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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第十章 ~戦闘兵器「サイクロンD」、反逆巨人「モー・ド・レッド」登場~
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「悪魔との会談」

「なるほど。そういうことか」


 互いの自己紹介を済ませた後、亮とエコー、そしてサティの三人はそのまま艦橋の真ん中に置かれたテーブルを囲んで座り、そこで亮がここに来た理由を話した。亮が全て話し終える頃にはラ・ムーとソロモン、そしてトトとエンクもここに集まってきており、最後にエンクがテーブルの近くに来たところでサティは胸元で逞しい腕を組みながらそう言葉を漏らした。


「そのためにわざわざここまで来たと言うのか。剛毅なことだ」

「どうしても知りたかったものでして」

「なぜそうまで知ろうとするのだ?」

「知りたいと思ったからです。なにせあなた方はいきなり出てきて、説明も無しにいきなりこっちの町を閉鎖してきたんですから。どうしてそんなことをするのか知りたいと思うのは当然だと思いますよ」


 地獄の悪魔のような風貌を持った異世界からの来訪者に対し、正面から堂々と亮が言った。一方でそう言われたサティは暫し腕を組んだまま黙り込み、それから亮を見据えて口を開いた。


「なるほど、言いたいことはわかった。しかしそのために敵かもしれない者の本拠地に直接乗り込んでくるとはな。中々に度胸があるというか、命知らずというか」

「虎穴に入らずんば孤児を得ずという言葉の通り、リスクを犯さなければ結果は得られないんですよ」

「危険は承知の上か。その根性、とても普通の人間には持てん代物だな。お前達は何者だ?」

「教師になる前は宇宙刑事をやっていました」

「私は宇宙海賊だ。度胸がなければやってられんさ」

「なるほど、刑事に海賊か。ならば納得だ」


 亮とエコーからの言葉を聞いたサティが満足げに何度も頷いた。そして亮はその間に懐に手を伸ばし、そこから銀色の筒のような物体を取り出した。そしてそれを自分の目の前にまで持ち上げてスイッチを入れ、筒の上の先から青白く輝く光の棒を出現させた。


「それが証拠か」

「ご存じで?」

「レーザーブレードは一人前の宇宙刑事の証、であろう? 長いこと宇宙を泳いでいれば、それくらいの情報は耳に入ってくる」


 サティが腕組みを解き、血のように赤い両目をわずかに見開いてそれに注目する。周りにいたラ・ムーとソロモンは物珍しげにそれを眺め、トトはその不思議な装置を前にして子供のようにはしゃぎ、エンクはそんなトトをなだめるのに必死で正直それを見る余裕は無かった。エコーはもう何度もそれを見てきたので、今更展開されたそれを見ても特別これといった感慨が沸いたりはしなかった。

 亮はそんな様々な視線の中にあって静かにレーザーブレードのスイッチを切り、青白い光が引っ込んでただの銀色の筒に戻ったそれを再び懐にしまいこんだ。それから彼はサティの目をじっと見つめながら言った。


「これでこちらがここに来た理由をおわかりになったと思いますが、どうでしょう。これで納得出来ましたか?」

「うむ。よくわかった。では今度はこちらの番だな。確か、我らがここに来た理由を知りたいのであろう?」

「はい。ぜひとも教えていただきたく」

「そうか。それは一言でいうとな」


 亮の言葉にそう答えた後、一泊置いてサティが言った。


「定住の地を探しに来た」

「定住の地?」

「そうだ」


 オウム返しに答えた亮にサティが頷く。それから亮とエコーを交互に見ながらサティが続けた。


「お前達も知っていると思うが、我々はこことは違う世界、いわゆるパラレルワールドからやってきた。そして我々が世界の壁を越えてこの世界にやってきたそもそもの理由は、平穏で自由な暮らしを手に入れることだったのだ」

「そうだったのか」

「そうだ。最初の計画では参加したメンバー全員で同じ場所に転移し、そこで新たな人生を送る予定だった。その場所こそが、この世界のこの星だった」

「自由を求めたエクソダスという訳か」

「でもそれは失敗した」


 エコーの言葉に続くようにして亮が声を発し、それに対してサティが頷いて答えた。


「そうだ。転移中にトラブルが生じ、結局ここには一人しか到達出来なかった」

「それがあの吸血鬼か。確かカミューラとか言ったか」


 サティに続けてエコーがそう亮に尋ねる。亮は首を縦に振ってそれに答え、それからサティに「それからあなた方はそれぞれこことは違う星に飛ばされた」と言った。


「そうだ。作戦は失敗した。だがそれでも我々は諦めきれなかった。現地の知的生命体を雇い、資材を蓄えて船を造り、宇宙に飛び出した」

「地球に向かうために」

「そうだ。我々が飛ばされてきた宇宙は目的の星があるのと同じ宇宙であることが、船を造っている最中の調査でわかったからな。チャンスがある限り、何が何でも地球に向かいたかったのだ」

