「熊」
四千一号の自分作りの旅は、イツキの思っていたよりもすんなりと進行した。まずは何事も経験からというイツキの意向で「自分の着てみたいオシャレの服を探す」事になったのだが、四千一号は好き嫌いがハッキリしており、試着の過程で自分がいらないと思った物はキッパリ切り捨てる事の出来る性格だったので、その厳選作業はとてもスムーズに行ったのだ。
「これ以上はもう絞れない?」
「ああ。どれも捨てがたい」
結局、イツキの用意した八十八着の中から四千一号が選んだ服は、全部で七着であった。イツキの目から見たそれらはどれも日常生活で私服のように扱える代物では無かったが、彼は四千一号の意見を尊重して必要以上に彼女を咎める事はしなかった。
「でもディープなもの選んできたなあ……」
「なにか言ったか?」
「いや、それとは別に普通の私服も選んでおいた方がいいと思ってさ」
「なぜだ」
「それ着て外に出たら、たぶん周りの人から変な目で見られると思うから」
「そうなのか?」
「うん。だから後で普通の服も見てみようか」
「わかった」
イツキの言葉に四千一号が頷く。もっともこれに関してはマトモな服を用意してこなかったイツキの側にも問題があったのだが。
その一方で絞り終えた四千一号はどこか満足げであったが、その表情をすぐに不安げなものに変えて隣のイツキに言った。
「しかし、この中から一つ決めないといけないのか? なかなか難しいな」
「えっ、どういうこと?」
「これらは私の個性を作るのに使うものなのだろう? そして一着ごとに活かせる個性はそれぞれ異なっているから、もし私がこれ全部を着ようとしたら、一人でいくつも個性を持つ事になってしまう」
「うんうん。それで?」
「いや、だからおかしいだろう。一人の人間が、いくつも違う性格を同時にもつ事になるんだぞ。私は多重人格者になるつもりはない」
「なるほど」
四千一号の言葉を聞いたイツキが、彼女の言わんとしている事を理解して何度も頷く。そして困惑する四千一号をじっと見つめながら、あっけらかんとした声で彼女に言った。
「僕は別にいいと思うけどなあ。いくつも違う性格を持ってるっていうのだって、みんな普通にやってることだし」
「なに、そうなのか?」
「うん。地球の人間はね、みんな相手にあわせて性格を変えてるんだよ。いや、性格というか、対応というか……難しい言葉で言えばペルソナかな? 言い換えれば、みんな複数の個性を同時に持っているってわけ。だから全然おかしくない」
「そうなのか……いや、でも私は、相手にあわせて顔色を変える事はしたくない。私はいつも私らしく、堂々としていたい」
「もちろんそれでいいんだよ。僕は相手にへりくだれって言いたいんじゃない。一人の人間がいくつかのキャラクターを持つのは全然おかしい事じゃないって言いたいんだよ。さっきのは物の例えさ」
「そうなのか」
イツキの言葉を受け、四千一号が納得したように頷く。そしてその目を輝かせながら、四千一号がイツキに言った。
「では、この七着を全部着てもいいというんだな?」
「もちろん。ていうか、本当にそれ気に入ってるんだね」
「ああ。他のと違って、私はこれを着たときに体に電流が走るのを感じたんだ。運命を感じたというか、これしか無いと思ったんだ」
「そんなに惚れたんだ。じゃあ着てみたい服はこれで確定ってことかな?」
「そうだ」
「わかった。じゃあ次のステップに入る前に、君にはちょっと別の服を着てもらおうかと思うんだ」
そう言ったイツキがおもむろに四千一号に背を向け、ハンガーラックの中に上半身を埋めた。その背中を四千一号が不審そうな目で見つめるが、やがて元の世界に帰還したイツキが、その手に一着の服を持ちながら四千一号に向き直った。
