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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第七章 〜灼熱怪獣「バニグモン」、戦闘戦車「ピースフル」登場〜
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「リボーン」

 光が消えた時、渋谷の町もまた消えていた。後にはクレーターだけが残り、ついでに言うとそこにいた住民、逃げ遅れた住民も根こそぎ消滅していた。

 一瞬だった。苦しむ暇も無かった。それはそれで幸せなことだったのかもしれない。そしてその幸せは、生身で町中に突っ立っていた新城亮達も等しく享受することとなった。


「悲惨なことになったな」


 爆発に巻き込まれて無事で済んだのは、件の腕付き戦車に乗り込んでいたザイオンら四人と二体の怪獣だけだった。円盤に乗って空中にいたラ・ムーとソロモンも消し飛んでいた。カメラ付き円盤は無事だった。


「しかし、これはひどいな」


 ソファに座ってモニターに映されたクレーターの俯瞰映像を見ながらザイオンが呟く。だがその言葉とは裏腹に彼の手にはオレンジジュースの満たされたコップがあり、まるで映画を見るかのようにソファに深々と座ってくつろいでいた。他の生徒三人も同様だった。


「これはいくらなんでもやりすぎですわ」


 コップに入ったウーロン茶を飲みながら麻里弥が眉をひそめる。その横でリンゴをかじりながら優が言った。


「容赦ないね。まあこれくらいやってくれた方が気持ちいいっちゃ気持ちいいけどね」

「動きましたー」


 その時一人でコクピットの方に移動していた勉吉が後ろの三人に向けて声を上げる。彼は爆発の衝撃で動かなくなっていた戦車の駆動系を調べ修復作業に入っていたのだった。彼がそれに取りかかったのは今から四十秒ほど前のことである。


「もう? 速いな」

「雁田様は本当に速いですわね」

「学者やめてエンジニアになった方がいいんじゃない?」


 勉吉の言葉を聞いた三人がそれぞれ言葉を述べる。対して勉吉はそれを聞いて嬉しさと恥ずかしさをない交ぜにした笑みを浮かべて顔を真っ赤にした。

 その勉吉の元にザイオンがコップをテーブルの上に置いてから近づき、そして操縦席の一つに座り込んで彼に言った。


「これはもう動かせるのかね?」

「あ、はい。もう大丈夫です。攻撃系も駆動系も問題なく動作します」

「そうか。それはよかった」


 「H」を丸く歪めた形をしたハンドルを両手で握りながらザイオンが満足そうに頷く。麻里弥がザイオンに尋ねる。


「何をなさるおつもりですの?」

「いやなに、そろそろお開きにしてもらおうかと思ってね」

「なにを?」

「これだよ」


 ザイオンがそう言いながら手元のボタンをいじる。直後、部屋の中に吊り下げられていたモニターの映像の一部がズームアップされ、互いに距離をとりつつ威嚇しあう二体の怪獣の姿が大きく映し出された。


「まだやるつもりらしい」

「え、まだ?」

「ていうか、あれ食らって生きてるんだ」


 ザイオンの言葉に勉吉と優が呆れながら息をのむ。その間にもザイオンは起動の準備を淡々と進めており、それに気づいた麻里弥が彼に言った。


「何か手伝えることはありますか?」

「いや、大丈夫。これくらい一人で平気だ」


 ザイオンがそう答えた直後、車体が小刻みに振動しエンジンがかかる音が聞こえてくる。それを受けてザイオンは「やった」と小声で漏らした後ハンドルを手前に引き、次いでハンドルを握ったままそれを軽い力で左右に引っ張った。

 次の瞬間、ハンドルが真ん中の部分から二つに分かれた。ハンドルと本体を繋ぐアームの部分は自由に動く多関節構造となり、外向きに弧を描いていた部分はザイオンの方へと向き、最終的にハンドルだった部分はそのまま二本のレバーへと変形した。


