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ネバーエンディングストーリー  作者: 我見芥
マリオネット・ワールド
7/42

出会いと旅立ち vi

遅れてしまって申し訳ありませんorz

次回以降は平常運転ですので火・金18:00更新となりますorz



 太陽はまだ傾き始めたところで、澄んだ青空の中、海に沈むトパーズのように輝いている。


 ジグとダグラスは川沿いの道を王都方面、つまりは南に向かって歩いていた。

 王都からかなりあるこの辺りに人が来ることは滅多に無く、また村人達も村から出ようとはしないので人通りがほとんどない。


 ほかにある程度足場の安定した場所がないから、いつも二人はこの辺りで剣の稽古をしている。


 稽古と言っても、いつもならダグラスが型を教えジグがそれをマネするだけだ。

 その型は様々で、騎士が使うような正統派の剣術もあれば、剣を空中で躍らせる曲芸めいた技まである。

 そのため、普通の衛兵が通る剣術試験でならば不必要とされるものまでジグは覚えていた。



 革手袋をはめ、その上から木製の籠手をつける。

 ルールとしてここで受けた攻撃は無効となる、いわば盾のような役割だ。

 ギシギシとなる籠手を何度か握ったり開いたりして感触を確かめると岩に立てかけてある木剣を手にする。


「ジグは片手直剣それでよかったよな?」


 ダグラスは十字架を伸ばしたような形の木剣をさして言う。


 剣術大会には剣の種類における出場条件はない。

 ジグの使う片手直剣は扱いやすさから選択する人間が多いが、二刀流などの扱いにくいものを使う者もいる。

 戦えるのであれば短剣一本であっても構わないのだ。


「うん、俺はこれ以外には使えないしね」


 そうか、とダグラスは苦笑する。


「本当はお前に合ったものを探した方が良かったのだが、私が基礎から教えられるのはそれくらいだからな」


 そう言って自分は曲剣シミターの形を模した木剣を構えた。

 ダグラスがその種の剣を持つ所をジグは見たことがない。


 左足を一歩引いて腰だめに剣を構える様はそれだけでジグを威圧するだけの迫力があった。


 二人の間には僅か四歩分程の距離しかない。 これくらいならばジグでも一息に詰められる。

 相手の動きが読めなければ、負ける。


 ジグも剣を中段に構え右足を半歩引き、どんな動きにも対応できるように神経を研ぎ澄ませる。


 近くの沢の水の流れ、春を謳歌する鳥の群れの歌、風がそっと青草を撫でる音。

 それら全てが波となりどっと押し寄せるようであった。

 その流れの中で自分に必要なものだけを、ダグラスの息づかいや、微妙な足の動きを読み取る。


 すっと、ダグラスが足に力を込めるのを感じた時には稲光の如き速さでジグの手は動いていた。


「はっ!」


 右足を爆発させたように地を蹴り、視界右端から迫るシミターに剣を添える。

 乾いた木剣同士がぶつかり高く澄んだ音が響いた。


 木剣が何十倍にも重くなったように感じる。

 ジグはダグラスの剣をいなすように剣を置いたつもりが、それを読んだダグラスがわざと軌道をずらし、互いの剣を思い切りぶつけ合う形にしたのだ。


 そうと気づいた時には二人とも次の行動に移っていた。

 ジグは距離を置くために弾かれた木剣を引き戻し、まだ痺れる手でダグラスの肩口に斬撃を入れる


 が、ダグラスはそれを柄頭で受けた。 しかし、今度はさっき程の音が響かず、小さくコツンと鳴っただけだ。


 先の逆、軽く剣をぶつけることで弾かれるのを防ぐ。 もちろんそのため相手の剣も弾けないが、動作を中断させるのには十分だ。


 何とか距離を取ると剣を斜めに寝かせ、急いで下段の構えを取る。


 ダグラスは最初と同じように構えていたが、今度は仕掛けて来る気配はない。

 至近距離での持久戦では体の大きなダグラスに分がある。

 決めるならば一瞬。一手で勝負をつける必要があった。


(やってみるか……)


 ジグは下段に構えた剣に力を入れると、一息にシミターの射程内に飛び込む。

 無論、ダグラスがそれを見逃すはずも無く、嵐のような勢いで左から右への切り払いが繰り出される。


 それを屈んでよけながら、右手の籠手で受けながら押しあげる。


「くっ!」


 ダグラスは苦しげな声をあげ、ずれた重心に合わせて一歩下がる。


 剣の軌道を無理にそらされて腹ががら空きになったダグラスを前に、ジグは空中にある(・・・・・)自分の剣をキャッチすると屈んだ状態から飛び上がるように素早く逆袈裟斬りをはなった。


 だが、ダグラスもさすがのもので、右腕を閃く速さで回転させ、右足のあたりから勢いをつけてジグの剣を迎え撃つ。


 再び甲高い音とともに凄まじい衝撃が腕を伝う。


 互いに大きく飛び下がって間を取る。


「なるほど、面白い。 そんなものは教えていなかったのにな」


 ダグラスは構えをとくと痺れを取るためか手元で曲剣を弄びながら不敵な笑みを浮かべる。


「体格差的に組み合っても分がないとみて」


 曲剣を回転を加えながら放り上げる。


「小回りを活かせるように剣を一旦捨てて懐に潜り込む」


 風車のようにクルクルと回転した曲剣の柄はダグラスの手にしっかりと収まった。


「虚を突くいい技だ。 が、だから惜しい、タイミングがまだ甘かったな」


 ジグとしても褒められて悪い気はしない。 しかし、ダグラスの言うとおりまだ使いこなせてるとは言い難い。


「ぶっつけ本番じゃうまくいかないもんだね」


 ジグもダグラスを真似て直剣を中に踊らせる。


「あぁ、ま、本番までに完璧にしとかないとな。 それぐらいなら、手伝える」


 ジグを通してなにかを見るような目でダグラスはジグを見つめた。


「お前のそういうところは、アイツに似ているな」


 なぜか照れるような笑みを浮かべるダグラスが何を思い出しているのか、ジグにはわかる。


「お前は、あいつみたいにイルアナを置いていったりしてやるなよ」


 何かとともに吐き出すような口調で告げると、返事も聞かずに荷物をまとめて帰る準備をし始めた。

 





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