「友情パワー」
目前の仮装パーティめがけて鬼が跳ぶ。それにあわせて冬美とフリードはそれぞれ左右に飛び出し、鬼の突撃を紙一重で避ける。そして鬼を左右から挟み込む形になった後で、フリードはそれまで襟元を掴んでいた手を振り払い、次の瞬間には彼女はまた別の姿に変わっていた。
「そこの患者さん、定期検診の時間よ!」
スリッパを履き銀色に光る薙刀を手に持ち白いナース服を身にまとった看護婦姿のフリードがそこにいた。それを鬼越しに見た冬美が怪訝な声で言った。
「なんでそんな物持ってるんだ」
「これはメスよ」
「あ、うん」
深くは突っ込まなかった。そんな中で、鬼がまずは冬美に向かって駆けだした。前に蹴り飛ばされた報復をするつもりだったのだろう、その目は怒りに血走っていた。
「キサマから血祭りにあげてやる!」
「おおっと、ここで鬼がフリードに背を向け、新たな乱入者に向けて走り出す! フリードも反応できなかったのか動く気配が無い!」
実況が声をあげる。その言葉通り、フリードは姿勢を低くしたまま全く動かずに鬼の背中をじっと見据えていた。だがこれは状況についていけずに動けなかったのではなく、自分から動こうとしなかったのだ。冬美の実力を知っていたからであり、彼女なら余裕で捌けると確信していたからだ。
「叩き潰してやる!」
鬼が走りながら腕を振り上げ、冬美の顔面めがけてそれを振り下ろす。冬美はそれを横にステップしてスレスレでかわし、それと同時に冬美の身につけている熊の着ぐるみの背中の一部が前にせり出して左右に割り開かれる。
「遅い」
「クソッ!」
「攻撃ってのはこうやるんだよ」
そしてそう言った冬美が再び両足で地面に降り立った時には、彼女の背中には機械仕掛けのバックパックのような物体が背中に密着する形で姿を現していた。
「な、なんだあれは!」
それを見たギャラリーが一斉に色めき立つ。そのバックパックは角張った作りで、無機質な銀色で染められていた。そのうち左右の側面に穴が開き、そこから本体と同じ色で先端に箱をつけた一本のロボットアームが飛び出した。
「デスマシーン!」
間髪入れずに冬美が叫ぶ。直後、それぞれのアームの先端についていた箱が内側から破裂し、数百の破片が光を乱反射しながら宙に飛び散る。しかしその空中に飛び散った破片は次の瞬間にはその場で固定され、さらに自ら意志を持つかのようにアームの先端に一斉に集まり、箱とは別の形を形成していく。
その破裂から凝集までの流れはほんの一瞬、瞬きする間の出来事であった。実際ギャラリーや鬼が気づいた時には既に一連の動きは終わっており、そしてそれぞれのアームの先には最初にあった箱よりも一回り大きい、見慣れない物体がつけられていた。
「それはいったい……!」
アームと連結された直方体の一面から何十もの銃身が円筒状に並べられた砲塔が装着された無骨な物体。
ガトリング砲だった。
「蜂の巣だッ!」
動揺する鬼の声に答えずに冬美が叫ぶ。同時にアームの先端から伸びたガトリング砲が肩越しに鬼に向けられる。そして砲身が高速回転し、次の瞬間には耳をつんざく轟音と先端から絶え間なくマズルフラッシュを放ちながら、何千発もの銃弾をその青い体に叩き込む。
「ゼロ距離! 一斉射撃だ!」
それを見た実況が声を張り上げる。ギャラリーも轟く銃声に負けじと声を出し、歓声と声援をリングに送る。
そのリング上では、冬美の放つ弾丸の嵐に押し負けるようにして、鬼の体躯が後ろへと追いやられていっていた。両腕で顔をガードし、両足を地面にめり込ませて膝を曲げて踏ん張っていたが、焼け石に水だった。
