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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第五章 ~召魔将軍「ソロモン」、統治将軍「ラ・ムー」、吸血将軍「カミューラ」登場~
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「天と地の自由」

「さっきは海賊って言ったけど、別に見境無く船を襲ったり町で暴れたりしてる訳じゃないんだよ。海賊ってのは格好だけで、やってることは賞金稼ぎだ」


 そしてエコーに続いて全員が自己紹介を済ませた後、エコーはちびちびと酒瓶を呷りながら自分の立場を話し始めた。酒飲みの件に関して教頭は難色を示したが、エコーが一睨みすると素直に押し黙った。


「海賊行為はしないってことすか?」

「そういうことだね」

「どうして?」

「割に合わないからだよ。宇宙警察も有能で強力だし、最近じゃ民間の船も自衛用の武器をどっさり積み込んでる。ブツを奪ってもそれ以上に消耗したら意味ないだろ? 盗品取り扱いお断りをスローガンにしてる店も増えてるしね」

「リスクとリターンが釣り合わないってことですね」

「そういうことさ。今のご時世で略奪行為をしてるのはよっぽど切羽詰まってる奴か、もしくは目先の欲にかられた馬鹿ってことさ。まあその馬鹿の数が宇宙規模で多すぎるから、私達みたいな連中が生きていけるんだけどね」


 そしてその中で、タムリンとカミューラが喧嘩していた時に忽然と姿を現し今もそこに浮遊している船団は、全て自分が捕まえた物であるとも説明した。


「あいつらはレッドドラゴン。賞金首だ。疲弊した船団や艦隊だけを狙って、確実に資材やお宝や食料をかっさらっていく、姑息な連中さ。強さ自体はそうでもないんだが、逃げ足だけは一級品でね。私も見つけたはいいけど中々捕まえられなくて・・」

「追いかけているうちに地球に来た?」

「ああ。自分でもびっくりだよ。気づいたらこんな遠い所まで出張ってたんだからね」


 浩一の言葉に頷きながらエコーが答える。それを聞いたカミューラが不思議そうに尋ねる。


「海賊と言うことは、エコーさんも部下を?」

「ええ。ほんの三人だけだけどね。昔はもっと大勢いたんだけど、ちょっと前にいざこざがあってね。それが原因で海賊団が真っ二つに別れちゃったのよ。で、二つに別れた内の私のグループについてくれたのが、その三人ってわけ」

「じゃあ、エコーさんについたその三人以外は、全員もう一方のグループについたってことですか?」

「そういうこと」

「いくらなんでも不公平よ。なにか理由があったの?」


 ソレアリィが釈然としない面持ちでエコーに尋ねる。それを聞いたエコーがため息混じりに答える。


「そっちの方がいい装備を持っていたから」

「えっ?」

「海賊団の共有資金を無断で使っていたのよ、分裂する前からね。あれは元々船の修理資材や団員の衣食住の確保のために使う物なのに、あいつは私に何も言わないでそれを着服して、自分のために装備を買い揃えていたのよ。国の親衛隊が使うような超高級品をね。それでさっき言ったいざこざが起きた時になって、そいつは迷っている団員達に向けてそれをちらつかせた」

「質のいい装備を使った方が生き残る確率は上がるからな。みんなそれを持ってる方に流れたわけだ」


 エコーの説明を補足するように亮が口を開く。ソレアリィが再度エコーに尋ねた。


「それ、他のメンバーは知らなかったの?」

「前々から気づいてた連中もいたわ。そいつに対していけすかない奴だと愚痴をこぼしてる連中もいた。でもそいつらも推測してたってだけで証拠を掴んでたわけでもないし、それに命も惜しかったから。だから皆そっちに流れていったのよ」

「なにそれ。そいつらにプライドって物は無いの?」

「死んだら全部おしまいだろ。誰だって死ぬのは怖い。別に悪い考えじゃねえよ」


 憤慨するソレアリィを浩一が諫める。エコーと亮もそれに同意するように頷き、エコーは口からでかかった悪態を腹の底に戻すかのように一気に酒を喉に流し込んだ。ソレアリィはそれを聞いてなお納得できないように顔を逸らして眉間に皺を寄せていた。

 それをよそに、今度はカミューラがエコーに尋ねた。


「それよりエコーさん、一つ質問があるんですが」

「質問?」


 口元を腕で拭いながらエコーがカミューラに尋ね返す。


「何が聞きたいの?」

「レッドドラゴンのことについて」

「ええ、いいわよ。何かしら?」

「構成員は今どこにいますか?」

「ああ。あいつらならあそこよ」


 そう言ってエコーが天井を指さす。つられてカミューラが天井に目を向ける。


「あそことは?」

「私の船。今は地球の衛星軌道からちょっと離れた所で待機してる」

「その人達と面会することは出来ませんか?」

「あら、どうして?」

「レッドドラゴンは私の知り合いなんです」


 それを聞いたエコーが途中で飲みかけた酒を盛大に吹き出す。驚く周囲をよそにその酒はエコーの服やテーブル、そして話についていけずに黙り込んでいた教頭に引っかかってそれらを黄金色に汚したが、彼女はそれらを気にも留めずにカミューラに言った。


