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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第十章 ~戦闘兵器「サイクロンD」、反逆巨人「モー・ド・レッド」登場~
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「一段落ついて」

「すごい」


 戦いを見終えたモードレッドが呆然と呟いた。既にエコーとガラハドの戦いは終わり、両者の姿はそこには無かったのだが、今もなお顔を上げて立ち尽くしていたモードレッドの脳裏には、それまでの騎士と真紅のロボットの勝負の模様が何度も何度もリピート再生されていた。

 それだけ彼にとっては強烈な体験だった。


「こちらでは、巨人化した騎士と互角に戦える者がいるのですね」


 真紅のロボットが穴を使った攻撃、ざっくり言うならば「ワープパンチ」でもってガラハドを叩き潰した様子を瞳の奥で再生させながら、モードレッドが陶然と言った。その光景を思い返すのはこれで十回目だった。


「なんという世界だ。騎士の威光も力も通用しないとは、まったくなんという世界なんだ」

「あいつ、なんであんなに驚いてるんだ?」


 そんなモードレッドの姿を後ろから眺めながら、変身を解いた浩一がソレアリィに尋ねた。ソレアリィは彼の方を向いて、なぜか小声でそれに答えた。


「ほら、前に言ったでしょ。私達の世界には、こっちの世界で言う巨大ロボットはいないって」

「ああ、そういえばそうだったな。タムリンがイレギュラーな奴だっていうのは覚えてるぞ」

「そうよ。つまり私達の世界には、巨大な存在に対する明確な対抗策が存在しないの。あ、ここで言う巨大な存在って言うのは、それこそ何十メートルもある、山のようにでっかいものの事をいうのよ」


 そこまで言って呼吸を整え、再びソレアリィが言葉を続けた。


「で、そんな世界において、さっき言った山のようにでかい姿になれる方法があるの。まあぶっちゃけると魔法の力で巨大化するんだけどね」

「それを使えるのが、さっきの守護騎士って連中なのか?」

「そういうこと。ついでに言うと脱走した連中も使えるんだけどね。で、前にも言ったけどそんな巨大化した奴らに対して、私達の世界の住人は何の対抗策も持っていない。生身の兵隊がつまようじみたいな剣や魔法の杖を持って、巨大化したそいつらに直接挑むしかないの。シラミが象に挑むようなものなのよ」


 ソレアリィの例えを聞いて浩一は「そこまで差があるのか」と思ったが、すぐにその考えを自分で打ち消した。自分が変身もしないで生身のまま、五十メートル以上もある巨大ロボットに立ち向かえと言われたら、しかも更に「勝て」とさえ言われたら?

 絶対無理だ。


「でも投石機とかはないのか? 大型のモンスター用に用意されたデカいボウガンとか。それを使えばダメージくらいは与えられるんじゃないのか?」


 そこで思いついたように浩一が尋ねる。首を左右に振りながらソレアリィが答える。


「こっちの世界にミチルちゃんいるじゃない? あのでっかい白ウサギ」

「ああ、いるな」

「あれに戦車の大砲が効くと思う?」

「無理だろ」

「それと同じよ」

「ああ」


 とても納得できた。なんか納得できた。

 そう得心したように頷いていた浩一の横で、ソレアリィが続けて言葉を放った。


「でもこの巨大化の魔法は特別なものって訳じゃないの。修行さえ積めば誰でも使えるのよ」

「マジか」

「マジマジ。でもその修行自体が滅茶苦茶厳しくて、誰もやろうとしないんだけどね」

「具体的にはどんな修行するんだ?」

「えーと、何するんだっけ。ローディ、覚えてる?」


 そこまで来てソレアリィが従者に丸投げする。ローディは突然の要求に困惑することなく、淡々とした口調でそれに答えた。


「詳しいことは省略しますが、その修行を完遂するのに最短でも一万年かかります」

「いち?」

「一万年です」


 浩一は絶句した。それからソレアリィの方を向いて恐る恐る問いかけた。


「寿命とかどうしてるんだよ」

「修行する人はあらかじめ薬を飲んでおくのよ。なんていう薬だっけ?」

「不滅の霊薬ですね。飲んだ者の肉体を一時的に時間の束縛から解き放つ薬です」

「つまり?」

「一定期間だけ不老不死になれるということです。期間は一万と一年。その期間を過ぎた後は、飲んだ者の肉体はまたそれまで通り時を刻み始めるのです」

「歳を取るってことね」


 ローディの解説にソレアリィが補足を加える。聞き手に回っていた浩一はそのスケールの大きさにただ驚くしかなかった。


「そこまでしてデカくなりたいのか」

「そりゃそうでしょ。だって強くなれるんだもん」

「それだけではありませんが、確かにそれも理由の一つではありますね」


 そこでモードレッドが浩一達の方へ体を向け、ソレアリィの投げやりな説明に補足を加えてきた。それから彼は浩一達の方へ近づいていき、そして彼ら三人の顔を順に見ていきながらその顔に強い意思を見せながら言った。


