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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第十章 ~戦闘兵器「サイクロンD」、反逆巨人「モー・ド・レッド」登場~
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「女王グィネヴィア」

「説明会を行う前に、少し頼みたいことがあるのですが」


 学園のはぐれ者と宇宙海賊と異世界の騎士の三組で説明会を行う流れになった直後、モードレッドは亮達に恐縮そうに頼んできた。それはとてもシンプルで、かつ非常に難儀なものであった。


「置き場所?」

「はい。私と共にやってきたあの城の置き場所、つまりは城を置けるだけの土地を探してほしいのです。いつまでも逆さまに突き刺さったままにしておくわけにはいきませんので」


 彼の言っている城とは、彼らの頭上でドームの天井をぶち抜いて尖塔の部分だけを覗かせていたあれ、上下逆さまの状態でドームに刺さっていたもののことであった。あれを元の体勢に戻し、ちゃんと地面の上に置こうと考えていたのだ。さらにモードレッドはそれに付け加えて、出来るならばこの町の中に城を置きたいとまで言ってきた。


「それはどうして?」

「私と共にこちらにやってきたお方の一人が、この町のことをいたく気に入ってしまったのです。正確にはここにある天高くそびえる四角い物体や、四つの車輪を動かして高速で動く金属の塊など、元々いた世界では見られないような不思議な物体に強い興味を抱いておられるのです」

「高層ビルに自動車のことか」

「なるほど、あれらはそう呼ぶのですね。まあそれはそれとして、あのお方はそのようなものをもっと近くで見たいと仰られており、ならばということで町の中に城を置くことになったのです」

「ううん」


 輪をかけて難しくなってきた要求を受けて、亮が思わず唸った。ただ単に土地を探してほしいと言うことならば、それなりにアテはある。しかし町の中で置ける場所を探してほしいとなると話は別だ。

 非常に厳しい。というか全く見当もつかない。亮がそう考えながら横目でエコーを見ると、彼女もまた同様に険しい表情を浮かべていた。亮と同じ気持ちであるらしかった。


「今俺たちだけで決めるのはさすがに無理だな」


 それから暫く悩んだ後、亮はそうモードレッドに言った。横のエコーも同じように首を縦に振った。それを聞いたモードレッドは明らかに肩を落とし、残念そうに言った。


「時間がかかりそうですか?」

「たぶんそうなる。二、三日くらいじゃ決まらないだろうな」

「なるほど」


 モードレッドが答える。声は納得したような調子だったが、顔は納得していなかった。

 そんなモードレッドを見て「こっちも色々な人に話してみるよ」とフォローするように返し、それに続けてエコーも「もう少し辛抱しといてくれ」とモードレッドに言った。やや釈然としないながらもモードレッドはそれらに頷き、その場はそれでお開きとなった。結局説明会の日程については決められず終いだったのだが、これは「城の問題を解決しなければ落ち着いて話をすることが出来ない」とモードレッドが頑として譲らなかったからである。


「何か策はあるのか?」

「無い」


 話し合いの後、「報告があるので」と言って一足先にその場を離れたモードレッドを見送った後で、サティが亮に尋ねた。対する亮はそのように即答し、そして呆れるサティの横で亮が続けて言った。


「まあ、なんとかなるって」


 本当に大丈夫なんだろうか。言葉にこそしなかったが、サティはそう思わずにはいられなかった。

 しかし亮の言うとおり、この問題はなんとかなってしまった。しかもこの翌日に。


「統括府跡地がありマース! そこを使えばいいのデース!」


 説明会がお開きになった後、亮はすぐさまD組の生徒達全員にメールでアドバイスを求めた。そしてそれから数分もしないうちに、なぜか別のクラスに属しているアスカ・フリードリヒからそのような内容の返信メールが送られてきた。

 統括府とは、かつてこの町を牛耳っていた怪物が身を寄せていた建物のことである。今は謎の火災によって全焼し影も形も残っていなかった。なるほど、確かにあそこならば土地も空いている。しかも統括府自体が大きかった上に周囲に建物もないから、多少の無理も利く。城の規模がどれほどかは知らないが、なんとかなるだろう。

 しかしそれと同時に、亮はメールを見ながら不審に思った。自分はD組の生徒にしかメールは送っていないはずなのに、なぜよそのクラスのアスカが返事を持ってくるんだ。そう思いつつ自分のスマートフォンの電話帳を確認してみたが、案の定そこにアスカの名前は入ってなかった。


「D組の誰かから話を聞いたんだろうな」


 しかし亮はそれについては深く考えることはせず、そう自分の中で結論づけた後はそれ以上何も考えないことにした。そしてそれについて考えない代わりに、亮はこのアイデアをさっそくモードレッドに伝えた。


「なるほど、そのような場所があるのですね。早速向かってみます」


 モードレッドからの返答は喜色に満ちたものだった。それ以降彼からの連絡は無く、亮はやややきもきした思いを味わった。どうやって電話を使えるようになったのかと思ったりして気分を紛らわしたりもした。