「それ本当なの?」

「ええ」

「どういう意味?」


 興味津々といった体でエコーが言葉を投げかける。それを聞いたカミューラが口を開いた。





「異世界から、ねえ」


 そしてそれから数分後、カミューラの話を聞いたエコーは感慨深げに呟いた。


「つまりその連中は、元々はこの星を目指してたってこと?」

「はい。そう言うことです」

「ふうん、そうなんだ」


 相槌を打ってからエコーが酒瓶を傾け、黄金色の液体を胃の中に流し込む。そしてエコーがその液体のもたらす喉を軽く焼くような感触を味わって歓喜の身震いを起こしていると、カミューラが再度エコーに尋ねた。


「それで、彼らには会えるんですか?」

「まあ別にかまわないわよ。でも用件が済んだらすぐ宇宙警察に引き渡すけど、いい?」

「それはかまいませんよ。彼らもそれを覚悟の上で海賊行為をしていたのでしょうから。ちょっとだけ顔を合わせられれば、後はどうでもいいです」

「……結構淡泊なのね。同胞なんでしょ」


 迷いのないカミューラの返答を聞いたエコーが軽く驚く。それに対してカミューラが首を横に振りながら静かに答えた。


「私達は自由を求めてここに来ました。そして彼らはこの世界で自由気ままに動き、その結果捕まった。彼らが自分で自由を選んだ結果なのです。ですから私はこの件について、必要以上に干渉するつもりはありません」

「……」


 カミューラの言葉がその場に重い沈黙をもたらす。ここまではっきりと言い返されるとは思わず、エコーもまた押し黙る。教頭はもう完全に思考を放棄していた。


「ま、まあそう考えてるんなら、別に口出しはしないけど。じゃあ軽く顔合わせするだけでいいのね?」


 そのうちエコーがカミューラにそう尋ねる。それを聞いたカミューラが「はい。これが最後になるかもしれないので」とさらりと言い返し、周囲の面々は更に戦慄を味わった。


「はっきり言うんだな」

「ドライというか、容赦ないというか・・」

「嘘をついてもしょうがないでしょう?」


 カミューラはびくともしなかった。そしてその直後、エコーの懐にある携帯端末が音を立てて鳴り始める。「失礼」と断りを入れてからスイッチを入れ、エコーがそれを耳に当てて口を開く。


「こちらエコー。どうかした?」


 エコーがそう答えるが反応は無い。何度か返答を求めるも結果は同じで、ただノイズだけが返ってきた。エコーが耳から離した端末を睨みつけ、イライラしながら吐き捨てる。


「ああもう、ポンコツめ」

「それ古い奴だったりするんすか?」

「え? ええ、そうよ。海賊団が二つに割れてから共有資金のほとんどを向こうに持ってかれてね。そのおかげで満足に装備を買えなくなったのよ」

「世知辛いのね」


 浩一の質問に対するエコーの返答を聞き、ソレアリィがたそがれた表情を浮かべる。その後何度かエコーが苛立たしげに端末を手のひらで叩いたところで端末が息を吹き返し、それまでノイズしか送らなかった機械が初めて人の声を流し始めた。


「船長! 船長! 応答してください!」


 そこから聞こえてきたのは切羽詰まった男の悲鳴だった。エコーが瞬時に表情を険しくし、端末を耳に当てて言い返す。


「どうした、何があった!」

「ああ船長! よかった、やっと通じた」


 男の声が聞こえた直後、それを遮るように派手な衝撃音と爆発音が端末から轟く。それを聞いた周囲の面々が驚いてそちらに意識と視線を向ける中、エコーが逼迫した声で端末に問いかけた。


「大丈夫か! おい!」

「へ、平気です、いまのところは。でもこのままじゃまずいです!」

「何が起きたんだ! 説明しろ!」

「先生! 新城先生!」


 それと同じタイミングで応接室のドアが乱暴に開けられ、D組の生徒の一人が中に駆け込みながら亮の名前を呼んだ。


「た、た、大変なんです! すぐ教室に!」

「どうした!」

「し、し」


 即座に反応し、立ち上がってそちらを向きながら問い返した亮に大使、その生徒が焦りのあまり口をわななかせる。そして思い切って生徒が言葉を発した瞬間、端末から叫びに近い男の声が響きわたった。


「執行委員がクラスを占拠したんです!」

「巨人が船を襲ってるんです! あいつらの仲間が取り返しにきたんだ!」


 再度爆発音が端末から漏れ、次の瞬間、端末が完全に沈黙する。突然の緊急事態の連続にどう対処すればいいかわからず、全員が黙り込む。

 そして完全に沈黙が降り立った応接室の中で、教頭が誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。


「いい気味だ」

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