


 暫く後、ガシャリと金属音を立てて鉄格子が開く。入ってきた看守が自分を見る視線は、通常の人間に向けるそれとは到底思えない。

「よう、どうだ?気は変わったか?」

 口調は馴れ馴れしく。大罪人に対するものではない、ような。

「……俺は無実だ」

 掠れた声を漸く絞り出す。先程少し潤したおかげで、いつもよりは出が良いようだ。

「あぁ、そう。またそれ、と……おい、」

 看守に唐突に胸倉を掴まれる。無理矢理引き上げられた身体がダラリと力を失う。

「お前いつまで、こんな処にいる気だ?」

 冷たく鋭い瞳と、地を這うような低い声。

「……お前らが俺を解放するまでだ」

 看守はしばらく俺を見つめてから手を離した。その手を服で拭い、腕を組む。

「まぁ、お前がそれを望むならそれでいいが。ただ……それだとお前、死体になって出ることになるぞ?」

 三日月に歪んだ口端を虚ろな瞳で眺めつつ、小さく言葉を放った。

「その前に、必ず出てやる」



 俺は、必ず生きてここを出る。この身を濡れ衣で拘束した奴等に復讐するために。

 誓いを立てたのはいつだったか。ここに連れてこられてすぐだったような気がする。いや……もっと後だったか。もう覚えていない。思い出すには月日が経ち過ぎた。

 俺の"国王暗殺未遂"という濡れ衣は、未だに張り付いて剥がれない。この拘束衣を着せられたまま、俺は未だに、この監獄に囚われている。

 だが、それももうすぐ終わるだろう。

 俺はとある計画を立てた。ここから逃げるための、脱獄のための計画だ。

 ここ──この監獄は『惨く厳しい監禁』の意味を持つ。──では、毎日僅かな水と食料が……いや、水か食料のどちらかが支給される。水しか無い餓えに苦しむ日々が続いたかと思えば、次は食料しか無い渇きに苦しむ日々がやってくる。つまり、少しずつ身体が弱っていき、ここに長く囚われていればそれだけで死に至るのだ。……俺は、そこに脱獄の糸口を見つけた。

 与えられる食料は日持ちする乾いたパン。それを、少しずつ貯めておけばいい。そして食料だけになった日、それには全く手を付けずに、貯め込んだものを食べて過ごす。看守がやって来る周期も頭に入れて。食料が丸々残るようになれば、看守は俺が死んだと思って牢の中に入ってくるだろう。そいつを、不意を突いて襲う。銃を奪い、後は全力で出口を目指せば……そのくらいしか、俺の頭では思い付かない。正直、お世辞にも良いとは言えない俺の頭で、国王の暗殺計画など立てられる訳がない。俺を閉じ込めた奴等も、頭が弱いのかもしれない。その方が計画の成功率も上がるから、俺としては大歓迎だが。

 さて、その計画、実はもう既に始まっている。今日から始まる水のみの期間中、そして次の食料の期間中は、貯め込んだ食料を食べて過ごす。神が居るのかどうかなんて俺には判らないが、後はただ、祈るしかない。






ドオンッ!


「はぁっ……はぁ……」

 銃口から上がる煙と、床に広がる赤。身動きしなくなった看守を横目に、俺は急いで鉄格子を潜る。

 ついにやった。ついに俺は、自由の裾を掴んだ。口元を不気味に歪めながら、ただひたすら走る。追いかけて来た看守達は一人残らず撃った。孤独に残ったら可哀想だ、という俺の慈悲の心がそうさせたんだろう。こんな優しさを持った人間が、国王を殺そうなどという愚行をするだろうか。いや、そんなことはしないはずだ。俺の弱い頭でも判ることだ。可哀想に。看守達の頭は俺より弱いらしい。

 可哀想な看守達は、また一人、また一人と俺に撃たれて倒れていく。相手の銃より早く、躊躇いなど存在しない。また一人、また一人、また一人……?

「居たぞ!」

 後ろから、銃口が俺に向けられる。動揺に縺れそうになった脚を必死に回す。火を吹くことを忘れた銃を投げ捨て、ただ走った。出口が見える、もう少し、もう少し、もう、


 俺の左胸を弾丸が突き抜けた。






 僅かに聞こえる鳥の声で目を覚ました。毎日毎日、この声で起きている気がする。

 硬い床から起き上がろうとすると、ズキリと背中が痛んだ。寝ている間にどこかにぶつけたのだろうか。背中を擦りながら身体を起こし、変わらぬ暗闇に目を凝らした。……今日は水のようだ。銀色の、所々が錆びたカップを手に取り、一口飲む。渇ききった喉が潤う感覚に、ほんの僅か、笑みが零れた。今すぐこのカップの水を飲み干したいという欲求に駈られる。だが、忘れてはならない。今日俺に与えられるモノは、このカップ一杯の水のみなのだ。

 今日は何月何日なのだろうか。ここに来て何年経っただろうか。それを考えることはとうの昔に放棄した。もう覚えていられないほど長い間、この暗闇に閉じ込められているのだ。月日の流れを知る手段など持ち合わせていない。


……ただ、妙に強いデジャビュが。






 Is this a true end? Or the wrong end? Then what is the true end?

 Where does he arrive at?

 Will he have the freedom? Will he have the future?

 Is he really innocent?

 May he arrive at the end of the truth?



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