「それはなんだ?」
「君が選んだ服を有効活用できるようになるアイテムだよ」
「それが?」
「うん」
四千一号が上体を僅かに前に傾けて不思議そうにそれを見つめる。そんな四千一号に、イツキが声を低めて言った。
「これを着ているだけで、君がさっき選んだ七つの服を好きなときに、好きなだけ着替える事が出来るんだ」
「七つを? 同時に持ち運べるのか?」
「そういうこと。おまけに早着替えも可能になる。便利でしょ?」
「ふうむ……」
イツキの言葉を聞いた四千一号が考え込む。それから暫くして、イツキに目を向けながら四千一号が言った。
「わかった。それを着よう」
「本当に?」
「ああ。私の趣味には合わんが、何かと便利そうだからな」
「そうこなくちゃ」
イツキが嬉しそうに顔を輝かせる。その心から喜びに満ちた顔を見て四千一号も思わず頬を緩めるが、まさにこの時、乱入者が出てきたという声がどこから聞こえてきたのだった。
「突然の乱入者マジカル・フリード! 彼女は果たして、あの鬼を倒すことが出来るのかーッ!?」
実況の興奮した声が会場内に響く。その実況とギャラリー、そしてリング外に集まっていた選手達の視線はリング上に立つ謎の魔法少女に向けられており、このいきなり現れた魔法少女は周囲の注目を一気にかっさらっていっていた。
そして青鬼も同様、自分の目の前に現れた女を凝視していた。
「魔法少女だと?」
口を開き鋭い牙をむき出しにして青鬼が唸る。対するフリードもとい四千一号はその鬼の威嚇を受けて顔色一つ変えず、そしてポーズを解いてからステッキを肩にかけて上目遣いに鬼を見ながら言った。
「ええ、そうよ。私こそ現代に生きる魔法少女、マジカル・フリード! 今から礼儀知らずなあなたに天誅を下す者よ!」
声高にフリードが宣言する。それを聞いたギャラリーは更に沸き立ったが、一方の鬼はそれに対して鼻で笑った声を出し、余裕たっぷりに言い返した。
「ほう、俺を倒そうというのか。そんな丸腰に近い格好でか?」
「随分余裕ね。前に同じくらい丸腰の人に殴り飛ばされたのはどこの誰かしら?」
「な……っ」
つい先程の出来事を指摘されて鬼が気圧される。そして鬼は本気で侮辱されたように眉間に皺を寄せ怒りの表情を強めていくが、肝心のフリードは全く恐れを抱かず涼やかな顔でそれを受け流した。そして目だけを動かしてなおもざわめくギャラリーを見渡しながら、頭から煙が出そうなほど怒りに震える鬼を前に言った。
「それに私、別にこの姿であなたと戦おうとか考えてないから」
「なに?」
「これはあくまでスタート地点。私の戦い方はここから始まるの」
「わけのわからん事を。理屈をこねる前にさっさと実物を見せたらどうだ」
鬼が前のめりになりながらフリードに言った。だがフリードは動じず、不敵な笑みを浮かべてそれに答える。
「そんなに焦らないでよ。今見せるから」
刹那、フリードの姿が視界から消える。
あっ、と視界から消えたことを認識したギャラリーが叫んだ次の瞬間、フリードは鬼の背後に跳んでいた。
「さッ!」
空中に留まりながら、フリードが鋭い回し蹴りを放つ。だがその足が首筋に突き刺さる瞬間、背を向けたままの鬼が後ろに右手を回し、それをすんでの所で鷲掴みにした。
「あっ、えっ、ああっ!」
やっとこさ状況を理解した実況が、目の前の光景を見て心からの驚きの声をあげる。
「マ、マジカル・フリード! 一瞬で鬼の背後に回るも、そこからの蹴りを止められたーッ!」
そう実況が叫ぶ間、鬼は足を掴んだまま宙づりのフリードを自分の真正面に持ってくる。だが不意打ちを察知され囚われの身になってもなお、フリードの表情は少しも怯えの色を帯びていなかった。