「鬼の体がじわじわ後ろに下がっていく! 防戦一方だーッ!」
実況が続けて声を張り上げる。銃弾は体を貫通していなかったが、鬼の体に赤い跡が次々と刻み込まれていく様子からダメージはしっかりと通っていたのがわかった。
その鬼の背後から迫る影があった。
「外科手術の時間でございまーす!」
両手で持った薙刀を上段に構え、フリードが声高に叫びながら肉薄する。ナースは手術しないと冬美は言いたくなったが、そんな余裕は無かったので黙っている事にした。
だが冬美がそのような事を考えた直後、鬼が下半身のバネを使って真横に跳び、弾幕の嵐から脱出した。
「鬼がやっとの事で攻撃をやり過ごす! そして獲物を逃した銃弾は、そのまま後ろからやってきた相棒に迫る!」
実況が叫ぶ通り、冬美の放った弾丸は鬼の背後から来たフリードに向かって容赦なく飛んでいく。それは華奢な彼女の体に風穴をあけるどころか、上半身をまとめて吹き飛ばすほどの弾丸の嵐だった。
このまま行けば自滅コースだ。地面を滑る鬼はほくそ笑んだが、冬美もフリードもお互いの攻撃の手を休める素振りを見せないまま、不敵な笑みを浮かべていた。
その笑みを浮かべたフリードの顔に何百もの弾丸が迫る。だが衝突するかに見えた瞬間、その弾丸の群は衝突する事無く半透明になって顔面の中にめり込み、そのまま後頭部からにょきりと姿を現し、完全に姿を見せた段階で再び実体化してフリードの後方へと飛び去っていった。
「えっ!?」
顔だけではない。フリードの全身に飛びかかった全ての弾丸が、等しくその体をすり抜けて向こう側へ飛んでいったのだ。なんの抵抗もなく冬美の正面に降り立ったフリードは無傷だった。そしてフリードの後ろで実体化した弾丸はそのまま観客席の方へ飛んでいったが、それらは不可視処理を施されたバリアによって全て弾き落とされた。
「大丈夫か?」
「平気。そっちこそ、腕は鈍ってないみたいね」
「当たり前だ」
冬美とナース姿の四千一号が短い言葉を交わしあう。その二人の間には余裕ともとれる空気が流れていたが、対する鬼は何がどうなっているのかまるでわからず混乱のただ中にあった。
「なんでだ、なんで攻撃が当たらない?」
「自分で調べなさい」
困惑する鬼めがけて無傷のフリードが走り出す。両手で持った薙刀を水平に構え、腰を落とし顔を前に出して距離を詰める。
「ダァァァァァァッ!」
やがて間合いに入ると同時に、フリードが手にした薙刀を勢いよく振り回す。その刃は空気を引き裂いて横薙ぎに鬼の脇腹に迫るが、鬼はすんでの所でそれを片手で掴み、怪力でもってガッシリとその場に固定する。
だがフリードは驚かなかった。
「そう来るなら!」
鬼が薙刀を掴んだ瞬間、フリードは両手の力を緩めて真上に跳び上がり、それまで自分が掴んでいた薙刀の柄の上にふわりと飛び乗る。そして驚いた鬼が薙刀を離すよりも前に両足に再び力を込め、そこから天高く空へと舞い上がる。
当然鬼はそちらに注意を向けようとした。だが意識を上に逸らそうとした瞬間、それのすぐ眼前にはフリードのすぐ後ろに隠れるようにして近づいていた熊の着ぐるみが肉薄していた。
「お前の目はこっちだ!」
冬美が威勢良く叫ぶ。それと同時に平坦な形になっていた両手の先がそれぞれ左右にスライドし、そこから飛び出した両刃の剣を左右同時に鬼めがけて振り下ろす。突然の事に鬼は反応しきれず、思わず後ろに飛び退いた。
二つの剣先が鬼の体をかすめる。空振りに終わったのを見た冬美が舌打ちするのと、鬼の頭上からフリードが降ってきたのはほぼ同時だった。
