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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第十章 ~戦闘兵器「サイクロンD」、反逆巨人「モー・ド・レッド」登場~
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「落城」

「それは本当なのか?」


 サティがその報を受け取ったのは、彼が亮とエコーの二人を前に対話を続けていた時、地下で勉吉が人影のようなものを発見したまさにその時であった。トカゲの一人が全速力で駆け抜けながら艦橋に現れ、そのままサティの近くに来て彼の耳元に顔を近づけ、息を整える間もなく声を潜めて何事かを呟いたのだった。


「それはいつからだ? いつ始まったのだ?」

「つい先ほどからです。起きてから一分も経っていません」

「どこまで進行しているのだ?」

「半分ほど顔を出しているとのことです」

「なんということだ」

「ちょ、ちょっと待って、ちょっと」


 部下と話し込んで一人苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるサティに亮が食いつく。そこで始めて彼の存在に気づいたかのように亮に視線を向けるサティに亮が尋ねた。


「いったい何の話です? 何がどうなってるんですか?」

「少し待て。今映像を出す」


 亮の言葉を押しとどめながらサティが目の前のテーブルの縁に配置されたボタンを押す。テーブルの上部が緑色に光り始め、そのテーブル上の空間にノイズが走り、やがてノイズが薄まると同時にそこに一つの立体映像が表示された。


「ドームの外から映している。これが今のこの町の様子だ」


 サティが静かに言い放つ。だが他の面々はそれに反応することが出来なかった。彼らの目と意識はこの時完全に眼前に現れた映像に釘付けになっていた。


「これはまた凄いことになっているな」

「ある意味壮観だな」

「エンクよ、あれはひょっとしたらあそこから生えてきているのではないか?」

「とてもそうには見えませんな。おそらく落ちてきているのでしょう」


 その映像を見ながらサティ以外の全員が口々に言葉を交わす。そのうち亮がサティの方を向き、彼に向かって確認するように言った。


「これは本当に今起きていることなんですか?」

「そうだ。全て現実のことだ」

「これが、ねえ」


 そう言ってから亮が再び件の映像に目を向ける。そうしてテーブルの上の空間に向けられた亮の視界には、灰色のドームの真上にぽっかりと開いた穴の中から、ファンタジーに出てくるような西洋風の古城が上下逆さまの状態で、ドームに落ちてくるような格好で姿を見せていた光景が映っていた。


「本当に突然のことなんです。我々が気づいたときには、既にこうなっておりました」

「既に? お前達はドームの外の警戒はしていなかったのか?」

「こっちもこっちで人手が足りないんですよ。とても外に気を回す余裕は無かったんです」


 苦言を呈したエコーに、それまでサティに報告していたトカゲが言葉を返す。トトが映像から目を離してそのトカゲに言った。


「つまり、これを発見できたのはまったくの偶然だったというわけだな?」

「は、はい、そういうことになります」

「誰かがこれを知っていながら、それを隠していたということも無いと?」

「そんな滅相もない。我々がそんなことをするはずありません。通信室に誰かが入ってきた形跡もありませんし、誰かが外部と連絡を取った痕跡も見られませんでした

「携帯電話とか、それに近いものを使ったとかは考えられないのか?」

「それはありえません。我々はそんなもの持ってませんから」

「えっ、持ってないの?」


 トトに続いて質問を投げかけた亮が、そのトカゲからの返答を聞いて素で驚いた声を出す。そんな亮を見ながらトカゲが続けて言った。


「あんな複雑な機械、誰も使えませんよ。使えないものを持ってたってしょうがないでしょう」

「でも船とか通信室の無線とか使えてただろ」

「あれはマニュアル通りに動かしてるだけですよ。この船を買ったときについてきたマニュアルの通りに機械を動かしてるだけです。携帯電話もマニュアルがあれば動かせますけど、あんな分厚い説明書持ち歩きたくないですし」

