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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第七章 〜灼熱怪獣「バニグモン」、戦闘戦車「ピースフル」登場〜
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「招かれざる客」

 D組の面々がアスカに連れられて町の中に消えていった後、アルファの着陸した所の向かい側、都心部を挟んだ地点に置かれたワープポータルが青白い光を発し、その光の中から一人の人間が姿を現した。


「ここか」


 生徒会副会長牧原忍である。彼がワープした場所は直方体の巨大なコンテナが規則的に並んだ区画のど真ん中であり、彼の頭上では黄色く塗られたクレーンがコンテナの一つを吊り下げて別の場所に動かしていた。

 彼は体育館に侵入したクジラが地下に潜った後、他のメンバーに跡を追わせると共に偵察ロボを所有している執行委員の一人に詰め寄ってクジラの現在位置を特定させた。そして忍とその執行委員は割り出したアルファの位置から地下に巨大な空間がある事を知り、さらにその地下空間の中に地上で使われているのと同じ規格のワープポータルがあることも掴んだ。

 ちなみにその地下空間はカモフラージュを施して視覚面での偽装を施すのはもちろんの事、あらゆるレーダーにも映らない完璧なステルス機能とそれを可能にする何十もの防護装置によって守られていた。さらにそのドーム状の空間の表面は全てワープスクリーンで覆われており、地下をいく物体が「偶然」空間の中に入るのを防いでいた。

 これはスクリーンそのものがワープ装置の「入り口」と「出口」になっており、スクリーンのある面に突進した物体はそれに覆われたドームの中には入らずに、その突入口の延長線上にある別の面から飛び出していくという代物であった。ワープの兆候もなければワープ自体も一瞬で行われるため、実際にワープした物は普通に地中を潜行しているのと同じ感覚を味わうのであった。

 それは何も知らない人からすれば、「そこには最初から何もなかった」と言ってしまえる程の完璧な防衛機構であった。だが幸か不幸か、忍達はそれを見つけてしまった。


「地下にこんな所があったとは……」


 それを見つけた忍はさっそく学園内にある物資搬入倉庫に置かれたワープポータルへと向かい、そこの転送位置を調整して地下にあるポータルと繋がるようにした。なおこの時これを使って地下に向かったのは忍一人であったが、これはただ単に彼が手柄を独り占めしたかったからである。彼は最後まで協力した執行委員にも口止めさせた。

 そうして目的地である地下に侵入した忍であったが、彼は目の前に広がる光景に暫し呆然と見入っていた。断崖絶壁となっている空間の端から見える溶岩、その溶岩によって途中まで赤く染められた土の壁面。そして空間の中央にでかでかと存在する、まるで自分の住んでいる町に帰ってきたのではないかと疑ってしまう程に既視感の強い、人工的な光で埋め尽くされた都心部。

 何もかもが自分の予想を超えていた。もっと地底に住んでいる連中はもっと原始的な生活を送っているはずだと思っていたが、現実はその百八十度逆であった。そこに広がる世界はあまりにも文明的であり、地上の物とあまりにも似通っていた。似すぎていて吐き気がする位であった。


「いや、そろそろ動かねば」


 だが、いつまでもここに立ち尽くしている訳にはいかない。そう思い直した忍は己の心に活を入れ、コンテナの一つに背を預けて擦り付けるように平行移動し、そして端っこから僅かに顔を出して進行方向上に人がいないかを確認する。確認を終えた後で忍は腰を低くして素早く移動し、前方にあるまた別のコンテナに身を隠す。そして再度端から顔を出し、自分の進む先に人がいないかを確認する。

 そんな動きを繰り返し、やがて彼は町への入り口である門に近づいた。門には見張りが数人おり、門の両脇に建てられた塔の上にも見張りがいた。見張りは全員が銃で武装しており、一見して強行突破は不可能であった。


「ふん」


 だが忍は敵の戦力を確認した後、堂々と正面から門へと歩いていった。当然彼の姿は見張りに見つかり、門の両脇で歩哨をしていた見張り二人が銃を構えながら忍に近づいていく。


