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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第七章 〜灼熱怪獣「バニグモン」、戦闘戦車「ピースフル」登場〜
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「オマツリ前」

「まったく昨日はひどい目に遭いまシタ」


 橘潤平と朝倉若葉が校内に入ってから数十分後、アスカ・フリードリヒは当たり前のように二年D組の中に入ってそこの生徒数名を前に愚痴をこぼしていた。この時はもうすぐ朝のホームルームが始まると言うこともあって教室内にはD組の生徒のほぼ全員が揃っており、当然アスカの存在にも気づいていた。だがそれを指摘し排斥しようとした者は一人もいなかった。彼らはアスカの纏う雰囲気から、彼女が自分たちと同じ「はぐれ者」であることを本能で察していたのだった。


「ワタシ達はただ楽しく話をしていただけなのに、いきなり教室の中に爆弾を放り込まれたのデスよ? もう信じられないデス。ありえないデス」

「災難だったね……」

「アスカも制裁食らったって事か」

「what?」


 アスカの台詞を聞いた男子生徒の一人が放った言葉を聞き、アスカが不思議そうに問い返す。問われた男子生徒は隣で自分と一緒にアスカの言い分を聞いていた女生徒と一瞬顔を見合わせ、それから再びアスカの方を見て言った。


「まあ、あれだよ。制裁ってのは躾って言うか、お仕置きって言うか、身の程をわからせる的な? 感じのやつだよ」

「暴力に訴えて、それで無理矢理言うことを聞かせるって事なのデスか?」

「そんな感じだ」

「意味がわからないデス」


 アスカが呆れた声を出す。男子生徒と女生徒、そして彼ら以外でそれを聞いた生徒達数人が揃って苦笑を漏らす。


「まあ意味わかんないよな」

「矯正って言っても色々やり方あるもんね。なんで暴力に訴えるのかがわからないわ」

「ただのストレス発散でしょ? 聞き分けを良くするとかただのタテマエよタテマエ」


 そうぼやき合う彼らの顔は、表に出すまいと意識してなお滲み出てくるほどの怒りと悲しみで僅かながら歪んでいた。それは本当にほんの僅かの変化であったが、アスカはそれを目聡く見つけ、そして彼らが以前に自分と同じ目に遭ったのだと理解した。


「ストップ! みんなそこまでデス!」


 理解すると同時にアスカは声を出していた。はっとした表情で自分の方を見てくる面々を前に、アスカは彼らに言い聞かせるように、明るくはっきりとした声で言った。


「悪いのはあいつらの方デス。ワタシ達が気に病む必要はありまセンよ。ほら、みんなスマイル! へこたれてちゃ人生つまらないデース!」


 アスカなりの精一杯の励ましであった。言葉だけではない、気持ちのこもった太陽のように暖かい言葉であった。

 そんな、まるで篝火のような穏やかな暖かさを持つ彼女の言葉を聞いた面々はその彼女の思いを胸の奥で察し、凍りついていた筋肉がほぐれていくようにその表情をいつも通りの物へと戻していった。何人かはアスカの言うとおり、顔に笑みさえ浮かべていた。

 もっともそれは満面の笑みではなく呆れの感情の交じった物であったが、それでもアスカにとっては満足できる物であった。笑ってくれさえすればそれでいいのだ。

 そして彼らの復調を見て取ったアスカはさらに笑顔を増し、いかにも上機嫌な風で言った。


「そうデス、そうデス! いつまでも暗い顔をしていたら、気持ちもどんどん落ち込んで行きマス! 負のスパイラルに巻き込まれるデス!」

「……そうかもな」

「うん、確かにそうかも。なんか元気出てきた」

「ありがとね、アスカさん」

「お礼にはおよびまセーン!」


 周りから礼を述べられても、アスカはそれを鼻にかけたりはしなかった。ただ嫌味のない自然な笑みを浮かべながら、彼らに向かって諭すように言った。


「とにかく、いちいち昔の事を気にしていても埒が明きまセン! もっとポジティブに、有意義に人生を過ごしまショウ! そんな事じゃ、とうていアンダーグラウンドでは生きていけませんヨ?」

