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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第七章 〜灼熱怪獣「バニグモン」、戦闘戦車「ピースフル」登場〜
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「壁に耳あり」

 アスカ・フリードリヒは唯我独尊を地で行く少女だった。自分が一度こうと決めた事は絶対に曲げようとせず、そして自分が間違っていると思った事には真っ向から反発していった。そしてここで彼女が「敵」と判断したのは、この学園のルールやそこに在籍する生徒達の中に存在する暗黙の了解であった。


「おかしいデース! なんで誰も不思議に思わないデースか? ここまで束縛の激しい所は見たことないデース!」


 本来の編入先である二年B組に戻り、そこで生徒の一人からこの学園で平穏に暮らしていくためのルールを聞かされたアスカは、聞き終えるなりそう声高に叫んだ。


「ここは軍隊なのデスか? 軍学校なのデスか? ちょっとでもルールを破ったら物理的に処断なんてことは絶対にありえないデスよ!」

「他の所なんてどうでもいいの。ここではこれがルールなのよ。あなたもわかったら大人しくしておく事ね」

「ノー! 絶対にノー、ヨ! あなたはこれはおかしいとなんで思えないのデスか? そのシッコーイインとやらがやっているのはただのリンチだと、なんで思えないのデスか!?」

「うるさいわね。ここで長生きしたかったら、素直に従ってなさい! 海外留学生だろうがなんだろうが、ここに来た以上例外は認められないのよ。ケガする前に大人しくしておくことね!」


 そのアスカに忠告した女生徒はおそらく親切心のつもりで言ったのだろうが、その言葉はアスカの心には響かなかった。執行委員による制裁を黙認していたからだ。そしてこの時、アスカとその女生徒のやり取りはクラスの全員に聞こえていた。


「ノーよ! ノー! こんなこと聞かされて、大人しくなんて出来まセーン! こんなおかしなルールがあるのに何もしない方がずっとおかしいデース! あなた達はこのままでもいいと言うのデスか? 正義は無いのデスか?」


 アスカは椅子から立ち上がり、両手を振り上げて以前と同じ声量でまくしたてる。その声にはあからさまな非難の色が込められており、その声はそれを聞くB組の生徒達の心を容赦なく抉っていった。

 この瞬間、B組の生徒全員はこの海外留学生を、自身の平穏を乱す明確な敵と見なした。





「ヘルプミー! ヘルプミーヨー!」


 そんなアスカが大声で泣きながらD組の中に入ってきたのは、この日の授業が終わった放課後の事だった。彼女はD組の帰りのホームルームが終わると同時に勢いよく教壇側のドアを開き、呆気にとられる亮と生徒達を無視して勉吉の座っている席の元へ駆け寄った。


「ここの人たちおかしいデース! ルールに違反したら即処罰って、どう考えても異常デース! 生徒達もそれを知っていながら何もアクション起こそうとしないし、この学園は不条理だらけデース!」


 そして勉吉の真横に両膝をつき、大声で彼に訴えかけた。クラス全体に等しく響く声だった。

 それを聞いた生徒達は元より、それを至近距離で聞かされた勉吉は大いに戸惑った。そして突然のことに混乱する頭を必死に回転させ、それからまずは相手を落ち着かせようと結論づけた彼は、相手をなだめるような静かな声でアスカに言った。


「あ、う、うん。わかった、わかったから。少し落ち着こう?」

「ワタシ、朝にそのおかしな所を指摘しまシタ。そしたらその瞬間、周りの人たちの目が一気に冷たい物になりまシタ! ムラハチ! 仲間外れデース!」

「ああ、うん、わかった。わかったからさ、落ち着こ? 一回落ち着こう?」


 だが勉吉の努力は糠に釘を刺すような物だった。落ち着けと言われたアスカはそんな勉吉の声を無視して嘆き節を炸裂させ、終いには勉吉の机の上に突っ伏して泣き始める始末であった。


「ワタシ、これが初めてのニッポンデシタ。希望を持ってここに来マシタ。でも実際は悪法が幅を利かせ、生徒達もそれを前に見て見ぬ振りをするどころか積極的にそれを支持する始末。こんな悪徳のはびこる場所に来てしまって、ワタシとっても悲しいデース!」


 アスカは本当に泣いていた。両腕で顔を隠し、愚痴をこぼしながら号泣していた。そんなに悔しい事だったのかと思いながら、勉吉は教壇に立つ亮に向けて救いを求める視線を送った。


「ええ……?」


 亮は声に出して戸惑った。このいきなり現れて一方的に愚痴をこぼした後でおいおい泣き始めた女の子に向かってなんと声を掛ければいいのか本当に戸惑った。だが悩んでいても始まらないので、亮はとりあえずアスカに声を掛けることにした。


