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ネバーエンディングストーリー  作者: 我見芥
マリオネット・ワールド
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出会いと旅立ち v



 ダグラスは村の中でも少し外れた場所に住んでいる。

 ジグ達が村の外に住んでいる村の住人だとすると、ダグラスは村の中に住む余所者といった扱いだ。

 ジグ達と同様にそこまで仲が悪いわけでもなく、話はするし、猟仲間だとしょっちゅう酒を飲み交わしている。

 しかし、どこか壁のようなものがあり、それが村人達との交流の邪魔をしているようだ。

 それもダグラスの方から一線を引くような態度で接するため、村人達からはどう手を出したらいいのか分からずにいる。

 しかし、どういうわけかジグのことを大変気に入っており、ジグの家にも時々顔を出してはイルアナと話したり、ジグに異国の物語を聞かせてくれる。


 ダグラスの家は村の他の家と同じ石造りだが、外見は家と言うよりも石窯のようになっている。


「ダグラス? いる?」


「ああ。こっちだ」


 薄暗いが清潔感のある部屋の中には、うず高く積まれた本の塔が乱立していた。

 声はその中の一つ、壁際の塔の奥から聞こえてくる。


「待て。 そこで――――」


「そこで靴を脱げ。 だよね?」


 塔の陰から顔を覗かせたダグラスは、ジグを見るといかつい顔に小さな笑みを浮かべた。


「ジグか。 昨日はイルアナが青ざめた顔でここに来たものだから心配していたが、まぁ大事なくてなによりだ」


 本のせいで足場がない、と言うほどではないが、ダグラスのいるところまで獣道の様な狭い道ができていた。 この家の床は半分以上が本で埋め尽くされており、先程靴を脱がされたのも本を汚さないためである。

 ダグラスのいる所は広場の様になっていて、3メートル四方のかろうじて二人が座れるだけのスペースがあった。

 ジグからしてみれば、こんなに乱雑に置いて綺麗も何も、と言いたい所なのだが、確かに床も本の上にも埃一つ落ちていない。 どうやって掃除をしているのか聞きたいくらいだ。


「昨日はちょっと、昼寝のつもりが気持ちよかったものだから……」


 ダグラスに本当のことを言おうか迷っているジグに、ダグラスはわずかに眉をひそませた。


「それにしても不用心だな、お前らしくもない。 あぁ、床は冷たいからこれを使いなさい」


 ダグラスは壁に立てかけてあった薄いクッションの一つを取るとジグに渡した。


「昨日はせっかく時間を作ってくれてたのに、ごめん」


 ジグは使い潰されて変な癖のついたクッションの上でもぞもぞと動き居心地の良い位置を探しながら言う。


「構わんさ。 どうせ時間を持て余している身だ。 見ればわかるだろ?」


 そう言ってダグラスは読みかけの本を手元にあったまだ小さな山の上に置いた。


「それで、舞踏会の準備はできているのか?」


「うん、一応ある程度は、ね」


 舞踏会。

 そうは言っても貴族のやるようなダンスパーティーなどではない。 剣舞と呼ばれる伝統的な競技の一種だ。 二人の対戦者が攻防二つづつの型と一つの特殊な型、すくみの関係にあるそれらを相手の型に合わせ使い分け、その美しさを競い合うものだ。

 しかし、ジグはこの競技に出るわけではない。 剣舞とは別に剣術の大会も同時に開かれるのである。 剣舞のような華やかさがないゆえに影に隠れてしまっているのだが、もともとは軍の臨時補充員の確保が目的であり、こちらのほうが歴史は長い。 もっとも、人手不足を解消するため、などという理由でそのようなことをやっていたことが他大陸に知れるのを恥とした歴代の大陸王が、その事実を隠すために剣舞踏会を開いたのだと言われているが。


 無論、一村民の子供でしかないジグに剣が扱えるわけはない。 これはイルアナやサンスにも秘密にしていることだが、ジグはダグラスから剣の稽古を受けている。 なんでもダグラスは昔ジグの父と二人で旅をしていたらしく、その時に覚えたのだという。

 基礎的な剣技から曲芸のように剣を操る技まで、様々なものを教わった。 昨日も、本当は日が傾く頃にはダグラスの元で来週に迫った剣舞踏会の練習をする予定だったのだ。

 おそらくこの村の子供たちの中で、一番強いのは自分だとジグは思っている。 ひょっとすればサンスよりも強いかも知れない。

 実際、今年の冬にノーア(体長2~3メートルの猪)が出た時などはダグラスの狩りに同行して、見事に仕留めてみせた。 周囲の人間にはダグラスが退治したということになっているが、ジグはその時の戦利品として50センチはある牙を削って作ったお守りを今も持っている。



「心配になる返事だな。 まあいい、この後少しやっていくか?」


 脱力したように肩を下げてからダグラスはにやりと笑っていう。 いかめしい顔のダグラスがするものだから、それは不気味だ。


「じ、時間があるならお願いしようかな……」


 うむ、と頷くとダグラスは部屋の隅で申し訳なさそうに佇んでいる衣装ダンスを開き、中から厚手の革手袋を引っ張り出した。 それから片手用木剣を二本取りだすと、それらを布でくるくると手際よく包む。


「今日はダグラスもするの?」


 心配そうに問うジグにダグラスはとびっきりの笑顔で答える。

 しかし、とびっきりの笑顔といってもそれが必ずしも好印象を与えるとは限らないということをジグは初めて知った。


「本番前だ。 手合わせはこれが初めてだが、ぶっつけ本番よりもはいいだろう?」


 本番前に怪我したら意味ないじゃんと言う一言が喉元まででかかった、がなんとか我慢した。






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