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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第五章 ~召魔将軍「ソロモン」、統治将軍「ラ・ムー」、吸血将軍「カミューラ」登場~
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「放浪者」

 まずカミューラは何も知らない生徒達に対して、自分とソレアリィの正体を簡単に説明した。それを聞いた生徒達はまず、その説明の中で登場したディアランドと言う未知の世界に対してある種幻想的な思いを抱いた。そこから来たソレアリィのファンタジックな外見も合わさって、彼らの想像力は否応なしにかき立てられた。


「どんな所なのかな?」

「やっぱり剣と魔法の世界だったりするんじゃない?」

「ドラゴンとかいるのかな?」

「いいなあ、行ってみたいなあ」


 だがその一方で、彼らは既知の人物であるカミューラのディアランドで置かれていた立場を知って軽く驚いた。


「え? 先生って犯罪者なんですか?」

「まあ、ディアランドではそうなりますね」

「ただの犯罪者じゃない。大犯罪者よ」


 おどけて答えるカミューラに向けてソレアリィが決めつけるように言い放つ。それを聞いた生徒達はすぐさまカミューラに尋ねた。


「先生何やったんすか? 殺人?」

「テロとか?」

「そんな大それた事はしてないですよ。ちょっと無許可で時空転移をしただけです」

「十分大事だと思います」


 穏やかに答えるカミューラに容赦のない突っ込みが入る。その後突っ込んだ生徒とは別の生徒がカミューラに尋ねる。


「なんでそんなことしたんですか?」

「自由が欲しかっただけです」

「自由?」


 カミューラの言葉を生徒達が鸚鵡返しに答える。それに頷いてからカミューラが再度口を開く。


「はい、自由です。自分の生き方を自分で決められる、自分の行く道を自分で決められる、そんな自由です。素敵な事だとは思いませんか?」

「ディアランドにはそれが無かったって事なんですか?」


 ちゃっかり話の輪の中に入り込んでいた芹沢優が両手でカメラをいじりながら尋ねる。それに対して、優の方へ目を向けながらカミューラが答える。


「全く。どこにもありませんでしたよ」

「そんなに? 言い切るほど?」

「ええ。町の中では常に秘密警察が巡回し、空の上ではその秘密警察の管理している一つ目コウモリが絶えず飛び回って空と地上に睨みを効かせています。ディアランドの住人には全員本名とは別に識別番号が割り振られ、体内にはこちらの世界で言う発信器と同じ役割を持つ米粒大のクリスタルを埋め込まれています。それの発する魔力信号を受け取る事によって、ディアランド全域を統治する中央政府は誰がどこにいるのかを常に把握しているんです。彼らの意にそぐわない事をすれば、即座に牢屋行きです」

「……マジ?」

「なにそれこわい」


 カミューラの言葉を聞いた面々が一人残らずどん引きする。それまで持っていたイメージとは真逆の説明を聞いて、誰も彼もその理想と現実のギャップの差に大いに苦しんでいるようであった。誰よりも深くソレアリィと交流していたはずの浩一も少なからず衝撃を受けており、唖然とした表情でカミューラを見つめていた。


「結局どこも同じって事ね」


 その中にあって、優だけは平時と変わらない冷淡な態度を貫いていた。そしてそう呟いた後、再びカミューラに目線を向けて優が言った。


「それで、そんな世界に嫌気がさして、先生達はこっちにやって来たってことなんですか?」

「ええ、そういうことです」


 優からの質問にカミューラが答える。それからカミューラは、内容を自分たちが転移した時の物に変えて話を続けた。





「昔の文献を漁り回って、手がかりを探しました。使える物を見つけるのに苦労しました」


 ディアランドからこちらの世界には転移魔法を使用して飛んできた。それはカミューラ達が開発した物ではなく大昔から存在していた物であるが、「規律に反する」としてこれまた大昔に使用を禁止された専用魔法である。