「おい、アスカ。まずは泣くのを止めてくれ」


 亮の声はクラスの端にまで届くほどのはっきりした声量を持っていた。だがアスカは机から動こうとしなかった。


「おい、聞こえてるのか? アスカ?」


 再び問いかける。クラスメイトの視線が一斉にアスカに集まる。だがアスカは動じなかった。

 勉吉がひきつった笑みを浮かべて再度亮を見る。亮は頭を掻いた後、表情を引き締めて三度アスカに声を掛けようとした。


「おい、アス……」


 だが亮がそこまで言い掛けた時、不意に鈍い音が教室内に響き渡った。その音は勉吉の机の所から発生しており、そして音の響いた所にはそれまでのやかましさがウソのように無言で勉吉の机に突っ伏すアスカと、いつの間にかその背後に立っていた麻里弥の姿があった。


「失礼。少々荒療治をさせていただきましたわ」


 それまで固く握りしめていた右手を解き、ため込んだ力を発散させるようにその手首から先をブラブラ振り回しながら麻里弥が言った。


「このままでは埒が明かないと思いましたので」


 穏やかに笑みを浮かべながら平然と言い放つ。その姿を見た他の生徒と亮は苦笑いを浮かべるばかりであったが、同時に力ずくでも今の流れを止めてくれた麻里弥に感謝の念も抱いていた。





 そして昏倒していたアスカが目を覚まし、アスカが目を覚ますまでじっと席についていた勉吉がその意識を取り戻した彼女にこの学園の有り様を説明し終えた頃には、夕日は既に地平線の下にほぼ全て身を隠し、雲一つ無い空を薄闇が覆い始めていた。ちなみにこのとき教室には勉吉とアスカ、そしてアラタと亮しか残っておらず、他の面々は全員各々の家へと帰宅していった。亮は生徒を放置して自分だけ帰るのもあれな話だと思って教室に留まり、アラタは単純にアスカに興味を抱いていたからだった。

 D組自体が村八分にされていたような状況であったので、ここの生徒の中で部活をしている者はいなかった。


「ジーザス」


 そのことも含めて勉吉からこの月光学園の本当の姿を聞き終えた後、アスカはすっかり醒めた頭を左右に振りながらそう呟いた。その話は到底信じられるものではないと、顔つきだけでなく全身から放つ気配で彼女はそう訴えていた。


「ふざけてマス。あり得ないデス。ここは本当にい学校なのデスか?」

「まあ、他の所に比べてかなり窮屈な場所であるとは思うな」


 アスカの言葉に亮が同意する。同じように首を縦に振りながらアラタが言った。


「まったくその通りだぜ。よくマンガとかじゃ生徒会が学園全部を牛耳ってるなんて展開もよく見るけど、ここじゃそれがマジで起きてるんだからな。なんでそんな感じになっちまったのか不思議でしょうがないぜ」

「おそらくそれは、ここが一種の閉鎖的なコミュニティとして独立しているからだと思います」


 アラタの疑問に勉吉が答える。どういう意味だよ、と聞き返すアラタに、勉吉がメガネをくいと持ち上げながら答えた。


「まず始めに、ここを作ってその後ここの最初の教師となった人達は、自主自立の精神を高め将来の国を背負って立てるだけの強い人物を育成するという共通の目的を持っていました。そしてその目的を達成するために、彼らは全校生徒を導く立場にあった生徒会に校内における全権を任せるようにしたんです」

「全権って、具体的にはどんなのなんだ?」

「文化祭や修学旅行といった学校行事の企画立案や予算編成、避難訓練時の指示誘導、全生徒の風紀の監視、そして制裁」

「最後に物騒な言葉が出てきたデース」

「ていうかそれ、殆ど大体は先公がやることじゃねえか。殆ど丸投げかよ」

「そうともいえますね」


 渋い顔で呟くアラタにそう答えた後、再度メガネを持ち上げて勉吉が言った。


「とにかく、教師陣は生徒会に強大な力を持たせたんです。それも普通では考えられないほどに大きすぎる権利を。おまけに校風も排他的で保守的で、外部からの干渉を受ける事は殆ど無かった。あったとしても彼らはそれを黙殺した。だから彼らに、それはおかしいと大声で注意する者はいなかったんです」

「閉鎖的な環境の弊害という事デスね」

「そうです。そして時を重ねるにつれて、生徒会はその発言力と影響力をどんどん増していった」

「どんな事しても誰も注意しなかったんだもんな。増長して当然か」

「実際かなり増長してるしな」


 アラタの言葉にあわせて亮が言った。一つ頷いて勉吉が続ける。


「後はもう、皆さん知っての通りです。ここは相変わらず外からの干渉を排除し、生徒会とその下部組織である執行委員の発言が絶対のルールとなっている。誰も彼らには逆らえない。逆らうどころか彼らに迎合しておこぼれを預かろうとしている。はっきり言って異常です」