「どうしてそこまで」

「負けっ放しで終わりたくなかったんだろう。その気持ちはわかる」


 サティの執念をその言葉の端々から感じ取って困惑する亮にエコーが横からフォローをつける。そしてそういった後、エコーが続けてサティに問いかけた。


「そして宇宙に出たはいいが、途中で資材が空になった。それで足りなくなった物資を補うために宇宙海賊になって略奪を始めたと」

「そうだ。そのころには他に飛ばされてきた全員とも合流が出来ていたが、メンバーが増えた分消費ペースも早くなったのでな。予め蓄えていた分だけでは足りなくなったのだ」

「それでレッドドラゴンに?」

「形から入ろうということになったのでな。略奪団になるにも形から、ということだ」

「そうしてレッドドラゴンが誕生した、と」


 かの海賊団が生まれた経緯とその構成員の目的を知り、亮が驚きの声を上げる。ここに来た目的が果たされた瞬間だった。


「そうまでして地球に来たかったのか」

「一応約束をしていたからな。約束を反故にする訳にはいかない」


 亮の呟きにサティがそう返す。彼らが地球にこだわっていた理由もこうして明らかになった。それから亮は町を閉鎖した理由についてもサティに尋ねたが、それに対する返答は「システムの誤作動だ」というものだった。


「部下の一人が間違ってスイッチを押してしまったのだ。気づいたときには手遅れだった」

「元に戻す気はなかったのですか?」

「戻し方がわからなかったのだ。一度起動したらコントロール出来ない仕様になっていたのだ。仕方なかったので放置しておくことにした。一応外からの来客に備えて離着陸場を作っておいたが」

「それがあれが」


 エコーがデルタ号を着陸させた空中足場とそこにいたトカゲのことを思い出しながら言葉を放つ。それから彼女はサティに向かって思い出したように言った。


「ではトカゲ人間を地上に放ったのは? とても侵略のために送られてきたようには見えなかったが」

「あれはただの偵察だ。それ以上の目的はない」


 サティが即答する。それを聞いたエコーはそれ以上言及することはなく「そうか」と短く返してから口を閉じ、それを横で聞いていた亮も口を挟むことはしなかった。

 しかしそれとは別に、亮にはもう一つ気になることがあった。それを知るために、彼はエコーが口を閉じた後にサティに向かって問いかけた。


「じゃあこの船も奪った物なのですか? 前に見たものとは随分形が違いますが」


 これは初めてこの戦艦の姿を見たときから、彼が気になっていたことだった。最初に見たレッドドラゴンの船は海に浮かべた方が似合うような木造の見た目をしており、一昔前の「海賊船」のような外見をしていた。それに対して今彼が中にいる船はまさに「宇宙戦艦」とも言うべき無機質で角張った外見をしていた。明らかに前と今とで装備の質が異なっており、それが亮には気になっていたのだった。

 それを聞いたサティは首を横に振って答えた。


「いや、これは金で買ったものだ。蓄えた物資で作ったものでもなければ、完成品を奪って手に入れたものでもない。しっかりとした金で購入した。最新型だ」

「その金は自分達で貯めたもので?」

「いや、もらい受けたものだ。ここに来る前に宇宙を漂っていた連中を助けてな。その者達から見返りとして金をせしめた、もといもらったのだ」

「それがゼータか」


 サティの言葉にあわせてエコーが苦々しく言った。亮は驚いてエコーの方へ顔を向け、サティは目を細めて「知っているのか」と彼女に問いかけた。


「ああ。よく知っている」


 サティからの問いかけにエコーが答える。それからエコーはサティをじっと見つめながら言った。


「どこで会った?」

「ゼータとか?」

「そうだ。どこでだ?」

「地球からおよそ二千光年ほど離れた場所だ。奴らはそこにある小惑星群の中に身を潜めていて、そこから救難信号を発していた。それを我々がキャッチしたのだ」

「そいつらの状態は? 船や装備はどうなっていた?」

「随分と詳しく聞くのだな。そんなに深い繋がりがあるというのか」


 やたらと熱心に聞いてくるエコーを見たサティが不思議そうに尋ねる。それを聞いたエコーは一度そこで言葉を切って口を閉じ、それからサティの方を向いて再び口を開いた。


「私が元宇宙海賊だというのはさっき聞いたな」

「ああ。それがどうかしたのか」

「奴が私の海賊団を引き裂いた。私の意見に楯突き、賛同者を集めて勝手に私の元から消えていった。私が団のために貯めていた資金を横領した挙げ句、丸ごと持ち逃げしてな」

「なんと」


 サティが呻き声を漏らす。それまで三人の話を黙って聞いていたトトが「クーデターという奴か」と呟いた。


「それはさすがに気の毒としか言えんな。しかしお主ほどの傑物がそんなことを許すとはとても思えんのだが、何か理由でもあるのか?」

「それは買い被りだ。 私はお前が思っているほど立派な人間じゃない」

「いいや、わらわにはわかる。お主は大人物だ。それだけの風格を感じる。何万年も生きてきたわらわにはわかるのだ」


 恥ずかしげもなく断言するトトを見て思わずエコーが苦笑する。面と向かってここまで賞賛されたのは初めてだった。それからエコーは表情を引き締め、改めてサティの方を向いて言った。