「へー、転移魔法ってあるんだー」

「まあワープとか使う人もいるし、それくらいいてもいいんじゃない?」


 転移魔法に対する生徒の反応は薄かった。非日常の話を連続して聞く中で、彼らの中にはすっかりそういう物に対する耐性が出来ていたのだ。そんな予想していたものとは違う反応を見て、カミューラは内心落胆しつつも話を続けた。


「そうして、私達は転移を実行しました。下準備は完璧でした。でも」


 ディアランドからこちらの世界に転移してきたカミューラを含む十五人の時空移動の旅は、結論から言えば失敗に終わった。転移の途中で座標軸にズレが生じ、最初に指定した場所とは違う所に飛ばされてしまった者達が出たのだ。


「うわあ、災難」

「それ大丈夫だったんですか?」

「まあ大丈夫と言えば大丈夫ですね。不幸中の幸いと言うべきか、全員こちらの世界に転移する事自体は出来ましたから。ちゃんと五体満足で」

「チッ」

「やめろ」


 カミューラの言葉を聞いて安堵する面々をよそに露骨に顔をしかめて舌打ちするソレアリィを浩一がたしなめる。しかしカミューラ本人は


「それって、最初はどこに到着するように設定していたんですか?」

「もちろんこの星ですよ。太陽系第三番惑星地球です」

「理由は?」

「ディアランドと殆ど同じ環境を持っていたからです」

「どうやって調べたんですか」

「時空転移魔法の応用ですよ。時空にほんのちょっと穴を開けて、転移先の世界を覗き見るんです。直接飛び込むわけではないので、こちらの方はずっと安全なんですよ」


 カミューラの言葉を聞いた面々がへえ、と納得した声を上げる。するとそれを聞いた生徒の一人がカミューラに尋ねる。


「それで、地球に転移できた人ってどれくらいいたんですか?」

「私だけです」

「えっ?」

「成功したのは私だけでした」

「は」


 カミューラの告白に生徒達が目を丸くする。真っ先に反応した何人かが浩一の机に手を叩きつけてカミューラに詰め寄る。


「そ、それ、大丈夫なんですか!?」

「もちろん大丈夫ですよ。前にも話したじゃないですか。全員五体満足でこちらの世界に来れたと」

「こっちの世界に来れたはいいけど、ここじゃない別の星に飛ばされたという事ですか」

「そういう事です」


 優の言葉にカミューラが頷く。そしてそう答えた後、間を置かずカミューラが言った。


「それが今になって、私達があらかじめ目的地として設定しておいたこの星の座標がわかったということで、せっかくだから皆でここに集まろうという事になったんです」

「他の人達とは連絡取れたんですか?」

「ええ。通信機越しにですが、久しぶりに皆と話が出来て、とても楽しかったです」

「へえ。良かったじゃないですか」

「良くない!」


 喜ぶ生徒の声をソレアリィが遮る。そして遮られた生徒の不満の声を無視してソレアリィが言った。


「だいたい、あんた何とも思わないの? ここには私達がいんのよ? 集まった所を纏めて捕まえられるとか考えないの?」

「特に考えた事はないですね」

「どうして?」

「簡単にやられるつもりはないので」


 そう返してからカミューラが小さく笑う。その言外に相手を馬鹿にしたような態度を見て、ソレアリィの我慢の糸がぷっつり切れた。


「上等だテメエ! 表出ろやテメエ! さっきから散々馬鹿にしやがってよォ! 覚悟出来てんのかテメエ! ああ!?」

「随分口が悪いですね」

「もう諦めてる」

「こっち無視してんじゃねえよクソ野郎が! まずはお前からぶっ飛ばしてやるっつってんだよこの野郎が!」


 怒り狂うソレアリィが親しげに言葉を交わすカミューラと浩一を見て更に怒りのボルテージを上げる。周りの生徒達はこれからどうなるのだろうかと怯え半分、期待半分でその場を見守り、浩一と優は呆れ顔で遠くの景色を眺めていた。