「そこの青いの! 暴行罪で現行犯逮捕です!」
上から轟く声を聞いた鬼が再度飛び退く。そして獲物を逃したフリードがその地点に伸脚の姿勢で着地する。
この時現れたフリードは婦警の格好をしていた。タイトなミニスカートとストッキングが目に毒だった。
「さあ、おとなしくお縄につきなさい! 自首すればまだ罪は軽く済みますよ!」
手にした手錠を突きつけながらフリードが宣告する。冬美は「また変なのが来た」と呆れ、ギャラリーは新たな姿に興奮し、亮達は超展開の連続に慣れきったのか緊張も興奮もすっかり忘れ、ドリンクサーバーから持ってきた飲み物をストロー越しにちまちまと飲みながら冷め切った顔でそれを観戦していた。
鬼はまず勝つことを第一に考えていた。
「これが最後です! 抵抗を止めて」
「うるさい!」
なおものたまうフリードに向かって走り出し、拳を振り下ろす。フリードは途中出掛かった言葉を飲み込んですぐさま後ろに飛び退き、そしてそれと入れ違いになるように冬美が前に飛び出した。
「三枚おろしだ」
「やってみろ!」
啖呵を切る鬼に向けて冬美が左右から挟み込むように、二本の剣を水平に斬り込んでいく。だが鬼は今度はそれを掴もうとせず、迫ってくる刃に合わせるようにしてその場で手刀を振り下ろした。
刃の真上から手刀が迫り、そして両者がかち合った次の瞬間、甲高い音と共に冬美の剣が両方ともへし折られ、白いリングの上に叩きつけられた。
「熊の剣が二つとも潰された! 鬼の戦意はまだ消えていない!」
「だったら!」
実況の声が会場内にこだまし、ギャラリーの中から驚愕の声が漏れ聞こえる。だがそれに負けじと冬美が叫び、その途中からへし折れた二振りの剣を手の中から吐き出すように捨て、間髪入れずにそこからまた別の物を出現させた。
「鎖!?」
それを見た鬼が叫ぶ。鬼の言うとおり、スライドさせた手の奥から現れたそれは先端に分銅のついた黒い鎖であった。そして冬美は両手を動かし、その長々と伸びた二本の鎖に命を吹き込むかのように滑らかに、青鬼の周囲に絶えずまとわりつかせるように動かした。
「それっ!」
冬美が両腕を大きく持ち上げてから一気に振り下ろす。その直後、二本の鎖が猛烈な勢いで青鬼の体に巻き付き、一瞬でその巨体を雁字搦めにした。
これらは全て鎖が飛び出してから一秒も経たない間の出来事だった。
「なに!?」
「これ以上暴れさせてたまるか」
鬼がそれに反応したときには、その体は完全に拘束されていた。拘束から抜け出そうと縛られた上体を動かしもがくが、鎖はびくともしなかった。
「鬼の体が鎖で縛り上げられた! 両腕もそろって拘束されて身動きがとれない!」
「この、おとなしくしろ!」
実況の声をよそに、冬美が暴れる鬼を押さえつけようと両方の腕を引っ張り上げる。鬼が強引に引っ張られる形で互いの距離が近づくが、この時冬美は一つ失念をしていた。
鬼の両足は縛られていなかったのだ。
「調子に乗るな!」
それまで引っ張られるだけだった鬼が、突如自分から冬美に向かって走り出したのだ。そして冬美が鎖の先から力が抜けていくのを察知した時には、その腹に筋肉の鎧に覆われた鬼の右足が突き刺さっていた。
「がはっ……!」
突然の衝撃が全身を襲う。脳が揺さぶられ、一切の音が遮断され、視界が激しくブレながら一瞬ホワイトアウトする。パワードスーツ越しからこれだけのダメージが体に直接来る事を知って、冬美はここに来て初めて恐怖を覚えた。
そしてその直後、彼女はなんの前触れもなく自分の体が宙に浮くような浮遊感を味わった。