「そういうわけで、私は部下のクーデターを許してしまった。それを誰かのせいにするつもりは無い。部下の動きを見抜けなかった私の落ち度に変わりはないからな。だがケジメはつけさせてもらう」

「ゼータの場所を知りたいのか?」

「いや、もう居場所は知っている。顔合わせもすませている」


 ほう、とサティが感心したように声を漏らす。それから「よく調べたものだ」と言った後、サティがエコーに対して続けて言った。


「それで、制裁はもう済ませたのか?」

「いや、まだだ」

「ほう。それはなぜだ」

「あいつは今はレッドドラゴンの一員なのだろう? 勝手に制裁を加えて、レッドドラゴンから要らぬ怒りを買いたくないのでな。今のこちらは小勢、お前達の手に掛かれば一瞬で捻り潰される」

「随分と冷静なのだな」

「その代わりお前がいいと言ってくれれば、すぐにでも殺すつもりだ」


 サティの言葉に敏感に反応したエコーがそう返す。その声はいつも通りのクールなものだったがその端々からは怒りの感情が滲み出ており、今すぐにでも席を立って報復に向かいかねないほどの激情を全身から放っていた。


「好きにしろ」


 そしてサティもあっさりとそれを許した。表だって驚いてみせたのはエンクだけだった。


「よ、よろしいのですか?」

「構わん。あれはもういらぬ」


 そして驚きながら尋ねてきたエンクに、サティがもうそれには興味がないかのようにあっさりと答えた。亮が渋い顔でサティに言った。


「随分簡単に切り捨てるんですね」

「あれはそれだけの奴だからだ」

「何か根拠が?」

「我々が奴を見つけたとき、あれは見るも無惨な姿だった」


 亮からの問いかけにサティが答える。エコーがそれに反応して問いかけた。


「正確にはどんな感じだったんだ?」

「半壊した脱出ポッドが一つだけ。そのまわりには戦艦の残骸がいくつも浮いていた」

「ちなみにその時周囲をサーチしてしてみたんだがな、わらわ達が着く二十分前にそこで大きな宇宙嵐が発生したそうだ。それに巻き込まれたものだと思うぞ」

「宇宙嵐だと?」


 トトの補足を聞いたエコーが顔をしかめる。亮も彼女と同じく苦い顔を浮かべた。

 ちなみにここで言われている宇宙嵐とは太陽フレアなどが原因となって磁気の乱れをもたらすものではなく、重力の乱れによって生じる物理的な天災のことであった。そこに重力のねじれが発生して周囲のものを無差別に飲み込むこともあれば、発生した異常重力場が小惑星群の周回軌道を狂わせてあらぬ方向に小惑星を飛ばしたりすることを、まとめて宇宙嵐と呼んでいるのである。

 基本的にこれら宇宙嵐は前兆を知ることが遠距離からでも容易であり、回避することはとても簡単であった。というよりもそれは避けなければ確実に死ぬほどの苛烈なものであり、宇宙嵐の前兆を見つけたらしっかりそれを避けるのが宇宙の船乗り達にとっての基本であった。


「脱出ポッドの中には全部で十五人いた。その全員が全身傷だらけで血だらけだった」

「脱出した際に衝撃で煽られた?」

「いや、あれは明らかに人力でつけられた傷だった。恐らくは内輪同士で傷つけあったのだろう」

「責任をなすりつけ合っていたのかもしれないな。誰が原因で失敗したのか、とかいう理由でな」


 サティの言葉にトトが補足を加える。亮は何も言えずに唖然とし、トトは無表情のまま舌打ちをした。

 そんな二人を見てサティが静かに息を吐く。それから二人に背を向けて立ち上がり、サティがゆっくりとした声で行った。


「そういうわけだ。嵐を避けられず、船員の統率も取れない奴に用はない」

「じゃあなんで今まで生かしておいたんだ」

「まだ一人の部下として改心するかもしれないと思っていたのでな。まあ無駄だったが」


 エコーからの問いかけに対し、サティが落胆した様子を隠さずに答えた。そして二人に背を向けたまま、サティが彼らに向かって言った。


「度を過ぎた力を手に入れた者は等しく堕落する」


 そして全身で振り返り、まっすぐエコーを見ながら言った。


「その良い例があれだ。それを改めて認識することが出来たという意味では、奴は役に立てた。そう思うことにしよう」


 エコーは険しい顔を浮かべたまま、何も言わずにそこに座っていた。

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