「身内との連絡には水晶玉を使っている。これは我々の間では使えるが、これで外部と交信をすることは出来ない」


 トカゲが答えた後、サティが亮に補足を加える。そしてサティはそう言いながら懐から水晶玉を出して見せ、トトとエンクも続けて同じ水晶玉を出して見せた。

 それを見て感心する亮の横で、今度はエコーがトカゲに尋ねた。


「じゃあどうやってそれを知ったんだ」

「食堂にあるモニターでそのニュースがやってたんですよ。電波の一部をちょっと拝借して、こっちの世界でいうテレビ映像を食堂や艦橋のモニターで見れるようにしたんです」

「それもマニュアルに書いてあったのか」

「はい。電波ジャックの方法も細かく書かれてありました」

「盗まれる方が悪いのだ」


 トカゲに続くようにしてトトが水晶玉を持ったまま腕を組みながら偉そうに言ってのけた。その後でトカゲが続けた。


「それで食堂でそのニュースを見まして、これは本当なのかと驚いてそこにいた全員で通信室に向かって外の状況を確認したら」

「こうなっていたと」

「そうです。もう上も下も大騒ぎですよ」

「ニュースで外の様子を知るってさすがにどうなんだ」


 異星に着いたらまず偵察部隊は出しておくべきだろう、とトカゲの言葉を聞いたエコーはそこまで言いかけたが、咄嗟に人手が足りていないという先方の言葉を思い出し、それを喉からでかかったところでなんとか飲み込んだ。それから彼女は「ドームで守られているという安心感もあったのかもしれないな」と心の中で推測し、そういうことなのだろうと結論づけておくことにした。


「それで、城は今どうなってるんだ。今も落下を続けているのか?」


 そう自分で結論づけた後でエコーが再びトカゲに尋ねる。問われたトカゲは「少しお待ちを」と言ってから件の水晶玉を取り出し、食堂にいる仲間の一人に連絡を取った。そのトカゲによる核に作業はすぐに終わり、それからトカゲは水晶玉をしまいながらエコーの方を見て言った。


「今も落下を続けているそうです。テレビではそうやっていました。このままでは城の先端とドームがぶつかるとも言ってました」


 その場にいたトカゲ以外の全員の頭の中が一瞬真っ白になった。それからややあって、亮が隣にいたエコーの方にゆっくりと首を回して問いかけた。


「どうする?」

「もうどうするもこうするもないだろう」


 悟りきったような表情でエコーが言い返す。頭上から堅いもの同士がぶつかり合ったような鈍い衝突音が響いたのはその直後のことだった。





「何あれ」


 最初にそれに気づいたのはソレアリィだった。頭上から轟音が響いたことに気づいた彼女は真っ先に顔を上げ、そして遙か頭上でそれを目の当たりにした。

 それは尖塔のような細長い構造物がドームの天井を斜めに突き破り、その鋭い先端を地面に向けながら顔を覗かせている光景だった。


「うそ、何あれ、なに?」


 そして目の前で起きた出来事が信じられず、その衝撃的な光景を前に瞬きも忘れてそれを凝視する。そんなソレアリィに続いて他の面々も顔を上げ、一瞬後に全員がソレアリィと同じ反応を見せた。


「なんだよあれ」

「凄いなあれ! なんかお城にくっついてる塔みたいだ!」

「まさか、あれは」


 しかしそれを見た浩一とミナがかたや呆然と呟き、かたや楽しそうに声を弾ませる一方で、彼らと行動を共にしていたトカゲ人間は深刻そうに言葉を漏らし、それから咄嗟にソレアリィとローディの方を見た。だがトカゲが首を回すのと同じ頃、ローディもまたトカゲの方へ首を回していた。

