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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第五章 ~召魔将軍「ソロモン」、統治将軍「ラ・ムー」、吸血将軍「カミューラ」登場~
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「休戦」

 結論から言うと、エコーの賞金稼ぎの仕事は大失敗に終わった。母船が爆発四散した直後に船の中から光の群が出現し上空に向かって飛び去っていったのだが、それらはここに来る前にエコー海賊団が捕まえたディアランドからの来訪者だったからだ。二度目の爆発を起こした直後に全身煤だらけになったデルタ号の船員が全員エコー達の元へ走って来たのが、その光の正体を確固たる物にした。


「お前達どうした! 何があったんだ!?」

「ろ、牢屋に閉じこめておいたあいつらの一人が、いきなり真っ赤になって」

「真っ赤? 真っ赤ってどういう意味だ?」

「そのまんまですよ! 真っ赤になって、熱くなって、爆発したんです!」

「自爆魔法よ!」


 エコーに尋ねられて当時の状況を説明した船員の言葉にソレアリィが反応する。そして全員の視線を受けながら、ソレアリィがそれについての説明を始めた。


「ディアランドで使える魔法の中には、自分の身を犠牲にして大爆発を引き起こす事の出来る魔法があるの。威力は使用者の魔力に比例して上がっていくんだけど、それを使った者は爆発と引き替えに命を落とすの」

「それを、奴らの一人が使ったと?」

「ええ、たぶん」

「でもあいつら、全員まとめて同じ牢屋に入れといたんだぜ? デルタ号を爆発させる破壊力があるんだったら、そいつらも巻き添え食って自滅するんじゃねえのか?」


 ソレアリィの説明を聞いた船員の一人がそう尋ねる。その声は野太く、その姿は筋骨隆々な逆三角形のボディが特徴の大男だった。煤を被って真っ黒だったので詳しい全身像はわからなかった。それに対し、黙って首を横に振りながらソレアリィが答えた。


「魔法の使用者は、その爆発の破壊力に指向性を持たせる事が出来るのよ」

「どういう意味だ?」

「ダメージを与える相手を選べるって意味。範囲の中に入った相手の中で誰を生かして誰を殺すかを自由に選択できるの」

「なんですかそれ~。ずるいじゃないですか~」


 別の船員の言葉が飛んでくる。三人の中では一番小柄で、間延びした女の声だった。全身煤だらけで詳しい部分はわからなかったが、胸だけは勢いよく前に突き出していた。

 その船員の質問にエコーが答えた。


「使った奴は死ぬんだ。それくらい万能でもバチは当たらんだろう」

「それは~、確かに~」


 その解説を聞いた女船員が納得したような声を出す。その声を聞いてから、エコーがソレアリィの方を向いて言った。


「私からも質問したいんだが、あいつらは空を飛べるのか?」

「魔力を消費するけど、空を飛ぶくらいなら簡単に出来るわ」

「そうか。じゃあ宇宙は? 宇宙では動けるの?」

「宇宙? 宇宙は……多分無理だと思う。真空状態で生きられるほど頑丈じゃないし」

「そうか……」


 ソレアリィの言葉を聞いたエコーが顎に手を当てて考え込む。


「でもあいつらは見た限り空の向こうに消えていった。途中で方向転換した様子もない。宇宙に行ったんじゃないならどこに・・?」

「途中で魔法陣を作ってそこからどこかにワープしたんじゃないのか?」

「ワープ? そんな事もできるの?」


 横から話しかけてきた亮の言葉にエコーが反応する。それからエコーは再びソレアリィの方を向き、ソレアリィはエコーを見ながら無言で頷いた。


「逃げ出すことも?」


 再度エコーが尋ね、再度ソレアリィが首を縦に振る。それを見たエコーが苦い表情を浮かべながら額に手を押し当てた。


「参ったわね。単独でワープまで出来るなんて予想外だった。これじゃ、牢屋にぶち込んだくらいじゃ捕まえた事にはならないじゃない」

「しかし船長、そのマホージンとかいう奴でワープが出来るなら、捕まって牢屋に入れられた時点でなぜそうしなかったのでしょう? それにワープで逃げられるなら、わざわざ爆発した意味もわからない」


 船員の三人目が尋ねる。三人組の中では真ん中の背丈で、一番細身の男だった。煤だらけで全身像はわからなかった。この男の問いかけに対しては、それまで黙って話を聞いていたD組の生徒の一人が答えた。


「ただ逃げ出すだけじゃつまらないから、ここ一番って時に逃げ出して、相手の鼻をあかそうと考えたんじゃないですか?」

「じゃあなんで自爆したんだよ。ふつうにワープするだけでも良かったのに」

「……派手にした方が効果も高いから?」

「人一人犠牲にしてもそっちの方を優先するのか? ちょっと理解できねえよそれは」

「そんなもんだったんじゃねえのか? 命の価値というか、安さというか」

「そんな理由で自爆するなんてバカのする事だろ」

「バカだったんじゃないか?」

「そんなことよりおうどんたべたい」


 その生徒の意見に対して別の生徒から新たな疑問が生まれ、それに対してまた別の生徒が意見を述べる。その意見交換の波はあっという間に隅から隅まで広がっていき、やがて生徒全員を巻き込んでガヤガヤと議論が始まった。


「それが出来るんですよ」


 その議論に終止符を打ったのは、そんなカミューラの一言だった。それまで熱心に話し合っていた面々の目が一斉にそちらに向けられる。


「出来るの?」

「出来るんです」

「なんで?」

「彼らにとっては、自由を行使するということ自体がご褒美というか、喜ばしい事であるからです。自由に生きて、自由に死ぬ。自爆するという自由さえも、彼らにとっては嬉しい出来事なんです」

