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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第五章 ~召魔将軍「ソロモン」、統治将軍「ラ・ムー」、吸血将軍「カミューラ」登場~
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「すぐ傍にある闇」

「さあ、今日も始まりました。今週のビッグマン百戦のコーナー! 今日も尺が足りないので、じゃんじゃん紹介していきましょう!」


 その日の夜、パジャマ姿の益田浩一は自室でベッドの中にうつ伏せに潜りながら、枕元に置いた小型テレビのモニターを寝ぼけ眼で見つめていた。この時彼が見ていたのはビッグマンデュエル専用チャンネルであったが、彼がそのチャンネルにしていたのに特に理由は無く、これと言って見たい番組がなかっただけである。


「地球も物騒な星よねー」


 そんな浩一が顎を乗せていた枕のすぐ隣の部分に腰掛けながら、同じくパジャマに着替えた妖精のソレアリィがテレビのモニターを見ながら呟いた。この時モニターには「ビッグマン百戦」という角張ったテロップがでかでかと表示されていただけで、画面はそこから動かずに声だけで進行していた。見るからに低予算な作りであった。

 それからソレアリィは背中の羽を動かしてそれまで座っていた枕から飛び立ち、空中で大きく背伸びをしながら眼下の浩一に言った。


「わっかんないなー。それの何が面白いのよ?」

「面白い奴には面白いんだよ」


 それに対して浩一が淡泊に答える。その間も浩一の目線はモニターに向けられており、そのモニターの中では自分の属するクラスの担任である新城亮の操るロボットと巨大なウサギと化したミチルが戦っている様子が映されていた。


「お前だって囲碁とか将棋とか好きじゃねえかよ。俺にはあれの何が面白いのか全然わかんねえよ」

「まったくコーイチも損してるわよねえ。地球人なのにあれの面白さに気づかないなんて」


 そしてモニターを見ながらそう続ける浩一に対し、ソレアリィが滞空したまま言い返す。浩一の言うとおり、ソレアリィは囲碁や将棋と言った地球製のテーブルゲームの虜となっていた。

 異世界「ディアランド」から地球にやってきたソレアリィがその地球の文化である囲碁や将棋にハマったのは、彼女の眼下にいる浩一と協力関係を結んだ後に暇潰しと称して彼のパソコンを借り、そのパソコン内に始めからインストールされていたそれらのゲームに手をつけた時である。ただの時間潰しのために遊ぶつもりがそのゲーム性にどっぷり惚れ込んでしまい、今では暇を見つけては浩一のパソコンを借りてそれらのゲームに没頭している有様である。


「お前もよくあんなの続けられるよな。頭使うから疲れてしょうがねえよ」


 浩一が言った。頭の片隅でこの日の朝新聞で読んだ詰め将棋の答えを探しながらソレアリィが答える。


「そう? 私的には頭の運動になって良いと思うんだけどな」

「俺は頭を使うのはタムリンの操縦だけで十分だよ」


 画面が切り替わり、緩やかにカーブの描かれたテーブルの前に腰を下ろす二人の進行役が映ったテレビ画面を見ながら浩一が言い返す。この時彼の目に映っていた進行役はそれぞれ豚と鶴の姿をしており、それは地球でのビッグマンデュエルの実況と解説を行っていたのと同一人物であった。それぞれアロハシャツと着物を着ていた姿も同じであった。

 ちなみにソレアリィはこれらの実況解説役の二人の姿を直接見た事は無かった。それ以前に、この番組をまともに見た事もなかったのだ。ビッグマンデュエルに興味がなかったのだ。


「ロボットの操縦ってそんなに疲れるの?」

「当たり前だ」


 そんなビッグマンデュエル初心者のソレアリィの質問に浩一が答える。ロボットを動かすには体力と技術と戦略眼と直感と運と根性が必要である。

 とにかく疲れる作業なのだ。


「お前はロボット動かしたことないのか?」

「そんなの無いわよ。そもそも、誰かが中に入って動かすような物なんてディアランドには一個もないわよ。ここにあるロボットと同じくらいのサイズのモンスターとか、それと同じ大きさにまで巨大化できる奴なら知ってるけど」


 そして簡単にロボット操縦の難しさを説明し終えた後にそう尋ねた浩一に対し、ソレアリィが昔を思い出すように切れ切れに言った。その言葉を聞いた浩一が、目線を彼女の方へ持ち上げながら言った。


「そんなのいるのか」

「ええ。それとロボットみたいな、機械の塊みたいな奴もディアランドにはいないから」

「本当にファンタジーなんだな」

「私からしたらこっちの世界の方がファンタジーよ」

「へえ」


 ソレアリィの言葉を聞いて感心した声を出しながら、浩一がテレビ画面に目を向けなおす。だがこの時既に番組はエンディングに差し掛かっており、画面の下にはこの番組を作ったスタッフやスポンサーなどの名前が見たこともない外宇宙の文字で書かれながら右から左に流れていっていた。