「えっ?」


 一瞬、その場の空気が凍りついた。


「アンダーグラウンド?」


 それからアスカの言葉の意味を探ろうと、それを聞いた全員の動きが止まった。意識を脳内の奥深くまで潜り込ませ、自分の記憶にそれと該当する物がないか探し始めたのだ。

 だが何も無かった。


「なにそれ?」

「どこそこ?」

「聞いたことねえな」

「……」


 同様にアスカも固まっていた。だが彼女の硬直は単純に「しくじった」事を後悔する意味での硬直であった。

 事実、この時のアスカは貧血を起こしたかのように顔面蒼白であった。


「みんないるなー?」





 だがそんな彼女に救いの手をさしのべるかのように、名簿を小脇に挟んだ亮がドアを開けて教室に入ってきた。それを見た生徒達は雑談を止めていそいそと自分の席に座り直し、そして亮はその中で一人立ったままのアスカに向かって「早く戻れ」と促し、アスカもそれを聞き入れて足早に廊下へ飛び出していく。それを見届けた後、亮は自らも教壇に立って生徒達を見回しながら言った。


「ホームルームに入る前に連絡がある。今日の昼休みなんだが、なんでも臨時で全校集会を開くことが決まったらしい。他に予定のある人もいるとは思うが、今日は四限の授業が終わったらすぐに体育館に集まって来てほしい」


 それを聞いた面々は一斉にざわついた。なんで昼の自由時間を潰してまでそんな事をするのか。不平を漏らす者が大多数を占めていた。


「気持ちはわかる。だがこれはもう決まったことなんだ。全員参加して欲しいとの事だ」


 そんな不満を隠そうともしない生徒達をなだめるように亮が口を開く。この時彼は用件を伝えるだけ伝えておいて、それから適当に言葉を濁して立ち去ろうという事はしなかった。なぜなら、なぜ集会をするのか、どんな内容の集会を行うのかといった基本的な事柄を亮は全く聞かされておらず、彼自身もこの突然の決定に疑問を抱いていたからだ。彼と同じく寝耳に水といった格好で知らされた生徒達が狼狽し不平不満を漏らす気持ちは良くわかった。

 その後も亮の説得は続き、初めはブーブー文句を言っていた生徒達も、最後には亮の根気に負けてしおらしくなり、「先生がそこまで言うなら」と渋々了承した。


「そうか。行ってくれるか」


 生徒達の反応を見た亮がほっと一息ついたとき、彼の頭上の壁にかけられた時計の針は既に朝のホームルームの終了の時刻を差していた。腕時計で確認してそれに気づいた亮は慌てて教壇の上にある名簿を畳み込み、ドアに向かいながら早口で言った。


「とにかく、今日の昼休みだ。全員忘れずに出席すること。いいな?」


 それだけ言って、亮は生徒の反応も待たずに廊下に飛び出していった。生徒は未だ完全に納得した風では無かったが、亮から頼まれた事だと自分に言い聞かせて無理矢理自分を納得させた。


「でもさあ、マジな話なにすんだろ?」

「あれじゃね? 今の町について説教でもするんじゃね?」

「ああ、最近かなりキビシクなったもんね。悪い事したらソッコー殺されるんだっけ?」

「射殺だよ射殺。相手の言い分も聞かずにバーン、だよ」

「最近はそれも減ったけどね。ま、実際に犯罪減ってんならそれもありだと思うけど?」


 それから一時限目の教師が来るまでの間、二年D組の生徒達は昼休みに開かれるという全校集会の内容についてあれやこれやと憶測を言い合った。彼らの大部分が予想していたのは大きく様変わりを遂げた今のこの町の統治機構に対する何らかのスピーチであったが、その「犯罪者は即処刑」が平然とまかり通る今の監視社会システムが生み出される原因の一つでもあった芹沢優は、我関せずとばかりに知らんぷりを決め込んだ。


「別になんでもいいじゃん」


 本当にさぼろうかな。仮病使って早退しようかな。優は本気でそう考えていた。

 だが一応先生の顔も立てておこうと、上から目線ながらも結局彼女は集会に行くことにした。他の生徒達も大体同じ心境であった。





 この時はまだ、誰もが安心していた。

 退屈だが平和な集会が開かれるであろうと、全員が高を括っていたのであった。

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