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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第四章 ~七面相アイドル「マジカル・フリード」、パワード熊スーツ「クマ・オブ・アポカリプス」登場~
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「インペリアル・メネリアス」

 四千一号がイツキの企みに乗ったのと同じ頃、ケンや他の選手達、そして先の二人とも別れた亮達は、その後真里弥の控え室に移っていた。ケンや他の選手がいるところに留まらなかったのは、単に見知らぬ者に囲まれて見知らぬ場所にいることに気が引けたからだ。

 彼らはそこで四千一号の用事が終わるまで待つつもりであったのだが、ただ待つのも暇だった。暇つぶしの出来る物を持ってきた者もいなかったので、テーブルを囲んで座っていた彼らは遊ぶ代わりに雑談をして時間を潰すことにした。


「そういえば、なんでマリヤはここにいるんだクマ?」


 最初に口火を切ったのは冬美だった。これはこれで真里弥以外の全員の共通の疑問でもあったので、亮と冬美とアラタの三人は一斉に真里弥へ目を向けた。だが真里弥は驚く素振りも見せずにその三つの視線を受け止め、そしていつもの穏やかな口調でそれに答えた。


「それは簡単ですわ。わたくしが追っている妖の類は皆、強い力に惹かれる習性がありますの。より強い力を求め、それを我が物とせんがために」

「それで、そいつらは自然とここに集まってくるっていう事か」

「そういう事ですわ。それにここは基本的に来る者拒まずの自由な場所ですから、他の人間のいる所に比べて彼らが出入りするのに苦労しませんもの」

「おまけに好きなだけ暴れても文句を言われない。至れり尽くせりって訳か」

「その通りですわ。戦うことに喜びを覚える彼らにしてみれば、ここはまさに楽園と呼べる場所ですわね」


 そこまで言って一度息を整え、それから満面の笑みを浮かべて真里弥が言った。


「まあ、ここはわたくしにとっても楽園なのですけれどね」

「どうしてクマ」

「だって、ここでなら好きなだけ妖を痛めつけても何も言われませんし、邪魔も入りませんもの。道端であれを痛めつけてると必ず警察が飛んできたり、カメラで撮ろうとする連中が出てきたりして、それはもう後始末が面倒でしたから」

「なるほどね。しかし迷惑な連中だな」

「おいおい、一応警察は仕事をしようとしてるだけだと思うぞ」

「でも邪魔ですわ」


 亮の警官に対するフォローを真里弥が正面から斬り伏せる。そしてそれを受けた亮は、それ以上真里弥に食ってかかる事はしなかった。

 亮もまた、警察は邪魔な存在だと少なからず思っていたからだ。





 そして真里弥の話が一段落した後、今度は冬美が口を開いた。彼女が展開したのは自分たちの故郷についての話だった。


「メネリアスの住人は自力で子供が産めないクマ」


 それはその始まりの第一声からして簡潔かつインパクトの強いものであった。なのでそれを聞いたオーディエンス三名は、あっという間にその冬美の話に引き込まれていった。


「いつからそうなったのか、どうしてそうなったのか、原因は今もわかっていないクマ。いくつか説が挙げられているけど、どれも決定的な証拠に欠けているから、どれが正しいのか断定出来ない状態なんだクマ」

「子供が産めないって言うのは、生殖機能そのものが無いっていう事なのか? 卵子とか精子とかが無いって事なのか」

「そうクマ。というよりも惑星観測員を他の星に派遣して、そこで交尾や生殖という物について観測員から報告を受けるまで、メネリアスの住人はそういった物の存在を全く知らなかったんだクマ。さっき言った『子供の産めない原因論争』が始まったのもつい最近の事だクマ」


 亮の問いかけに冬美が答える。それを聞いたアラタが腕を組みながら言った。


「交尾を知らないって、じゃあどうやって子孫を増やしていったんだよ」

「クローン培養だクマ」

「なんだって?」

「クローンだクマ」


 冬美が答える。すると真里弥が即座に冬美に尋ねた。


「でもクーロンって確か、精子とか卵子とかが無いと作る事が出来ないのではありませんでしたか? 人間の場合はそうだというらしいのですが」

「地球人の場合はそうらしいけど、メネリアスの場合は違うクマ。地球人と同じ方法を使っているわけでは無いクマ」

「ていうか、マリヤお前よくそんな事知ってるな」


 いきなり専門的な事を冬美に尋ね始めた真里弥に向けて、アラタが感心したように言った。それに対して真里弥は、その時手に持っていたスマートフォンを見せながらアラタに答えた。