「熊の着ぐるみが蹴り飛ばされた! そのままリング外にかっとんで行く!」
冬美の体にダメージを与えながら、前に彼女が鬼にしたように熊の着ぐるみがリング外に飛んでいく。だが彼女を蹴り飛ばした鬼は攻撃を終えると同時にすぐさま両足で地面の上に踏ん張り、鎖で縛られた上半身を勢いよく冬美の飛んでいくのと反対の方向に傾け、リング外に出掛かった冬美を強烈な勢いで自分の元に引き戻した。
「まだまだだ。これで終われると思うな!」
空高く浮き上がり空中をゆるやかに舞う冬美に狙いを付け、鬼が右足を半歩後ろにすりさげながら舌なめずりをする。冬美は意識こそ戻っていたが、鬼の怪力を前に為す術が無かった。
「これはまずい! 鬼の力に囚われてしまった! 絶体絶命だ!」
実況が叫び、観客が悲鳴に近い声をあげながらその様を凝視する。そしてその観客と同様にリング上を険しい表情で見つめる亮達の横で、人知れず真里弥が椅子に刀を置いたままその場から席を立つ。
やがて冬美が無抵抗に地上へ落ちていく。右足に力を込めながら、鬼は勝利を確信した。
「終わりだ」
「終わるのはあなたです! 婦女暴行の容疑で現行犯逮捕です!」
だが鬼が右足を振り上げようとした瞬間、その足下で女の声がした。鬼が目線を下に向けると、そこにはスライディングしながら鬼の足下に潜り込んだフリードの姿があった。その手には最初に見たのと同じ形状の手錠があったが、それは鬼の眼前で一瞬にして肥大化した。
「女性を痛めつける悪い足はこれかッ!」
そして鬼が右足をあげるよりも早くフリードが地面を滑りながら鬼の足下のすぐ隣を横切る。フリードはそのすれ違いざまに手に持った巨大化手錠を両足にはめ込み、その足の動きを封じた。
「キ、キサマッ!」
「確保完了!」
突然の事によろめく鬼のずっと後方まで滑って移動してから、そこでフリードが飛び跳ねるように素早く立ち上がる。そしてそう言いながら襟元に手をかけ、それまで着ていた衣服を勢いよく脱ぎ捨てた。
その直後、それまで婦警の立っていた所にはそれに代わって一人のカウボーイがいた。そのカウボーイは右手で腰のホルスターから漆黒のリボルバー拳銃を抜き、左手の人差し指だけを立てて帽子の縁を持ち上げた。
「さあ、ぼうや。お仕置きの時間だ」
西部劇に出てくるカウボーイのような格好をしたフリードが不敵に笑う。トリガー部分に指をかけて拳銃を器用に回しながら、鬼に狙いを定めてそれを片手で構える。
狙いをつけた瞬間、彼女の持つ拳銃の外装部分が音を立てて弾けとび、それに代わって拳銃の内側から膨れ上がってきた光がフレーム剥き出しになったその拳銃を包み込んでいく。獣のうなり声のような重低音が辺りに響き、白い輝きに包まれた拳銃から青白い電流が漏れ出してくる。
「まずい……!」
それを見た鬼が身の危険を本能で察する。だがどうにかしようと鬼が動こうとした直後、その鬼の周囲を囲むように上空から四本の杭が打ち込まれる。
「なんだ!?」
鬼が上を見ると、そこには背中から最初に見せたのと同じ機械仕掛けの翼を生やし、ロボットアームの先端にガトリング砲の代わりに前面に小さい穴が開いた直方体の大きな箱のような物をくっつけた冬美の姿があった。
それを見た鬼が声をあげようとする。だがそうしようとした直後、鬼の周囲に突き刺さった杭が赤熱化しその表面から電流がまき散らされ、鬼の体を容赦なく痺れさせた。それは人が触れれば一瞬で感電死してしまうほどの力を持っていたが、鬼の強靱な体の前ではそれを痺れさせるだけで精一杯だった。もっとも冬美としても最初から鬼が人間よりも頑強であると考え、それを痺れさせるつもりであらかじめこの電圧に設定していた。