 モードレッドの行動は迅速だった。翌日、朝日が昇り始めた時には既に、かつて統括府があった場所に立派な中世の城が建てられていた。それは石と鉄で作られた「実戦的」な、戦火に晒されることを前提として作られた、城塞とも言うべき堅固な城であった。

 突然のことに誰もが驚いたが、目に見えて驚愕の表情を見せる者はほとんどいなかった。一連の事象を続けざまに経験したことによって、この町の住人は非現実的な事態に耐性が出来ていたのだ。

 それがいいことなのか悪いことなのかは当人にしか判断出来ないことであった。





「お待ちしておりました」


 そうして城が一日で地上に降りてきたその翌日、亮達D組の面々とその関係者達は、一様に件の城の前に集まっていた。彼らはその前日にモードレッドによって呼び集められた者達であり、全員が「説明会」に参加するためにここに来ていた。

 また「脱走者組」である「吸血鬼」カミューラ、そして「地獄の悪鬼」サティと「年増幼女」トトと「首なし騎士」エンクもここに来ていたが、彼らの同族である「豚」ラ・ムーと「鶴」ソロモンはここにはいなかった。彼ら曰く、急な仕事が入って来れなくなったとのことである。

 ちなみにこの日は平日であり、いつもならば普通に学園で授業が行われている日であるのだが、一連の異常事態を受けて一時休校となっていた。D組とその取り巻きを直に見て泡を吹いた校長が、そう言った自身の価値観の外にある事物に対してすっかり弱腰になってしまっていたのも原因の一つであった。

 そして集まった彼らを前にして堅く閉ざされた正門の前にモードレッドが立ち、恭しくお辞儀をしてから良く通る声で訪問者を歓迎した。


「この奥でランスロット殿とグィネヴィア様がお待ちになられています。私の後についてきてください」


 モードレッドがそう言って彼らに背を向け、門と相対した状態のまま指を鳴らす。直後、がっしりと閉じられていたモードレッドの二倍の背丈を持つ門が重苦しい音を立てながら奥向きに開かれていき、彼らに城内へ続く道を示した。


「お待ちしておりました」


 開かれた門の奥からその声が聞こえてきたのは、その直後の事だった。落ち着いた女性の声であり、そして実際に門の奥には一人の女性が清楚な佇まいで立っていた。


「あなた方が、モードレッド卿のお話ししていた方々ですね。お初にお目にかかります」


 白い女性だった。身にまとった飾り気のない純白のドレス、腰まで届くウェーブのかかったくすんだ金髪、柔和な微笑みを湛えた端正な顔立ち。それら彼女を構成する諸要素の全ては決して派手ではなく、ともすればやや地味にすら見えた。しかしその地味さは過剰な装飾を施さない絶対的な清らかさの表れでもあり、その体から溢れ出す気品さと相まって「彼女は確かにそこにいる」という静かな存在感を放っていた。


「私はグィネヴィアと申します。以後、よろしくお願いいたします」


 その汚れ一つ無い女性は自分の名を名乗った後、ゆっくりと一礼した。モードレッドは無言で礼を返し、彼の後ろについてきた面々も遅れて礼をした。


「もっと派手な人だと思ってた」


 礼をしながら、地下闘技場「リトルストーム」の副支配人兼アイドル選手のイツキが、隣にいた「同胞」のアオイに小声で話しかける。アオイは頭を下げながら、下げる前から食べていた焼きそばパンをまだ食べ続けており、イツキの言葉に「うんうん」と頷いて答えるだけだった。


「聞く相手を間違えたな」


 アオイの適当な相槌を見て顔をしかめるイツキに、彼と同じくリトルストームのアイドル選手である「マジカル・フリード」がイツキの隣で頭を下げながら小さく声を放った。イツキと同じ女性用のゴスロリ服を身につけた彼女は、それから目線を足下に向けまま小声で続けた。


「とにかく、これで後はランスロットだけか。どんな奴なのだろうな」

「あの人と一緒で、ちょっと歳食ってるんじゃないかな」


 そこで周囲の気配を察した二人が周りと同じタイミングで頭を上げる。その二人の目線の先には同じく頭を上げたグィネヴィアの姿があり、そしてイツキの言う通り、グィネヴィアの顔には齢を重ねたことを示す小皺がいくつか刻まれていた。


「マッチョなおじさまだったりして」

「それはお前の願望じゃないのか」

「失敬な。僕はいたってノーマルだよ」


 周囲と一緒に歩き始めながら、イツキがフリードに反論する。自分から女装を楽しんでいるような奴のどこがノーマルなんだと心の中でつっこみつつ、フリードが前を向いたまま言った。


「まあ、会えばわかるか」

「だね」


 フリードの言葉にイツキが同意し、それから二人は無言のまま周りと歩調を合わせて歩き続けた。

 この二人を含む全員が最後の一人「ランスロット」と出会うのは、この僅か数分後のことであった。

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