「?」


 意味がわからなかった。それを聞いた周囲の面々は揃ってそのような表情を浮かべた。価値観の相違と言ってしまえばそれまでなのだろうが、それでも「喜んで死ねる」と言うニュアンスを含んだその言葉を聞いて、一般的な地球人的価値観を持ったD組の生徒達は全員背筋が凍るような薄気味悪さを味わった。


「それはそれとして割り切るしかないって事だな」


 そんな困惑を露わにする生徒達に向かって、亮が「これ以上何も考えるな」と言外にそう告げる。そしてそう言った後、亮はエコーと彼女の手下三人の方に向き直って心配そうに尋ねた。


「それより、みんなはこれからどうするんだ?」

「どうするって?」

「船つぶれたじゃん」


 聞き返すエコーに対して、黒煙を吐き出すデルタ号を指し示しながら亮が言った。


「あ」


 その指さす先にある物を見てエコーが絶句する。手下の三人もそろって口を開けたまま石化する。


「これ、どうする?」

「どうしましょう~」

「どうにもできませんね」


 手下三人の目は湧き水のごとく澄み切っており、絶望を通り越して悟りの境地を開いていた。その横でエコーは真っ白に燃え尽きていた。





「よし、野郎共。今日はこの私が直々にお前達に稽古をつけてやる。ちゃんとついてくるんだぞ」


 それから一週間が過ぎた。デルタ号船長エコー・ル・ゴルト・フォックストロットは今、月光学園で巨大兵器操縦の実技教官をしていた。亮と同じポジションである。

 ちなみにエコーの手下三人も彼女と同じく月光学園に勤務する事となっていた。それぞれ眼鏡をかけた痩せ身の男は物理の教師に、筋骨隆々の大男は体育の教師に、おっとりした紅一点の女は数学の教師になった。


「家がないなら暫くここにいればいい。ここで働いて給料もらって、それで船を直していけばいい」


 こうなった原因は亮のこの言葉だった。要は船を直して再び出発できるようになるまで、ここで働いていけという事である。船の居住区は無事だったので、普段はそこで暮らすことになった。

 当然、周囲からは大反対を食らった。これ以上余所者を入れて、この学園の色を変えるわけにはいかないというのが彼らの本音だった。


「良いと思いますよ。ではそれ採用ということで」


 しかしこの学園を作った月の国の女王ヨミの鶴の一声によって、それらの反対意見は全て一蹴された。月で働かせればいいじゃないか、という意見も出るには出たが、これもまたヨミの「本人の意志を尊重する」という言葉と、それに対するエコーの「ここにいたい」という返答によって白紙となった。学園側に拒否権は最初からなかった。


「……くそっ」


 このことによって、教師や生徒の中にはD組や亮に対してさらに恨みの視線をぶつける者も増えたのだが、彼らはそのことを気にしたりはしなかった。





「さあ今日も始まりました! ビッグマンデュエル! 今回は奈良よりお送りしています!」


 ソロモンとラ・ムーの二人に関しては、お咎めなしという結果に終わった。船が爆散した時点で、エコーの興味が完全に失せたのが理由であった。

 それによって、ソロモンとラ・ムーは晴れて無罪放免となった。自由の身になった彼らは次の瞬間には早速自分たちの働いているテレビ局の宇宙船を呼び、それに乗ってさっさと引き上げてしまった。悔いも未練もない、呆れるくらい鮮やかな引き際だった。


「せっかく捕まえるチャンスだったのにー!」


 このことを知ったソレアリィは猛烈な勢いでエコーや浩一に食ってかかった。しかしもう過ぎたことなのでどうにもならなかった。彼らの手際が鮮やかすぎて、誰も反応しきれなかったのだ。


「今日の対戦カードは、ずばり殴り合い! かたや黄金銀河を統べる鉄拳王、かたや銀氷連邦にその名を轟かす剛拳の主だ!」


 そして今日もまた、二人は何事もなく己の職務を全うしていた。地球での仕事が増えたような気がするが、それは多分気のせいである。





「これ、丸く収まったって言うのかしら?」


 それからさらに数日経った後、エコーは屋上で亮と共に休憩を取っていた。折しも今はお昼休み中で、彼ら以外にも屋上に来ていた者がまばらにいた。


「いいんじゃないか」

「いいのかしらねえ」


 エコーの言葉に亮が答え、それに返すようにエコーが言った。するとその屋上の一角で、彼らの良く知る甲高い声が聞こえてきた。


「いい!? 次はこんな事のないように、もっとしっかりやっていくわよ! コーイチもしっかりすること! いいわね!?」

「でもあいつら、どこに逃げたのかわからねえんだろ? どうやって探すんだよ」

「ぐ、それは……」

「それに俺、今思い出したんだけどディアランドの事全然知らないんだよな。どんな所なのか全然知らないんだよ。カミューラ先生の話を聞く限りじゃかなり窮屈な場所だと思うんだけど」

「う、うるさーい! とにかくあんたは私の言うとおりにする! いいわね!」

「はいはい」


 もうソレアリィは自分の姿を隠すこともしなくなった。そんな二人組のやりとりを遠目に眺めながら、エコーが亮に言った。


「可愛いわね」

「ほんとにな」


 そういって二人揃って笑みをこぼし、しばしの平和に身を任せた。

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