 ここに来て日の浅い亮とアラタ、そして来たばかりのアスカが揃って納得したように頷く。彼らはことここに至って、改めてこの学園の不条理さを思い知ったのだった。


「でもお前、よくそんなスラスラと話せるよな。それ全部今考えたのか?」


 そして暫くして場の空気が落ち着いて来た頃、アラタが感心した口振りで勉吉に話しかけた。話を振られた勉吉は若干しどろもどろになりながら、恥ずかしそうに頭を掻きつつそれに答えた。


「あ、うん、まあはい、そうなんですけど」

「そうなのデスか? つまりベンキチは、頭の回転が速いという事なのでしょうカ?」

「実際雁田は頭いいぞ」


 アスカの問いかけに合わせるように亮が言った。アラタとアスカはそう言った亮に視線を向け、そして二人の視線を受けた亮は彼女たちに説明するように言った。


「ここに来たばかりの時にな、雁田の一年の頃の期末試験の成績を見た事があるんだ。確か、全教科九十点越えだったかな」

「マジで?」


 アラタがひっくり返った声をあげる。それからすぐに勉吉の方を向き、興奮した声で彼に話しかけた。


「なんだよお前、そんなに頭いいのかよ? それならそうと早く言えって! オレに勉強教えてくれよ頼むよ!」

「ええっ? そんないきなり言われても」

「いーじゃねーかよー。オレ古典と英語がダメダメなんだよー。なー頼むよー」

「ワタシもお願いしたいデース。現文がちんぷんかんぷんデース」


 それに便乗する形でアスカまでもが勉吉にすり寄ってくる。それに負けじとアラタもその反対側から勉吉との距離を詰め、椅子に座った状態で左右から挟まれ逃げ場を失った勉吉は助けを求めるように亮にアイコンタクトをとった。


「それはさすがに……」


 亮も勉吉が何を求めているのかはすぐに察したが、こればっかりはどうにもならなかったのでそれ以上何もいわずに黙って首を横に振った。それを見た勉吉の目からは光が消えていくが、その刹那、横からアラタが手を伸ばして彼の首に巻き付け、力任せに自分の方へと引き寄せていった。


「なあなあいいだろ? こんな美人が頼んでるんだ、断る理由なんてないよなあ?」

「がっ……あの、苦し……っ」


 首を絞められた格好になった勉吉が必死にアラタの腕をタップする。だがこの月から来た戦闘狂獣はそんな事などお構いなしに、無意識の内にさらに腕の力を強めていく。


「なー頼むよー。オレこのまま行ったら次のテスト赤点コース直行なんだよー。頼むよー」

「さすがに赤点はまずいデスよネー。という訳でベンキチ、ワタシの勉強も見てほしいデース!」

「お前ら、そんなにやばいのか」

「い、いや、ちげーよ? 本気でヤバいとかそういうんじゃなくてだな。ただこう、あれだよ。ちょっと一緒に勉強したいなーって、そんな感じの」

「そ、そうそう。ただちょっとベンキチに勉強みてほしいだけネ。下手したら次のテストで赤点量産とか、そんな惨めな結果にはならないデスよ」


 ジト目でにらみつけてくる亮に対し、アラタとアスカがそれぞれ乾いた笑みを浮かべながら答える。次のテストが危なすぎて焦っているのがバレバレであったが、亮はそのことを指摘しようとはしなかった。そして亮が黙っている間、二人はその間も勉吉を玩具にしてはしゃぎ合っていた。


「……うん?」


 そんなこんなで見目麗しい女生徒二人が男子生徒一人と戯れていたその時、不意にアスカがじゃれるのを止めて立ち上がり、目を細めて鼻をひくひくと動かし始めた。それを見た亮が何事かと思い彼女に話しかける。


「どうした?」

「いや、うん、その……」


 言い淀むアスカを前にして、アラタと勉吉も不思議に思い、静かな様子でアスカを見つめる。そんな三人からの視線を受けつつ、アスカはなおも鼻をひくつかせ顔を左右に回しながら言った。


「なんか、変な匂いするデス。場違いな匂いというか、なんというか」

「変な匂い?」

「具体的にはどんなんだ?」


 アラタが問いかける。体の動きを止め視線を天井の隅に固定しながらアスカが答える。


「うーん……火薬?」





 次の瞬間、彼らのいた二年D組の窓から爆炎が噴き出した。

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