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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第六章 ~魔獣「フンババ」、魔神「蚩尤」、魔皇女「ジャヒー」登場~
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「通り魔」

「ああ新城先生。見つけましたよ」


 それから数日後、三時限目の授業を終えて次の教室に向かおうと廊下を歩いていた亮は、背後からかけられた声に反応して後ろを振り向いた。そこにはスーツがはちきれんほどのボリュームを持った筋肉を全身に纏った、筋骨隆々な大男が立っていた。


「ブラボー先生、どうかしましたか?」


 その男の姿を認めた亮が気さくに返事をする。ブラボーと呼ばれたその教師は「いや、なんてことはないんですがね」と苦笑混じりに返しながら立ち止まっている亮のすぐ近くまで歩を進め、そして亮の眼前で立ち止まって亮を見下ろしながら親しげに言った。


「うちの船長が今週の末くらいにパーティーを開きたいと言っていましてね。それで新城先生も誘ってこいと言われまして」

「ああ、なるほど。そういう事ですか」


 ブラボーの言葉を聞いた新城が納得したように頷く。ブラボーの言う「船長」とはこの月光学園で教師をしている新城亮の妻兼海賊団船長エコー・ル・ゴルト・フォックストロットの事であり、そしてこのブラボーは同海賊団に所属するエコーの部下の一人であった。ちなみにこの学園にはブラボー以外にも二人の部下が教師として勤めており、エコーは今ブラボーが相対している亮の妻でもあった。

 もっとも、この海賊団四人はこの学園に永久就職する気はさらさらなく、雨風をしのげる場所の確保と、とある事件が原因で破壊されてしまった自分たちの母船を修復するための資金調達のために、一時的にここに身を寄せているだけであったが。


「ええ。船長、どうしてもあなたと一緒に飲みたいそうで。時間空けておいて欲しいんですけど、いいですか?」

「わかりました。まあ特に予定ないんで、全然大丈夫ですよ」


 威圧的な巨体とは裏腹に礼儀正しく接してくるブラボーに対し、亮もまた敬いの気持ちを持って回答する。それを聞いたブラボーは「ああ良かった」と肩の荷が降りたように安堵のため息をもらしたが、すぐさま表情を引き締めて再び亮に言った。


「それと、これも船長からの伝言なんですが。ちょっと先生に教えておきたい事があると」

「なんです?」

「昨日の夜に起きた通り魔事件について」


 ブラボーのその台詞を聞いた瞬間、亮の表情が一気に強張る。それを見て自身もまた顔つきを険しくしてブラボーが言った。


「あれについては、もう先生もご存じですよね?」

「夜一人歩きをしていた人間が刃物で切られた事件、でしたっけ」

「そうです。今朝ニュースになってたあれです」


 亮の返答にブラボーが頷く。その一方で、亮は今し方ブラボーの言っていたニュースの内容を思い出していた。

 その事件の内容は、要点を簡潔に纏めればシンプルな物だった。夜間一人で出歩いていた人間が、どこからともなく現れた「何か」に襲われたという内容である。被害者は腕に刃物で切られたような傷を負ったが命に別状は無く、そして不思議なことに、その傷からは一滴たりとも血が吹き出してこなかったという。

 被害者はなぜ自分が襲われたのか心当たりがまるで無く、またその襲撃の瞬間を目撃した人物もいなかった。被害者もまたその通り魔の姿をはっきり目にしておらず、結局誰が何のためにこんな事をしたのかまるでわからなかった。


「で、その通り魔事件が、どうかしたんですか?」


 そんな通り魔事件の一連の内容を思い出してから、亮がブラボーに尋ねる。ブラボーは亮の目を見つめながら言った。


「実はですね、昨日のあの通り魔、何日も前から同じ事をしていたらしいんですよ」

「なんですって?」

「誰にも気づかれないように、一瞬で獲物を切っていたんです。かまいたち、て言うんでしたっけ? とにかくそんな感じで、切られても出血しないし一瞬だから痛みも感じないしで、被害に遭った人間も傷を見て驚きこそすれ、誰かに襲われたと考えたりはしなかったんですよ。つまりは、これは連続通り魔事件というわけです」