「ここで鬼がフリードと近距離で相対する! ここからどう動くか!」
「ふん。何が魔法少女だ。ここで終わりにしてやる」
「油断してると火傷するよ?」
「その余裕、いつまで持つかな?」
鬼が小さく笑い、空いた方の手を振り上げ拳を握りしめる。そして迷うことなく、空を裂く勢いでその拳をフリードのがら空きの腹に叩き込んだ。
瞬間、ギャラリーの中から悲鳴混じりの歓声が漏れる。中にはそこから響く生々しい音を聞くまいと反射的に耳を塞ぐ者もいた。だがそれから少し経った後、再びリングに目を向けたギャラリーと実況、そして目の前で起きた事態に気づいた鬼は、ほぼ同時に驚きの声をあげた。
「い、いないッ! フリードの姿が消えているッ! あるのは服だけだッ!」
そしてその実況の言葉通り、この時鬼の手にはそれまでフリードが着ていた魔法少女の衣装だけがあった。マジカル・フリード本人の姿は影も形もなくなっていた。
すかさず実況が叫ぶ。
「これはまさに忍法空蝉の術! いったいどこに消えたのか!」
「こっちヨ、こっち!」
するとその実況の声に合わせるように、鬼のすぐ足下から声が聞こえてきた。それはトーンが高く、どこか訛りのある声だった。
思わず鬼が顔を下げて真下に目線を向ける。
「アイヤー!」
その直後、足下にいた声の主が奇声を発し、膝のバネを活かして全身で跳躍しながらその鬼の顔面にアッパーカットを決めた。
「がはぁッ!」
「モブキャラはモブキャラらしく、黙ってサンドバッグにされるアルネ!」
鬼の体躯が真上に吹き飛ばされ、それと同時に宙に浮いた声の主の姿が露わになる。それは黄色いチャイナドレスに身を包んだ、先程までマジカル・フリードと名乗っていた少女だった。
今はエセ中国人とも言うべき立ち姿をしていた。
「こ、これはどうした事だ! いきなり衣装が替わっているぞ! 早着替えだとでも言うのか!」
「イー・アル・サン・スー! カンフーまだまだ行くネ! ハチャーッ!」
実況の驚きの声とギャラリーのざわめきを背に、チャイナ服姿のフリードがそうテンション高く叫びながら空中で両足を折り曲げ、鳥が羽ばたくようなポーズを取る。そしてその場で縦方向に一回転をし、体を伸ばしたまま空中にいた鬼の頭頂部に踵落としをお見舞いした。
「続けて攻撃! 鬼がリングに叩きつけられる!」
うつ伏せの体勢でリングに激突した鬼を見て実況が叫ぶ。この時フリードは鬼を蹴った反動でまだ空中に残っていたが、彼女は体が落下を始めるよりも前にその襟元に手をかけ、そこを掴んだまま羽織ったマントを脱ぎ捨てるように一気に手を振り払った。
フリードの姿が一瞬影に包まれ、全身真っ黒になる。
「さあ、まだまだ終わりませんわよ」
そして深く伸脚した状態でリング上に着地した時、フリードの姿はまた別の物に変わっていた。端的に言えばそれはメイドであった。口調までも品の良い礼儀正しい物に変わっていた。
「教育指導の時間ですわ、ご主人様?」
群青色をベースにした長袖ロングスカートのメイド服を身にまとったフリードが、伸脚の姿勢のまま鬼をまっすぐ睨みつける。その手にはどこから持ってきたのかアルミ製のバケツと木製のモップを手にしており、メイドとなったフリードは立ち上がりながら腕を伸ばし、手にしたモップを鬼に突きつける。
その時、顔を上げた鬼とフリードの目線が交錯する。そして鬼が体を起こすよりも前に、フリードはまだ倒れ伏せたままの鬼めがけて一目散に走り出した。
「おおっ速い! 速い! フリード、鬼よりも速く行動に出た!」