「そこでじっとしていろ」
「熊による電流攻撃! 縛られた上でこでれは、逃げようにも逃げられない!」
冬美の言葉に実況のシャウトが被る。ギャラリーの興奮は最高潮に達し、鬼はどちらを先に対処すればいいか途方に暮れ、フリードは光に飲まれた拳銃を両手で構えて最後の仕上げにかかった。
「バイバイ、ボーイ」
フリードが気障ったらしく言い放ち引き金を引く。刹那、拳銃を包んでいた白光が全て吸い出されるようにして銃口から撃ち出され、流れ星のように尾を引きながら一つの塊となって鬼の体へ飛んでいく。既に四本の杭は電流を放たなくなっていたが、散々電流を流された鬼は動きたくても動けずにいた。
鬼と光が激突する。瞬間、目を焼かんばかりの閃光と耳をつんざく轟音がそこから放たれ、光に次いで生まれた衝撃波が会場を揺らした。
「……」
その音と光と衝撃を受けた観客達は、しばらくの間なにも出来ずにいた。ただ阿呆みたいに目と口を半開きにして、未だに閃光の残るリングをみつめていた。
やがて光の残り香が霧のように消えていく。そうして元の姿を取り戻していったリングの上には未だカウボーイ姿のフリードと、真っ黒焦げになりながら仰向けに倒れる鬼の姿があった。
そのリングの上に、翼を生やした冬美がゆっくりと降り立つ。そして降り立つと同時に翼とバックパックを背中の奥に戻し、全て納めた後でスライドさせた表面装甲を元に戻して普通の熊の着ぐるみになりながら未だカウボーイ姿のフリードの元に歩み寄る。そしてフリードもまた、それまで持っていたボロボロの拳銃を指で回転させながらホルスターにしまい、冬美の元へ近づいていく。
「ナイスだ、ガール」
「昔を思い出すな」
フリードが独特の台詞を言いながら右手を挙げ、冬美が同じく右手を挙げて両者がハイタッチする。その乾いた音が引き金になり、それまで押し黙っていたギャラリーが再び熱狂の声をあげる。
「強い! 突然現れたこの二人! 実力もインパクトも十分だァ!」
実況の気前よい声が響きわたり、観客がさらにテンションをあげていく。リング上でそれを聞いていた二人も自然とその顔に笑みを浮かべる。個室内でそれを見ていた亮達もまた、そこで立ち上がって拍手を送っていた。
「おい!」
そうして亮の隣で手を叩いていたアラタが不意に声を上げる。驚いた亮がアラタの視線の先にあるものに目を向けると、そこでは隣り合って立つ冬美とフリードの背後から鬼が迫り、両手を高々と掲げて二人に襲いかかろうとしていた。
「危ない!」
アラタと亮が同時に叫び、揃って冬美の割った窓の縁に手をかける。そう二人が動こうとした時には観客達もそれに気づいており、一斉に声を出して二人に危険を促した。
それを聞いた二人がすぐさま後ろに向き直る。だが二人が自分の正面を向いても、鬼は両手を掲げたまま微動だにしなかった。
「な、なんだ?」
「これは……」
冬美とフリードが身構える。だがそう警戒する二人の目の前で、やがて鬼がその姿勢のまま力なく崩れ落ちた。
それを見た全員が呆然とする。実況さえも実況を忘れて唖然とする。そして一番驚いている二人の目の前に、倒れた鬼を挟むようにして一人の人間が姿を現した。
「死んだふりだなんて、往生際が悪いですわね」
巫女装束に身を包んだ真里弥がそう言いながら、腰に手を当てて眼前に倒れる鬼を見下ろす。そして視線を上に向け、唖然とする二人を見つめて柔和に微笑みながら言った。
「お二人とも、油断禁物ですわよ」