「我々が全てを捨ててまで巨大化の術を手に入れたのは、ひとえに国を守る為なのです」

「愛国心みたいなものか?」

「そうです。私達守護騎士はその選ばれた全員が身命を賭して国を守ることを神と王に誓い、そしてそのために巨大化の術を手に入れるのです。正確に言えば一万年前に次の守護騎士となる者が選ばれ、そこから修行を積んで巨大化の術を覚えた後に正式に次代の守護騎士となるのです」

「途方もない話だな。でもその次の守護騎士が出てくるまで、前の守護騎士はどうしてるんだ?」

「前にお話しした不滅の霊薬を使うのです。一万年の間、彼らはまさに不死身の騎士として国を守るために戦うのです」

「うげえ、また一万年?」


 ローディの言葉を聞いた浩一が露骨に顔をしかめる。その後ローディは付け加えるように「一万年のスパンで代替わりしていくことになりますね」と言い、それを聞いた浩一は嫌そうな顔を浮かべて言った。


「一万年ぶっ通しでやんのかよ。そうまでしてやる価値があるってことなのか?」

「もちろんです。守護騎士に選ばれると言うのは、全ての王宮兵士にとって何よりも勝る名誉なのです」


 モードレッドが自信満々に言ってのける。その金髪碧眼の青年を見ながら、浩一は「じゃあこいつは一万年前から生きてることになるのか?」と思いつき、すぐにその考えを捨てた。この話を真面目に考えたら頭がおかしくなりそうだったからだ。


「ですが、ここから詳しい話はあの人達が来てからにしましょう」


 と、そこでモードレッドが不意にそう言いながら肩越しに後ろへ目を向けた。浩一達がつられてモードレッドの後ろに目をやると、そこにはこちらに近づいてくる二つの人影があった。


「先生」


 そのうちの一人を見て、浩一が驚いたように言った。浩一がこちらにやって来る新城亮を見て驚いたのは彼がここにいたからではなく、彼が自分の知らない、そして凄まじく恐ろしい悪鬼のような存在と肩を並べて歩いてきたからだった。あと彼の頬に結構深い切り傷がついていたのも、彼をそれなりに困惑させた。


「サトゥルヌス!」


 そして浩一が亮の姿を認めると同時に、その隣に立つ亮より一回りも大きい漆黒の悪魔を見たローディが即座にそう叫んだ。それから彼女は身を挺してその身を守るようにソレアリィの前に素早く立ち、姿勢を低めて腰の剣に手をかけた。

 しかしそれを見た亮はすぐに「待った待った」と慌てたように言葉を放ち、それから前方の面々を見ながら言った。


「この人は敵じゃない」

「どういう意味です?」

「昨日今日とお世話になってたんだ。親睦を深めてたって言えばいいかな」


 不思議そうに問いかけてきた浩一に彼らの元に合流した亮が答える。その亮の言葉を聞き、そして彼と、自らサトゥルヌスと呼んだ黒い悪魔の姿――亮に対してはサティと名乗っていた存在である――を交互に見ながら、未だ構えを解かずにローディが言った。


「お世話になったとは? いったいどういうことですか?」


 それは低く冷たく刺々しい、己の感情を殺して相手を尋問するような口振りだった。そのローディを見ながら亮が言った。


「昨日、俺とエコーの二人でこの人のところに行ったんだ。色々話を聞くためにね」

「あの戦艦の中に入ったんですか?」

「そうだ。さっき落ちてきたあの宇宙戦艦にだ」


 浩一からの問いに亮が返す。そんな中で二人のやり取りを聞いていたモードレッドはソレアリィに向かって「ウチュウセンカンとはなんです?」と小声で尋ねていた。ソレアリィはどう説明しようか悩んだ挙句「空飛ぶ船よ」と簡潔極まりない返答をした。しかしそれを聞いてモードレッドは納得したように何度も顔を頷かせていた。そしてその間もローディは警戒を解いていなかった。

 亮が続けた。


「で、話自体は昨日のうちに終わったんだが、そのまま解散するのもなんだか勿体ない気がしてな。それでお互いのことを良く知るために、泊まりがけで親睦会を開くことにしたんだ」