「今これで調べましたの」

「あ、そう」


 感心したのを後悔するかのようにアラタが声のトーンを落として言った。そんな二人を横目に見ながら、今度は亮が冬美に尋ねる。


「じゃあ、メネリアスではどんな方法を使ってるんだ?」

「幼児退行モデルと肉体転写だクマ」

「なんだそれ」


 冬美の口から出てきた謎の単語に、亮達が一斉に注目を向ける。そんな彼らの視線を受けながら冬美が口を開く。


「まず対象を一人選んで、その対象の現在の神経配列や内蔵の位置や大きさ、血管の太さ、骨格その他もろもろの要素を調べるクマ。そしてそうやって手に入れた情報からその対象の胎児の頃の姿を推測し、その時のコンディションを徹底的に再現した図像を作成するクマ。これが幼児退行モデルと呼ばれる物だクマ」

「要するに、その人の産まれる前の姿をデータから再現するって事か」

「そういう事クマ」

「ハイテクの使いすぎだろ。写真見れば一発じゃねえのか?」

「写真だけ見ても内蔵の位置や血管の配置はわからないクマ。体の中は推測でしか測れないクマ。そもそも胎児の写真なんてないクマ」


 その冬美の言葉を聞いて、前に彼女に問いかけたアラタが納得したように頷く。するとその直後、今度は真里弥が冬美に問いかけた。


「それで、その次はどうするんですの?」

「あ、次? うん、次ね。次はその作られたモデルを元に、それと全く同じデータの物体を今度は実際に作るクマ。これが肉体転写と呼ばれる物で、要は有機物版3Dプリンターみたいな物だクマ」

「骨とか臓器とか、情報通りに全部作ってしまうんですの? 形まで正確に」

「そうクマ。転写に使う材料もパーツごとにそれぞれ異なる物を使うクマ。もちろんこの方法で構築された皮膚や骨はちゃんと細胞分裂もするし、環境に適応して成長もするクマ。ついでに成長した後に複製元の人間と同じ顔や体つきにならないように、取られたデータの数値も致命的な影響が出ない程度にちょっといじっているクマ」

「凄まじい技術ですわね」

「今の人間の科学者に見せたら卒倒しそうだな」

「そうクマ。自分でも凄い技術だと思うクマ。でもこれ、実際は今のメネリアス人が作った物では無いらしいクマ」

「どういうことだよ?」


 アラタが冬美に尋ねる。その方を見て冬美が言った。


「なんでメネリアス人に生殖機能が無いのかというのと一緒だクマ。いつ、誰が作ったのか全く不明なんだクマ。今のメネリアス人の先祖が作ったという記録はどこにも無いし、それの設計図も製造過程を記した物も見つかってないクマ。そもそもその機械を構成している金属は、メネリアス近辺には存在しない物だクマ」

「どういう意味ですの?」

「そう簡単に自分達では作れないって事か」

「そうクマ。ちなみにその金属そのものはメネリアスのある星から二百光年離れた所にある星に埋蔵されている物だというのがわかったんだけど、そこに生物の痕跡は無かったクマ。そして今現在も、メネリアス人によるその機械の完全複製は出来ていないクマ」

「どこか別の宇宙人が作ったって事はないのか?」


 今度は亮が冬美に問いかける。冬美がそれに答える。


「それが今のところ有力な説だクマ。誰が作ったのとかいつ作ったのとかはまだ謎だけど、それでも他の説に比べればまだ信憑性は強いクマ」

「不思議ですわね。大宇宙の神秘ですわ」

「で、そのあとどうするんだよ?」


 冬美の話を聞いて感慨に浸る真里弥の横で、アラタがなお疑念の晴れない様子で問いかける。どういう意味だと言い返す冬美に、アラタがテーブルに肘を乗せてその掌の上に顎を置きながら言った。


「そうやって産まれた子供はそれからどうやって成長するんだってことだよ。育ての親とかどうするんだ?」

「複製された胎児は赤子の姿になるまで専用のシリンダーの中にいれられるクマ。そこで細胞分裂を行わせて、ある程度の大きさにまでなったらシリンダーから取り出して、子育て担当の人に手渡すんだクマ。この子育て担当は、その子の元になった人とは別の人クマ」