「あら? 皆様いったいどうなさったのですか?」

「教室に入るなり修羅場が待っていたクマ。意味が分からないクマ」

「え、なに? なにこの空気?」


 それからすぐに他の生徒に混じって真里弥や冬美、満も教室に入ってきたが、彼女たちはその教室の異様な気配とそれの元凶である怒りの現場を目の当たりにして皆一様に目を丸くした。この時になってもソレアリィの怒りはなおも収まらず、それどころか彼女のテンションを面白がったカミューラが相手を煽る言葉をあえて丁寧な口調で放つ事によって、時間に比例して状況が悪化していく有様であった。


「そんなに戦いたいのでしたら、今ここで相手をしてあげてもいいんですよ?」


 そしてカミューラがさらりと放ったこの一言が、この後の展開を決定づけた。目の色を変えたソレアリィが静かに言い返す。


「フ……フフフ・・言ったな? お前、言いやがったな?」

「ええ。私は嘘はつきませんので」

「上等だよオラァ!」


 勢いよく叫んだソレアリィが腕をまっすぐ伸ばしてカミューラを指さす。


「勝負だ! デカブツ同士でなあ!」

「ええ、それでかまいませんよ」

「お、おい」


 ソレアリィの言葉を受けてカミューラが笑顔で同意する。戦いだ。生徒達の目の色が一斉に変わる。

 その一方で浩一がソレアリィの服の裾をつまんで引き留める。


「いいのかよ。先生もロボット持ってんのかよ?」


 なんで戦わなきゃいけないんだ、とは言わなかった。こうなることは前から予想できていたので、騒ぐだけ無駄であると悟っていたからだ。

 そしてそんな浩一の問いかけに対し、ソレアリィが目を閉じながらそれに答えた。


「別に問題は無いわ。あいつはロボットは持ってないけど、それに代わる能力を持っているから」

「なんだよそれ」

「説明している暇はないわ。さあコーイチ、準備するわよ!」


 そう威勢良く言い切ったソレアリィが猛スピードで窓に近づき、その端の取っ手を両手で掴んで左側へスライドさせようとする。だがそれはロックは外れていたものの小柄な彼女一人の力で動かせる代物ではなく、ソレアリィがどれだけ顔を真っ赤にして羽を羽ばたかせ力を入れようとも、窓はびくともしなかった。


「ふん! ふん!」

「……」


 するとそんなソレアリィを見かねた生徒の一人が遠慮がちに取っ手を掴んで窓を動かす。

 対して力は入れてなかったが、窓は苦もなく動いた。


「……」


 気まずい空気が流れる。ソレアリィが無言でそこから外に飛んでいく。そして完全に外に出た後でソレアリィが生徒達に背を向けたまま目元を腕で何度かこすり、やや赤く腫らした目元を隠さずに教室の方へ勢いよく振り返った。


「さあ! 勝負よ!」


 誰も何も言わなかった。カミューラと他の生徒達は素直に空気を読んで首を回したり背伸びをしたりしながらドアから教室を出て校庭に向かい、浩一は彼らと同じく校庭に降りるために開きかかった窓を全開にしてその縁の部分に足をかけた。

 この時朝のホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴っていたのだが、D組にいた者達は誰もそれを気にしなかった。


「そういえば新城先生こないね。そろそろ来てもいい頃だと思うのに」

「あ、そういえば。どうしたんだろ」

「急に体調崩して休んだんじゃないの?」


 しかし亮が来ないことに関してはしっかり認知し、なぜ来ないのかと誰もが疑問に思った。ちなみにカミューラを先頭にぞろぞろと揃って階段を降りたので、その足音に気づいた他のクラスの教師や生徒が廊下に目をやって一様に驚いていたが、気にする者はいなかった。


「でもカミューラ先生、どうやって戦うんだろ?」

「専用機とか持ってんじゃない?」


 カミューラとソレアリィと浩一の戦いを早く見たくてたまらなかったのだ。

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