実況の言葉通り、鬼が上体を起こすよりも速くフリードが肉薄する。そして駆け出しながら体を後ろに反らして片手に持ったモップを高々と掲げ、その無防備な後頭部にモップの角を打ち付けた。
「メイド調教殺法その一! 熱血教育指導!」
フリードが叫ぶと同時に激突した部分から鈍い音が漏れる。鬼が苦悶の表情を浮かべ、フリードが会心の笑みを浮かべる。
「ああっ、痛い!」
実況がギャラリーの気持ちを代弁する。だがメイドフリードは止まらない。
「指導! 指導! 指導! ご主人様が心を入れ替えるまで、誠心誠意お相手いたしますわ!」
心はメイドになりきりながら、手にしたモップとバケツで鬼の頭から背中にかけてを滅多打ちにしていく。金属と木と肉のぶつかりあう鈍い音が響き、その打ち鳴らされる間隔は秒刻みで短くなっていった。立ち上がる暇さえ与えないその連撃は、もはや指導ではなくただのイジメにしか見えなかった。
「ほらほら! 早くなんとかしないとぶっ壊れてしまいますわよ! ほらほらほらァ!」
意地の悪い姑のように声を荒げ、両手を交互に振り下ろして呵責無い責めを続けるフリード。そしてトドメとばかりにバケツを投げ捨て、モップを両手で持って片足が地面から離れるほどにのけぞって勢いをつけてから、親の仇とばかりにそれを振り下ろして背中に叩きつけた。
「オラァ!」
モップの角と背中がぶつかる。何かが砕け、へし折れるような鈍い音が鳴り響く。
「ぎぃ……っ!」
その瞬間、鬼は腹を地面につけたまま体を大きく反らし、苦悶の表情を浮かべてから再び地面に倒れ伏した。一方のフリードは倒れた鬼には目もくれずに一仕事終えたとばかりに額の汗を拭い、手に持ったモップを一回転させてから肩に担いでとても清々しい表情を浮かべた。
「ふう。スッキリしましたわ」
さわやかな笑顔で得勝利宣言を告げる。
「……お、おお……」
だがこの時、ギャラリーの意識は完全に思考を停止していた。驚きの連続で展開に頭がついていけず、圧倒されたように押し黙るしか無かった。だが、やがてフリードが乱入者である鬼を倒したのだとわかると、段々とではあるが元の歓声と興奮が周囲を包んでいった。
「オオオオオオッ!」
それからメイドの勝利にギャラリーが完全に沸き立つまでに、対して時間はかからなかった。そしてその声に答えるようにフリードがモップを持った手を天高く伸ばすと、ギャラリーの熱狂も更に熱く激しいものとなっていく。そして鬼から離れ、リングの外周をゆっくり回っていると、その距離に比例して観衆の興奮も過熱していく。
「フリード! フリード! フリード!」
もはやマジカル・フリードは、この場の注目を完全にかっさらっていた。実況もその勝利を称える言葉を放ち、ケンとその取り巻きは感心するようにフリードを見つめ、リング外で完全に置いてけぼりを食らった二軍の面々は渋い表情でそれを見つめていた。
「あいつ、結構やれるんだな」
「凄いですわ。まさに神業ですわ」
「凄いけどなんか複雑クマ」
そして亮達は喜びと呆然との入り交じった複雑な表情を浮かべながら無心で拍手を送っていた。四千一号のあまりの変貌ぶりを前に、困惑せずにはいられなかったのだ。
「あれがイツキの成果だってのか? あの野郎やりすぎだぜ」
「やり過ぎな所は賛成できるな。俺は普通にありだと思うが」
「ちょっと複雑クマ」
「ま、まあ個性的ではありますわねえ……あっ!」
最初にそれに気づいた真里弥が思い出したように声を発したのは、まさにその時だった。リングの中央で倒れていた鬼が音もなくゆっくりと立ち上がり、怒りに燃えた目でフリードの背中を睨みつけていたのだ。
「お、おい!」