 驚く亮にブラボーが追い打ちをかける。そのブラボーに近づいて亮が言った。


「エコールはどうやってそれを知ったんです?」

「最近出来た飲み友達からその話を聞いたそうです」

「……それ、信用できるんですか?」


 それを聞いた亮の中で一気に猜疑心が芽生える。まあまあ最後まで聞いて、と亮をなだめながら、ブラボーが亮に言った。


「その船長の飲み友達、自分の事を退魔師と呼んでおりましてね」

「なんですって?」

「だからそんなに疑り深い目で見ないでくださいよ。これはあくまで船長の話であって、こっちだって半信半疑なんですから」


 亮の言葉を遮ってブラボーが続ける。


「で、その退魔師の話によれば、通り魔事件はこの後も続けて起きるだろうというらしいです。ですので先生の担当しているクラスの生徒達にも注意を呼びかけるようして欲しいんですが」

「わかりました。そうしておきましょう」

「助かります」


 肩の荷が降りたと言わんばかりにブラボーが安堵のため息をつく。そんなブラボーに対して、今度は亮が問いかけた。


「それはそうと、その退魔師という人は、通り魔についてもっと詳しい事を教えたりはしなかったんですか?」

「詳しい事?」

「外見とか、凶器とか」

「ああ、そういえば」


 亮の言葉を聞き、思い出したようにブラボーが答える。


「すっかり忘れてました。大まかな外見も退魔師から聞いていたから、そっちの方も伝えておくようにと船長から言われてました」

「やっぱり。それで、どんな見た目なんです?」

「ええ。それはですね……」


 ブラボーが口を開く。そしてブラボーを通して「エコーが退魔師から聞いた通り魔の外見の特徴」を聞き終えた亮は、その話の内容を反芻して軽い戦慄を覚えた。

 そんなふざけた格好をする奴が本当にいるのか? あまりにも突飛なその内容に亮は半信半疑だったが、かといって全くのデタラメであると断言する事も出来なかった。仕方ないので亮は帰りのホームルームにその自分の聞いた通り魔の話を包み隠さず話すことにし、そしてそれを聞いた生徒達もまた亮と同じ反応をした。


「先生、さすがにそれは無いですよ」

「その理屈はおかしい」

「そんな事言われても知らん」


 生徒達は一笑に付したが、亮はそんな危機感の薄い反応を責められなかった。

 エコーが退魔師から聞いた通り魔の外見は、それだけ常識を外れていたのだ。





 その日の夜、家に帰ろうと大通りから外れた人気のない一本道を進んでいた進藤冬美は、その道のど真ん中で腰溜めに戦闘態勢を取りながら己の運命を呪っていた。巷を騒がせている通り魔にして、この日の夕方に亮から聞いた「非常識な存在」そのものと自分が相対していたからだ。


「まさかそんな、ありえないクマ」


 目の前にあるそれを見ながら冬美が呟く。このときの彼女の心の中は自分が通り魔のターゲットにされた事と、目の前の存在をみた事による衝撃に満ちていた。


「なにこれ、ギャグ? ドッキリ?」


 自分に言い聞かせるように冬美が呟く。だがどれだけ自己暗示をかけても、目の前のそれは煙に紛れて消えたりはしなかった。むしろそれはそれ自身が放つ殺気によって、圧倒的な存在感を誇っていた。

 その目の覚めるような存在感が、冬美にそれは夢でも幻でも無いことを如実に悟らせていた。どれだけふざけた姿をしていようとも、それが通り魔であることに変わりないのだと言うことを、はっきりと示していたのだ。


「……もうわかったクマ。全部認めるクマ。認めるからさっさと来いクマ」


 やがて諦めたように冬美が呟く。細かいことはともかく、今から自分が襲われるのは確実なのだ。どこまでやれるかはわからないが、黙ってやられる気はない。

 そしてそう言って冬美が腹を括るのと同時に、その通り魔もまた冬美に狙いを定めた。


「……来る!」


 着ぐるみの奥で冬美が目を細める。その冬美に向かって、通り魔ーーナイフを持ちそれ単体で浮遊する二本の腕が、その刃先を冬美に向けたまま猛然と突進した。

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