「すごい」

「それで腕を動かすんですね」


 その変形を見た優が感心したように声を漏らし、勉吉が眼鏡の奥で目を光らせた。ザイオンはさらに「指の開閉などは握った手を通して脳波でコントロールできる」と付け加えた後、ガシャガシャと小気味良い音を立ててレバーを動かしながら言った。


「ピースフル。交渉の時間だ」





 亮はその後の詳しい事は麻里弥から聞いた。怪獣二匹が出現した翌日のことであった。

 彼はその日、バニグモンが放った火球によって、渋谷にいた他の人間共々一度地上から消滅した。だが試合終了と共にビッグマンデュエル実行委員会の放った修復光線によって、彼の存在は消滅した町ごと復活を果たしたのだった。過去の記憶や身体能力といった物はそっくりそのまま保持した状態で。


「う、うーん……」


 彼は消滅前と同じ光景に戻った渋谷の町中で目を覚ました。そこは死ぬ間際まで彼が立っていた場所であり、そして彼は自分が死んだという意識が無かった。ついさっきまで眠りこけていて、今やっと睡眠から目を覚ましたといったような感覚であった。

 違和感は感じていた。自分がこんな町中でいきなり眠り出すのはあり得ないとわかっていたからだ。だがそれでも、自分が死んだという実感はわかなかった。


「生物を構成している全ての要素は、デュエル実行委員会の手に掛かれば全てデータに変換する事が出来るんです。骨の厚さや密度、形。全身の筋肉の量。脳の電気信号の伝達スピードと伝達範囲。とにかくまあそういった何万、何億もの情報です」


 これは亮と同じように肉体を再構築され蘇生を果たしたラ・ムーの言葉である。彼は亮達と同じく渋谷の町中に倒れており、すぐ近くにいて同じタイミングで目を覚ました亮からの「自分の身に何が起きたのか」という問いかけに対してそう説明したのだった。


「魂がどうのと言ったオカルト話にすり寄る必要はありません。全ての要素は数値化する事が出来る。そうしてあらかじめ取得しておいた数字やデータをパズルのように正しく組み合わせれば、それだけで元の人間を元通りに作り直す事が出来るんです」

「記憶はどうなるんだ? 意識や性格は?」

「それらは全て、その人が生まれてから経験してきた事を通じて脳に蓄積された情報を統合した結果です。昔があるから今がある。そしてその溜め込まれた過去の情報はデータに変換できる。データを全て組み合わせれば、元通りの物が再び作れる。死後の世界から魂を引っ張ってくる必要はないんです」

「なるほどね」


 ついさっきまで魂を死後の世界から呼び寄せていた存在と相対していた亮は、そのラ・ムーの言葉を聞いて不思議な感覚を味わった。いったいどちらが正しいのか?

 どっちも正しいのだろう。お互い生命に対するアプローチが違うだけであって、目的とする部分は同じなのだ。そしてどちらも成功している。どちらが邪道かと断じるのはナンセンスだ。

 自分達は一度死んで、再構成された。わかるのはそれだけで十分であった。自分と同じく再構築され自分のすぐそばに置かれていた円盤に乗り込むラ・ムーの背中を見送りながら、亮はそう考えていた。





 閑話休題。

 昨日ここにいる生徒の大半が死亡したとは思えないほどのんびりした空気に包まれた朝のホームルーム時、亮は麻里弥から昨日の試合の続きを聞いていたのだった。

 麻里弥が話した事の顛末は以下の通りであった。


「町を消した後も戦おうとした怪獣二体の間に腕付きの戦車が割って入って、それぞれにパンチ一発ずつお見舞いして黙らせたのですわ」


 簡潔極まりない説明であった。そもそも亮は腕付きの戦車と言われてもそれがどのような代物なのかいまいちピンと来なかった。


「腕付きは腕付きですわ」


 確認してみてもこう返されて終わりである。麻里弥の方も悪気はなく、単純にその時の情景を伝えるだけの語彙力や表現力が足りていないだけであり、これがまた質が悪かった。優か勉吉に話を聞こうとも思ったが、この日優は学園を休み、勉吉は地下世界にこもっていた。現状で話を聞けるのが麻里弥しかいなかったのだ。