「何者だ! どうやってここに入ってきた!」


 見張りの一人が威圧するように言ってくる。銃口は忍の脳天をまっすぐ狙っていた。

 だが忍は何も答えずに口元をつり上げて薄く笑い、そして何も言わずに両手を伸ばして両掌を見せびらかすように彼らの前に突き出した。


「?」

「おい、なんのつもりだ」


 それを見た見張りが口を開いた直後、彼らの思考は掌から放たれた閃光と共に忍の統制下に置かれる事となった。





「……以上が、僕の組み立てたワープ理論の仕組みになります」

「素晴らしい!」


 同じ頃、勉吉は先の食堂でザイオン一人を相手にテーブルを挟んで持論を展開していた。講義内容は自分が組み立てたワープ装置の仕組みの説明であり、ただ一人の生徒であるザイオンは彼の説明を聞き終えて拍手を送っていた。


「まったく完璧な内容だ! まさに理論構築のお手本のような物だった! そのまま教科書に載せたいくらいだよ」

「そんな特別凄い訳じゃないですよ。僕はちゃんと細かいところまで説明しただけです」

「それが素晴らしいと言うのだ。君の説明はかゆい所まで手が届くような物であり、今の時代そのような研究論文を書く奴はいない。たとえばここだ」


 ザイオンはそう言って、前もって勉吉から渡されていた手元の資料の中から一枚の紙を抜き取って勉吉に見せた。


「ここの部分、宇宙人のテクノロジーを参考にしてワープ理論を構築していったという部分だ。ここには資料画像として君が参考にした宇宙人の手記、その宇宙人の書いた文字列が掲載されている。君はこの宇宙人の文字を全て解読して、その上で研究を行ったようだね」

「はい。そこは結構骨が折れました。それが何か?」

「それが凄いと言うのだ。いや、凄いと言うより普通と言うべきか。今の方がおかしくなっているだけであるからな」

「どういう意味です」

「今の連中はな、君のやったように宇宙人の文字を解読しようとはせんのだよ。ただ自分の推論だけで組み上げた理論を前提にして、ここはこうだろう、ここはこう言っているんだろう、と全て憶測で物事を展開しているのだ。事実を元にしてはおらんのだよ」

「ああ、そういう事ですか」


 ザイオンの説明を聞いた勉吉ががっくりと肩を落とす。その様子はまるで「そんな事は前から知っている」とでも言いたげな落胆したものであり、それを見たザイオンは不思議そうに彼に尋ねた。


「もしかして、前から知っていたのかね?」

「ええ。論文はいくつも読んできましたから。そういうおかしな物に当たったのも一つや二つじゃありませんよ」

「なんだ、そうだったのか」

「もちろんちゃんと論文を書いている人も大勢います。むしろそっちの方が多いです。でも最近は、さっきあなたの言ったようにまともに調査もしないで論文を書く人が増えてきている。特に宇宙、それも人間の手に余るようなオーバーテクノロジーの絡んでくる分野において」

「その通りだ」


 勉吉の言葉を聞いたザイオンがうんうんと頷く。勉吉もまたそれに同意するように首を縦に振った。

 本来、論文とは須く客観的であるべき存在である。憶測や推論で文を書いていく事は厳禁であり、それは学生の頃からしつこく言われ続けてきた事である。

 だが今現在、勉吉が示したような分野における論文はその禁を破っている物が殆どであった。情報が少なすぎて調べようが無いからなのか、それとも元々調べる気が無いからなのかはわからなかったが、どちらにしても「客観的な事実」が見つからないくらいなら書かない方がいいと勉吉は常々思っていた。そしてそれを同期や教授の前で言ったら全員から白い目で見られ、あまつさえ「名声の方が大事だ」と馬鹿にするような口振りで言われた。

 だから自分はそこから身を引いて、一人の学生としてやり直そうとした。勉吉はザイオンにそう言った。


「君は飛び級生なのかね?」


 勉吉の話を聞いたザイオンが問いかける。勉吉が頷いて答える。


「元ですけどね。さっきのは中学三年の頃の話です。最初に論文を書いたのはその一年前で、それが学会に認められて研究に携わるようになったんです」

「天才というわけか」


 ザイオンがそう息を吐くと同時に呟きながら深く椅子に座り込む。


「いる所にはいるのだな」

「あまり自覚はありませんが」


 勉吉が恥ずかしげに答える。それを見たザイオンは「十分誇っていいことだ」と腕を組んで言った。


「すいません、検分終わりましたわ」


 その時、食堂のドアを開けてそこから十轟院麻里弥と芹沢優が姿を見せた。彼女たちはザイオンに許可を得て、彼が霊界から魂を呼び寄せる際に使った魔法陣を観察しに行っていたのだった。なお、この時他の面々はアスカの案内の元で地底都市の観光に出向いていた。