 そのエンディングテロップの上には相変わらず豚と鶴がいた。その豚が景気よい声を出した。


「では、今日はここまで。視界はわたくしラ・ムーと、こちらのソロモンでお送りしました」


 その声がモニター下のスピーカーから漏れた瞬間、ソレアリィの目の色が変わった。そしてすぐさま枕元に降りたってモニターを凝視し、初めて豚と鶴の姿を認めた。


「うそ」


 その直後、ソレアリィの気配が一変した。既に番組は終わり、画面は別の映像を映していたが、それでもなおソレアリィは目を見開いて画面を凝視し続けていた。


「なんで、なんで?」

「おい、どうした?」


 そのソレアリィの変化を見た浩一が、恐る恐る彼女に尋ねた。対するソレアリィはその浩一の方へ顔を向け、真剣な表情で彼に言った。


「あれよ」

「あれ?」

「あいつらよ」

「だからなんだよ、あの豚と鶴がどうしたんだよ」


 そうなおも要領を得られず怪訝に尋ねる浩一に、ソレアリィが眉間に皺を寄せて言った。


「あいつらが私が追ってた連中なのよ!」





 その翌日。昼休みを迎えた月光学園にて。


「いやあ、助かりました」


 新城亮は学生食堂の片隅で昼食をとりながら、自分の反対側に座っていた女性に向かって礼を言っていた。その女性は細い瞳と癖のある長いブロンドの髪と形のハッキリした鼻と雪のように白い肌が特徴の、白衣を身にまとった異国情緒溢れる美人であった。


「あの時はもっと長くなると覚悟していたんですが、先生が助け船を渡してくれたおかげであっさり済みました。本当にありがとうございます」

「いえそんな。お気になさらないでください」


 両手を太股の上に置いてしきりに感謝の言葉を述べる亮に対し、その白人の女性は困惑しながらも苦笑して答えた。


「私は、あれは全部新城先生が生徒の事を思ってした事だと信じていますから。あれくらいの事はして当然です」

「そ、そうですか」

「でも、他の先生方の言うことももっともですよ。得体の知れない地下の施設に生徒を連れ込んだら、誰だって不安になりますって」

「うっ……」


 しかしその後しっかりと釘を差す女性に、亮は何も言い返せずに黙り込んでしまう。彼女の言うことは全て正論であり、亮自身も「やりすぎた」と自覚していたからだ。

 事の発端は昨日、亮が真里弥と冬美、そしてアラタと四千一号を引き連れてリトルストームに向かったことであった。これがどこを通じて漏れたのか他の教師陣にばれてしまい、「教師がそんな危険で不健全な場所に率先して生徒を連れ込むとは何事か」と朝の教員会議の席で槍玉に挙げられてしまったのだ。

 この時糾弾していた教員達は当然生徒の事を考えて亮をバッシングしていたのだが、その中には自分たちが従っている学園の意向にまるで従おうとしない亮への個人的な恨み辛みも含まれていた。教師の中にはそれがメインとなっていた者もいたのかもしれない。とにかく亮への糾弾は非常に激しいものであり、かつ長々と続けられた。


「まあまあ、新城先生も反省しているようですし、ここら辺で止めにしませんか?」


 そんな時、亮の肩を持ったのが今こうして彼と共に食事をしている女性であった。彼女は保健の教師であり、普段は主に保健室にいた。そして同時に数少ない教師方の亮の理解者でもあり、こうして自分の意志を他人や亮本人に見せたのはこれが初めてであった。


「あなた、いきなり何を……」

「止めにしましょう?」


 当然他の教師の何人かはその空気を読まない女教師を咎めたが、当の女性はその声を遮るようにぴしゃりと言い放ち、その後も余人が口を挟むことを許さない気配を全身から発しながら亮の近くに歩み寄って続けた。


「ねえ皆さん? これから授業があるわけですし、この辺りで終わりにした方がいいと思うんですよ。このままギスギスした雰囲気をひきずっても良いことはないと思いますけど?」

「うっ……」


 女性の声を聞いた他の教員連中が一斉に口ごもる。彼女の言葉を聞いて納得したからではない。満面の笑みを浮かべた彼女が放つ気配に気圧され、指一本動かす事が出来なかったからである。


「とにかく、この話はこれでおしまい。いいですね?」


 その気配を更に強めながら女性が問いかける。この時の彼女は相変わらず満面の笑みを浮かべていたが、気配の方はもはや物理的な圧力を感じられるほどに強まっており、教師たちはまるで生身で猛獣と対面したかのように脂汗を流しながら頷くしかなかった。

 閑話休題。今に戻る。


「いや、本当に助かりましたよ」


 食事を終えた亮が改めてその女性に謝辞を伝える。彼と同様に食事を終えた女性は相変わらず「いいんですよ別に」と低姿勢を曲げず、それから席を立ち上がりつつ亮に言った。


「それより、そろそろ午後の授業の時間ですよね? 早く準備をした方がよろしいのでは?」

「おっと、そうだった」


 女性の言葉を聞いた亮が慌てて席を立つ。それから食器を乗せたトレイを持ち上げ、その女性と連れだって返却口に向かった。


「では、私はこれで」

「ええ。では私も」


 そして二人して食器をトレイごと返した後、亮とその女性は出入り口まで来た後でそう言葉を交わしあい、それぞれ別々の方向へ歩き始めた。


「カミューラ先生」


 しかしそこから二、三歩ほど歩いた所で、亮が全身で反対側を振り返って目の前に見える背中に言った。

 カミューラと呼ばれた女性教師が亮に振り返る。


「なんでしょう?」

「今度、この埋め合わせをさせてください」

「まあ」


 亮の申し出にカミューラが顔を輝かせる。


「よろしいんですか?」

「ええ。いつかでいいんで、今日の恩返しをさせてください」

「わかりました。では期待して待っていますね」

「こちらこそ」


 そうして短いやり取りを終えた後、二人は再びそれぞれの方向へ歩き始めた。

 予鈴の鳴る二十分前の事である。

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