 結局、亮は話を聞くのを断念した。これ以上聞いても進展は無さそうだと考えたからであった。


「ところで先生、アスカ様はどうなされたのですか?」


 そして亮が区切りをつけたところで、今度は麻里弥が彼にそう問いかけてきた。教師である亮は当然そのことについて把握しており、自分の知っている事を麻里弥に対して言った。


「あいつは今日もここに来るよ。当分の間離れる事はないらしい」

「そうなのですか? 何かお咎めを受けたりとか、そのような話は無いのですね?」

「そこまではわからんな。まだ何も聞いてない」


 そう答えた亮に麻里弥が詰め寄る。


「本当の本当に何もご存じないのですね?」

「ああ。知らんもんは知らん」


 そうとしか言いようが無かった。他に言い方があったかもしれないが、咄嗟に出てきた言葉はこれであった。亮は自分の語彙力の乏しさを恨めしく思った。

 そう考えていた亮の前で麻里弥が言った。


「そうなのですね。とにかく、アスカ様は今後もこちらに登校なされると」

「そういうことだな」

「それは良い報せですわ」


 麻里弥がたおやかに満面の笑みを浮かべた。その情報を心から喜んでいるようであった。


「アスカ様はとても面白く、人柄の良い方でしたから。出会ってまだ一日二日も経たない内に離ればなれになるのはとても寂しい物だと思っていたのです」

「あいつとは友達になれそうか?」

「もちろんでございます」

「そうか。それは良かった」


 亮がそう言いながら肩の荷が降りたように安堵のため息をもらす。新しい環境に放り出された転校生に友人が出来るかどうか、亮は一人の教師としてそれを心配していたのだった。それは杞憂に終わりそうだった。


「ですが、暫くの間はわたくしは学園には来られないのですわ」


 だがその直後、麻里弥は顔を伏せ寂しげな表情でそう漏らした。亮が麻里弥に尋ねる。


「どうした? 体調でも悪いのか?」

「いえ、体の問題ではありませんわ。お家の問題と言いますか、わたくしの副業の問題と言いますか・・」

「副業……退魔師か?」


 麻里弥が顔を上げて無言で頷く。その表情は険しく引き締められており、ある種の覚悟がうかがえた。

 その顔から尋常ならざる気配を感じ取った亮が麻里弥に尋ねた。


「何かあるのか? デカい事が起きるのか?」

「今はまだ、詳しい事は申せませんわ。ですがその内、必ずお話しいたします。それまで待っていただけないでしょうか?」

「……わかった。でもせめて、何をしようとしているのか、さわりの部分だけでも教えてくれないか? 大雑把な感じでいいんだ」


 亮は食い下がった。その顔は麻里弥のそれと同じくらい真剣なものであり、おもしろ半分に話を聞き出そうとしている訳ではないと言外に告げていた。

 彼はこの時、一人の教師として、麻里弥の身を案じていたのだ。麻里弥ほどの力を持つ者が簡単に屈するとは思えなかったが、それでも心配なものは心配だったのだ。


「先生は心配性なのですわね」


 そんな亮の心を察したのか、麻里弥が彼の方を見てクスクスと笑った。それから麻里弥は馬鹿にされたようでムッとした表情を見せる亮に「ごめんなさい」とすぐに謝り、その後で改めて亮の質問に答えた。


「それほど大それた事ではありませんわ。ほんの二、三日で終わる事です」

「そんな短期間で終わるのか。いったい何をする気なんだ?」


 亮が問いかける。春風のように柔らかく微笑んでから麻里弥がそっと口を開いた。


「戦争ですわ」

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