そして真里弥に次いで異変に気づいた亮が声を出した直後、鬼は復讐のための行動に移った。片足で跳びあがり、フリードの無防備な背中に飛びかかる。この時になって試合を見ていた全員がそれに気づき、その内の何人かが悲痛な声をあげた。
「危ない!」
その声を聞いたフリードが背後から迫る気配を察し後ろを振り向く。既に鬼は眼前に迫っていた。両腕を伸ばし、鋭利な爪を突き立てようとしてくる。もはや距離的に避ける事は不可能であり、それを察したフリードは咄嗟に両腕を顔の前に持って行って防御の体勢に入る。
「や、やられたと思われていた鬼が迫る! フリード! これは万事休すか!」
それを見た実況が叫び、真里弥が悲痛な叫びをあげようとする。だが真里弥が口を開いた刹那、彼女は窓ガラスの割れる音を耳にして、視界の右隅から奥に向かって黒い何かが通り過ぎるのを目にし、頬に強い風が当たり髪を後ろになびかせたのを感じた。
「……えっ?」
一瞬で毒気を抜かれた真里弥が呆気にとられた声を出す。そして彼女がすぐさまリングに意識を向けると、そこでは異様な光景が広がっていた。
フリードに肉薄していた鬼の脇腹に横から飛んできた背中から機械の翼をはやした熊の着ぐるみの丸太のような足が突き刺さり、鬼の体がリング外へ吹き飛ばされていったのだ。
「ええっ?」
すり鉢状の会場の、その最底部の片隅から爆音が轟き土煙が舞い上がるその光景を見て、真里弥が再び素っ頓狂な声を出す。彼女の周りにいた者達、そしてそれを目の当たりにしたギャラリー達もまた唖然として、その一部始終を目にしていた。
当然ながらフリードも彼らと同じ反応を見せており、そして鬼を蹴り飛ばして目の前に降り立った熊の着ぐるみを、唖然とした表情で見つめていた。
「たるんでいるぞ、四千一号」
そのフリードを小さくまんまるな瞳でまっすぐ見つめながら、デフォルメされた熊の着ぐるみが鋭い言葉を浴びせてくる。それはフリードにとって、とても聞き慣れた声だった。
「平和ボケしたか?」
「……まさか」
その懐かしい声を聞いたフリードは我に返ると同時に苦笑を漏らし、そして「素の自分」に戻ってかつての友に言い返す。
「少し油断しただけだ」
「そうか。ならやれるな」
「もちろんだ、四千二号」
四千二号と呼ばれた熊の着ぐるみが静かに首を左右に振る。
「今の私は冬美だ。呼ぶのならそう呼べ」
「わかったよ冬美」
冬美の言葉に四千一号が答える。その直後、鬼が自分がめり込んでいた壁を自力で吹き飛ばし、土煙で軌跡を描きながら高々とジャンプしてリング内に復帰してきた。それを察知したメイドと熊が反射的に背中合わせの姿勢を取り、同時に鬼を見据える。
「この野郎、上等だ。こうなったら二人まとめて片づけてやる!」
「どうして出てきた? あの程度で私が遅れをとると思ったのか?」
「ここは乱入自由だと聞いてな。ピンチの友人を助けるのに理由がいるのか?」
「そうか」
冬美の言葉に四千一号が口元を緩める。鬼が何か喚いていたが、そんな事お構いなしに暖かな空気に包まれた二人が話を続ける。
「それがお前の戦闘服か」
「そうだ。特別に作ってもらった」
「いけるか?」
「もちろん」
そう言い合う二人の眼前で、鬼が両手をあげて獣のように吼える。それを見た四千一号はメイド服の襟元を片手で鷲掴み、冬美は熊の着ぐるみのままで戦闘態勢を取った。
「これは以外! 新たな乱入者の登場だ! しかしこれこそがここの醍醐味! 特別試合は続行いたします!」
そして空気を呼んだ実況の声が会場内に轟き、観客のテンションが再び高まっていく。そんな中で、三人は再び火花を散らしていく。
「ぶっ潰してやる!」
「上等」
鬼が走り出し、熊とメイドが迎え撃つ。
鬼と宇宙人二人による戦いの火蓋が切って落とされた。