「おお、帰ってきたか。で、どうだったね? あれを見た感想は?」


 麻里弥と優を見つけたザイオンが立ち上がって彼女たちに感想を尋ねる。問われた二人のうち麻里弥は苦笑いを浮かべ、優は気まずそうに視線を逸らした。


「よく見てもわからなかった」


 やがて優が頭をかきながら言った。それに付け加えるように麻里弥が言った。


「わたくし達も初めて見る術式でしたわ。使われている言語も全くわからず、そもそもどれが模様でどれが文字なのかも判断出来ませんでした」

「あたしもあんなの初めて見たよ。正直言って、お手上げだね。他の獣使いなら何か知ってるかしれないけど、あたしはあんなの知らない」


 続けて優が答える。麻里弥も無言で首を横に振る。それを見たザイオンは得意げな顔にはならず、逆に残念そうな表情を浮かべた。


「そうか。君達も知らんのか」


 それは話し相手が増えると思っていたらそうでもなかった、落胆の顔であった。それを聞いた麻里弥がザイオンに言った。


「あなたはあれがどういう物かご存じなのですか?」

「いや、私も知らん」

「は?」


 優が呆気に取られた声を出す。ザイオンの向かい側でそれを聞いていた勉吉もこの時の彼女と同じ驚きの顔で彼を見ており、そしてそれらに気づいたザイオンは気まずそうな顔で言った。


「実はあれは夢の中で神から聞いた通りに魔法陣を書いただけなのだ。途中で唱える呪文も全て神から聞いた通りに唱えているだけにすぎん。言葉の意味は何もわからないのだ」

「また夢だよ」

「それは安全なのですか?」

「おそらくは安全だろう。魂の召還は随分前から続けているが、今まで体に異常をきたした事は一度も無い」


 ザイオンの説明を聞いた優が呆れたように言い、麻里弥が控えめに問いかける。その問いに対してザイオンはきっぱりと答え、それを聞いた勉吉は眉間に皺を寄せて言った。


「でもやっぱり止めた方がいいですよ。そんな得体の知れない術を使い続けるのは良くないですって」

「得体の知れない力などではないぞ。これは私の信じる神が直々に与えてくださった力だ。決して怪しい力などではない」

「そんな、いるかどうかもわからないものから手に入れた力を信じるなんて」

「信じてる人にとってはいるのよ」


 はっきり言い切るザイオンに対してなおも渋る勉吉に、優が諭すように言った。


「神様を信じてる人からすれば、神様は実在するものなの。彼らは神様はこの世のどこか、もしくはこことは違う世界にいるって信じていて、その信じる力が彼らを動かしているの」

「そんなものなんですか?」

「そんなものよ」


 優が素っ気なく、心底どうでもいいことのように言ってのける。勉吉はなおも納得できていないような複雑な表情をしていたが、一方でザイオンはその優の言葉に納得したようにうなずき、「おおむねその通りだ」と満足げに言った。


「まっこと不思議な世界ですわね」

「それを言ったらあたし達の関わってる世界も大概おかしいんだけどね」


 そしてそれを聞いた麻里弥が楽しげに微笑みながら呟き、優がため息混じりに言い返す。それを聞いた勉吉もつられて苦笑を漏らし、ザイオンは一人不思議そうに首を傾げる。


「王様、問題が発生しました」


 その時、食堂のドアを開けて見知らぬスーツ姿の人間が一人現れ、ドアを開けるなりザイオンに向かってそう言った。ザイオンはその現れた人間に向き直り、真剣な面持ちで問いかけた。


「何が起きた?」

「恐竜がでました」

「え?」


 思わず勉吉が呆気にとられた声を出す。麻里弥と優も声こそ出さなかったが同じ顔をしていた。だがザイオンは茶化したりせず、前と同じ真剣な顔で言った。


「ほう、恐竜かね」

「はい。恐竜です」

「場所はわかるかね?」

「案内できます」

「よろしい」


 相手の言葉を聞いたザイオンが満足げに頷いて立ち上がる。それからザイオンは三人の客人の顔をそれぞれ見回し、ニヤリと笑って言った。


「君達も来るかね?」

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