「そいつの名前はどうするんだ? その子育て担当がつけるのか?」

「名前はその子供自身がつけるクマ」


 冬美の言葉に三人が一斉に注目する。冬美がいつもと同じ調子で続ける。


「メネリアスでは、大人が子供の名前を決めるという習慣は無いクマ。子供の名前は子供の物なんだから、その子供に決めさせるべきだという考えが一般的なんだクマ」

「その考えもわからなくはないな」

「それで、大きくなる中で色んな経験をして、その後で自分は一人前の大人になったと自覚した時、初めて自分で自分の名前をつけるんだクマ。メネリアスに生まれた者は皆これと同じ事をしているクマ。そんな中で惑星観測員は手っ取り早く大量の経験を積めるから、名前をつけてない子供達には大変人気のある役職なんだクマ」

「お前もそのクチって訳か」

「そうクマ。実際楽ちんで助かるクマ」


 アラタの問いかけに冬美が頷き、そしてその冬美に真里弥が尋ねかける。


「では自分で名前をつけるまでは、その子供達は全員名無しという事なんですの?」

「そうなるクマ。でもそれだとさすがに色々と面倒だから、それまでは便宜的に胎児の頃に入っていたシリンダーのナンバーで呼ばれるクマ」

「四千一号」


 亮が静かに言葉を放つ。真里弥とアラタもそれと同じ事を考えていた。そんな三人の胸中に思っている事を察しながら、冬美が言った。


「で、彼女はまだ自分の名前を決めかねているんだクマ。あの子は昔から妙にストイックな所があって、中々自分を認めようとはしないんだクマ」

「随分あいつの事知ってるんだな」

「進藤はあの四千一号とは知り合いなのか?」

「幼馴染だクマ」


 亮の言葉に冬美が答える。

 その直後、彼らのいた控え室を激しい震動が襲った。


「うわっ!」


 突然の揺れに全員が悲鳴をあげる。だがかろうじて床に手をつき、顔面から激突する事は避けられた。


「な、なんですの!?」

「地震!?」

「ここ地下だぞ! 地震とか起きるのか!」


 よろよろ起きあがりながら、生徒三人が口々に言い合う。そしてそれを落ち着けようと亮が口を開いたとき、勢いよく出入り口のドアを開けながらケンが姿を現した。


「みんな無事か!」

「ケン! なにが起きたんだ!」

「あの鬼だよ」


 亮の質問にケンが声を張り上げて答える。この時まだ断続的に揺れが続いており、時折土の中で爆弾が爆発したような低くくぐもった音が聞こえてきた。


「人間に負けたのが相当ショックらしくて、ここに乗り込んで暴れ回ってるんだ」

「なんですって!?」

「暴れてるって、それ大丈夫なのかよ?」


 驚愕する真里弥の隣でアラタが問いかける。だがケンは焦ることなく、それどころか不敵な笑みを浮かべてそれに答えた。


「いつもの事だよ。乱闘騒ぎは今日始まった事じゃない」

「いつもの事って……鎮圧しないのか?」

「もちろん鎮圧はするとも。通常の試合スケジュールを中断して、乱入スペシャルマッチとして一般公開するけどね」

「逃げないのかよ」

「凄い胆力だクマ」


 さらりと言ってのけたケンを見て、アラタと冬美が呆れたように声を出す。その冬美の声には反応せずに、亮達を見渡しながらケンが言った。


「で、今からそれを始めようと思ってるんだが、みんなも見に来ないか?」

「是非行きたいですわ。その鬼にはわたくしの方からもお礼がしたいですから」


 真っ先に真里弥が賛同する。よく見ればケンの後ろには先程大部屋で会った選手達もケンの肩越しに部屋の様子を見つめていた。


「真里弥ちゃんは確定と。他のみんなはどうする?」


 断れない空気になりつつあるのを肌で感じた亮達は、おとなしく空気を読むことにした。


「……見たいです」

「そう来なくちゃ。さ、早く行こう」


 そしてケンを筆頭に他の選手達も続々とリングに向かう。その顔はどれも期待と興奮に満ちていた。

 本当に誰も逃げないのか、とその様子を見たアラタが呟くが、その言葉は誰にも受け取られないまま虚しく宙に響いた。

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