双極の協奏曲 ⅱ
犬かわいい……
時間というのは勝手なもので、人の意に沿って流れることはない。
待ち遠しく思うほどに長く遠く感じ、嫌な物事はすぐに訪れる。
全くもって難儀なものだと思う。 時間というものにいいように操られている。
誰も逃れられず、漂流者のようにそのしがらみの波に流されるまま生きていく。 人々はその流れにさらうための何かを探し、中には溺れる者もいる、それほど大きな流れだ。
全てのものを飲み込みその身の内に捕らえ続ける海龍、それが時間というものだろう。
つまり、ジグにとっての五日間というのは短いようでいて、案外長いものであったということだ。
そして待ちに待ったその日が訪れる。
街までは時間がかかるため前日朝早くに出立し、一泊して帰ってくる予定だ。
ジグもハンナも太陽が顔を出す前に既に起きており、前日の内から準備していた背嚢を背負いこむ。
中には着替えや道中での昼食、水筒などが入っている。
ハンナの分の背嚢がなかったため、ハンナはジグのを、ジグは父が置いていった古いものを使っている。
「ぴったりのサイズね」
イルアナは言いながら懐かしむように背嚢を撫でた。
「いつの間にかこんなに大きくなって……」
実感のないジグは苦笑いで返すとドアを開ける。
金属の鳥が甲高い鳴き声をあげ二人の出立を告げた。
「いってきます。 絶対勝ってくるよ」
「いってきます。 イルアナさん、ありがとうございました」
自信ありげに言うジグに対してハンナは落ち着いた様子で告げる。
「二人とも、気をつけてね。 いってらっしゃい」
玄関先まで二人を見送り、森に入っていくジグとハンナを見つめていた。
二人がダグラスの家、村への道を使わなかったのは単に村人達には知られたくないからだ。
先日森からダグラスの家へと行った道を少しそれれば街への道の途中に出る。
そこでダグラスと待ち合わせているのだ。
二人は半分走っているような急ぎ足で森を通り抜け約束の場所へと向かう。
××××××××××
待ち合わせ場所にいたダグラスは森から漏れ出る気配を感じて振り返る。
そこには頬を上気させ楽しみに興奮する様子の青年とその脇で静かに佇む少女の姿があった。
「おはよう。 ジグ」
言いながら下ろしていた背嚢を担ぐとジグとハンナも挨拶を返す。
「いよいよだね」
いつもより数倍増してテンションの高いジグに、ダグラスはまだ子供だななどと無体なことを考えていると、ハンナがジグをなだめるように声をかけた。
「落ち着いてジグさん、そんな様子じゃ勝てる試合も勝てませんよ」
「落ち着いてるよ、大丈夫、いつも通りさ」
表面上だけ取り繕っているのが簡単に見破れる返事ではあったが、村から始めて出る子供の反応としては当たり前のところだろう。
やれやれといった様子で首を振るダグラスに気づかず、ジグは道の先を眺めている。
ジグは一泊二日の旅路であるのに、まるで一生をかけたもののように目を輝かせている。
ハンナの方がいくつか年下らしいが、はたから見ているとそうは見えない。
「いまから出発するが、ここから街までは半日ほどの道のりだ。 ジグは森歩きでその程度の距離は慣れていると言いたいかもしれないが、少々きつい道程だぞ。 何せ、変わりばえのしない道を延々と歩くだけだからな」
ダグラスとしては少し注意しただけだったのだが、予想外にジグが真に受けてしまい、先ほどの顔からは予想できないような真剣な面持ちで頷いた。
「向こうに着いたら明日の大会のために剣を選ばないといけない、その体力だけは残しておけよ」
「分かったよ」
口を尖らせて言うジグに、ダグラスは鷹揚に頷いて言う。
「それでは、出発だ」
朝日を背に受けて三人は歩き出した。