 両者の視線が交錯する。一瞬静かな緊張が走る。

 最初に口を開いたのはトカゲの方だった。


「あれはあなた方の城ではないですか?」

「おそらく、いや十中八九そうだろうな」


 ローディがトカゲをまっすぐ見据えながら断言する。今度はローディがトカゲに問いかけた。


「あれはお前達が仕組んだことなのか?」

「とんでもない。我々はこんなことやってませんよ。第一、私達はディアランドとコンタクトする手段を持っていない」


 トカゲもまたきっぱりと言い返す。するとその時、そのやり取りを横で聞いていた浩一が口を挟んできた。


「つまり、何でこんなことになったのか、どっちも解らないってことか?」

「そういうことになりますね」

「あなたはどうなんだ? 何か心当たりは無いのか?」


 浩一からの問いにトカゲが答える横で、ローディが逆に浩一に尋ねる。浩一は首を横に振って「全然」と重々しく答えた。


「何が何だかさっぱりだ」

「そうか」

「そういうそっちは? ローディは何か思いつくことは無いのか?」

「い、いや、無い。私の方は特に無いな」


 ローディがそう答えて顔を逸らす。その声は少し歯切れが悪く、その顔はどこか後ろめたい感じを秘めていた。

 それを見た浩一は顔をしかめた。何か引っかかるものを感じたからだ。それまでどんな話題についてもはっきりと声を出して話していたローディが、この時だけは妙に言葉を濁していた。浩一はそんな姿を見て、ローディが何かを隠しているような気がすると感じたのだった。


「つまり、何が起きているのか誰も知らないってことね!」


 しかしそんな浩一の思案を遮るように、ミナがいつもの明るい口調で言葉を放った。意識を無理矢理表層に引き戻された浩一はそのまま「お、おう」と曖昧な返事をよこし、他の三人も大なり小なり首を縦に振った。


「じゃあ考えるだけ無駄ってことじゃない!」


 そんな周りの反応を見たミナが、続けて根も葉もないことを言ってのける。誰もが極論すぎるとは思ったが、同時に「それも一理ある」と納得してもいた。ミナは自分が正義だと言わんばかりに自信満々な表情を浮かべていた。

 それからミナは飛び跳ねるようにグループの先頭に立ち、右足を軸に百八十度ターンをして彼らの方へ向き直り、元気良く右手を挙げながら大きな声で問いかけた。


「じゃあ質問! 今私達はある約束をしています。それはなんでしょうか?」

「え?」

「何って」


 浩一とソレアリィが同時に声を放つ。それから彼らは同じタイミングで、何かを思い出したかのようにトカゲの方を見る。

 二人の視線に気づいたトカゲが軽く驚き、それからそのトカゲがおそるおそる口を開いた。


「あ、案内?」

「正解!」


 トカゲの言葉を聞いたミナが即答する。その後間髪入れずにミナが言った。


「だからその案内を続けよう! まだ寄るところあるんでしょ?」

「そ、それはまあ、そうなのですが」

「上のあれ気にならないのかよ」


 トカゲが言葉を濁しつつ答える一方で浩一がミナに尋ねる。その場の面々の声を代弁したその浩一の言葉に、しかしミナは無駄に明るい声で答えた。


「気になるけど気にしないようにしてる! だって気にしても何もわかんないんだからさ! まわからないことを考え続けたって時間の無駄でしょ!」

「そうなのか。その考え方はわかるけど、よくそんなに割り切れるな」

「そうしないと生きていけなかったからね!」

「おい、どういう意味だよ」


 ミナの言葉からどこか後ろ暗いものを感じた浩一が咄嗟に彼女に問いかける。だがミナはそれを無視して、笑顔のまま周りの面々に言った。


「だからこのまま続行! まずは目の前のことから片づけていかないとね!」


 誰も反論できなかった。ミナの言い分が正論であったからでもあるし、ミナの勢いに押し負けて口を挟めずにいたからでもあった。

 そうして無言でいた周囲の面々を見て、ミナが片足でターンして前を向いて「じゃあしゅっぱーつ!」と元気良く声を出し、すたすたと一人歩き始めていった。


「行くしかないな」


 やがて浩一が諦めたように言い、ミナの後に続いた。それからソレアリィ、ローディ、トカゲの順で浩一の後に続いていき、そのまま彼らはこれまで通りにトカゲの用事を片づけることにした。





 結局この日、浩一達は日が沈むまでトカゲの「町案内」に付き合うことになった。

 しかしドームを突き破って姿を現した塔の中から一つの人影が降り立ってきたことに、彼らは気づくことはなかった。

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