「そんなことやってたんですか」

「度胸あるわね」


 浩一の横でソレアリィが感心したように呟いた。彼女の視線はサティだけをまっすぐ見つめていた。サティはそれに気づいてはいたが、無視することにした。

 浩一が亮に尋ねた。


「それで、あの船の中に一日いたってことなんですか?」

「そうだ。それであそこに妻共々一泊した後、さて帰ろうかとなった時に、あの船のレーダーが変なものを見つけたと連絡が来たんだ」

「変なものって何よ」

「おそらくガラハド卿のことではないでしょうか」


 ソレアリィの問いにモードレッドが答える。亮が続けた。


「それでそのまま地上には戻らないで、せっかくだから何が見つかったのか見てみようと思って、エコールと一緒にブリッジに向かったんだ」

「そこで災難に巻き込まれたと」

「ああ。まあそういうことだね」


 亮が浩一からの言葉にそう返したのと、彼らの頭上からエコーが高速で落ちてきたのはほぼ同時だった。彼女は亮達と浩一達のちょうど間に割って入るように頭から降下していき、途中で体を回転させて足を地上に向け、そして膝を深く曲げて屈んだ姿勢を取り、衝撃を殺しながら二本の足で着地した。

 着地の瞬間、そこからまるで水中に入れられた爆弾が爆発したような、腹の底にたまる重々しい音が轟いた。心なしかコンクリートで舗装された地面が大きく波打ったようにさえ感じられた。この女はいったいどれだけ高い場所から落ちてきたというのだ?


「ダーリン!」


 しかし当のエコーは着地するや否や、ダメージなどまったく無い元気な様子で亮の首に飛びついた。亮は苦もなくその無駄な贅肉のない引き締まった肢体を受け止め、彼の首に飛びついた赤毛の眼帯女はそれが当然のことであるかのように亮に全体重を傾けた。


「ダーリン無事だった? 安心して、あいつはもう追っ払ったから」

「そうかそうか。よくやったぞエコール。でも追っ払ったって、あの巨人を倒した後どうしたんだ?」

「特に何もしてないわよ。なんか人間サイズに戻って逃げてったのは見たけど」

「捕まえなかったのですか?」


 唖然とするローディに、亮にしがみついたまま首を回して肩越しに目を向けてエコーが答えた。


「ええ。何もしなかったわよ」

「なぜです? 勝ったのはあなただ。捕まえるなり尋問するなり出来たはずなのに」

「そう言えばそうだな。その方法もあったか」


 まるで今指摘されてようやく思いついたような呆けた声でエコーが答える。そして唖然とするローディに、さらにエコーが追い打ちをかけた。


「ダーリンの無事を確認するのしか頭に無かった」

「は」


 予想外すぎる返答だった。ローディの思考が完全に停止した。サティは胸を反らして大口をあけて爆笑し、ソレアリィは顔を真っ赤にしながらも好奇心に満ちた目で一組のバカップルを無言で見つめ、浩一は「よそでやれよ」とリア充二人に陰口を叩いた。モードレッドはわずかに頬を紅潮させ、何も言わずに目を逸らした。

 しかし当のエコーはそんな周囲の反応などお構いなしに、それどころか亮の首に絡めた腕を更に締め付けてエコーが言った。


「まあそこら辺の話はそいつに聞いてもわかるだろう。なあ?」

「えっ?」


 ふざけた体勢のままいきなり真面目な声で話しかけられ、モードレッドが顔をそちらに向けたまま一瞬困惑する。しかしすぐに自分を取り戻し、表情を引き締めて一つ咳払いをしてからそれに答えた。


「ま、まあ、私ならばあなた方の疑問にある程度答えることは出来ると思います。それに私の方からも、あなた方にいくつか聞きたいこともありますし」

「じゃあお互いに話し合うとしよう。こっちもこっちで聞きたいことは山ほどあるからな」


 エコーがニヤリを笑う。その顔は海賊のボスとして非常に様になっていたが、格好が全てを台無しにしていた。


「いい加減離れないか?」

「いや」


 亮のやんわりとした催促にも聞く耳を持たず、エコーはしばらくの間亮にくっついたままだった。他の面々はもう何も言わなかった。その代わり口から思いっきり砂糖を吐き出したい気分であった。

 サティ側と亮以下地球側とモードレッド側の三組による、いわゆる「交流会」の大まかなスケジュールが組まれたのは、それから五分ほどしてからだった。

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